透明タペストリー

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時のカプセル 中谷聡展

2023-05-24 | A あれこれ

 「時のカプセル 中谷聡展」が長野県朝日村の朝日美術館で6月25日までの会期で開催されている。

リーフレットには**中谷 聡の石を用いた抽象彫刻の展覧会です。**と記され、「時のカプセル」という作品の大きな写真が載っている。なるほど、石は太古の昔からの時を封じ込めた時のカプセルだ。このような石に制作者はどう関わって、どのような作品を創りだしているのだろう、何を表現しているのだろう・・・。ぼくはこの作品展に興味を覚え、初日の20日、開館時刻の9時過ぎに出かけた。


縄文村公園内と美術館玄関前に展示されている2作品 


4月29日付 日本経済新聞の書評面に『日本列島「現代アート」を旅する』秋元雄史(小学館新書)の書評が載っていた。評者は三浦 篤さん。書評には次のような一文がある(塩尻のえんぱーくで読んだ時のメモを転載する)。

**予備知識なしに傑作に出会う衝撃や感動は確かにあり、後で読んで深めるのも一法。しかし、著者の的確なレクチャーを受けて、現場でよりよく理解できることもあろう。基本どちらも可。あなた次第、また作品にも依る。造形性に圧倒される場合は前者、とっつきにくい場合は後者が有効かもしれない。**


屋外に展示されている2つの作品を入館前に見たが、抽象的でコンセプチャルな作品に戸惑った。「どう理解すればいいんだろう・・・」

幸運なことに中谷先生(愛知県立芸術大学美術学部教授)が在廊しておられ、作品について解説していただくことができた。上掲した書評の、鑑賞前にレクチャーを受けるという後者のケース。それも制作者から直接。


「時のカプセル」

石の中を見たくて二つに割ると、その瞬間に石の中の割れ面は二つの石の外になってしまう。だから中、封じ込めた時を見ることは出来ない。だが、二つに割った石の中をくり抜いてから割れ面を合わせて元に戻せば、石と制作者とが関わった時を中に封じ込めることができる、石が元々封じ込めてきた時と共に永遠に。「なるほど。なんだかロマンチック」 


「時のカプセル・内と外8」

公園のベンチ? この作品を目にしてそう思った。脳は既知のものに帰着させようとする。

石を押し出せば中が露出するのではないか、という発想、アイデア。そう、ベンチの座面はこの石に封じ込められていた内部。「なるほど、確かに」

美術館内に展示されている花崗岩や大理石のキューブな造形の「時のカプセル」シリーズ十数点の作品もレクチャーのおかげで理解でき、鑑賞することができた。展示室に掲示されているあいさつ文にも明快に作品のコンセプトが記されていた。文章を読んで、また「なるほど」 

ひときわ存在感があったのは展示室の奥のスクエアな空間に一点だけ展示されている「時のカプセル・内と外2」だった。銀閣寺の手水鉢には格子状のパターンが表面に施されているけれど、それより一回り以上大きいと思われる展示作品の表面は削岩機によって付けられた連続的なストライプ、魅力的なテクスチャー。

鑑賞する者の美的感性に訴えるような「美しい」作品もあるけれど、鑑賞する者に知性を以って理解することを求める作品もある。「時のカプセル」は後者。


「そうか、建築と同じだ」 一通り鑑賞した後で、ぼくは気がついた。作品のテーマの内と外は建築にも通じる概念だということに。なぜなら建築は空間に内と外をつくりだす装置だから。外なる無秩序な空間を秩序づけて内なる空間をつくる建築。

もちろん美術館にも内と外がある。展示室という内に展示された「内と外」。美術館と作品によって「入れ子」の空間が成立している。 
おもしろい。

すばらしい作品との出合いに感謝。

「時のカプセル 中谷聡展」 


※ 屋外の2作品を除き、作品の写真撮影は禁止されています。


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