透明タペストリー

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朝カフェ読書「火の路」

2015-07-03 | A 読書日記



■ 今日(3日)の朝カフェ読書で松本清張の長編小説『火の路』文春文庫を読み終えた。

酒船石(上)や益田岩船(下)の用途は? この謎に関する松本清張の緻密で周到な論考。既に書いたがこれは「論文小説」だ。上巻と下巻にそれぞれ1編ずつ、主人公の高須通子が書いた飛鳥の石造遺物に関する論文が掲載されている。


上巻13頁より


同67頁より

**日本には仏教が六世紀後半に百済から伝わったといわれているが、祆教はそれよりおくれても六世紀末までには日本に伝来していたと筆者は推定している。
中国では、仏教と同時に祆教が盛行していたのであるから、この宗教が日本に到達しないはずはない。しかし、それが祆教そのものだったかどうかは不明である。が、その要素の濃い宗教が渡来していたであろうことは推測できる。**(下巻340頁) これは松本清張が主人公の高須通子に書かせた論文の一部。

**筆者は、前回に、これらは斉明天皇が造営を試みて中止となった「両槻宮」の付属物であろうと推測した。その推測は今も変わらない。
いま、両槻宮の「天宮」を祆教ないし中央アジア的ゾロアスター教の拝火壇・拝火神殿と想定すれば、これらの付属石造物もその宗教に属するものと考えなければならぬ。**(下巻353頁)

松本清張はこの考え方に基づき、酒船石の用途については製薬用に使用されたと推測し、益田岩船は二つの焚火孔をもった拝火壇だとしている。 


ナクシェ・イ・ルスタムというところに残る拝火壇 下巻267頁より

ゾロアスター教の拝火壇と飛鳥の拝火壇。ペルシャと古代日本とが「火の路」によって繋がっている。小説のタイトルはこのような松本清張の推論そのものだ。

この小説で、松本清張は古代のミステリー解きに熱心だが、現代のミステリーについては、単なる付けたしに過ぎないと考えていたのだろう。あくまでも古代史の謎について自説を展開することが目的だと。

登場人物のうち3人が死亡するが、警察が捜査するような事件にはならない。ひとつは事故に見せかけた殺人だと思われるのに・・・。でも登場人物の人間関係に関する謎などをとり入れて現代のミステリーにも仕立てているところはさすが松本清張。

上下巻合わせて800頁もの長編だが、短期間で読み終えた。


 


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