■『中村屋のボース』読了。
インドの独立運動に一生を捧げたR.B.ボースの伝記。この本を書くことになったエピソードを著者は巧みにも最終章に配している。
**私は細かく震える指先で、通用口のブザーを押した。
中から一人の初老の女性が出てきた。
私は、その人を一目見た瞬間、心の中で叫んだ。
「あっ! 中村屋のボースだ!」**
1998年6月、著者は原宿にボースの愛娘哲子を訪ねる。そのとき23歳。哲子はまだ学生の著者に一つの箱を差し出す。箱の中には犬養毅や浜口雄幸といった首相経験者、そう私でも知っている人物をはじめとした幅広い方面からの手紙などの一級の資料が詰め込まれていた・・・。
「この史料、すべてお貸ししますので、どうぞお持ちになってください」哲子は著者に向かってこう言う。このとき、**何としてもR.B.ボースの伝記を書かなくてはならないと強く決意した。**のだそうだ。
著者が『中村屋のボース』を書いたのはそれから6年後、29歳の時。
私はこの本を、インドの独立運動に一生を捧げた一人の男の波乱万丈の人生が綴られた「冒険小説」として読んだ。明晰な頭脳の持ち主が書いたこの本を小熊英二氏は**これほど興味深い本にはめったに出会えるものではない。**と激賞している。
インドが独立を果たす前にボースは最期を迎えてしまう・・・。
確かに近代日本の政治思想史など全く知らない私にも大変面白く読むことができた。