透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「想い雲」 高田 郁

2017-03-11 | A 読書日記

みをつくし料理帖シリーズ全10巻 高田 郁/ハルキ文庫
「八朔の雪」
「花散らしの雨」
「想い雲」
「今朝の春」
「小夜しぐれ」
「心星ひとつ」
「夏天の虹」
「残月」
「美雪晴れ」
「天の梯」

 第3巻『想い雲』を読み終えた。この巻でもいろんなことが「つる屋」の人たちに起こる。

大坂の料理屋「天満一兆庵」の女将だった芳の前に富三が現れる。彼はかつて天満一兆庵で修業をした後、自分の店を出すも上手くいかず、芳の息子の佐兵衛について江戸に下っていた男。その後佐兵衛は行方不明に・・・。富三が佐兵衛について語った驚きのこと、それは・・・。

江戸店の暖簾を掲げて3年目を迎える頃、佐兵衛は吉原通いに夢中になり、馴染みになった松葉という遊女を身請けしようとまでしたが、自分を袖にしようとした松葉を手にかけてしまったというものだった・・・。その後、ことの真相が明らかになるのだが、これにはびっくりした。でも芳は**「佐兵衛の母親はこの私だけや。どないなことがあったかて、私はあの子を信じる」**(37頁)と言う。このことばに涙もろいおじ(い)ちゃんは涙してしまった。

前巻で澪は幼馴染みの野江が吉原の翁屋のあさひ太夫だということを知り、翁屋の料理人の又次の案内で直接は会えなかったものの、手でつくる狐サインを交わすことができたのだった。それがこの巻では野江が助けた遊女の菊乃の助けによって、直接会うことができたのだ。

**澪ちゃん。澪を呼ぶ、その声。耳に残る幼い声とは違う。なのに、切なくなるほどに懐かしく感じる。澪は奥歯を噛みしめて涙を堪える。白狐は被っていた面を少しだけずらした。切れ長の美しい目が笑っている。漆を掃いたように潤んだ黒い瞳。(後略)**(138頁)

こうして引用していても涙ぐんでしまう。泣かせる場面だ。ふたりはこの先どうなるのだろう・・・。

こんな出来事も。

つる屋は火付けで焼けてしまったが、澪はその跡地に真新しい店が建っていて、「つる屋」という看板が掛けられているのを目にする。登龍楼を追い出された板長が偽物のつる屋を開いていたのだ。

**「ここを『つる屋』と勘違いして、暖簾を潜りはるお客さんに申し訳が立たへん。第一、そんなさもしい気持ちで包丁を握られるんは、同じ料理人として恥ずかしい」**(154頁)澪は板長に猛抗議。

その後、この店で人気の歌舞伎役者が食あたりで舞台に穴をあけるという中毒事件が起きる。そのとばっちりを澪の店が受けてお客が激減する・・・。

ラストに澪が恋する小松原という謎の侍の正体が暗示されている。

本巻もまた、山あり谷ありのストーリー。一気読みした。


5月にこの物語がNHKでドラマ化される。主人公の澪を黒木華が演じることは分かっているが、他の人物については公開されていないので分からない。野江を演じる目に力のある美人女優は何人もいそうだ。芳はいったい誰が演じるのだろう・・・。