■ 先日読んだ内田樹氏の『街場のメディア論』のなかで、氏は「電子書籍」と違い「本」は書棚に並べることができ、それが自己啓発的な空間を形成すると指摘していた。
本に囲まれた空間に身を置いていることが本を読もうという動機付けになる、と理解しても著者の主意からそう外れてはいないだろう。
そのような効果かどうか、先日自室の書棚のこの本に目が行き、つい手に取った。川端康成の『山の音』。昭和42年10月初版、45年重版と奥付にあるから、40年前の文庫本ということになる。もうすっかり内容を忘れてしまっているから初読と同じだ。
日々の暮らしの中に人生の機微をみるというような、静かな作品ではないだろう。少し大きな振幅のある家族小説(などというジャンルはないとは思うが)ではないかと予測している。
初老の主人公と年上の妻、息子夫婦、夫とうまくいっていない娘らが主な登場人物。秋の夜長、少しゆっくり読み進めようと思う。