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今日の筆洗

2023年11月18日 | Weblog
 戦時下でも敵味方なく苦しむ人々を救う国際赤十字・赤新月運動は、スイス人の実業家アンリ・デュナン(1828~1910年)が提唱した▼遭遇したイタリア統一戦争の現場でまともな治療を受けられぬ負傷兵の姿に衝撃を受け、地元の人らと手当てをしたのがきっかけ。奮闘も及ばず「死ぬのはいやだ」と叫んで逝く人もいた▼負傷兵を助ける組織づくりを求める本が世を動かし、やがて生まれた赤十字の呼び掛けで戦場での医療保護を求める国際人道法も生まれた。デュナンはノーベル平和賞の最初の受賞者である▼生きていたら、パレスチナ自治区ガザの惨状に何と言うだろう。イスラエル軍は地区最大の病院に突入した。赤新月社運営の別の病院でも銃撃戦があったと伝わる。燃料供給の遮断で多くの病院が機能を停止した▼イスラエルはガザを実効支配するイスラム組織ハマスの司令部が突入した病院の地下にあると訴えるが、だったら病院の犠牲もやむをえない、とは思えぬ。電力不足で人工呼吸器や保育器が止まり、新生児を含む患者が次々と亡くなったという。ミルクも足りず脱水症状の子もいると聞く。残酷にすぎる▼現地への支援を訴える日本赤十字社の標語は<人間を救うのは、人間だ。>だという。傷ついた人に尽くす人の気高さを思いつつ、人の非情を見せつけられる日々。早く終わってくれないか。
 
 

 


今日の筆洗

2023年11月17日 | Weblog

 米中国交回復へと至るニクソン大統領の訪中は1972年。毛沢東主席との会談で、北京の支配が及ばぬ台湾が話題になった▼「主席の著作は国民を動かし、世界を変えました」と持ち上げると、毛は北京周辺は変えたが台湾を率いる蔣介石は認めぬだろうと言い「彼は私たちのことを共産匪(ひ)と呼んでいます」と明かす▼毛は蔣を何と呼ぶのかとの質問は、同席する周恩来首相がひきとり「普通は蔣介石一味」。あけすけな回答に毛が加えた。「実際には、彼と私たちとの友好関係の歴史は、あなた方と彼との友好関係の歴史よりずっと長いのです」。おたくは台湾と親しいようだが中国の内政問題だよ、という牽制(けんせい)か。ニクソンは「存じています」と応じた(毛里和子・毛里興三郎訳『ニクソン訪中機密会談録』)▼バイデン米大統領と中国の習近平国家主席が米国で会談した。1年ぶり。バイデン氏が中国大陸と台湾を隔てる海峡の平和と安定を唱えれば、習氏は台湾への軍事支援をやめよと訴え火花が散ったが、途絶えていた軍高官の対話再開では合意したという▼立場は違えど現場が意思疎通を重ね、不慮の事態を避ける試みは賢明。少し安心する▼72年の会談の終盤、毛は体調がよくないと語った。ニクソンが元気そうに見えると言うと、見かけはあてにならぬと返ってきたという。表層に囚(とら)われ、事を見誤ってはいけない。


今日の筆洗

2023年11月16日 | Weblog
 テレビドラマ『ふぞろいの林檎(りんご)たち』などの演出家で作家の鴨下信一さんが昭和の歌謡曲、流行歌にはどんな色がよく登場するかを調べたことがあるそうだ▼戦時中から終戦直後の歌にかなりの頻度で出てくる色があった。「青」だという。なんとなく想像できる。つらい時代にあって、人びとは歌にだけは明るい青を求めていたのかもしれない▼松田聖子さんの「青い珊瑚礁」などの作詞家、三浦徳子(よしこ)さんが亡くなった。74歳。数々のヒット曲を思い返せば、この人も、時代の「色」を強く意識していらっしゃったことがよく分かる▼三浦さんの色は終戦直後のような青のひと色ではない。松田聖子さんの「青い珊瑚礁」の詞を読む。<青い風切って走れ>の青。<うつむき加減のLittle Rose>で、バラ色を想起させ、果ては<渚は恋のモスグリーン>。その詞のパレットの絵の具は実に多彩で、複雑である▼やはり、松田さんの「チェリーブラッサム」にこんな詞がある。<自由な線 自由な色>-。振り返れば、三浦さんのほとばしるような<自由な色>は、快活でなお続く経済成長に自信にあふれる一方、少々浮ついた1980年代の日本の空気まで描いていたのだろう▼「みずいろの雨」「夏色のナンシー」。時代を彩った数々の「色」と、その作詞家を「風は秋色」の季節に見送る。カセットテープが恋しい。
 
 

 


今日の筆洗

2023年11月15日 | Weblog
 男2人がお酒を飲もうとするが、あいにくと酒のさかながない。しかたなく、1人が「オレが買ってくるよ」と出かけていく。落語の「犬の災難」を思い出した。問題は1人残った男の方。酒に目がなく、帰りが待ち切れない。酒を前にして「ちょいとお毒味を」「こりゃいい酒だ」「もうちょっと毒味してやるか」…。案の定、全部飲んでしまう▼こらえ性のない男が悪いが、こんな男に酒の番をさせる方もどうかしているだろう。こんな英語の慣用句がある。「fox in the henhouse」。直訳すれば「ニワトリ小屋にキツネ」。キツネにニワトリの番を頼めば、どんなことが待っているか▼似た言い回しを思いつく。これも危うい。「財務省に税金滞納者」。税金滞納を繰り返した自民党の神田憲次衆院議員が財務副大臣を事実上、更迭された▼滞納9回、土地などを4度差し押さえられたと聞けば、かなりだらしのない話で、そんなお人が、よりによって税制や徴税を所管するポストについていたことが解せない。更迭が遅すぎるぐらいである▼内閣改造から約2カ月の間にこれで3人の政務三役が辞任したことになる。異常というよりも異様だろう▼副大臣あたりの人事は党内各派の意向で固まり、首相は吟味していないのか。それも問題で責任はひとえに、ニワトリ小屋の番をキツネに頼んだ首相にある。
 
 

 


今日の筆洗

2023年11月14日 | Weblog
「春暮れて後、夏になり、夏果てて、秋の来るにはあらず」-。吉田兼好が『徒然草』にこんなことを書いている▼いやいや、春が終われば夏、夏の後に秋がくるのはあたりまえでしょと言いたくもなるか。兼好さんが強調するのは四季の移ろいとはそんなにはっきりしたものではなく、「春はやがて夏の気を催し、夏より既に秋は通ひ…」なのだという。つまり、春の中に夏の気配があり、夏のころから秋が忍び込んでいる。季節とはそういう微妙な変化なのだと▼兼好法師に逆らう気はないが、微妙な変化とは言いにくい今年の冬の訪れだろう。強い寒気が流れ込んだ影響で、週末あたりから急に冷え込んできた。東京でも昨日、冬の訪れを告げる北風の「木枯らし1号」が観測された▼11月に入っても最高気温が20度を大きく超える日が続いたのに、この寒さに毛布をあわてて引っ張りだした。夏から一気に冬へ、とはおおげさだが、秋が感じにくかった分、冬に寝込みを襲われた気分になる▼週末に訪れた京都では今年、紅葉が遅れていると地元の方がおっしゃっていた。季節の急な移ろいに紅葉の足並みがついていけないようである▼冷え込みに思い出すのは高村光太郎の詩か。「きっぱりと冬がきた(中略)。きりきりともみ込むやうな冬がきた」。体調管理にはお気を付けいただきたい。小欄、きっぱりと風邪をひいた。
 
 

 


今日の筆洗

2023年11月11日 | Weblog
中国にとってパンダは大使でもある。いわゆるパンダ外交は1941年、国民政府を率いた蔣介石の妻、宋美齢らが米国に贈ったのが嚆矢(こうし)という▼大陸を戦場とする日中戦争のころで既に南京は陥落。パンダ贈呈は「日本軍との戦いを支援してください」と米国に訴える狙いだった▼田中角栄内閣による72年の日中国交正常化でカンカンとランランがやって来るなど、日中友好のシンボルになった動物も昔は「抗日」の象徴だったらしい。家永真幸氏の著書『中国パンダ外交史』に教わった▼今の米中対立を象徴する話らしい。米首都ワシントンの国立動物園のパンダ3頭が中国へ帰途についた。貸与期限切れのため。現時点で新たに迎え入れる予定はないという▼米中国交回復に至るニクソン大統領の訪中を機に72年に贈られて以来、首都の動物園で愛されてきたパンダ。姿が消え市民も寂しがっているようだ。米国の他の動物園のパンダも来年には全て返還される見通し。米国では見られなくなるのか▼戦後、日本の動物園関係者は田中内閣以前にも幾度もパンダ譲渡を中国側に働きかけたが、先方が敵対する台湾と親しいとみなされた佐藤栄作内閣時代には「佐藤政権下ではだめ」と拒まれたこともあったという。与えぬのもまたパンダ外交であろうが、ことは覇権を争う米中の話。愛らしい大使がいなくては世界も不安になる。
 
 

 


今日の筆洗

2023年11月10日 | Weblog
南米ペルーの日系移民は苦労した。日系商工業者らが富を奪っているなどとして排日機運が高まり1940年、首都リマで暴動が発生。日系の商店などが襲われた▼ペルーは第2次大戦で連合国側に。日米開戦後はペルーの日系人も米国の収容所に送られたが、「空中都市」と呼ばれるマチュピチュ遺跡近くの集落で難を逃れた人がいた▼今の福島県大玉村出身の野内(のうち)与吉。現地で家庭を持ち、密林を開いて道や水路を造り、ダムを築いて発電し、ホテルも建設した。地元の言葉に通じ、器用に何でも造ったと伝わる。住民は信頼を寄せ、訪れた憲兵には「日本人はいない」と言い、かくまったという▼秋篠宮家の次女佳子さまがペルー公式訪問でマチュピチュ遺跡を見学された。近くの役場で村長から与吉の功績を説明されたという▼与吉の時代、今ほど観光客は多くなかったが、遺跡の研究者らが訪れ、与吉が現場を案内したという。戦後に村長も務め、ペルーで没した。マチュピチュ遺跡は今や世界遺産だが、村が最初の友好都市の相手に選んだのは大玉村。礎を築いた人は忘れないということらしい▼ペルーの日系人といえばフジモリ元大統領が有名。強権的手法で功罪相半ばするが、90年の初当選時のスローガンは「勤勉、正直、技術」だった。長きにわたる営みがあったからこそ現地に根付いた日系への評価。労苦を思う。
 
 

 


今日の筆洗

2023年11月09日 | Weblog

山本周五郎の小説『赤ひげ診療譚(たん)』にどうあってもお酒をやめられない男が出てくる。なにせ、この男、9歳から飲んでいる▼貧しい暮らしである。赤ひげに飲む金があるのなら女房と子のことを考えてやれとしかられても、男は耳を貸さない。男の言葉が身につまされる。「冗談じゃあねえ、嬶(かかあ)やがきのことなんぞ考えてみろ、とたんに飲まずにゃあいられなくなるんだから」。家族を食べさせるため、どう金を工面するかで悩む日々。酒だけが憂いを忘れさせてくれたか▼「酒は憂いを払う玉箒(たまははき)」なら左党、とりわけワイン派は酔いのさめる話となる。フランスに本部がある国際ブドウ・ワイン機構によると、今年のワインの生産量は天候不順などの影響で過去最低レベルになる見通しだという▼世界の生産量の6割を占める欧州地域がまず不調。中でもイタリア、スペインが高温と水不足などで打撃を受けた。チリは2割減で、こちらは猛暑が原因とみられる山火事が影響した▼日本では猛暑の影響でコメの「1等米」の割合が低下したが、気候変動で荒っぽくなった自然は世界のワイン造りの邪魔をした▼在庫が豊富で今のところ価格高騰につながるおそれはないらしいが、1961年以来の「不作」と聞けば、頼りなく思う方もいるか。ガザ、ウクライナ…。「玉箒」で払いたくなるような「憂い」ばかりの世の中なのに。


今日の筆洗

2023年11月08日 | Weblog
 暮らしに困った老いた武士が家に伝わる仏像を屑屋(くずや)さんに売る。これを屑屋さんから買ったのが若い武士。仏像を磨くと中から大金が出てきた。知らずに売ったのだろうと、この金を元の持ち主に返すよう屑屋さんに頼む。落語の「井戸の茶碗(ちゃわん)」である▼この金を老武士は受け取らない。仏像は売ったのだからもはや金も自分のものではない。困った屑屋さんは若い武士にあなたが受け取ってと頼むが、この武士ももらわない。自分が買ったのは仏像であって中の金ではない。貧にあっても道理を通す2人の態度。聞いていて気分がいい▼暮らし向きは決して楽ではない今の世にも裏のありそうな金は受け取りたくないと考える人が大勢いらっしゃるとみえる。話は岸田政権である。所得税減税を打ち出したが、支持率は上がらず、むしろ下げた。防衛増税の先送りも効果がない▼税を下げると言えば国民の気を引きそうなもので、岸田さんの狙いも、そこにあるのだが、逆効果とは不思議な現象といえる▼有権者には減税の中身への不満や財政上の心配もあるか。それよりも次の総選挙をにらみ、減税によって支持率を買おうとする首相の性根が見透かされてもいるのだろう▼「へん、ばかにすんない」。安く見られた気分の国民が腹を立てるのも無理はない。岸田さん、金でも人心をつかめぬほど信頼を失ったか。危険水域である。
 
 

 


今日の筆洗

2023年11月07日 | Weblog

 タイガースファンの作家、小川洋子さんは阪神側に適時打や本塁打が飛び出し、球場の大型スクリーンでそれが再生されている場合はスクリーンではなく観客席の方を見るそうだ▼何万もの人が喜びを共有している。「この人も、この人も皆、うれしそうだなあ」。そう思えば勝利の喜びとは別に「人間へのいとしい気持ちが込み上げてくる」と書いていた(『犬のしっぽを撫(な)でながら』)▼小川さんの言葉がよく分かる。テレビ中継に映るファンの顔を見ていれば、タイガースファンではなくともうれしくなる。日本シリーズ第7戦。タイガースがバファローズ投手陣を打ち崩し、好ゲーム続きのシリーズを制した。笑っている人がいる。喜びのあまり、試合終了前から泣いている人がいる▼不安定な世界情勢や物価高など持ち出したくもないが、そんな憂いや心配もひととき忘れ、ただただタイガースの優勝を祈っている。格差も考え方の違いもそこにはなく、タイガースのために声を合わせ、喜びあう。そういうファンの共鳴を見るのがなんともうれしいし、野球の力をあらためて知る▼38年ぶりの日本一。長い年月である。自分の38年を振り返り、あるいは虎ファンだった今は亡き、家族や友を思い出している方もいるだろう。おめでとうを伝えたくなる▼それにしても強かった。おそらく、次の日本一まで38年はかかるまい。