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今日の筆洗

2022年04月30日 | Weblog
昭和のプロ野球の審判で、功績が認められて野球殿堂入りした二出川延明(にでがわのぶあき)さんは「俺がルールブックだ」と抗議を退けた話で知られる▼試合を面白くするため最終回には、リードする側の投球への判定が厳しくなったとも伝わる。鉄腕・稲尾和久さんが、ど真ん中に軽く投げた球をボールと判定され、マウンドを降りて文句を言ったら「稲尾君の球として物足りない」と返されたという。スポーツ実況で活躍した元NHKアナウンサー西田善夫さんのコラムに教わった▼先日の試合で、ロッテの佐々木朗希投手のもとに球審の白井一行さんが怒った表情で詰め寄った。ランナーを一人も出さない完全試合達成から間もない若手右腕だが、判定への不満を態度で示したと白井さんは受け取ったらしい▼審判として感情的すぎるなどと批判を招き、日本野球機構にも抗議が寄せられた。審判長が白井さんに「別の方法があった」と指摘したという。態度を注意するとしても捕手を介するなど冷静に、ということらしい▼西田さんのコラムによると、ボールと判定した二出川さんに「物足りない」と言われ、稲尾さんは悪い気がしなかったという。「なんだかほめられた気がして、気持ちよく次のモーションに入りましたよ」▼乱暴ともいえる判定をしつつ、抗議をかわして選手をうまく乗せる−。審判が通ずるべきは人情の機微、だろうか。
 

 


今日の筆洗

2022年04月29日 | Weblog
中学生の時に失明したという佐木理人(あやと)さんは、四十代の点字新聞の記者。白杖(はくじょう)を使って通勤している。大改修が進む大阪・梅田の地下街の一角で立ち止まり、移された点字ブロックを探す体験をつづった記事を先月、毎日新聞で読んだ▼「落ち着こうと、大きく深呼吸する。つえ先を慎重に右左に動かし、工事で張り替えられた点字ブロックを見つけ、会社にたどり着く」。知らない道を歩く時は緊張するようで、こう続く。「一人で初めて訪れる取材先への道では、足裏に点字ブロックの突起を感じると、ほっとする」▼奈良県内の近鉄の踏切で先日、目の不自由な女性(50)が電車と接触して死亡した。近くで白杖と全盲を示す障害者手帳が見つかり、踏切があることを警告する手前の点字ブロックは一部が欠損していた。経年劣化ではがれた可能性があるという▼付近の防犯カメラに、踏切を横断中に遮断機が下り始め、立ち止まる姿が写っていたという。踏切と知らずに立ち入ったのだろうか。胸が締めつけられる▼点字ブロックは岡山の男性が考案し、一九六七年に地元の盲学校近くの交差点に初めて設置された。各地に広がったが、点字ブロック上の駐車、駐輪、立て看板設置などは絶えず、障害者がぶつかることもある▼誕生から半世紀が過ぎた「道標」への理解は十分なのだろうか。まただれかを傷つけてはいけない。
 

 


今日の筆洗

2022年04月28日 | Weblog

作家の山口瞳さんは卒業式でおなじみの「仰げば尊し」が好きだったという。ある日、学校の先生をしている友人とお酒を飲んだ。ちょうど卒業シーズンだったらしい。山口さんが「仰げば尊し」を歌おうと誘ったそうだ▼友人はあんな嫌な歌はないときっぱり拒否した。「俺の教師としての至らないところをさらけだしたままで(生徒と)別れっちまうんだ。なにが、あおげば尊しだ、なにが、わが師の恩だ。皮肉を言われているようなもんだ」。きっといい先生だったのだろう▼この話とは逆か。どうあっても「わが師の恩」と大声で歌ってもらいたいらしい。ウクライナ外務省が公式ツイッターに投稿した各国の支援に対し感謝を表明する動画。三十一カ国の名が挙がっているが、日本の名がなく、これを問題視する声が出ていると聞く▼日本も防弾チョッキなどを送っており、感謝されぬのはおかしいのではないかという主張は分からぬでもない▼礼状の届かぬのはなるほど寂しいが、だからといってそれを騒ぎたてるのもいささか恩着せがましい話に聞こえ、戦火にそれどころではないウクライナにわざわざ確認を求めるという政府の対応も大げさだろう▼「恩は着なければならないが、恩に着せてはならない、恩を着せられてはやりきれない」−。漂泊の俳人、種田山頭火。ウクライナにやりきれない思いをさせたくない。


今日の筆洗

2022年04月27日 | Weblog

古典落語の「宿屋の富」にはお金がないのに宿屋に泊まるため、お大尽のふりをする男が出てくる。宿屋の亭主を相手に語るホラがおもしろい▼あっちの大名、こっちの商人に何万両と貸しているが、利息を持ってくるので邪魔で困る。家にある金の勘定を三百人がかりで始めたが、一年たっても、まだ終わらない。漬物の石は千両箱…▼男が必死に思いついたホラでも、この人の財力には勝てまい。総資産二十七兆円と伝わる世界トップクラスの富豪で、米電気自動車大手テスラの最高経営責任者、イーロン・マスクさん。今度は短文投稿サイトを運営する米ツイッターの買収に成功したそうだ▼当初は買収に抵抗していたツイッター側も約五兆六千億円という買収額を提示されて心が動いたか。一転、合意に踏み切った▼問題はツイッターの今後だろう。マスクさんの掲げる「絶対的な言論の自由」というのも気になるところで、扇動的なメッセージを投稿し、ツイッターから締め出されたトランプ前米大統領のアカウント復活も主張していると聞く▼言論の自由が民主主義の根幹であることは当然だが、自由だからとフェイクや無責任な投稿が大手を振るようになれば、考えものだろう。マスクさん自身、不適切投稿が問題となった過去もある。富豪が手に入れたツイッターの青い鳥。変わらず人のためにさえずり続けられるか。


今日の筆洗

2022年04月25日 | Weblog
 「海には字が書いてある」。不思議な表現だが、作家の立松和平さんが北海道・知床半島のベテラン漁師さんから聞いた言葉だと書いていた▼天候が変わりやすく、波の高い知床の海は船を出すかどうかの判断は難しい。海を見つめ、風や潮がどんな字やメッセージを出しているかを読み解く。そこから荒れ具合を予想し、決断の材料にする。そんな意味だろう▼出港した土曜午前の知床の海にはどんな文字が書いてあったか。北海道斜里町の知床半島西側のオホーツク海で観光船が行方不明になった事故である。子ども二人を含む乗客乗員二十六人の安否が気遣われていたが、昨日、複数の方の死亡が確認された。無念である▼乙女の涙、男の涙。いずれも現場近くの滝の愛称だそうだ。岸壁からいきおいよく落ちる滝や、奇岩が織りなす雄大な風景に加えて野生のヒグマを沖合から見せることで観光船は人気だったと聞く▼当日は強風注意報と波浪注意報が出ており、地元漁船が港に引き返すほどだったというから、その日の海にはやはり「大丈夫」という字は浮かんでいなかったか。岩礁の多い海域で荒れた日に船を出せば危険は大きい▼ようやく訪れた知床の春に世界遺産を楽しむ人々を巻き込んだ海難事故が痛ましい。目には見えずとも、海にはいつだって「要注意」の字が大きく書かれていることをあらためてかみしめる。
 

 


今日の筆洗

2022年04月23日 | Weblog
ロシアの首都モスクワには核攻撃に備えた地下シェルターがあり、数は七千以上とも。その一つが「冷戦博物館」として公開されており、約三年前に特派員が訪れている▼核攻撃を受けた場合に軍司令部を置く施設で、ソ連時代にスターリンの命で造った。地下六十五メートルにアリの巣のような空間が張り巡らされ、壁は厚いコンクリートや鋼鉄でできている。長机が置かれた部屋では米ソの核戦争が迫った一九六二年のキューバ危機の際、幹部会議が連日、開かれた▼「世界の都市の物語11 モスクワ」(木村浩著)によると、核攻撃に備え、政治の中枢クレムリンと要人の別荘がある郊外を結ぶ秘密の地下鉄があるとのうわさも長く、流布していたという▼ロシアが掌握したとの認識を示したウクライナ南東部マリウポリでは、製鉄所地下にウクライナ兵がまだ立てこもっているようだ。地下にトンネルやシェルターがあり、避難した市民もいるという。核攻撃も想定した施設と伝わる▼今回の侵攻で核兵器使用も辞さぬ姿勢を示すロシアのプーチン大統領。米中央情報局(CIA)長官は最近、「戦術核や小型核に頼る恐れを軽視できない」と述べた▼冷戦博物館には「核のボタン」のコーナーがあるという。見学者が押すと、モニターにきのこ雲や吹き飛ぶ建物、逃げ惑う人々が映る。醜悪な展示だが絵空事とも思えず、気が重い。
 

 


今日の筆洗

2022年04月22日 | Weblog

太平洋戦争が終わってからしばらく、ブラジルの日系人社会は「勝ち組」と「負け組」が対立した▼勝ち組は日本の敗戦を受け入れない人々の呼称。「信念派」とも呼ばれ、一般人の多くが該当した。日系人指導層の多くは現実を認める負け組で別名「認識派」。負け組の要人を狙うテロが頻発し、落命した人もいる▼開戦までに邦字紙発行は禁止された。現地の言葉を理解しない日系人も多く、戦時中の情報源はプロパガンダ含みの日本発の短波放送。敗戦を伝える放送も聞けたらしいが、やがて「敗戦はデマ」という話が広まったという。国立国会図書館がネットに公開した資料などに教わった▼今のロシア社会にも対立はあるようだ。先日の記事で、ウクライナ侵攻に反発し、アルメニアに移住した二十代の女性が「私たち若い世代は両親や祖父母と口げんかばかりするようになった」と語っていた。若い人はネットで海外の情報にも触れるが、高年齢層は国営メディアに頼る傾向にある▼プーチン大統領は最近も国営テレビに出演。ロシア軍が攻めるウクライナ・ドンバス地域出身という共演の少女が「私はロシア人、ロシアを誇りに思う」と言うと、「すばらしい」と称(たた)えた▼ロシアの学校では、平和の大切さを訴えた教師が生徒らの密告で解雇されたという。ロシアの正義を信じる「信念派」一色に国を染めたいのだろう。


今日の筆洗

2022年04月21日 | Weblog
「鰊群来(にしんくき)」。四、五月、ニシンが産卵のため北海道の西海岸に大群となってやって来て、その放つ精液によって海面が乳白色に見える現象のことだ▼晩春の季語だが、『新日本大歳時記』(講談社)によると「鰊群来」「春告魚」「鰊曇」「鰊場」など、ニシン関連の「季題は今日は消滅して」と紹介されていた▼消滅の背景はニシン漁の衰退である。明治から大正期に栄え、「ニシン御殿」に象徴される巨大な富をもたらすも、その後は漁獲高の激減によって急速に下向く。乱獲などが原因になった可能性もある▼<あれからニシンはどこへいったやら>。歌謡曲ファンなら北原ミレイさんの「石狩挽歌」のメロディーが浮かぶか。お兄さんがニシン漁の失敗で負債を抱え、一家離散につながった作詞家、なかにし礼さんが漁の衰退と悲しい記憶を詞にしたためた▼<どこへいったやら>のニシンはどうやら少しずつ北海道に帰ってきている気配である。地元紙によるとこの春の北海道のニシン漁は好調で、過去二十年間で最高という漁場もあるそうだ。「鰊群来」が確認できる場所も増えてきている。朗報に切ない「挽歌」より<ニシン来たかと>の「ソーラン節」の方を歌いたくなる▼長年の資源管理が実を結びつつあるそうだ。往時の漁獲高にはほど遠いとはいえ、この復活の兆しを二度と<どこへいったやら>にしたくない。
 

 


今日の筆洗

2022年04月20日 | Weblog
「初めて東京で生活される若い女性をターゲットに当社の商品を継続して買っていただけるような企画」−▼元の発言を赤ペンで修正しながら、例えば、こんな発言なら、騒ぎにはならなかっただろうにと考える▼牛丼チェーンの「吉野家」常務による不愉快な発言である。早稲田大学主催の社会人向け講座の中で若者を狙った市場戦略について、「地方から出てきた右も左も分からない若い女性が薬物漬けになるような企画」などと説明したという。「生娘」「シャブ漬け」など実際の発言はもっと品がないが、そのまま引用するのをこちらがためらう▼世間が腹を立てるのはもっともな話で、発言には女性や地方を見下しているニュアンスがある。性的で暴力的なにおいもする。「うまい、安い、早いの三拍子」の吉野家だが、その発言は「差別、侮蔑、暴力的」と世間を騒がせる三拍子がそろっている。長年のファンもハシを持つ手が止まるだろう▼講座のテーマが「デジタル時代のマーケティング」だったと聞いて、のけぞる。意図的に強烈な言葉を使って聴衆をひきつけようとでもしたのか。だとしたら、性差別に敏感な時代をひどく読み誤ったマーケティング戦略上のミスである▼「やったね、パパ、明日(あした)はホームランだ」−。吉野家の古いCM。常務は解任されたそうだが、同社にとってはホームラン級の痛手であろう。
 

 


今日の筆洗

2022年04月19日 | Weblog

高速道路で古い車を見かけると速度を合わせ、ながめたくなるということが車の好きな人ならあるだろう。先日はホンダS800に出会う。半世紀も昔の車が立派に走っている▼晴れた日曜の高速道路には自慢の旧車を走らせ、調子を見るオーナーが多いのだろう。続いてトヨタスプリンターのリフトバック。これは一九七〇年代の後半か。懐かしい。確か、当時人気のアグネス・ラムさんがCMに出ていた。車一台に当時の暮らし、家族のことまで思い出す▼かつてのありふれたセダン車を見かけても、しんみりする時代がやがて来そうだ。国内自動車メーカーがその昔、主力車種としていたセダンの生産を相次いで終了している。4ドア、二列シートのかつてのファミリーカーが消えていく▼トヨタは「マークX」の生産を二〇一九年に中止。この夏は日産の「シーマ」が終わる。セダンに取って代わったのはSUVやミニバン。シート位置がセダンより高いSUVは視界も広く、運転しやすい。広い室内は使い勝手も良さそうだ。人気の理由なのだろう▼時代に逆行するように、知人がSUVからセダンへの買い替えを検討しているという。同居する高齢のお母さんが高いシートに乗り降りで難儀しているそうだ▼高齢者との同居世帯も今は珍しく、このあたりのファミリーの変化もセダン衰退と何か関係があるのかもしれない。