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今日の筆洗

2023年12月31日 | Weblog
 「ざるかぶり犬」という縁起物がある。名の通り、犬が目深に竹ざるをかぶった姿の玩具で江戸の昔から伝わる▼「笑」の字と関係がある。「笑」を「竹カンムリに犬」と見立てて笑を招く縁起物としたのだろう。こんな話を以前も紹介した。弘法大師が笑の字をつい忘れてしまった。そこにざる(かご)をかぶった犬が現れる。これを見て、笑の字を無事、思い出した▼漢文学者の白川静さんによると「笑」の漢字は巫女(みこ)が両手を上げて踊る姿だそうだ。神を楽しませるため、笑いながら踊ったという▼「笑」の字とざるかぶり犬はやはり無関係だったか。考えてみれば、お大師様が「笑」を忘れるはずもない。2023年が幕を下ろす。この1年、笑いに恵まれた世の中だっただろうかと思い返す▼なるほど、新型コロナウイルスはひとまず落ち着きを見せ、これには安堵(あんど)のほほ笑みがこぼれたが、物価の高騰、上がらぬ給料に到底、破顔とはなるまい。国際情勢は終わらぬロシアのウクライナ侵攻、イスラエル軍のパレスチナ自治区ガザ攻撃など「笑」とは遠い1年だった。国内政治といえば自民党の裏金問題など顔のこわばる話が尽きぬ▼「ざるかぶり犬」を手に取る。大笑いとはならぬまでも、ほのぼのとしたおもしろさがある。来年はこの程度には笑える年となることを-。願いを込めて今年最後の筆をおく。よいお年を。
 
 

今日の筆洗

2023年12月30日 | Weblog
昭和初期の新興俳句運動を担った渡辺白泉にラグビーを詠んだ、こんな句がある。<ラガー等(ら)の胴体重なり合へば冬>▼白泉が見たのはスクラムかそれとも相手の胴体をなぎ倒す強烈なタックルか。寒い中、選手の背中に立ち上る湯気まで浮かんでくるようだ。ラグビーはやはり厳冬が似合うと勝手なことを思う▼<重なり合へば>の冬にファンはリーグワンに大学選手権にと忙しかろう。加えて高校の全国大会も始まった。試合の行方が気になり、年の瀬はどうも仕事に集中しにくい▼全国高校ラグビーでの出来事が切なかった。1回戦、鳥取の倉吉東に勝った香川の高松北。見事な勝利にも2回戦出場を辞退した。不思議な話に聞こえるだろう。倉吉東戦で選手の1人が負傷し、必要な15人の選手をそろえられなくなった。頑張ったのに出られない。選手はどんなに悔しかったことか▼「少子化」というやるせない3文字が浮かんでくる。子どもの減少によってもはや全国大会出場レベルでさえ15人の選手をそろえるのは難しいのだろう。複数校で合同チームを組み、出場することも珍しくない。ラグビーに限るまい。野球、サッカーの人気スポーツにしても競技人口を大きく減らしている。野球の大谷さんが小学校にグラブを贈った背景でもある▼選手不足で胴体さえ重なり合わぬ<ラガー等>。そんな未来の冬を想像し凍える。
 
 

 


今日の筆洗

2023年12月29日 | Weblog

<押しくらまんぢゆう路地を塞(ふさ)ぎて貧などなし>は俳人の大野林火。「押されてなくな」。冬の路地から伝わってくる子どもたちの歓声や熱に「貧」など感じなかったか▼スマートフォンも電子ゲームもない時代。真冬の外遊びの「横綱」といえば、やはり、押しくらまんじゅうとなろうか。1963年生まれもひんぱんにとはいわぬまでも興じた経験はある。確かに温かくなるのだが、少々、体が痛くもなる。昨今はまず見かけないが、馬乗りや陣取りなど互いの体が触れるような遊びは敬遠される時代なのかもしれない▼子どもたちの間でこんな「遊び」が決してはやらぬことを祈る。東京都目黒区の小学校で市販薬を過剰に摂取した女子児童2人が体調不良を訴え、救急搬送された。詳しい事情は分からないが、多幸感を得るため風邪薬やせき止め薬などの市販薬を過剰に服用する「オーバードーズ」と関係が疑われる▼若者を中心に広がりをみせる「オーバードーズ」に対し、政府も市販薬の大量販売を規制する方向で検討しているそうだが、魔の手は既に小学生にまで伸びつつあるのか▼多幸感と書いたが、過剰摂取の果てに待っているのは身体への恐ろしい害と依存症という不幸に他なるまい▼スマートフォンなどでこの手の怪しげな情報が子どもにもあっという間に広まる時代なのか。北風がいっそう冷たく感じられる。


今日の筆洗

2023年12月28日 | Weblog
かくれんぼは夕方以降禁止。やっているとさらわれる。そう言われた子どもが昔はいたらしい。夜は照明も今ほど明るくなく危険。神隠しのごとく子どもが姿を消すことを大人は恐れた▼この遊びは、世界各地の大人になるための「通過儀礼」の模倣との説がある。初潮を迎えた少女を家の中で1週間隔離する部族や、適齢期の子を男たちが森へ連れ去り隔離して秘儀を行う部族の例が伝えられる▼かくれんぼはずっと見つけてもらえない恐怖とも闘うが、なるほど孤独への耐性は大人の必要条件か。小川清実氏の著書『子どもに伝えたい伝承あそび 起源・魅力とその遊び方』などに教わった▼自民党安倍派の政治資金パーティーで販売ノルマ超過分計約4千万円の還流を受けたと伝えられる池田佳隆衆院議員が発覚後約1カ月、雲隠れしている。閉会前の国会も休んだ。本人の口からメディアに説明はない。事務所などを昨日、検察が捜索した▼地盤の名古屋や東京で氏を追う同僚記者は困り顔。以前、政権に批判的だった元文部科学事務次官が名古屋市の中学校で行った授業に関し文科省が市教委に報告を求めた問題でも氏の関与が報じられたが、その際も何日か身を隠した。潜伏の手練(てだれ)らしい▼先の本によると、子どもは遊びで隠れることで自身を見つめるという。池田氏も内省の日々を送るのだろう。そろそろ、お出ましを。
 
 

 


今日の筆洗

2023年12月27日 | Weblog

最初はアムステルダムのある空港で導入されたそうだ。男性トイレの小便器の中に黒いハエを描いておく。結果、何が起きたか▼これだけのことで、例の「飛び散り」が8割減ったという。便器にハエを見つけると人はどういうわけかオシッコで狙いたくなるものらしい▼行動経済学の「ナッジ理論」の例としてよく紹介される。「ナッジ」とは「そっと後押しする」の意味で、強制や命令ではなく、ちょっとした工夫によって人々の行動に変化を促す方法のことをいう。強制されない分、気分よく受け入れられやすいという。日立製作所が最近、発表した新しいエスカレーター。これも「ナッジ理論」を応用しているのだろう▼ハエではなく、ステップ面に立ち位置を示すLEDライトが二つ配置されている。これによって2列で乗るよう促す効果があるそうだ▼片側を空ける習慣は非効率なうえ、接触事故につながるといわれながらもなかなかにしぶとい。この歳末、駅やデパートの混雑するエスカレーターの前で「なぜ2列で乗らないのか」と腹を立てた方もいるか▼急ぐ人のために片側を空ける習慣は1970年の大阪万博に由来するという説がある。新型のエスカレーターは2025年大阪・関西万博に合わせて開業する「夢洲駅」に導入される。わずかな光は半世紀を超える習慣を変えられるか。効果を2列で待つとする。


今日の筆洗

2023年12月26日 | Weblog

映画監督の是枝裕和さんが子ども時分のケーキの思い出を書いていた。お母さんが洋菓子の工場で働いていたそうで崩れたチョコレートケーキなどをよくもらって帰ってきたそうだ。ただし、是枝少年が欲しかったイチゴのショートケーキは人気のせいか、まずお目にかかれなかった▼年に1度、「崩れていない」イチゴのショートケーキを食べる日があった。お母さんの誕生日でもある、クリスマスイブだそうだ。崩れていないケーキは少年時代の是枝さんにとっては「特別な存在」だったという▼無残に崩れたケーキの写真を見るのが悲しい。百貨店大手の高島屋がオンラインストアで販売した、ケーキが崩れた状態で購入者に届けられたという。お気の毒に▼崩れたケーキが切ないのはこの季節のだんらんや喜びの象徴のような存在だからだろう。箱から出てきたケーキが目も当てられない状態になっていてはやり切れまい。この1年の苦労が台なしにされたような気分になるのも分かる▼高島屋さんは平謝りしている。どういう経緯で崩れたかははっきりしないが、関係者も対応に追われ、さんざんなクリスマスになったはずだ。世間を騒がせるケーキなんぞ作りたくも届けたくもなかったろうに▼幸せの味がしたはずのこの季節のケーキ。どうか慎重に扱っていただきたいもので、無事に届ける仕事はサンタの代役でもある。


今日の筆洗

2023年12月25日 | Weblog
毎年、今年の漢字を予想するが、これがなかなか難しい。真夏なら「暑」、この師走なら間違いなく、自民党派閥のパーティー裏金問題の「裏」だが、この1年全体の世相を表現する一文字となると考え込んでしまう▼日本漢字能力検定協会が選んだ「今年の漢字」は「税」だった。清水寺の貫主さんが揮毫(きごう)した文字に文句はないが、「税」とは予想が外れた▼なるほど、評判の悪い消費税のインボイス制度導入や防衛増税に政権批判をかわす狙いの所得税減税など「税」に右往左往した年か。国民は「税」という漢字の裏に物価高など生活の「苦」や政治への「恨」の文字を見ているのかもしれない▼小欄の外れた予想は「偽」。人工知能(AI)を悪用したフェイクニュースなどの偽情報はますます精巧になり、見分けがつきにくい時代となった。人の為(ため)のはずのデジタル技術の向上は同時に「偽」の技術も高め、人々にあだをなす▼「偽」は投票上位の20位にも入っていなかったが、米国の辞書の「メリアム・ウェブスター」が今年の単語に「authentic(オーセンティック)」を選んだそうだ。意味は「本物の」「正真正銘の」。「偽」多き世の中に「本物」を見つけたい時代なのだろう▼来年は米大統領選挙もある。どんな醜い偽情報があふれるか。この手の悪弊は日本にも伝わるのだろう。「憂」の漢字が浮かぶ。
 
 

 


今日の筆洗

2023年12月23日 | Weblog
紅海は、アフリカ大陸とアラビア半島の間の細長い海。北側はスエズ運河で地中海とつながり、南側はインド洋と接す▼欧州とアジアを結ぶ航路。作家の遠藤周作も27歳だった1950年、紅海経由の船で留学先のフランスに向かった▼後に書いた小説の題は、紅海入り口付近のイエメンの港町の名にちなんだ『アデンまで』。船上の物語で、両側に陸が迫る紅海について、静かで砂漠と同じような色に濁っていると記す。「甲板の手すりにもたれ、俺は風もない、波もない、海づらを眺めていた。このアフリカとアラビヤにはさまれた細長い紅海は俺の皮膚の色に、なんと、似ていることだろう」▼紅海が最近、騒がしい。イスラエルを敵視するイエメンの親イラン武装組織フーシ派が商船攻撃を繰り返している。先月には日本郵船運航の船も拿捕(だほ)された。パレスチナ自治区ガザに侵攻したイスラエルを揺さぶる狙いらしいが、イスラエルとの関係が不明の船も標的になったとも▼米国は船を護衛する多国籍部隊をつくる気だが、奏功するだろうか。紅海経由から遠回りの航路に変えた海運会社も少なくない。輸送費の増加が物価上昇を招くかもしれない▼先の小説には「永久にこの海は動かないであろう。静止しているだけだろう」ともつづられる。静かなはずの海を波立たせる人間の所業。長引けばおそらく暮らしは苦しくなる。
 
 

 


今日の筆洗

2023年12月22日 | Weblog
ダイハツ工業が2011年に発売した低燃費、低価格の軽自動車「ミラ イース」は当たった。担当者らの苦労話が18年発行の社史にある▼09年の東京モーターショーに出した、技術の方向を表す展示用コンセプトカーが基。社員の一人が語る。「モーターショーで当時の社長が壇上で『これはコンセプトカーで、2~3年後に見直して売ります』と宣言したのです。われわれはその話をその場で初めて聞いて驚くのと同時に、すぐに見直しをしなければならないと思ったのです」。短期での開発は成功した▼ダイハツの車の性能や強度の試験で虚偽記載などの不正が横行し、社は国内外で生産する全車種の出荷を停止した。第三者委員会の調査によると「ミラ イース」の成功体験から社が短期開発にこだわったことが現場の時間的余裕を奪い、不正の一因になったらしい▼できぬことをできぬと言えぬ組織風土。幹部の責任は重いが、不正をした社員は街でダイハツ車を見かけるたび罪悪感に苛(さいな)まれたのだろうか。あるいは「大したことない」と自らに言い聞かせ、やがて何も感じなくなったか▼社史では、当時の会長が従業員は組織の歯車ではないと唱えていた。「会社が『ヒトの体』だとしたら、従業員一人ひとりは『細胞』だと思っています。『細胞』が元気でないと、やがて体は病気になる」▼再生への道の険しさを思う。
 
 

 


今日の筆洗

2023年12月21日 | Weblog
 昔話の桃太郎ではおじいさんは山へしば刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行った。古くから洗濯は女性に任された重労働。川や池などで手で洗う時代が長かった▼世界初の電気洗濯機は1908年、米企業が販売した。日本での国産電気洗濯機の登場は30年。芝浦製作所(後の東芝)が米企業から技術を導入し、開発したという▼当時の庶民には高根の花だったらしいが、戦後に洗濯機は普及。家事の中でも特につらい作業の負担を軽減し、女性の社会進出を後押しした(大西正幸著『電気洗濯機100年の歴史』)▼洗濯機、炊飯器、冷蔵庫などの家電でお茶の間に浸透した名門企業だったが、アジア勢に押され、不正会計で評判を落とし、原子力事業で負債を抱えるなどして凋落(ちょうらく)した東芝。東京証券取引所での株取引が終わり昨日、上場廃止となった▼要求の厳しい海外投資ファンドと別れ、国内ファンドを軸とする国内企業連合の下で経営再建に集中するための非上場化。中部電力、オリックスなど約20社が出資したという。洗濯機など白物家電部門は数年前に中国企業に売却している。電気自動車に使われるパワー半導体事業などで稼ぐ気とも伝えられるが、簡単ではなさそうだ▼桃太郎の場合、犬、猿、キジはきび団子で危険な鬼退治に同行してくれた。東芝はこれから、金を出す新たな伴走者の信用を維持できるだろうか。