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今日の筆洗

2019年02月28日 | Weblog

久しぶりに出席した結婚披露宴で新郎新婦が自分の生まれた時の体重と同じ重さのお米をそれぞれの両親に贈るという場面があった。「体重米」というらしい。初めて見たが、最近はよくある演出らしい▼ずしりとしたお米を渡されたご両親は涙ぐんでいらっしゃったが、これはよく分かる。腕に抱いたその本物の重さが晴れの日を迎えた二人の生まれた当時のことやこれまでの日々を鮮明によみがえらせてくれるのだろう▼二六八グラム。その男の子がいつの日か、結婚披露宴で親御さんに贈る、「体重米」は「二合」(三百グラム)にも満たないか。それでも、その「軽さ」に対し大きな歓声と拍手が送られるだろう。そんな空想をする。慶応大学病院は昨年八月、体重二六八グラムの男の子が生まれ、このほど退院したと発表した▼元気に退院した男児としては世界最小だそうだ。生後五日目の写真を拝見したが、周りはさぞ心配したことだろう。大人の手のひらに収まってしまいそうである▼退院時の体重は三二三八グラム。もはや自分でお乳も飲めると聞いて、うれしくなる。体重三〇〇グラム未満の救命率は低いそうだが、男の子は悪い確率にも立派に打ち勝った▼「この世に赤ん坊が生まれてくるのは驚嘆すべき大事業だ」。英政治家チャーチルの言葉を思い出す。そういえばその大宰相も予定よりも早く生まれた未熟児だったそうである。

 
 

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今日の筆洗

2019年02月27日 | Weblog

東京の西部、中央線沿線の高円寺、阿佐ケ谷、荻窪あたりに下町のような気楽な雰囲気を感じるという人もいるだろう▼関東大震災や空襲で被災した下町の住民が移り住んだためらしいと聞いたことがある▼阿佐ケ谷生まれの作家久世光彦(くぜてるひこ)さんによると昭和の初め、このあたりには「胴村」なる不思議な異名があったそうだ。「退職金で手に入れ、年金で暮らすのに手ごろな住宅地だったのだろう」という。退職をクビとはひっかかるが、クビになり胴だけになった人が集まるというシャレらしい▼要するに移り住んできた人たちの町であり、それを温かく受け入れてきた町なのだろう。その新顔も気楽な町に居つくのかと思っていたが、かなわなかった。阿佐ケ谷駅周辺にやってきたミミズクである。都会には珍しい姿が話題になったが、死んでいるのが見つかったそうだ▼新宿あたりで飼われていたものと聞く。都会でもなんとか生き残れ。ミミズクの姿にそう願い、同時に手に入れた自由の翼が少々まぶしくもあった。だからその話題に人はひかれたのかもしれぬ▼その分、車にぶつかった可能性もあるという最期が悲しい。<僕は今 阿佐ケ谷の駅に立ち 電車を待っているところ><行けども行けども見知らぬ街で これが東京というものかしら> 友部正人さんの「一本道」。その翼で見た東京が美しかったことを願う。

 
 

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今日の筆洗

2019年02月26日 | Weblog

緑色の本」と聞けばどんな内容が浮かぶか。森? 植物? いずれも違う。一九三六年にこの本が米国で出版された背景と意味は深刻で切実である▼表紙が緑色なのでそう呼ぶが、正式名称は「黒人旅行者のための緑色の本」。黒人差別の時代にあって、黒人が安心して利用できる宿泊施設や飲食店を紹介したガイド本である。人種差別を禁止する公民権法が成立して二年後の六六年まで出版されていたそうだ▼「緑色の本」がそのまま題名になった米映画「グリーンブック」(ピーター・ファレリー監督)がアカデミー賞作品賞に選ばれた。六二年、黒人ピアニストが黒人差別の強い南部を演奏ツアーで回る。その用心棒としてイタリア系の男が雇われる。黒人と白人の旅である。実話だそうだ▼名ピアニストなのに黒人というだけで、グリーンブックで紹介されるひどいホテルに泊まらなければならない。差別のひどさを目の当たりにした、白人の用心棒の考えは変化していく▼映画のメッセージは偏見を捨て、お互いに近づき合ってということなのだろう。よく知れば、互いの悩みの痛みも見えてくる。そして、協力し合える▼正直、斬新な物語ではないかもしれないが、肌の色ばかりではなく、考え方の違いで対立する米国の「今」が前向きなその映画を必要としたのだろう。「今」の日本には必要ないとは言いきれまい。

 
 

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今日の筆洗

2019年02月25日 | Weblog

季語の「鳥帰る」は秋冬に日本に渡ってきた鳥が春になって北方に帰ることで、時期的にはもう少し先になるが、その訃報に故郷へ帰らなかった鳥のことを想像する。戦後の日本文化研究をリードしたドナルド・キーンさんが亡くなった。九十六歳。<帰る鳥帰らぬ鳥もまじりけり>正岡子規。米国の生まれだが、日本を愛し、古巣へ帰らぬほうの鳥だったか▼長年の研究と日本作品を翻訳し世界に運び、広げた功績。日本文学のみならず、日本人とは何かを世界へ伝える大きな力となっただろう。かけ橋と言われることを大げさだと謙遜していたが、日本と西洋を行き来した鳥は大きな橋をかけた▼本は上下二冊で四十九セントだったそうだ。キーンさんを日本文化研究へといざなった『源氏物語』の英訳本。ニューヨークの書店でたまたま見つけた。一九四〇年の話だそうだ▼ドイツ軍の侵攻で戦争への恐怖が高まる中、暴力も戦争もない「源氏」の世界に夢中になったそうだ▼母国語を日本語としない研究者の道は険しかった。芥川龍之介の父親は新原という姓だが、何と読むか。シンバラかニイハラか。ニイハラが正しいそうだが、これ一つを調べるだけでも時間がかかる。苦労の大きさが分かる▼晩年、日本国籍を取得し「帰る国は日本」と語っていた。だとすれば、その人は帰らぬ鳥ではなく、故郷日本に帰った鳥であろう。

 
 

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今日の筆洗

2019年02月23日 | Weblog

南米にアベコベガエルというおかしな名前の生き物がいる。英語ではパラドクシカル・フロッグ、矛盾したカエルと呼ばれるらしい。オタマジャクシのころは体長二十五センチと巨大なのに、成体は六センチほどになるため、その名がついた▼荒俣宏さんの『世界大博物図鑑』によると、常識に反するようなこの生き物を見て、昔の学者はカエルからオタマジャクシへと、逆に育つと考えたという。成長しているのに、小さくなる。悲しい性質にも思えるが、当のカエルは異を唱えるかもしれない。小さく成長することの何が矛盾かと▼東大阪市にあるセブン-イレブンの店舗の二十四時間営業をめぐって、本部と加盟店のオーナーが対立している。オーナーは営業時間の短縮に踏み切った。便利さを追求し、拡大、成長してきたコンビニエンスストアである。その常識に逆行する動きだろう▼原因は、解決困難で、この先も厳しくなるであろう人手不足である。本部には売り上げや効率の点からも、受け入れるのが難しいことのようだ。が、ひとごとでないと同業者や他業界からも声が上がっている。それが世の中に広く共通の難問であるからに違いない▼小さく成長する。難しそうではあるが、あべこべの常識を真剣に考える時代が、近づいているようだ▼図鑑で見れば例のカエル、大きな水かきがあって、体は小さくとも立派に見える。

 
 

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