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今日の筆洗

2018年11月30日 | Weblog

 向かい合った二人の横顔なのか、一個のつぼなのか。簡単な図形が、異なる二つのものに見える。あの有名な図形は、心理学者の名から「ルビンのつぼ」などと呼ばれるそうだ。見るたびに、人の知覚の不思議を感じさせる図形だろう▼図形だけでなく、人は同じ現実を見ても、異なるものをイメージすることがあるらしい。中米ホンジュラスなどから米国を目指し、メキシコに集まる数千人の移民集団である。国境の向こう側で、トランプ米大統領は「多くは冷酷な犯罪者」と、集団を見る。「侵略者」とも言った。中間選挙には好都合だったのだろう▼催涙ガスを使った対処はきっとその見方の延長線上にある。壁のこちら側。メキシコ発の報道を見ると別の絵がある。犯罪への恐怖と貧困でやむなく母国を離れ、数千キロを歩いて米国に向かう人々だ▼あまりの低賃金に、母国での生活をあきらめ、二人の子と何日も歩く女性。稼ぎ頭だったであろう父が亡くなり、旅立った十五歳の少年。母は「気を付けて」と送り出したそうだ▼ギャング集団の脅しに国を出た若者もいる。長距離を歩くため、重い荷は持てない。だから、普段着にリュック姿が多い▼貧困も犯罪も米国の問題ではない。国境を閉ざしたい心理も分かる。ではあるが、相手を見誤れば悲劇が起きよう。つぼを壊したつもりが…。怖いイメージが、浮かんでくる。

  

 

 

 

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今日の筆洗

2018年11月29日 | Weblog

「センイチ」と聞いて、思い出すのは昔の野球選手の名前ぐらいだが、戦後、米軍キャンプを回るジャズ楽団員には欠かせぬものだったそうだ。当時の隠語でジャズの有名曲を集めた楽譜集のことをいう▼センイチとは千一で、たくさんの曲が載っているという意味だろう。実は海賊版であまりおおっぴらにできるものではなかったらしい▼貧しき時代。米兵相手のジャズメンは景気が良かったと聞くが、「センイチ」は大切なメシの種だった。そのピアニストもやはり「センイチ」のお世話になったか。戦後ジャズ史の大半に身を置いた前田憲男さんが亡くなった。八十三歳▼年齢から、戦後七十三年を引き算すれば十歳前後。その年から進駐軍放送と教則本でピアノを学び、高校卒業後、進駐軍キャンプで演奏を始める。独学で切り開いた道は伝説の「モダンジャズ三人の会」やビッグバンドから歌謡曲の編曲まで幅広い音の世界につながっていた▼前田さんに「センイチ」は不要だったかもしれぬこんな逸話がある。珍しい輸入レコードを業者から試聴したいと借りる。次の日に「いらない」と返すが、その間に聞き取りで全曲採譜。そして、その晩に演奏する▼前田さん編曲の「A列車で行こう」は「原信夫とシャープス&フラッツ」の十八番だった。A列車で旅立たれたか。列車内から軽快なピアノの音が聞こえてくる。

 
 

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今日の筆洗

2018年11月28日 | Weblog

 年の瀬が近づくと聞きたくなる落語の「芝浜」。魚屋の熊さんはどうしてもお酒がやめられず、ついには仕事にも行かなくなる▼働いておくれよとせっつくおかみさんに「明日っから必ず仕事に行く。だから、きょうだけは思う存分、飲ませてくれよ」▼亭主の言葉を信じて笑顔で酒を振る舞うか。それとも心を鬼にして拒絶するか。こういう話なのかもしれない。政府が公表した消費税率10%への引き上げ対策のことである。引き上げによる景気悪化を防ぐため、キャッシュレス利用の消費者に5%のポイントを還元するなどの方針を打ち出した▼期間は引き上げから二〇二〇年夏まで。10%に上がっても5%分還(かえ)ってくるから差し引きすれば現行の8%よりもお得ということになる。どうやら、政府は将来のために酒をがまんしてと説得するおかみさんではなく、その場しのぎの酒を差し出す方らしい▼なるほど家計には朗報か。熊さんなら「ありがてえ」と涙ぐむだろう。さりとて、10%への引き上げは将来の財政や社会保障制度を考えた上での結論だったはず。景気の悪化は無論、避けたいが、そのために二兆円を超える大盤振る舞いの対策とはかえって国の財布を傷つけ、何のための引き上げかという話にもなろう▼酒を注ぐ優しいおかみさん。が、その酒には来年の統一地方選、参院選での魂胆という「不純物」も混じる。

 
 

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今日の筆洗

2018年11月26日 | Weblog

 米フォーク・ロックのママス&パパスが一九六六年にヒットさせた曲、「夢のカリフォルニア」。題名だけを聞けば昔の海外旅行の宣伝文句みたいで、明るく健康的なイメージがわくが、歌の内容はかなり寂しい▼舞台はカリフォルニアではなく、おそらくニューヨーク。季節はカリフォルニアに似合いそうな夏ではなく、枯れ葉舞い散る冬。その寒さに震えながら、暖かく、落ち着けるカリフォルニアに思いをはせるという望郷の歌である。「カリフォルニアを夢見る。こんな冬の日は」▼この晩秋から冬に限れば、カリフォルニア州に夢を抱きにくいかもしれぬ。同州北部を襲った史上最悪規模の山火事である。火災自体は恵みの雨で落ち着いてきたが、今度はその雨が洪水や土石流を引き起こす危険が出てきたというから悪夢である▼同州でしばしば発生する大規模な山火事の背景として地球温暖化による異常気象を疑う見方は強い。今回でいえば、秋の雨期の到来が遅れ、山が乾燥し燃え広がりやすい状態になっていたと聞く▼このままだと地球温暖化の影響による山火事や猛暑などで年間数十兆円規模の経済損失が出る-。最近の米連邦政府の専門委員会の報告書である。温暖化を笑うトランプ大統領への勇気ある諫言(かんげん)なのだろう▼大統領がこれで目を覚まし、温暖化対策に取り組むことと穏やかなカリフォルニアを夢見る。

 

California Dreamin` (夢のカリフォルニア) / THE MAMAS & THE PAPAS

 

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