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今日の筆洗

2023年11月30日 | Weblog

お菓子の中にはハプニングや失敗によって生まれたものが結構ある。米国のご家庭でよく作られるブラウニー。一説によるとチョコレートケーキを作ろうとしたのにベーキングパウダーを入れ忘れたことでできた(『お菓子の由来物語』)▼諸説あるが、貝殻形の焼き菓子「マドレーヌ」の由来もおもしろい。フランスのある地方の領主。晩さん会を開こうとするが、菓子職人が仲間とケンカして出ていってしまった。後に残った料理上手のメイドさんが代わりに作ったのがこの菓子。メイドさんの名は無論、マドレーヌさん▼失敗やつまずきから大逆転。こういう話は聞いていてうれしくなる。お菓子ではなく、この季節の鍋料理の話となる。これもひょんなことから売り出されるそうで話題になっている。愛媛県宇和島名物のねりもの「じゃこ天」と秋田県の「きりたんぽ」が同時に味わえる鍋のセットである▼発端は「悪口」というのがおもしろい。秋田県の佐竹敬久知事がじゃこ天などの四国の食文化を「貧乏くさい」と発言し、後に謝罪したものの抗議が殺到した▼知恵者がいたのだろう。この騒動を見た、愛媛と秋田両県の業者が、それぞれの名物を組み合わせることを思いついたらしい▼一味同心とはよくいうが、その鍋からは言い争いや対立ではなく和解の湯気が立ち上るか。「鍋奉行」の名裁き。温まりそうである。


今日の筆洗

2023年11月29日 | Weblog
「傾城(けいせい)の恋は誠の恋ならで金持ってこいが本の恋なり」-。「傾城」とは江戸時代の遊郭の花魁(おいらん)。夢中になれば城が傾くほどとはおっかない▼戯(ざ)れ歌は花魁が客に気があるようでも、それは本当の「恋」ではなく、長く通わせる手練手管であって、「金持ってこい」の「こい」なのだという。古今亭志ん生の軽口みたいだが、「学校ではこういうことはあんまり教えない」▼若旦那が花魁にひっかかり、吉原に通い詰めて大騒動に。落語の世界ならまだしも現実の話、しかも食い物にされているのは若い女性とあれば深刻である。ホストクラブの代金がかさみ、支払いのため売春などをさせられるケースが相次いでいるという▼ホストが金をさんざん使わせ、最後はたまりにたまったツケ(売掛金)を売春によって払わせようとするとはあくどい。背後には犯罪グループがいるとの指摘もある▼政府は対策に本腰を入れるようだが、利用する側もホストの甘い言葉が「誠の恋」ではないと警戒しておく必要があろう。優しい言葉、親身になって話を聞いてくれる態度。ひどいことを言うようだが、社会経験の浅い若い女性にはそのふるまいが「恋」のように思えても、それはやっぱり、「金持ってこい」の方である可能性が高い▼学校でも、ホストへの心構えをよく教えたほうがいいかもしれない。近ごろの渡る世間には鬼が多すぎる。
 
 

 


今日の筆洗

2023年11月28日 | Weblog
「土の上には床がある/床の上には畳がある/畳の上にあるのが座蒲団(ざぶとん)でその上にあるのが楽といふ」。詩人、山之口貘(ばく)の「座蒲団」。「楽に坐(すわ)った寂しさよ」と続く▼「寂しさ」には理由がある。上京後、下宿代が払えず、放浪生活を送った山之口。座蒲団の「楽」が分不相応に思え、どうも落ち着かなかったらしいが、読んでいる方は詩人が土の上からやっと「楽」にたどり着いたことにほっとする▼パレスチナ自治区ガザの今に、その詩を思った。イスラエルとイスラム組織ハマスの合意はひとまず守られ、ハマス側は拉致していた人質を解放し、イスラエル側は戦闘を休止している。詩でいえば戦闘という冷酷な土の上に薄い「床」ができたようなものか▼とはいえ、危うい「床」だろう。戦闘休止期間は28日で切れる。イスラエル、ハマスの双方とも延長に前向きと伝わる。なによりだが、この機をとらえ、「床」をさらに安定させ、停戦の「畳」、和平の「座蒲団」へと歩みが進むことを願う。国際社会も、その積み重ねを後押ししたい▼「なんにもなかった畳のうへに/いろんな物があらはれた(中略)/桐(きり)の簞笥(たんす)があらはれた/薬罐(やかん)と/火鉢と/鏡台があらはれた」…。結婚後の山之口の詩「畳」▼底冷えする「土」から鏡台まで備えた家になったか。かの地を、空爆と悲鳴の続く「土」なんぞに二度と戻したくない。
 
 

 


今日の筆洗

2023年11月27日 | Weblog
少年チャンピオン」を四十数年ぶりに書店で求める。少年漫画誌独特の紙質やにおいが懐かしい。オイルショックの時はえらくページ数が減らされていたっけ▼子ども時分のラインアップが難なく、浮かぶ。「ドカベン」「がきデカ」「恐怖新聞」…。忘れてならないのは手塚治虫の「ブラック・ジャック」である▼「ブラック・ジャック」の新作が掲載されるとあって書店に走った高年齢のファンも多いだろう。手塚さんが亡くなって34年。新作は人工知能(AI)を使って、描かれた。漫画界の新しい試みである▼過去の「ブラック・ジャック」作品を学習したAIが物語の流れやシナリオを作成し、これに人が手を入れた。コマ割りやペン入れも人がやっているが、新しい登場人物のデザインの原案もAIがやったと聞けば驚く。AIはここまでできるのか▼新作を出すことや内容への賛否は分かれようが、作品の雰囲気は十分に再現できていた。古いファンとしては懐かしかったが、同じ手法でかつての作家の作品が乱造されるようにならぬか少し心配もある▼「ブラック・ジャック」をなんとか描き上げた手塚先生。アシスタントがその出来を「今イチ」と言ったのに腹を立て、時間もないのに全部、描き直したそうだ。新しもの好きの先生はAIによる新作に興味を示すか、それとも、「まだまだですね」と描き直すか。
 
 

 


今日の筆洗

2023年11月25日 | Weblog

 自動車や家電製品などに使われ「産業のコメ」といわれる半導体。研究を先導した東北大元学長の故・西沢潤一さんは「ミスター半導体」と呼ばれた▼自ら設立に関わり、昭和30年代に生まれた半導体研究所は企業も出資し産学連携の先駆といわれたが、学者が資金を企業に恃(たの)むことには同僚や学生の批判も。東北大には「産学協同粉砕」と訴える看板も登場した。本人は「日本全体が食うためには電子工業をやらなくてはならない」と揺るがなかったという▼昭和の終わりに半導体で世界を席巻した日本は再びそれで食えるようになるのか。衆院を通過した政府の補正予算案の柱の一つが半導体関連で、総額2兆円近い▼次世代半導体の国産化を目指し、官民連携で北海道に工場を建設中の企業「ラピダス」への支援も増やすという。国の鼻息は荒いが、トヨタ自動車など民間の出資は限定的で及び腰ともいわれる▼国際競争で後れをとった日本は技術や人材の蓄積が乏しい。次世代技術での優位確保は「野球少年が明日から米大リーグで活躍したいというようなもの」と語る専門家もいる▼西沢さんは半導体研究所の玄関正面に、東北出身の作家宮沢賢治の言葉が入った染め物を飾ったという。「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」。研究はみなの幸せのためにある-。血税投入は幸福を招くだろうか。


今日の筆洗

2023年11月24日 | Weblog

サッカー日本代表は昔はワールドカップ(W杯)が遠く、アジア予選で苦戦した。テレビの前で落胆もしたが、NHKの山本浩アナウンサーの実況が記憶に残る▼1985年のメキシコW杯予選。勝ち進んだ日本は最後に韓国と2試合で雌雄を決することになった。東京での初戦の中継開始直後、山本さんが語った。「東京・千駄ケ谷の国立競技場の曇り空の向こうに、メキシコの青い空が近づいているような気がします」。韓国には連敗した▼終了間際にイラクに得点を許し夢破れた93年のカタール・ドーハの悲劇も、延長戦でイランを下しW杯初出場を決めた97年のマレーシア・ジョホールバルの歓喜も山本さんは伝えた▼先日、W杯アジア2次予選シリア戦がサウジアラビアであったが、日本ではテレビ中継もネット配信もなかった。異例である▼シリア側代理店が放映権料をふっかけ、交渉がまとまらなかったと伝わる。泣くに泣けない。幸い日本は圧勝したが、予選はまだ続き、恐らくは手に汗を握る試合が今後増える。再発防止策はないものか▼97年のジョホールバルでのイランとの死闘。延長戦開始時の山本さんの実況が語り継がれている。「このピッチの上、円陣を組んで今散った日本代表は私たちにとっては『彼ら』ではありません。これは『私たち』そのものです」。私たちの戦いが、テレビで見られますように。


今日の筆洗

2023年11月23日 | Weblog
21日が十三回忌だった落語家の立川談志さん。十八番(おはこ)の「黄金餅(こがねもち)」を聞きたくなった。実におっかない噺(はなし)である▼貧しい暮らしの中でこつこつと金をためた西念さんが死期を悟る。せっかくためた金。誰かに取られてなるものかと金を餅に詰めては食べ、死んでいく。これを知った隣の男も欲深く、この金を独り占めしようと火葬場で西念の亡きがらから金を取り出す。談志さんが落語の本質と言った「人間の業」がむき出しとなる噺だろう▼火葬場から金といってもこっちの話は不気味さやあさましい人間の業とも関係なく、むしろ感心さえする。広島市が目を付けたのは火葬後の遺灰に残った金歯や銀歯である。昨年度、これを集めて買い取り業者に売ったところ、約2千万円にもなったそうだ。中国新聞が伝えている▼あくまで遺族の収骨が終わった後の骨と灰。この世で金を使い果たして死んでいきたいとお考えの方は多いだろうが、自分の金歯や銀歯までも、あの世へ持って行こうという方は少ないか。ましてや市の財政を助けることにもなる▼事前のアンケートで住民の約7割が賛同し試行を開始したそうだ。廃棄されるスマートフォンや家電製品に含まれる貴金属を「都市鉱山」と呼ぶが、こんなところにも、ばかにできぬ「金鉱」があったとは▼どこも苦しい地方の懐事情。西念さんには目をつぶっていただくとする。
 
 

 


今日の筆洗

2023年11月22日 | Weblog

「世の中は澄むと濁るで大違い」と始まる言葉遊びがある。続く文句は「人がチャ(茶)を飲み、ヂャ(蛇)が人を飲む」や「フク(福)はトク(徳)なり、フグはドク(毒)なり」▼わずかな濁点のあるなしで意味がまったく違ってくる言葉のおもしろさ。有名なところでは、「ハケ(刷毛)に毛があり…」。やめておこう▼食べて、体調不良を訴える人が続出した「大麻グミ」の問題である。なんでも、大麻の規制の難しさはささいな濁点の違いを利用した、あの言葉遊びと似たところがあるらしい▼大麻の違法成分を規制しても、これに似た化合物がすぐ作られてしまう。同じ幻覚作用などがあってもあくまで別の化合物なので、規制はできなくなる。ならばとこれを規制しても、また、似た別の化合物が。いたちごっこが続く▼規制の難しさに加え、こうした成分がグミやチョコレートという気軽な食品に「化ける」のも問題だろう。大麻は、より依存度の高い覚醒剤などの薬物の入り口になりやすいが、手に取りやすい「大麻グミ」はその入り口のそのまた入り口になりかねない▼若いお方の好奇心は分からぬでもないが、体に障り、深い沼にひきずりこまれかねない薬物からは断じて身を遠ざけておきたい。あの言葉遊びならば「心身のタメ(為)にはならずダメ(駄目)にする」「カイ(快)どころかガイ(害)」だろう。


今日の筆洗

2023年11月21日 | Weblog

漫画家、エッセイストの東海林さだおさんが「ラーメンというものは“ラーメン”と浮かんでしまったら最後、もうどうにもならなくなる食べ物」であって、「矢も楯(たて)ランク1位」と書いていらっしゃった▼なるほど食べたいと思うと矢も楯もたまらなくなる魔力がある。<ラーメンたべたい ひとりでたべたい 熱いのたべたい>。矢野顕子さんの「ラーメンたべたい」を思い出す▼荻窪駅の近く。シャッターの下りた店の前に2、3人の男性が集まっていた。寒くなってきて、あのつけ麺が頭に浮かび、矢も楯もたまらなくなった方々か。別れを言いにきたのかもしれぬ。シャッターの張り紙を見つめていらっしゃる。「閉店させて頂くことになりました」。「丸長中華そば店」が店を閉めた▼つけ麺発祥の店として全国に名を知られる。創業は1947(昭和22)年。笠置シヅ子の「東京ブギウギ」の時代からこの街で人々の体と心を温めた味が去るのか。「もう一度厨房(ちゅうぼう)に立つことを目標に治療を続けておりましたが、体力が戻らず」-。張り紙の言葉が悲しい▼ここに通ったお客さんたちだろう。シャッターにたくさんのメッセージを残していらっしゃる。「小学校時代、母によく連れられて」「本当においしかった」「30年以上お世話に」…▼きっと、味の思い出もそれぞれに濃いのだろう。北風と寂しさに鼻水をすする。


今日の筆洗

2023年11月20日 | Weblog
 太宰治の妻、津島美知子さんの『回想の太宰治』によると、太宰さん、魚のサケが好物だったようだ▼ある時、友人がサケを土産に持ってきた。「太宰は(略)身を一ひらずつ剝(は)がしては口に入れ、一口ごとに酒を飲み、間断なくしゃべり、合間に煙草(たばこ)をのみ、実に忙しい」。サケにご機嫌となったのか、軽口も飛び出す。「井伏(鱒二)さんたら鮭(さけ)なら塩をふいた、カチカチの鮭を茶漬けで食べるのが一番うまいなっていうんだよ。こういう鮭を知らないんだから」。師をサカナにする太宰のうれしそうな顔が浮かぶ▼その顔が曇る話だろう。今年の秋サケ。全国的に不漁で価格も上がっているそうだ▼北海道の漁獲高は前年比で、36%減(9月末現在)。特産地、新潟県村上市のサケの博物館「イヨボヤ(=サケの方言)会館」では三面川(みおもてがわ)を遡上(そじょう)するサケが極端に減り、一時は展示さえできなくなった▼サンマやウナギの不漁も気になるところだが、お弁当におにぎりにと食卓に身近なサケがとれないと聞けば、心細さはそれ以上か。海に旅立ったまま、故郷に帰ってこないサケの身の上を案じる▼どうやら、近年の海水温の上昇がサケの里帰りを妨げているそうだ。サケの未来はどうなるか。<サケサケナサケ>。村上市で以前見かけたキャッチフレーズ。漢字で書けば<鮭、酒、人情>。特産品はひとつも失いたくないのだが。