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今日の筆洗

2022年10月31日 | Weblog

不幸な過去を背負った青年が飲食店経営の夢を目指す。最初の店はどこで開くか。青年はある街に魅了される。通りにあふれる自由な空気と活気。韓国ドラマ『梨泰院(イテウォン)クラス』である▼日本人にもなじみのある地名に胸を痛めている人も多いだろう。ソウル中心部にある人気の繁華街、梨泰院でハロウィーンを楽しんでいた群衆が折り重なるように倒れ、大勢の方が亡くなった▼若者が酒をくみ交わし、騒ぐ陽気な街。息抜きの場でもあったのだろう。その梨泰院が一瞬にして悲劇の街となってしまったのか。犠牲者の大半が若者たちだったと聞く。やりきれない▼いわゆる「群衆雪崩」が起きたらしい。狭い場所や通路に大勢の人が殺到した場合、ささいなことが原因となって、人を次々となぎ倒してしまう▼現場は坂になっている。思い出すのは青年が夢をかなえ成功する、あの韓国ドラマの方ではなく、襲ってくる兵隊におびえた群衆がわれ先にと階段を駆け降りていく、映画『戦艦ポチョムキン』のオデッサの階段の場面か。殺到する人の波にのまれ、倒されては身動きはおろか呼吸さえ難しくなる▼居酒屋にいた有名人を見ようとして人が殺到したとも伝えられるが、雑踏警備や普段からの安全対策は十分だったのだろうか。検証と再発防止が必要である。若者を魅了する夢の街を若者の命を奪う街に二度と、変えたくない。


今日の筆洗

2022年10月29日 | Weblog

簡単に出口が分からないように造られた迷宮といえば、ギリシャ神話のそれが有名。クレタ島のミノス王が牛頭人身の怪物を迷宮に閉じ込めた。道路が入り組んでいて、出てこられない▼別の王の息子テセウスが黒い帆の船に乗ってクレタ島に怪物退治に赴くが、現地のミノス王の娘が彼に心ひかれ、迷宮に入る前に糸巻きを渡す。テセウスは教えられた通り、糸の端を扉に結んで迷宮を奥に進み、中庭のような場所で怪物を仕留め、糸を手繰って迷宮の外へ出たという(串田孫一著『ギリシア神話』)▼難航し迷宮入りしたともささやかれた事件の捜査が急展開した。京都で二〇一三年十二月、「餃子の王将」を展開する会社の社長が射殺された事件で、殺人などの容疑で暴力団幹部が逮捕された。予断は禁物だが、捜査は迷宮を抜け出せるのだろうか▼現場付近で見つかったたばこの吸い殻のDNA型が、容疑者のものと一致したというが、被害者と容疑者の接点など分かっていないことは多い。全容解明はまだ先だろう▼迷宮を出たテセウスは船で帰路についたが、怪物を退治したなら白い帆を掲げるという父との約束を忘れた。待っていた父は、海に見えた船の帆が行きと同じ黒色であることに落胆し海岸の崖から身投げ。テセウスは父の死を悔しがったという▼迷宮を脱したと思って気を緩めるな、という戒めとも読める。


今日の筆洗

2022年10月28日 | Weblog
フィリピン出身の女優ルビー・モレノさんは、一九九三年公開の映画『月はどっちに出ている』(崔洋一監督)で出稼ぎのフィリピン人ホステスを演じ、賞ももらった。八三年に十八歳で初めて来日した時は実際に、東京でホステスとして働いたと自伝『銀色の月』で明かしている▼実家の近所に、日本で働き三年で立派な家を建てた女性がいた。「日本は黄金の国のよう」と出稼ぎを勧められ、決心したという▼ダンサーになると聞かされて来日したのに実際は接客業。それでも故郷に仕送りし、両親や妹たちの生活を助けた▼円安で日本の「稼げる国」としての地位が揺らいでいるようだ。フィリピンのペソなど東南アジアの各通貨に対する円相場も下落傾向。各国から来た働き手は仕送りできる額が実質的に減り、落胆しているという▼日本経済新聞は米ドル換算の日本の賃金が過去十年で四割減り、非製造業の賃金水準はシンガポールなどに抜かれたと報じた。アジアの労働者の「日本離れ」も起きているらしい。円安は日本の国力全体への評価が低下したためという厳しい指摘もある▼ルビーさんはホステス時代に、なじみの日本人客から高価なプレゼントをもらい恐縮したという。贈られたのは、世界を驚かせたソニーのヘッドホンステレオ「ウォークマン」。日本が称賛を集めた時代が遠くなり、いささか切なくもある。
 

 


今日の筆洗

2022年10月26日 | Weblog
財務相の不倫が発覚。若い女性との不適切な関係に世間は騒ぐ。さて、事態をどう収拾するか。ご安心を。最近、見た英国のドラマの話である▼財務相を守りたい首相はアドバイザーを派遣する。危機管理広報のプロなのだろう。青ざめる財務相にメディア対応の方法を指導する。不倫の詳細を説明する必要はないが、その事実は「絶対に否定するな」▼不倫が事実である以上、否定すればウソをつくことになり、かえって傷を広げる。ものの本によると、この手のスキャンダル対応で、最も大切なのは誠実さをいかに演出するか、らしい。否定しないこともそうだが、迅速で分かりやすい説明を心掛け、反省すべきは反省する▼悪い見本が目の前にある。旧統一教会との関係が相次いで判明し、辞任に追い込まれた山際大志郎前経済再生相▼教会との接点を指摘されては「覚えていない」「『こんにちは』ぐらいは言ったかも」「報道を見る限り、私が(関係会合に)出席したと考えるのが自然」−。なるほど否定こそしていないが、誠実さや正直さとは無縁で、これでは世間は収まるまい▼山際さんの辞任で岸田政権は落ち着くか。低い支持率の理由が旧統一教会の問題に加え、物価高騰などの経済問題にある以上、簡単ではなかろう。そもそも山際さんのお粗末な説明をここまで許し、後手に回ったのは首相自身の責任でもある。
 

 


今日の筆洗

2022年10月25日 | Weblog

秦の始皇帝の死後、実権を握った趙高が二世皇帝にある動物を献上した話は有名だろう。贈ったのはシカ。しかし趙高はウマでございますという▼驚いた皇帝は居並ぶ臣の顔を見るも趙高の権力を恐れ、皆、黙っているか、「ウマでございます」。「シカ」という人物もいたが、後日、趙高によって処刑された▼「ウマです」「シカなんて冗談ではありません」と言ってくれる忠実な人物を集めたようだ。中国の習近平総書記の三期目政権が発足した。最高指導部の政治局常務委員七人の顔触れを見れば、習氏に対する忠誠心が厚い側近が並ぶ。中には能力を疑問視される人物も▼習氏と距離のあるメンバーは軒並み、排除された。集団指導体制は改められ、習氏の個人独裁体制が完成したと言っていいだろう。中国の時計は毛沢東を絶対視した時代に戻るのか▼独裁の利点を強いて挙げれば、スピードだろう。議論の必要な民主主義よりはるかに早く政策を実行できる。習氏としては独裁体制で米国をにらみ「強国」への道を急ぎたいのだろう。問題は「シカ」。独裁者に異を唱えることや正しい情報を伝えることが難しくなる。それは間違った判断につながる危険がある▼無論、独裁は不満がたまりやすい。経済が好調なら人びとも目をつむるだろうが、万が一…。四期目もという予想が出ている。その「馬券」はまだ買いにくい。


今日の筆洗

2022年10月24日 | Weblog
そろそろ寒くなってきた。昭和の名人、古今亭志ん生の「厩(うまや)火事」のおなじみのマクラが浮かぶ。「おまえさん、なんか見込みがあってあの人と一緒になってんのかい」。どうやら亭主は遊び人らしい▼そう聞かれ、おかみさん、「見込みなんかありゃしないよ、あんなやつ」ときっぱり。「じゃあ、なんで一緒になってんのさ」の答えがふるっている。「だって寒いんだもの」。どんな人でもそばにいてくれたら温かい。口の悪さの向こうに仲の良い生活がうかがえる▼首都キーウの最低気温は既に二度というから寒さの訪れは日本よりも駆け足だ。今年二月のロシアの侵攻から二度目の冬が近づくウクライナである▼ウクライナ国営の配電会社が国民にこんなものを用意してと呼びかけているそうだ。「靴下、毛布、友人や家族のハグ」。ロシアの攻撃によって発電能力の約四割が失われ、深刻な電力不足に陥っている▼志ん生のかつての住まいは本当に寒かったらしい。家族で「体をくっつけあって」寝ていたと娘さんの美濃部美津子さんが書いていたが、まさか、この時代に寒さしのぎの「ハグ」が必要とは心もとない▼電力インフラを狙ったロシアの攻撃は寒さによってウクライナ国民の戦意を衰えさせる戦術と伝わる。「寒いんだもん」と凍える人に国際社会は支援という温かいハグを用意したい。本格的な冬が来る前に。
 

 


今日の筆洗

2022年10月22日 | Weblog
江戸時代の長崎の正月行事に絵踏(えぶみ)があった。キリスト教徒摘発のために人々に聖画像を踏ませる▼町年寄、町民、遊女と日付を変えて順に行い、着飾った遊女の日は見物客も多かった。終了後は厄払いの祝宴もあったとか。一方で葛藤しながら、信仰を隠すために隅の方をそっと踏んだ人もいたという。キリスト教関連の遺産を紹介する長崎県のウェブサイトを参考にした▼参院予算委員会で立憲民主党の打越さく良氏が山際(やまぎわ)大志郎経済再生担当相に、旧統一教会の信者かどうか聞いた。山際氏は信者でないと答えたが、絵踏のような質問に批判も出ていると聞く▼会合出席など教団側との接点が次々と露見して追い込まれ、「瀬戸際(せとぎわ)大臣」とも呼ばれる人。霊感商法や高額献金など問題が指摘される教団にお墨付きを与えるような政治家の行動は批判されて当然だが、憲法が自由を保障する個人の信仰までただしては、さすがに一線を越えている気はする▼政府は宗教法人法に基づき、裁判所への解散命令請求を視野に入れているが、教団の法令違反を請求の根拠とし、信仰自体は問題にしない。解散を願うのなら、信教の自由を侵すとの反論を招く振る舞いは得策でなかろう▼絵踏は許されぬ現代。たとえ宗教が絡んでも、看過できぬ不正義があるならただすのに二の足を踏まなくていいが、薄氷を踏む時のような注意深さはいる。
 

 


今日の筆洗

2022年10月21日 | Weblog

 ザ・ドリフターズの『8時だヨ!全員集合』は昭和の人気番組。放送開始から間もなく、加藤茶さんが交通事故を起こし、出演を見合わせた▼コントでリーダーのいかりや長介さんからいびられながら、笑いをとる加藤さんの役柄を誰が代行するのか。反抗的な個性で売る荒井注さんやボーッとした高木ブーさんでは難しい。本来は「いかりやさんの言う通り」と追従する役柄の仲本工事さんに任すとファンの心をつかみ、加藤さんの復帰まで視聴率を維持した▼いかりやさんは「やりゃあ出来るヤツなんだ。めったなことではやる気になってくれなかったが」と生前、著書で評した。ほめ言葉と思える。我の強い者ばかりではチームは困る▼仲本さんの訃報に接した。荒井さんの後継志村けんさんら人気者の脇を固め、体操のコントでは美技を見せた▼映画でも活躍。文春オンラインの取材に俳優業を語っていた。「全体を見回して出演者の中で自分のできることを見つけるんですよ。(中略)相手が早口だったら遅く言うとか、違う言い回しをしたりしてね。そうやってるうちに、自分のポジションもおのずと決まってくるんです」。この人らしい流儀である▼荒井さん、いかりやさん、志村さんを追っての旅立ち。天上の宴(うたげ)で個性の強い二人を相手にしてきたリーダーは歓迎しているだろうが、見送る昭和生まれはやはり寂しい。


今日の筆洗

2022年10月20日 | Weblog
日本にはトイレを意味する言い方がずいぶんある。便所、厠(かわや)に雪隠(せっちん)、はばかり、ご不浄…。さらに横文字のトイレ、レストルーム、W・C(ウオーター・クローゼット)などが加わる▼隠語の類いでいえば「レコーディング」(音入れ=おトイレ)というキザな言い方もあった。「西海岸」はご存じか。WEST COASTなので頭文字がW・Cになる。「横浜へ行く」は市外局番が〇四五なので…。説明はやめておく。数々の呼び方は直接的な言い方をそれこそはばかり、時代ごとに婉曲(えんきょく)表現や隠語が増えていった結果なのだろう▼「東司」と書いて「とうす」と読む。これもトイレのことだが、残念な事故である。京都の東福寺の国指定重要文化財の建物「東司」に乗用車が突っ込み、出入り口の扉や壁を壊してしまったそうだ▼室町前期の建築で現存する最古の便所という。別名は「百雪隠」。百人の僧がそろって用を足せるほど広いという意味で、なるほど、事故の写真を見れば車がすっぽり入るほど立派である▼京都古文化保存協会の男性職員がギアをバックに入れたままアクセルを踏んでしまったらしい。トイレといえど大切な財産。さぞや青ざめたことだろう▼修復可能と聞き、少しほっとするが、文化財の周囲ではよくよく気を付けたい。WARNING(警告)とCAUTION(注意)の「W・C」の二文字で。
 

 


今日の筆洗

2022年10月19日 | Weblog
 「今日の日曜は一日この部屋にこもって暮らしてみようじゃないか」。四人家族の父親が奇妙なことを提案する。嫌がる子どもと妻をなだめ、部屋の中だけで過ごすことにする▼父親はおかしなことばかり言う。テレビも電話も使ってはだめ。誰かが訪ねてきても居留守を使う。挙げ句にこんな質問まで。十人乗りの「ノアの箱舟」があったとして家族の他にあと六人、誰を乗せたいかを紙に書いて▼藤子・F・不二雄さんの短編漫画「マイ・シェルター」にそんな場面があった。父親は実は核シェルター購入を検討中で仮のシェルター暮らしを試みていた。新聞の見出しに四十年近く前の漫画を連想し不安になる。見出しは「核シェルター整備 首相『検討進める』」▼北朝鮮が核・ミサイル開発を進める現状がある。かつては現実のものとは思えなかった核シェルターだが、首相が国会で検討を口にする時代が来たらしい▼北朝鮮の変則軌道ミサイルは迎撃が難しく、シェルター整備を頭に置くのは政府としては当然か。日本のシェルター普及率は低いとも聞く▼具体像が見えないが、整備には相当、時間がかかるだろう。ならばシェルター整備よりも北朝鮮に物騒なふるまいを改めさせる方法を探った方が早道のような…。備えは大切。が、シェルターが必要と危険をあおり、防衛費増につなげる腹の方をへそ曲がりはつい疑う。