集成・兵隊芸白兵

 平成21年開設の「兵隊芸白兵」というブログのリニューアル。
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サバキ、ふしぎ発見!(「形」が「形」骸化する理由を探る旅 その4)

2019-12-09 13:15:44 | 芦原会館修行記
 「形が形骸化」シリーズ、これまでは沖縄古伝の形がどのように口伝を喪失し、「よくわからんもの」になっていったかを見ていきましたが、「その3」までの知見を踏まえつつ、今度は芦原会館のサバキの形について「なぜかみんな、昇段昇級審査の時しかやらなくなった」理由を探っていきたいと思います。
 
 芦原会館がオリジナル型の第一号・組手の型を完成させたのが昭和50年代おわりごろ、フルコンプは昭和62年ころのこと。
 サバキの形は以下のラインナップとなっています。
・初心の型1~3 ・基本の型1~5 ・投げの型1~5 ・組手の型1~5 ・実戦の型1~5 ・護身の型1~5
 各型のうち、1~2はショートの間合い、3~4はミドルの間合い、5はロングの間合いの相手を想定しています。
 他流派の型には(オマエも今は門外漢だろ!という批判もあると思いますが、いちおう初段取得者ということでご勘弁をm(__)m)なじみのない言葉と思いますが、芦原における「ミドルの間合い」の定義とは「相手の技が一番破壊力を持つ間合い」(「空手に燃え、空手に生きる」より)であり、その間合いから3~5cm近接するとショートの間合い、同じ距離遠ざかるとロングの間合いとなります(ただし、初心の型だけは全てミドルの間合い)。
 これ以外にも「武器の型」「円心の型」が存在しますが、これは超高段者向けのものであり、ワタクシの芦原会館在任期間(4年半)中、目にしたことは一度もありません(´Д⊂グスン。
 以後、芦原会館オリジナル形のことを「サバキの形」と呼称してお話しします。

 サバキの形のゴイスー!な点を集約すると、以下の3つとなります。
① 空手伝統形の存在意義である「攻防技術の記憶」と、「空手に資する身体操作向上・身体鍛錬」の2つを完全に抑えていること。
② いにしえの名人が遺した「伝統形を理解するための口伝」がほぼ完璧に押さえられていること。
③ ふつうに道場稽古で使われる「突き、蹴り、受け」を組み合わせていること。

 ①についてはくどくどしい説明は不要でしょうが、②③についてはちょっと説明が必要です。
 まずは2つ目に挙げた「口伝が溶け込んでいる」という点について。

 現在公刊されている空手関連書籍の中で、「伝統形の口伝」について最も詳細に記されているであろう書物「隠されていた空手」(桧垣源之助・CHAMP)には、伝統形の挙動を理解するための口伝が惜しみなく公開されています。
 その同著掲載の口伝のなかで、伝統形・サバキの形を問わず、多くの人が間違った認識でいる口伝をひとつあげろと言われましたら…ワタクシは「相手は正面に一人」を挙げたい。
 伝統形の中には「平安二段(松濤館では。他流派では初段)」の第七挙動などのように、自分の後ろや横に向かって攻撃を出しているように見える形がたくさんあり、そのため「伝統形は、前後左右の人間を相手にするものだ」という誤った通説がまかり通っていました。今もそう信じている人は多数います。
 サバキの形も、2~9の挙動の中に転身が3回あることから「四方八方の敵を相手に戦うものだ」と誤解している人がたくさん存在しています。
(恥ずかしながら、かつてのワタクシもそうでした(´;ω;`))

 しかし、空手の形のコンセプトは「正面に1人しかいない相手を、前後左右に引きずり回して制圧する」(「隠されていた空手」より)であり、決して「前後左右、四方八方の敵を倒す」ものではない。
 その観点に立脚して考えると、伝統形の中にある様々な「後ろを蹴っている、後ろを殴っている」というような挙動を、その前後の挙動とくっつけて子細に観察すれば…ちょっとカンのいい方ならその用法がすぐに「ピコーン!」と理解できるはずです。
 同様にサバキの形も「相手は正面に一人」を念頭に置いて考え、前後の挙動などなどをくっつけて勘案すれば、様々なバリエーションが見えてきます。
 また、「相手は正面に一人」の意味するところがわかれば、それ以外の口伝、たとえば「相手を据物にして打つ」「前手は攻撃」「両手で受ける」といったものの意味が芋づる式に、少しずつ具体性を帯びて理解できるようになってきます(その程度はその人の修業歴や理解度によりけり…という注釈付きですが(;^_^A)。
 ちなみにサバキの形における「前手は攻撃」については、「実戦!芦原カラテ」のビデオ(組手の型1の解説)でもテロップで解説されてます。ようつべにもアップされておりますので、お時間のある方はご覧になられてはいかがでしょうか。

 3つ目に掲げた「一見単純な『突き、蹴り、受け』を組み合わせていること」。これもちょっと解説が必要です。

 伝統形には、一見して「何に使うの?」というような挙動が多数あります。例えば「平安三段」なんか、抜き手の状態から大回転してみたり、両手で帯を掴んだ状態から裏拳を打ったり、180度大回転してフック(らしきもの)を打ってみたりと、知らない人から見れば「なんじゃこりゃ?」という挙動ばかりです。
 対してサバキの形は、一見何の変哲もない突き・蹴り・受けを組み合わせて作られており、その技の用途も(一義的には)はっきりしています。

 その理由は…?ということで、「その5」に続きます。


2 コメント

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Unknown (老骨武道オヤジ)
2019-12-09 22:24:15
形についての所見、ついに私と全く異なる説を述べましたな・・四方八方の敵を必殺技で制圧するのは武人として果てなき夢、ロマンでありそのために必殺技に磨きをかける!柔道出身の私は相手と組み合ったら多人数勝負では一巻の終わり!を実感し、空手に武道のロマンを見出し、それを後進に指導しております。組んだら接近技で相手を瞬殺し、次の相手と対峙する・・その思考が間違っているとは言われたくないな・・チャンチャン・・少々不愉快ですな・・
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Unknown ()
2019-12-10 03:29:52
形については種類が多く、それらすべてをひとくくりにできることはできないとは思いますが、「手」の代表的な形となると、四方八方の敵を想定しているものいるものが多く、事実、形の稽古で四方八方に仮想の敵を配して稽古をしています。
『空手の形のコンセプトは「正面に1人しかいない相手を、前後左右に引きずり回して制圧する」であり、決して「前後左右、四方八方の敵を倒す」ものではない。』
という立場のみで論ずるのはいささか乱暴ではないでしょうか。

若い頃に空手とボクシングをかじった程度の素人です。失礼しました。
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