集成・兵隊芸白兵

 平成21年開設の「兵隊芸白兵」というブログのリニューアル。
 旧ブログ同様、昔の話、兵隊の道の話を続行します!

雑記・「ゼロ戦思考」は「ゼロ戦神話」並みに意味がない

2022-06-19 17:30:34 | 集成・兵隊芸白兵雑記
 今春に弊社を退職し、現在はトレーナー&ボディビルダー修行にまい進している若者がおります。
 彼とはウマが合ったため、現在も連絡を取り合っているのですが…彼曰く、初心者からは十中八九「いわゆる『細マッチョ』体型になるには、どういったトレーニングをしたらいいか?」という質問や要望ばかり受ける、と言っていました。
 国営放送で筋肉啓発番組が永く放送されて好評を博すなど、一昔前に比べて「トレーニング」というものがだいぶ人口に膾炙したと思っていましたが、やはりまだまだ、わが国における「筋肉アレルギー」や、それに起因する無知や誤解は根が深いようです。

 「細マッチョ志向派」はおおむね、以下のような誤解をしています。
① 筋肉はちょっと運動すれば、簡単につく。
② 筋肉は重量のある部位なので、つけすぎると動きが鈍くなる。

 まず①ですが、筋肉というのは、本当につきにくいものであり、細マッチョ志向はそもそも、この大前提がスッポリ抜け落ちています。
 なんで筋肉がそう簡単につかないのかといいますと、「何をしなくても莫大な栄養を消費する機関」であるため。
 筋肉が簡単についてしまう部位であった場合、食べたいものが食べられない状況下にあっては、宿主のいちはやい飢餓・餓死を招いてしまいます。
 ですから筋肉は「豊富な栄養・十分な休養」という、飢餓とはいちばん縁遠い状況にあって、かつ、脳みそに「これは筋肉を増やさないとヤバい!」というシグナルを送れるだけの強烈なトレーニングがあって、はじめてつくという性質を有しているのです。
 もっと細かいことを言えば、腕や肩、脚といった、日常生活でもよく動かす部位であればあるほど、筋肉はつきにくくなります。
 ですから、いわゆる「細マッチョ」を志向する程度のトレーニングで、体形が明確に変わるほどの筋肉がつくはずがありません。

 アーノルド・シュワルツェネッガーといえば、筋肉でアメリカンドリームを成し遂げた名人ですが、そのシュワルツェネッガーはこんな名言を残しています。
「筋トレする前から、すぐにマッチョになってしまうと考える人へ。
 筋トレして、ムキムキなったら嫌だ、なんて言う奴がいるが安心してくれ。
 あんたには、なれない。
 あんまり、筋トレをなめないでくれ。」
 筋肉は簡単にはつかないということを見事に表現した、達人ならではの名言と心得ます。

 次に②について。
 これは①の誤解から派生した誤解なのですが、細マッチョ系はこんなことを考えています。
「スポーツに使うパフォーマンスは、そのスキルトレをしないと身につかない。だから、重い筋肉はそのパフォーマンスを落としてしまう。」
 これは一見まっとうな意見のようでいて、実は天動説並みに間違った見解です。

 筋肉は人体唯一のエンジンであり(←ここ超重要)、脂肪以上の確実・利便性を持つボディアーマーでもあります。あたりまえですが、スポーツのみならず、よりよい日常生活を送るうえでも、「多すぎて困ることはない」という部位です。
 そんな筋肉は①でもお話ししましたとおり、そう簡単につかないという特性があります。ボディビルダーが生活のすべてをかけても、1年で薄皮1枚程度の筋肉しかつかない…という、そんなものです。
 ですから、「筋肉が重すぎるとパフォーマンスが落ちる」などというのは、無知に起因する傲慢な考えであると同時に、「ハレー彗星が地球に直撃する」とか、「1999年に地球が滅亡する(←懐かしいですね(;^ω^))」レベルのデマであり、一顧だにする価値のない意見です。
 まあ、スポーツのパフォーマンスが落ちるほどの筋肉を付けるなんて、ステロイドをバカ食いしてもムリですよ(;^ω^)。
 また、細マッチョ志向派や、アタマの悪いスポーツ指導者はよく「特定スポーツのパフォーマンスは、専用の練習をしなければならない」という、一見まともそうなことを言いますが、これは「筋肉は、特定スポーツの動きだけでは身につかない」という「逆また真」な意見を完全に無視し、自分たちの狭い知識の中で物事をハンドリングしようという恣意に満ち満ちた、実にしょうもない意見です。

 こうしたバカスポーツ指導者や、細マッチョ志向派の意見を見れば見るほど、私は日本海軍のレジェンド・零式艦上戦闘機を思い起こさずにはいられません。

 現在に至るも、無用といっていいほどの伝説に彩られた零戦ですが、コイツをメカとして見た場合、所詮は「1000馬力くらいしか出ない、栄エンジンありき」という前提のもと、「最高速力500キロ以上・20ミリ機関砲搭載」という課題を提示された技術者が心身を削って作った、「この条件だったら、これ以上の解答はありえない」という、その時の100点満点の答案でしかありませんでした。
 そのため、戦局の激化に伴い、現場から血を吐くような切実さで上がってくる改造要請…速力増加・防弾性能向上といった要請に一切対応することができず、ベテランパイロットを次々に失い、戦局のさらなる悪化を招くといった悪循環をもたらしました。
 逆に、エンジンのハイパワー化をどんどん推し進めた米軍は、同一の機体にもどんどん改造や改良を重ねることができ、日本軍を圧倒することができました。
 トレーニングの中に「筋肉を増やす」ことを加える可否については、今お話した「零戦VSグラマン」に示したとおりであり、個人的な見解を申し上げれば、筋肉を増やすことのメリットはあっても、デメリットは一切ない。逆に「筋肉はそんなに要らないというヤツ」「スキルトレに逃げるスポーツ指導者」のような、人体の窮理を無視する輩とは、一生口を利くことがないと思っております。

 「とにかく物体重量が軽ければいい」「エンジン馬力は全く無視して、単純な重量が重いのはパフォーマンスの低下につながる」という「ゼロ戦伝説」は、こと人体を用いる分野においては一切顧みなくてもいい、どうでもいいクソのような神話だ…ワタクシは武道・格闘技や各種スポーツにおいては、少なくともそのように思っております。

3 コメント

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Unknown (老骨武道オヤジ)
2022-06-19 21:20:17
筋肉はつくに越したことはないですね、しかし楽して筋肉がつくわけがありません。筋肉をつけすぎるとそれが邪魔してスピードが落ちる?筋肉がついてスピードを出す訓練をすればよいのです。スピード&パワーが強者の最低条件なのです。腕立て伏せを50回も出来ない根性無しがスーパーマンになれる訳がありませんな・・困ったもんですな・・チャンチャン・・!!
Unknown (安納 雲)
2022-06-23 11:39:18
疾風、紫電改、米軍とよく似た馬力でも
機体はスマート。ヘルキャット、サンダーボルト、
ゴツくてデカくて少し不細工ですが、頑丈で武器
をたくさん積めてやつらなんでもできた。
その時節、迎撃出来る日本機がいなかったのも
あるでしょうが。.°(ಗдಗ。)°

パワーに余裕があると結果に大きな差が
でる。国力も含めてですが

出来ることを踏まえながら筋トレします(>人<;)
ありがとうございます! (周防平民珍山)
2022-06-24 19:49:30
 老骨武道オヤジ様、安納雲さま、ありがとうございますm(__)m。

 老骨武道オヤジ様がおっしゃられる通り、腕立てを50回出来ないヤツがいわゆる「達人技」に走る根本にあるのは、結局「ラクして強くなりたい」という外道の考え方であり、非常に腹立たしいものでございます。

 安納雲様、「術科の長い長い歴史」が終わってもお付き合いくださり、ありがとうございますm(__)m。
 零戦と同じく、過剰と言えるほどの伝説に彩られた後継機「烈風」も、神立尚紀氏の力作「祖父たちの零戦」によれば、パワー不足のエンジンに巨大な機体という、どうしようもないシロモノだったようですね(-_-;)。
 人体でいえば「筋肉がないヤツを、脂肪太りさせた」という発想ですが、この一事をも、「日本人の筋肉アレルギー」と考えるワタクシは、根性が悪いのでしょうか(;^ω^)。

 またよろしくお願いいたします!

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