Sightsong

自縄自縛日記

ナオミ・クライン『This Changes Everything』

2014-12-19 07:43:50 | 環境・自然

ナオミ・クライン『This Changes Everything / Capitalism vs. The Climate』(Simon & Schuster、2014年)を読む。(何しろ大著ゆえ時間がかかり、読了するまでに、ベトナムとサウジアラビアとを往復してしまった。)

大規模な気候変動による悪影響は誰の目にも明らかだ。著者のことばを借りるなら、100人の科学者のうち97人が、それを温室効果ガスに起因するものであると考えている。もちろん科学的な異論はあって然るべきものだが、日本においては、それは強引な「ためにする」反論や、政治的な陰謀論としか言えないような詭弁であった。そして、アメリカにおいては、保守政権や、化石燃料を生産する産業や、それを消費する産業や、それらから委託されたシンクタンクによって、温暖化やその原因を温室効果ガスに帰すことへの否定論が、何十年もの間繰り広げられてきた。

そのことは、たとえば、ナオミ・オレスケス+エリック・M・コンウェイ『世界を騙しつづける科学者たち』(本書でも引用されている)でも、ノーム・チョムスキー+ラリー・ポーク『複雑化する世界、単純化する欲望 核戦争と破滅に向かう環境世界』でも、そして本書でも、徹底的に検証されている。

なぜなのか。それは、すべてをオカネによって駆動するからだということが、本書が執拗に説いていることである。すなわち、本書は、サブタイトルにあるように、資本主義批判の書であり、新自由主義批判の書である。

天然ガスは、石油や石炭よりも二酸化炭素排出が少なくて済むために、再生可能エネルギーの普及条件が整うまで、あるいは、他の技術革新が起きるまでの「橋渡し」的なエネルギーとして位置づけられてきた。これも、著者によれば批判の対象である。それ自体が化石燃料産業の自己目的化しているからだ。また、シェールガスについては、採掘時に大量の水を使い、メタン漏洩が大きいことを指摘する。さらに、カナダのオイルサンド(tar sands)や、カナダとアメリカとをつなぐキーストーンXLパイプライン計画についても、繰り返し、多くの問題があると指摘する。

土地の水没や、ハリケーンなどの頻発などによる気候変動の悪影響は、社会的な弱者にこそ打撃を与える。また、化石燃料の採掘や輸送のサイトも、先住民族の地を含め、ヴァルネラブルな場であるとされる。著者は、これを「カーボン・フロンティア」と呼び、やはり、オカネばかりによる社会の駆動の歪みだとする。しごく真っ当な指摘であろう。

興味深いことに、温暖化対策の国際交渉と、貿易自由化の国際交渉とは、同時期に進められてきた。貿易自由化は、コストの利用すべきギャップを世界中に広げることでもあった。ギャップがあるからこそ富が生産され続ける。その結果、中国は巨大化し、同時に、あっという間にアメリカを抜き去り、世界一の温室効果ガス排出国となった。大いなる構造的な矛盾であった。

それではどうすればよいのか。著者の言わんとしていることは、オカネのみにより駆動される経済社会を根本的にあらためよということだ。その中には、財やエネルギーの地産地消も含まれるし、環境の直接規制も含まれる。

もちろん環境保護のためには、外部性を認識して、政府により、楔や埋め込みを設定することが必要なことは言うまでもない。しかし、著者の主張は、「地球が危ない」という危機感のあまり(実際にそうなのだが)、極端に振れているように思われる。著者にかかれば、環境経済の手法さえも生ぬるいとして全否定される。しかし、それはやりすぎだ。改革は、現在のシステムを動かしながら行わなければならないのである。

環境経済、特にカーボン・クレジットについて、どこかで聞いたような偏った主張をしているなと思い脚注を確認してみると、やはり、カナダのテレビ局が制作したドキュメンタリー『カーボン・ラッシュ』を引用していた。実際には、そこであげつらわれているような問題点は、とうの昔に認識され、それを回避すべきものとして改善されているのである。極端な仮想敵を設定し、それに対する闘いを論じることの害は大きい。

また、行うべきでない「geoengineering」として、大気中に太陽光を遮断する物質を散布する方法(SRM: Solar Radiation Management)について、一章を割いて論じていることにも首を傾げる。もちろんその議論自体は妥当なものだと捉えたのだが、それならば、より実現に近いと考えられる炭素の地中貯留(CCS: Carbon Capture and Storage)についてこそ議論すべきではなかったか。なんだかアンバランスである。

●参照
ナオミ・オレスケス+エリック・M・コンウェイ『The Collapse of Western Civilization』
ナオミ・オレスケス+エリック・M・コンウェイ『世界を騙しつづける科学者たち』
ノーム・チョムスキー+ラリー・ポーク『複雑化する世界、単純化する欲望 核戦争と破滅に向かう環境世界』
ノーム・チョムスキー+ラレイ・ポーク『Nuclear War and Environmental Catastrophe』
ノーム・チョムスキー講演「資本主義的民主制の下で人類は生き残れるか」
ノーム・チョムスキー『アメリカを占拠せよ!』
ジェームズ・ラブロック『A Rough Ride to the Future』
多田隆治『気候変動を理学する』
米本昌平『地球変動のポリティクス 温暖化という脅威』
小嶋稔+是永淳+チン-ズウ・イン『地球進化概論』
『グリーン資本主義』、『グリーン・ニューディール』
吉田文和『グリーン・エコノミー』
ダニエル・ヤーギン『探求』
『カーボン・ラッシュ』
『カーター大統領の“ソーラーパネル”を追って』 30年以上前の「選ばれなかった道」
中川淳司『WTO』
デヴィッド・ハーヴェイ『新自由主義』
『情況』の新自由主義特集


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