Sightsong

自縄自縛日記

ジェームズ・ラブロック『A Rough Ride to the Future』

2014-07-06 00:17:04 | 環境・自然

アメリカへの行き帰りに、ジェームズ・ラブロック『A Rough Ride to the Future』(Allen Lane、2014年)を読む。

著者は「ガイア仮説」の提唱で有名な存在である。地球上の生命と環境とをひとつの生命体のように捉えるヴィジョナリーな説であり、わたしも、大学生になって読んだ『地球生命圏』(1979年)にずいぶん感銘を受けたものである(そのせいで、地球物理の勉強をすることになってしまった)。

前半は、主に、科学者たることについての文章。いまや、誰もが専門馬鹿であり、科学全般を鳥瞰するどころか、他分野のことがまるでわからない人ばかりになってしまっている状況を懸念している(仕方がないのだろうが)。著者が理想とする科学者の姿は、ジェネラリストであり、また、職人でもある。実際に、かつての科学者は実験器具のコンセプトも製作も自分でこなしたのであり、高価格・高性能の機器を買って使うのでは、その問題点に気づかないのだと指摘する。

現在は、大学や大企業などの組織に所属しないと論文さえ受理されにくく、それにより研究のバイアスがかかってしまうことの問題点があるという。それはそれとして、著者のように、個人として研究費を取得することがどれだけ可能なのだろうか。また、その空論は置いておいても、「ピアレビュー」をダメなシステムだとする指摘には、首をかしげざるをえない。たとえば、STAP問題については、組織所属の問題点と、ピアレビューがシステムとして機能していなかった問題点の両方があるわけである。

後半は、気候変動問題や、今後の科学技術のあり方についての論考。よく知られているように、ごく短期的にみれば、地球温暖化のトレンドはフラットにみえる。このことが、くだらぬ懐疑派(denier)たちの跋扈を生んでいるわけだが、著者自身は、かつてはそれと対照的な信仰派(believer)であった。何を信仰していたのかといえば、CO2の増加がごく近い将来にカタストロフを生むという数値計算によるシナリオを、である。

著者は、数値計算に重きを置きすぎていたと率直に誤りを認め、反省している。ここは高く評価すべきところだが、信仰派から懐疑派へと極端な動きをするのではなく、数値計算の限界をこそ再認識したのであった。予測の誤りとしては、他のガスの存在の他に、海流の挙動があったことを挙げている。こうしてみれば、著者自身が、大気と海とが独立せず動く自己制御型のシステム(self-regulating system)たる「ガイア仮説」を自ら再認識したことになる。もちろん、著者が強調するように、気候変動は中長期的な現象であり、短期的なトレンドで論じることは妥当ではない。

懐疑派と信仰派との構図は、日本と欧米とではずいぶん異なる。欧米では、本書でも書かれているように、左翼=信仰、右翼=懐疑であり(単純化しているが)、この背景には、さまざまな利権があることが、ノーム・チョムスキー+ラレイ・ポーク『Nuclear War and Environmental Catastrophe』(『複雑化する世界、 単純化する欲望―核戦争と破滅に向かう環境世界』という邦題で、2014/7/10に花伝社より刊行)においても痛烈な批判とともに指摘されている。日本においてはその逆であり、そこには、原子力推進とセットとしてCO2削減政策が進められてきたことと、それを否とするリベラルの反応がある。しかし、科学をベースとせず、くだらぬ陰謀論にとらわれていると言わざるを得ない。

このように、著者は、信仰派、懐疑派のいずれか極端な主張をしてしまう愚を説いているわけだが、それは、残念ながら、著者自身についても当てはまってしまう点がある。

ひとつは、原子力への変わらぬ信仰ぶりである(福島では誰も原発事故で死ななかったという、どこかで聞いたような主張を、著者もしてしまっている)。もうひとつは、今後の人間社会は、都市を基盤として、外は過酷な気候であっても建物のなかでは快適に生活できるシンガポール型を指向すべきだという単純思考である。生活も、文化も、食糧も、機能で割り切ることができるようなものではない。もっとも、これは、今後何億年単位での「ガイア」を考える著者ならではのヴィジョナリーな構想によるものかもしれない。

●参照
多田隆治『気候変動を理学する』
米本昌平『地球変動のポリティクス 温暖化という脅威』
小嶋稔+是永淳+チン-ズウ・イン『地球進化概論』
ノーム・チョムスキー+ラレイ・ポーク『Nuclear War and Environmental Catastrophe』
ノーム・チョムスキー講演「資本主義的民主制の下で人類は生き残れるか」
『グリーン資本主義』、『グリーン・ニューディール』
吉田文和『グリーン・エコノミー』
ダニエル・ヤーギン『探求』


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