Sightsong

自縄自縛日記

中川淳司『WTO』

2013-04-26 23:49:50 | 政治

中川淳司『WTO 貿易自由化を超えて』(岩波新書、2013年)を読む。

WTO(世界貿易機関)は1995年に設立され、いまや加盟国・地域は158を数える。本書は、その成り立ちと全体像を描くものであり、とてもわかりやすい。

いうまでもなく、WTOの前身組織はGATTだった。これは、戦後の国際経済体制を形作るIMF(国際通貨基金)、世界銀行と並ぶものであり、実は、当初、ITO(国際貿易機関)として構想されていた。主導した国は米国だが、その米国自身が批准できず、結局は流れてしまった。各国の保護主義的な力を突き崩すことができなかったからだというが、さて、それではなぜ貿易自由化が是という前提なのか、そのあたりは問われてはいない。

建前の理想も、発生する問題点についての解決の努力も、一応は理解する。しかし、それは「いたちごっこ」的なものであり、問題を後追い的に不十分にしか解決できないことが、そもそもの構造的な問題ではないのかと思ってしまう。

備忘録と思いつき。

○自由貿易によって、よく批判されるように、地域ごとの農業が単なる財の生産プロセスとして扱われ、最適化の名のもとに滅びてしまう。自国の環境保護、食料自給率の確保、文化といった側面について、価値を認める言説があって然るべきだが、ここにはその答えはない。
○自由貿易によって環境が悪化する場合、それを科学的に証明できれば、保護対象とできる。しかし、環境問題は、活動の結果として悪化するものだけでもなく、また、科学的に証明することが難しいものもある。エネルギー問題や地球温暖化問題は、むしろ、予防原則により動く性質が強く、なじまない。さらに、この原則では、環境への悪影響を回避する方法ではなく、環境保護を積極的に進める方法をとることが難しい。
○自由貿易による労働条件の悪化に関しては、先進国においては、「途上国の安い労働力の影響で自国の労働条件が悪化」するものと捉えるものである。一方、途上国においては、支配層の論理として、「自国の安い労働力で製品を安く輸出」したいと捉える。ここには大きな認識のずれがあり、分けて考える必要がある。
輸出補助金は自由貿易の精神に背くものとして位置づけられている。もしこれが損害をもたらすと認められれば、輸入国は、その製品について補助金相殺関税を課すことになる。そのために、日本政府も、輸出補助金をWTOに抵触するものとしてとらえることが多い。しかし、そのような類のものばかりではないはずである。ならば、輸入国と話をつけておけば済むことではないのか。(※そうではなく、第三国から提訴されてしまうのである。)
○輸出金相殺措置協定において、輸出補助金の撤廃については、途上国は8年の猶予を与えられる(後発途上国は恒久的に免除)。やがて製品価格の途上国優位は変化していくのだろうか。
○WTO交渉において、アクターの増加が交渉の膠着を招いている(温暖化交渉と似ている)。そのため二国間・多国間のFTA(自由貿易協定)が増加しており、TPPもその流れにある。TPPの是非はともかく、WTOのような大きな中央集権的な制約は、もはや、実効的でない面が目立っているのではないか。


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