Sightsong

自縄自縛日記

シルヴィー・クルボアジェ+マーク・フェルドマン+エヴァン・パーカー+イクエ・モリ『Miller's Tale』、エヴァン・パーカー+シルヴィー・クルボアジェ『Either Or End』

2016-08-11 11:01:19 | アヴァンギャルド・ジャズ

シルヴィー・クルボアジェ+マーク・フェルドマン+エヴァン・パーカー+イクエ・モリ『Miller's Tale』(Intakt、2015年)を聴く。

Sylvie Courvoisier (p)
Mark Feldman (vln)
Evan Parker (ts, ss)
Ikue Mori (electronics)

昨2015年にニューヨークを訪れた際に、9月22日、23日と連日エヴァン・パーカーのライヴを観たのだが、この録音はそのさらに前日の9月21日に録音されている。ニューヨークでは、その後にネッド・ローゼンバーグとのデュオも演っていたが、それには残念ながら行けなかった。

2015/9/21 本盤
2015/9/22 エヴァン・パーカー US Electro-Acoustic Ensemble@The Stone
2015/9/22 Rocket Science変形版@The Stone
2015/9/23 エヴァン・パーカー、イクエ・モリ、シルヴィー・クルボアジェ、マーク・フェルドマン@Roulette

このメンバーでの9月23日のギグを観たときには、パーカーとフェルドマンとが、断片的/連続的の違いを超えて絡み合い、ときにふたりが身体を入れ替えているのではないかとさえ錯覚した。そこでのクルボアジェの役割は場の活性剤注入、そしてイクエ・モリが満天の星空を展開したという印象を持った。

その予断で本盤を聴いたのだが、ライヴでの「二体問題+ふたり」ではなく、それぞれ異なる有機体のリボンがらせんを描きだす「四体問題」を幻視した。観ると聴くとの違いか、ライヴと録音との違いか、中1日での演奏の違いか。ただこれも魅力的で、特に、イクエ・モリがチャーミングな要素を持ち込み、サウンドの組成に大きく貢献している。

ひょっとすると昔からのパーカーのファンであれば、このサウンドは物足りないかもしれない。しかし、大きな音で没入するように聴いてみると、これはさらなる展開も期待できる、腐乱臭さえ漂うかもしれない、パーカーのまた新しい姿なのかと思った。

改めて、この2年前に、クルボアジェとのデュオにより録音された『Either Or End』(Relative Pitch、2013年)を聴いてみると、ここでのパーカーは、孤独にしてたえず世界をドリルで突破しようとする者である。その意味ではデュオであれ、サウンドはソロの足し算のような印象を持つ。クルボアジェは、光があちこちで屈折して輝く結晶世界を構築し、パーカーに対峙している。

もちろん過去から続くパーカー世界は好きで、これもその強さにより聴きいってしまう。ライヴでその場を共有していれば、きっと震えて動かされているに違いない。しかし、いまは新しい『Miller's Tale』のほうに惹かれる。

Evan Parker (ts, ss)
Sylvie Courvoisier (p)

●エヴァン・パーカー
エヴァン・パーカー@稲毛Candy(2016年)
エヴァン・パーカー+高橋悠治@ホール・エッグファーム(2016年)
エヴァン・パーカー@スーパーデラックス(2016年)
エヴァン・パーカー、イクエ・モリ、シルヴィー・クルボアジェ、マーク・フェルドマン@Roulette(2015年)
Rocket Science変形版@The Stone(2015年)
エヴァン・パーカー US Electro-Acoustic Ensemble@The Stone(2015年)
エヴァン・パーカー+土取利行+ウィリアム・パーカー(超フリージャズコンサートツアー)@草月ホール(2015年)
エヴァン・パーカー ElectroAcoustic Septet『Seven』(2014年)
エヴァン・パーカー+ジョン・エドワーズ+クリス・コルサーノ『The Hurrah』(2014年)
ジョン・エスクリート『Sound, Space and Structures』(2013年)
『Rocket Science』(2012年)
ペーター・ブロッツマンの映像『Soldier of the Road』(2011年)
ブッチ・モリス『Possible Universe / Conduction 192』(2010年)
エヴァン・パーカー+オッキュン・リー+ピーター・エヴァンス『The Bleeding Edge』(2010年)
ハン・ベニンク『Hazentijd』(2009年)
アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハ『ライヴ・イン・ベルリン』(2008年)
シュリッペンバッハ・トリオ『Gold is Where You Find It』(2008年)
エヴァン・パーカー+ネッド・ローゼンバーグ『Monkey Puzzle』(1997年)
エヴァン・パーカー+吉沢元治『Two Chaps』(1996年)
ペーター・コヴァルトのソロ、デュオ(1981-98年)
スティーヴ・レイシー+エヴァン・パーカー『Chirps』(1985年)
エヴァン・パーカー『残像』(1982年)
シュリッペンバッハ・トリオ『Detto Fra Di Noi / Live in Pisa 1981』(1981年)
シュリッペンバッハ・トリオ『First Recordings』(1972年)


森順治+高橋佑成+瀬尾高志+林ライガ@下北沢APOLLO

2016-08-11 09:00:08 | アヴァンギャルド・ジャズ

下北沢のAPOLLOに足を運び、興味深い面々のセッション。森順治さんと瀬尾高志さんとは初共演だという。

Junji Mori 森順治 (as, bcl, fl)
Yusei Takahashi 高橋佑成 (p)
Takashi Seo 瀬尾高志 (b)
Raiga Hayashi 林ライガ (ds)

それにしてもたいへんな年齢差。60代、30代、20代、10代。しかしそんなことは関係なく己を露出しあうことがあらためて面白い。

ファーストセット。まずは間合いを計る中から、瀬尾さんのベースが口火を切った。高橋さんの全域を使ったピアノが空気をかき乱し、林さんがマレットからスティックに持ち替えたところで一気に全員が疾走しはじめた。瀬尾さんのピチカートは腹に響き、また、アルコはよじれ裏返りともかくも進んでいく。森さんのアルトはいつものように素晴らしくエネルギッシュであり、ときに泡立ってもいる。ふっと静寂が訪れ、林さんが愉快そうににやりとした。

2曲目は高橋さんのピアノが入ってゆき、ドラムスが巧みに合わせてゆく。融合を主としてそこからの離散を見せた1曲目とは異なり、逆に、それぞれの断片が集合体を組成していくような発展があった。森さんのバスクラは諄々と物語をかたるようだ。そのバスクラとベースとが主軸となって音楽が進んでいくと思いきや、その世界を一瞬にして鮮やかに破壊するドラムス、そしてまた全員での疾走。足が折れそうな中で終わりを目指して全員が走りつつ、相互に介入し、やがてまたバスクラのかたる物語へと戻ってきた。そして瀬尾さんのベースは、弦に轢かれよ、弦に痙攣せよとの力を持って迫ってきた。

セカンドセット。ここでは幾度となく、高橋さんのピアノと瀬尾さんのベースとの間で形成される磁場に立ち戻る展開がみられた。ときには激しい世界の中に美しい調和を見出そうとする模索もあった。そこからのサウンドの展開は、その都度、林さんが点火し、牽引した。それにしても、実に粒が立って音圧が強く、するどいシンバルである。森さんはアルトで朗々と自己のブルースを吹き、また、フルートでサウンドに亀裂を入れた。

演奏が終わりそうで終わらない。誰もがこの音の展開に幕を引くことを拒否している。高橋さんのピアノは「その時」を待ち、そして、ラグタイム~モンク~マーチ的な異世界を突然顕出させた。瀬尾さんのアルコによる音の尻尾、森さんのアルトによるタップが、終わりを惜しむように続いた。 

Nikon P7800

●参照
本多滋世@阿佐ヶ谷天(2016年)(森順治参加)
M.A.S.H.@七針(2016年)
森順治+橋本英樹@Ftarri(2016年)
M.A.S.H.@七針(2015年)
坂田明+今井和雄+瀬尾高志@Bar Isshee(2016年)
板橋文夫『みるくゆ』(2015年)(瀬尾高志参加)
寺田町+板橋文夫+瀬尾高志『Dum Spiro Spero』(2014年)
バール・フィリップス+Bass Ensemble GEN311『Live at Space Who』(2012年)(瀬尾高志参加)
齋藤徹、2009年5月、東中野(瀬尾高志参加)