イ・ジェヨン監督「エターナル」(★★★★)
監督 イ・ジェヨン 出演 イ・ビョンホン、コン・ヒョジン
この映画の見どころは二つある。
ひとつは、いつ「ストーリーの構造」に気がつくか。もうひとつは、イ・ビョンホンの演技。
「ストーリーの構造」についていえば、私は、犬が車の下から出てきたときに確信した。当然姿をあらわしていいはずの運転手が姿をみせないからである。まあ、これ以上は書かないが。
あとのひとつ、イ・ビョンホンの演技。これは、ちょっと感激した。「ストーリーの構造」から言って、目を引くアクションも、台詞回しもない。ただ、そこにいて、妻を見ているだけという役なのだが、これが「生きている」。
動かないことによって、感情が動く。
目で演技している。映画を心得ている。前半に出てくる眼鏡が小道具として、とても効果的だ。現実では、あんなに目がはっきりわかるほど近づいて人の顔など見ない。その現実には見ることのできない大きさにまで拡大された目が、眼鏡を外すことでさらにぐいと観客に近づき、それが微妙に潤む。悲しみが潤む。
ふーむ。
一か所、眠っている妻の首を絞めようとするシーン。寸前にやめるのだけれど、あそこはよくないなあ。あ、これは脚本が悪いのかもしれない。余分なシーンだ。
なぜ余分か。
ここだけ、「アクション」だからである。
アクションしないことで成り立っている映画で、アクションがあると、それが全部をこわしてしまう。このシーンがなかったら、私はこの映画に★5個をつける。
手のアクションを比較するといい。
イ・ビョンホンの手のアクションは、直後にもう一度出てくる。息子が眠っている。息子の手をそっと握る。手をそっと握るというのは、アクションだけれど動かないアクションである。働きかけ、相手に影響を与えてしまうアクションではない。相手は何もかわらない。何もかわらないから、かわりにイ・ビョンホンの「肉体」のなかで感情が動く。肉体のアクションのあとに、感情が動いてついてくる。
妻の首を絞めようとするシーンは逆だね。感情が先に動いて、手を首の方に引っ張っていく。まあ、思いとどまるのだけれど、このシーンだけ、全体の中で「トーン」が違ってしまっている。
他のシーンでは、イ・ビョンホンは自分の「感情」にとまどっている。悩んでいる。でも、妻の首を絞めようとするシーンでは、感情ではなく「肉体/手」そのものが葛藤する。それが激しすぎる。シーンが長すぎたのかもしれない。また手の動きが首を絞める形に近づきすぎたのかもしれない。両手ではなく、片手だったら違ったかもしれない。0・5秒くらいだったら、「あっ、いまのは何だったんだろう」と観客のこころに残ったかもしれない。
むずかしいね。
(中洲大洋スクリーン1、2018年02月21日)
*
「映画館に行こう」にご参加下さい。
映画館で見た映画(いま映画館で見ることのできる映画)に限定したレビューのサイトです。
https://www.facebook.com/groups/1512173462358822/
監督 イ・ジェヨン 出演 イ・ビョンホン、コン・ヒョジン
この映画の見どころは二つある。
ひとつは、いつ「ストーリーの構造」に気がつくか。もうひとつは、イ・ビョンホンの演技。
「ストーリーの構造」についていえば、私は、犬が車の下から出てきたときに確信した。当然姿をあらわしていいはずの運転手が姿をみせないからである。まあ、これ以上は書かないが。
あとのひとつ、イ・ビョンホンの演技。これは、ちょっと感激した。「ストーリーの構造」から言って、目を引くアクションも、台詞回しもない。ただ、そこにいて、妻を見ているだけという役なのだが、これが「生きている」。
動かないことによって、感情が動く。
目で演技している。映画を心得ている。前半に出てくる眼鏡が小道具として、とても効果的だ。現実では、あんなに目がはっきりわかるほど近づいて人の顔など見ない。その現実には見ることのできない大きさにまで拡大された目が、眼鏡を外すことでさらにぐいと観客に近づき、それが微妙に潤む。悲しみが潤む。
ふーむ。
一か所、眠っている妻の首を絞めようとするシーン。寸前にやめるのだけれど、あそこはよくないなあ。あ、これは脚本が悪いのかもしれない。余分なシーンだ。
なぜ余分か。
ここだけ、「アクション」だからである。
アクションしないことで成り立っている映画で、アクションがあると、それが全部をこわしてしまう。このシーンがなかったら、私はこの映画に★5個をつける。
手のアクションを比較するといい。
イ・ビョンホンの手のアクションは、直後にもう一度出てくる。息子が眠っている。息子の手をそっと握る。手をそっと握るというのは、アクションだけれど動かないアクションである。働きかけ、相手に影響を与えてしまうアクションではない。相手は何もかわらない。何もかわらないから、かわりにイ・ビョンホンの「肉体」のなかで感情が動く。肉体のアクションのあとに、感情が動いてついてくる。
妻の首を絞めようとするシーンは逆だね。感情が先に動いて、手を首の方に引っ張っていく。まあ、思いとどまるのだけれど、このシーンだけ、全体の中で「トーン」が違ってしまっている。
他のシーンでは、イ・ビョンホンは自分の「感情」にとまどっている。悩んでいる。でも、妻の首を絞めようとするシーンでは、感情ではなく「肉体/手」そのものが葛藤する。それが激しすぎる。シーンが長すぎたのかもしれない。また手の動きが首を絞める形に近づきすぎたのかもしれない。両手ではなく、片手だったら違ったかもしれない。0・5秒くらいだったら、「あっ、いまのは何だったんだろう」と観客のこころに残ったかもしれない。
むずかしいね。
(中洲大洋スクリーン1、2018年02月21日)
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