詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

こころは存在するか(24)

2024-03-12 22:43:11 | こころは存在するか

 フォイエルバッハから和辻が引き出していることばでは、「思惟は有から出る。有が思惟から出るのではない」が刺戟的である。「有」と呼んでいるものは「人間存在」であるが、これを「肉体(あるいは実践)」と読み替えると、「思惟は肉体(実践)から生まれる。思惟から肉体が生まれるのではない」になる。
 人間とは、まず「肉体」なのである。「思惟」や「ことば」は嘘をつくかもしれないが、「肉体」は基本的に嘘がつけない。
 机の上にコップがある。水がある。喉が渇いている。その水が安全かどうか、わからない。しかし、目の前の相手がそれを飲んで見せてくれたら、「ことば」が通じなくても(相手が外国人だとしても)それは安全だとわかり(直観することができ)、飲むことができる。もちろん相手があらかじめ「解毒剤」のようなものを飲んでいて「安全」について嘘をついていることもありうるが、それは特別な場合である。たいていは「肉体」の「行為」を「真実」と判断していいだろう。「真実」はいつでも「ことば」として定着する前に、「肉体」が「直観」するものである。
 「ことば」が嘘を含むのは、ことばというものが人間関係のなかで生まれてくるものだからだ。「ことば」は、その「場(社会/共同体)」のものでもある。しかし、同時に「ことば」は個人が動かすことができるものである。だからこそ、相手が知っている「ことば」を利用して、ひとは「嘘」をつくのである。

 こう書きながら、私は、野沢啓の「隠喩論」を思い出している。
 「隠喩」が成り立つためには、すでに「ことば」が存在しなくてはならない。集団でつかっている「ことば」の「意味」を否定し、それを「個人的な意味」に変えるとき、そこに比喩というものが成り立つ。「共有されている意味」をゆがめてしまう。否定してしまう。そして、否定することによって、逆に「ことば」がその奥底に含んでいるものを生かして見せる。それが比喩の「いのち(運動)」である。
 だから、あらゆる「比喩(隠喩であろうと、暗喩であろうと、直喩であろうと)」は詩が特権的にもっている「技法」ではなく、あらゆるジャンルにおいて展開されるものである。もしどうしても「特権」を主張するなら、それは「個人/人間」の特権であって、「ジャンル(社会)」の特権ではない。
 ベルグソンは「ベルグソン語」で書き(私は、翻訳された日本語で読んでいるのだが)、和辻は「和辻語」で書く。そこに「同じことば(日本語)」が書かれていたとしても、それは「みかけ」のことである。ほんとうは、違うのである。それぞれが「絶対的な個人語」で書くからこそ、私はそれを「私語(谷内語)」に翻訳する。「誤訳」する。「誤読」する。その「誤読」を修正するのは、辞書ではない。「肉体」である。「動詞」である。「ことば」を読んだとき、そのことばが生まれてきたときの「肉体の動き」を想像できるかどうか、私の「肉体」で追いかけることができるかどうか。それが問題なのだ。
 精神は存在しない。ことばも存在しない。「思惟」というような、ひとをたぶらかすような奇妙なものもない。あるのは「ことば」である。そして、それは「肉体」が生み出したものである。

 

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