詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(69) 

2019-02-26 10:03:33 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
69 見つめすぎて--

美しいものをわたしは見つめすぎて、
わたしの視野はそれで一杯になった。

 池澤は、この二行について、こう書いている。

追憶の一つの形なのであろう。つまり最初の二行は文法的には相当の時間の経過を含んでいて、「かつて美しいものを見すぎたために/今もわたしの視野はそれらで一杯である」と訳す方がその意味では適当かもしれない。

 池澤が言いたいのは「一杯になった」では「過去」のことのようになってしまう。二行目は「現在」である、ということなのだと思う。だとすれば「一杯になった」ではなく「一杯だ」とすればいいのではないだろうか。
 さらに、それにつづく二連目は、その「一杯の美」の言い直しなのだから、「美しいものをわたしは見つめすぎた/それが目から溢れ出てくる」くらいの方がなまなましい感じになるかもしれない。
 原文を知らずに言うのだから、私の感想はいいかげんなものなのだが。

 二連目は、その溢れ出てくる美、おさえてもおさえても溢れてしまう美もいいが(いつものようにギリシャ人の慣用句なのだと思うが)、それを詩に書いているという最後の三行が私は好きだ。

愛の顔を、わたしの中の詩が
望むままに……わたしの若さの夜に、
わたしの夜のふける頃、ひそかに会う時に。

 「夜」が繰り返されている。この繰り返しが、甘くて、魅惑的だ。
 「視野」がかつて見た美しいもので一杯になり、その美を溢れさせてしまうように、カヴァフィスの「記憶」は「夜」で溢れている。いくつもの「夜」が溢れてくる。
 こういう繰り返しの強さは創作では生まれない。実体験、実感の強さを感じさせる。










カヴァフィス全詩
クリエーター情報なし
書肆山田


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