悪口いう人見たことないぞ! 「口コミ打率10割」の観光地について その3

2022年10月31日 | 海外旅行

 前回に続いて、悪口を聞いたことのない地域について。

 ハワイタイのように、旅行者にすこぶる評判の良いところというのはあるもので、私も安宿ユースホステルで仲良くなった旅行者に、そういった場所を聞くことが多い。

 これはわりと人によって好みが出るもので、イランイスラム宗教的戒律がなんとなく息苦しいという人もいれば(女性は外国人でも全身を覆う服を着なければいけないとか)、ペルセポリスの遺跡群など古代ペルシャの遺産がすばらしいと絶賛する人もいる。

 またメキシコや、「マチュピチュ」のあるペルーなんかはすごくおもしろいらしいけど、

 

 「日本から飛行機で24時間以上」

 

 と言われて、それで萎え萎えになる軟弱者もいる。だ。あと治安も不安。

 そんな中、この世には「悪口を聞いたことがない」ところというのも存在し、私もいくつか訪れたこともあるが、たしかに言われるだけの価値はあると思うところ多々だった。

 そこで今回も、旅行者間で「打率10割」な地域を紹介してみたい。

 海外が初めての人や、まだ行くところが決まってない人は、ここから選べば少なくとも大ハズレはないと思います。


 「10割バッター」その7 ラオス

 旅行者の間ではよく、「なんにもなくていいところ」と好まれる場所がある。

 なーんもないけどが良かったり、物価が安かったり、メシがうまかったり、気候が良かったり、まあたいていはその中のいくつかがそろうと、そう言われがちである。

 観光化されてない田舎ネパールポカラカラコルムハイウェーで有名なフンザ峠などがあるところや、離島ビーチなどがその最たるであろうが、中でももっとも「なにもない」度が高いといわれていたのがラオスだった。

 

 「どんどん開発されてるから、今のうちに行った方がいいよ」

 

 アドバイスされて、5年ほど前ビエンチャンに行ってきたが、写真などで観る以前の風景とくらべて相当できあがってきたとはいえ、まだまだ「なにもない」感は高かった。

 田舎ののんびり感は希薄になってはいたが、「これから大きくなりまっせ」という勢いのようなものは感じられ、でもタイベトナムのようなイケイケ感もなく、そこが興味深かった。

 なんか、全体的にのほほんとしていたんだよねえ。
 
 おぼえているのは、ラオスめしがうまかったことと、なんとなく入ったスチームサウナで外国人がめずらしかったのだろう、すごくみんなが、こっちに話しかけたがっている雰囲気を出していたところ。
 
 今ごろ、オシャレレストラン雑貨屋などもたくさんできて、女性旅行者も増えるのではないか。
 
 なんとなく応援したくなる、静かで小さなラオスであった。

 

 「10割バッター」その8 チェコスロバキアハンガリーなど中欧諸国

 ヨーロッパというとイタリアスペインフランスといった国が人気だが、旅行者的にはなにげにおススメは中欧である。

 プラハ城をはじめ「古き時代のヨーロッパ」の魅力にどっぷり浸れるチェコ。

 ブラチスラバ城がかわいすぎる(よく「逆さにした碁盤」と表現されるが私は「裏返された子豚」に見えた)、マリアテレジアもお気に入りのコンパクト国家スロバキア

 

 

 

 


  
 美しき青きドナウの流れるブダペストにくわえ、なにげに「の国」としてグルメな楽しみも満載なハンガリーフォアグラ激安

 中欧のいいところは、いい意味でヨーロッパの地方都市という感じで、西ヨーロッパの大都市のようなトガッたところがなく、治安も良好で、物価も安く、とにかく旅行しやすい。

 実際、私の周囲でも

 

 「雑然としたパリとかローマより、プラハとかブダペストのほうが落ち着いてていい!」

 

 という意見も多く、中欧とか東ヨーロッパというと日本人にはあまりなじみはないかもしれないけど、こっちのほうが全然ハズレがないと個人的には思います。

 


  「10割バッター」その9 南インド

 バックパッカーをやってるにもかかわらず、インド未踏なのは個人的な課題だが、コルカタヴァラナシと同じくらい行ってみたいところに南インドがある。

 中でもケララ州というところは、雑誌『旅行人』の元編集長である蔵前仁一さんも絶賛するところで、自然は豊かで物価は安く、メシはうまくて気候もいい(こればっかりやな)という天国

 なにより、デリーコルカタに生息する有象無象の「あやしいインド人」(これにアテられてインドがダメという人も多々)のうるささに悩まされずにすむということもあって、とにかくいい印象があるわけだ。

 それにとどめを刺したのが、やはりバックパッカーでインド人男性と結婚もされた漫画家流水りんこさんによる『インドな日々』と『インド夫婦茶碗』シリーズ。

 これを読んでも(夫のサッシーさんはケララの出身)流水さんの楽しい筆遣いにより、もう南インドが天国のように見える。

 嗚呼、世界の果てまで行きたいぜ!

 

 (続く

 

 ■おまけ

 (激辛ラオスめしとの激闘の記録はこちら

 (ハンガリーのフォアグラを食べてみたレポートはこちら

 

 

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悪口いう人見たことないぞ! 「口コミ打率10割」の観光地について その2

2022年10月29日 | 海外旅行

 前回に続いて、悪口を聞いたことのない地域について。

 バリ島ビルマのような、旅行者にすこぶる評判の良いところというのはあるもので、私も安宿ユースホステルで仲良くなった旅行者に、そういった場所を聞くことが多い。

 これはわりと人によって好みが出るもので、バックパッカーの聖地インドはハマりすぎて「インド病」と呼ばれる人も出る反面、ミュージシャンで作家の大槻ケンヂさんのように、

 

 「初めて行ったインドは【負け旅】だった」

 

 ほうほうの体で退却を余儀なくされる人もいる。

 

 またロンドンなんかは、大のミステリファンである私からすると

 「どこに行っても聖地巡礼

 の財宝ザクザクな宝島だが、そうでない人にとっては

 

 「物価が高い」

 「飯がマズイ」

 「寒くて暗い」

 「イギリス人ヤな奴」

 

 などなど、むしろワースト候補の言われようだったりするのだ。マジで人気がない。

 そんな中、この世には「悪口を聞いたことがない」ところというのも存在し、私もいくつか訪れたこともあるが、たしかに言われるだけの価値はあると思うところ多々だった。

 そこで今回も、旅行者間で「打率10割」な地域を紹介してみたい。

 海外が初めての人や、まだ行くところが決まってない人は、ここから選べば少なくとも大ハズレはないと思います。

 

 「10割バッター」その4 チェンマイ

 バンコクに続くタイ第2の都市で、象ツアーでも有名。

 タイはそもそも評判がいい国だが、バンコクはハマる人はハマるけど、その雑然としたところや排気ガスがダメという意見もあって、そういう人はチェンマイに逃げる。

 ここは北部にあるおかげか、他の場所よりも比較的涼しく、また大学もあるということで文化レベルも高いため、長期滞在してタイ語タイ料理なんかを学ぶ人もいる。

 これといった、すごい見どころはないかもしれないが、のんびりするにはちょうどいい街。

 食事はもち米がとっても美味で、プレーンでもイケるほど。私もなんとなく4日ほどいたものだったが、休みがもっとあれば、まだまだ居たかったほど。

 チェンマイ大学で先生をしていた、「辺境作家」高野秀行さんもおススメ。もカワイイ。

 

 「10割バッター」その5 ポルトガル

 ヨーロッパといえば、サッカーのイメージもあって一時期はイタリアスペインが人気を集めたが、同じ南欧のポルトガルは知られてないけど、いいところ。

 派手さはないけど、おだやかなポルトガル人の気質がシャイな日本人に合うのではないか。食事もを中心にクセがなく、われわれにも食べやすい味。

 適度にさびれた感じの街並みが、なんとなくノスタルジックな郷愁を誘う。「ユーラシア最西端」の岬なんかもあって、たそがれるにはちょうどいいところ。

 激賞する人もいないけど、行った人はなんとなーくいい印象を持つフワッとした国。うるさ型の旅行作家、前川健一さんもお気に入り。

 南国なのに、なぜか少し曇天が似合う。太陽の国スペインもいいけど、まったりしたい人はポルトガルも悪くないですよ。

 

 「10割バッター」その6 ハワイ

 あまりに当たり前で、つい軽視してしまいがちだが、ハワイはまったくといっていいほど悪口を聞かないところだ。

 過ごしやすい(行ったことないけど絶対そうでしょう)うえに、訪れた人がみな「ほとんど国内旅行」というくらいに気軽に行けるというのだ。

 そのストレスの無さが圧倒的な魅力だという。特にハワイは沢木耕太郎さんすら、

 

 「すばらしいところ」
 
 「あんな海外を感じさせない海外はハワイを置いてない」

 

 そう絶賛するほど。『深夜特急』にまで、そう言わせるのだからガチです。

 ちなみに耕太郎によると理想の過ごし方は、

 

 朝はパンケーキ食べて、午前中は図書館で読書して昼寝して、昼はロコモコ丼みたいなぶっかけ飯。

 そのあと少し泳いで、買い物して、アパートでビールを飲みながら夕食の下ごしらえをして、軽くランニング。

 帰って大リーグかアメフトを見ながら晩飯食べて、そのあとバーで一杯やって寝る

 

 順番はうろ覚えだが、だいたいこんな感じ。

 行ったことないけど、なんてボンクラで楽しそうな過ごし方なんだ。

 嗚呼、今すぐハワイに亡命したい!

 

 (続く

 

 ■おまけ

 (チェンマイの激辛料理体験記はこちら

 (ゲイ大国タイで出会った同性カップルとのお話はこちら

 


 

 

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悪口いう人見たことないぞ! 「口コミ打率10割」の観光地

2022年10月26日 | 海外旅行
 悪口を聞いたことのない地域というのがある。

 私は旅行が好きだが、旅先で出会ったバックパッカー仲間と話して、かならず話題に上るのが、
 
 
 「今まで行ったとこで、どこが良かった?」
 
 
 これはわりと人によって好みが出るもので、たとえば私などパリが大好きだが、他の旅行者に訊くと意外に人気がない
 
 別に悪評があるわけではないが、私のような読書好き映画好きほどに「花の都バイアス」がかかってない感じ。

 また逆に日本人のみならず世界中で人気のイタリアは、スリはいるし、ゴミゴミしてるしメシはマズイしで、あまりいい印象はない。

 韓国は「グルメ買い物オシャレ」をするには天国だけど、男子はすることがないとか、スウェーデン最高だけど物価が高くて泣きそうになるとか。

 そんな中、この世には「悪口聞いたことがない」所というのも存在し、私もいくつか訪れたこともあるが、たしかに言われるだけの価値はあると思うところ多々だった。

 そこで今回は旅行者間で聞いた「打率10割」な地域を紹介してみたい。

 海外が初めての人や、まだ行くところが決まってない人は、ここから選べばそんなに大ハズレはないと思います。
 
 最近は旅行してないから、古い情報もあるけど、そこはご愛嬌ということで。



 10割バッターその1 バリ島

 わりとベタなリゾートだが、バックパッカーにも人気の
 
 リゾート以外にも、自然が豊かで食事もおいしく、宿もリーズナブルで雰囲気があり、観光するのも、ただのんびりと羽を伸ばすのも良しとか。

 買物やケチャダンスなど、女子好みのアイテムも盛りだくさん。

 もともと西洋人が作った
 
 
 「オレたちの自慢したいエキゾチック人口ビーチ」
 
 
 という、ディズニーランドみたいなところだから、そもそも退屈のしようもないのだろう。
 
 またナンパ目当ての「プロビーチボーイ」も活発に行動しており、そこにハマる女子も。
 
 私は行ったことないけど、うるさがたのバックパッカーもほめる島。老若男女、すべてOK。まさに十割。
 
 あと、これはまったくの余談だけど、私はよく「バックパッカー」を名乗っているが、この言葉をどう解釈するか結構さまざまなようだ。
 
 以前、お笑いコンビのウーマンラッシュアワー村本さんが、
 
 
 「オレ、バックパッカーとか、なんか現実逃避みたいなことしてる人イヤやねんなあ」
 
 
 なんてラジオかなにかでおっしゃってましたけど、バックパッカーってそりゃアヤシイ人もいるけど、その大半ただの旅行好き
 
 それこそ、外国人の若い旅行者なんか、ほとんどがデカいリュック背負って全員がバックパッカーだったし、そんな深い意味もないんですよね。



 10割バッターその2 ビルマ

 今ではミャンマーのほうが通りがいいが、東南アジア西部にある仏教国

 アジア好きにはビルマファンが多く、パガンゴールデンロックなど見所も多く、なにより素朴なビルマ人のたたずまいが旅行者の琴線に触れる。

 また食事も油っぽいのがハマるという声もあり、基本はカレー味ということもあって好みはわかれるが、評価する人も。
 
 基本的に人がおだやかなところは、旅行者にも好感度が高い。
 
 インドはもとより、私も訪れたエジプトモロッコは、おもしろかったけど人間のアクが強くて、疲れる人はいるかもしれない。

 ビルマはそんなこともないという。まだ行ったことないけど、次あたりはぜひ訪れてみたいものだ。

 
 10割バッターその3 オーストラリア


 これまたベタだが、やはり評判は高い。

 治安が良く、フレンドリーなオージーの好感度で、とても旅行しやすい国。

 一昔前はゴールドコーストのビーチが売りだったが、広大な土地と大自然も魅力でドライブキャンプも楽しいと聞く。
 
 その際はカンガルーを轢かないように注意(現地には「カンガルーに気をつけて」の標識もある)。

 ただ大きな弱点に、観光的魅力はほとんどないというのがある。

 私もかなり前だが、テニスのオーストラリアンオープンを観戦しに、わりと長くメルボルンに滞在したけど、テニスのない日は散歩くらいしかすることがなかった。

 なもんで、結局休養日も予定を変えてテニスを見たくらいで(当時の全豪はセンターコートにこだわらなければ当日券が簡単に取れた)、それくらいふつうの街。
 
 実際、友人の中にも行った人がいるけど、やはり感想は、
 
 
 「なんにもないけど、ふつうに良いところ」


 その意味では「住むには最高」ともいえるわけで、ホームステイワーキングホリデーなら、絶対的におススメです。
 
 
 (続く
 
 
 ■おまけ
 
 (テニスの全豪オープン「予選」観戦記はこちら
 
 (ある大物テニス選手を見損ねたお話しはこちらから)
 


 

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「早石田」退治の名手 久保利明vs郷田真隆 2012年 第37期棋王戦 第2局 

2022年10月23日 | 将棋・名局

 「自分では絶対に思いつかない手」

 これを観ることができるのが、プロにかぎらず強い人の将棋を観戦する楽しみのひとつである。

 前回は「早石田」における、鈴木大介九段の斬新すぎる新手を紹介したが、それで思い出したのがもうひとつの将棋。

 

 2012年、第37期棋王第2局

 久保利明棋王郷田真隆九段の一戦。

 鈴木大介と並んで「振り飛車御三家」と呼ばれた久保が得意の石田流を選択すると、郷田は棋風通りそれを正面から受けて立つ。

 久保は▲76歩、△84歩、▲75歩、△85歩にすぐ▲74歩と行く「鈴木流」ではなく、一回▲48玉として、△62銀▲76飛△88角成、▲同銀、△22銀と進めてから▲74歩と突く。

 △同歩に▲55角と打ち、△73銀▲74飛と出る強い手は部分的には定跡形

 郷田は△64銀と迎え撃って、この局面。

 

 

 

 飛車がせまく、逃げ回っているようだと手に乗って押さえこまれそうだが、ここで久保にねらっていた手があった。

 

 

 

 

 

 

 ▲84飛とぶつけるのが、「さばきのアーティスト」ならぬ、ずいぶんとゴツイ頭突き

 △同飛の一手に▲22角成と飛びこむ。

 

 

 

 先手はができているうえに、自陣は飛車の打ちこみに強く、桂香を回収して駒損を回復できれば指せそうに見える。

 久保が一本取ったかに見えたが、これは実が無理筋だった。

 といっても、それはここからの後手の指しまわしが見事だったからで、そうでなければ充分成立していたかもしれない。ここは郷田をほめるべきだろう。

 ▲22角成には一回△44角と合わせて、▲同馬、△同歩に▲22角ともう一度打ちこむ。

 そこで、△86歩と方向転換。▲同歩に、やはり佐藤康光棋聖と同じく△12飛と打つ。

 

 

 

 ▲44角成が切れた筋に、△46歩と頭からこじ開けていくのが、後手のねらいだった。

 

 

 

 

 

 ▲同歩と取るが、△86飛が次に△46飛王手馬取りを見て、すこぶる気持ちの良い手。

 それはたまらんと△86飛に▲77馬と引くが、幸便に△46飛王手して、▲47歩△42飛と大駒を敵玉頭の急所に格納。

 

 

 「さばきのアーティスト」のお株をうばう、見事な空中アクロバットだ。

 ▲95馬の王手に△73歩と受け、▲58金△35歩▲77桂△32飛コビンにも大砲のねらいをつけて、これではいかにねばり強さが身上の久保棋王でも、いかんともしがたい。

 

 以下、▲66歩△36歩▲同歩△46歩から気持ちよく攻めて後手快勝

 その勢いで一気に棋王位奪取するのだが、乱戦ねらいの大暴れを、しっかり受け止めた郷田の強さが、光った一局であった。

 

 (久保利明の石田流からの珍型編に続く)

 

 ■おまけ

 (郷田の振り飛車退治の名手はこちらから)

 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 

 

 

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施川ユウキ『ベルナルト嬢曰く』に出てきた本、何冊読んだ? その7

2022年10月20日 | 

 前回に続いて、施川ユウキ『バーナード嬢曰く』に出てきた本、何冊読んだかの第6巻目後半。

 

 ■横山雅司『本当にあった! 特殊乗り物大図鑑』(未読)


 
 学生時代、ドイツ文学科にいたんだけど、そこでゴリアテとかマウスとかドーラとか、
 
 「こんなに笑える、おもしろドイツ軍兵器」
 
 ていうレポートを発表したが、2人くらいに大ウケで残りはポカーンだった。
 
 特に女学生と教授は露骨にイヤな顔をしており、この「大人と女性にウケない」という弱点は、いまだ克服できてはいない。
 
 

 ■フランツ・カフカ『カフカ短編集』(未読)
 
 
 独文科出身のくせに、カフカは苦手(カフカはチェコ人だけど)。

 南米文学大好きだから、合わないことはないんだろうけど、全然おもしろく感じないのだ。
 

 ■トーべ・ヤンソン『新装版 ムーミン谷の彗星』(未読)
 
 なんでみんな、あんなにスナフキンが好きなんだろう。
 
 私の周りには「リアル・スナフキン」な人が何人もいるけど、ギター弾く無職だったり、詩を書く家無しだったり、たぶん人気出なさそうなんだけど。
 
 まあ、話すとメッチャおもしろいんだけど。
 
 
 
 ■清水義範『国語入試問題必勝法』(読了
 
 岸部一徳さんのドラマ版はけっこうおもしろかった。
 
 よく「読書は国語勉強に最適」という人がいるけど、それはクソほど本を読んで現代文が苦手だった私の存在で、完全に否定される。
 
 私の見立てでは国語の成績がいい人は、読書がどうとかではなく、ふつうに頭がいい人か、「空気を読める」人。
 
 要は出題者が「こう答えてほしい」と意図するところをキャッチできる優秀な人だ。
 
 一方、読書好きで点を取れないのは、テストの意味をはき違えている人。
 
 問題を「論理的」に読み解くのではなく、「センス」を見せようとする。


 
 「そう、出題者はきっと、ここで【感動した】とか書いてほしいんだろ? でも、そうはいかねえ。ここでオレ様のスーパー超解釈で、文学界に一石投じてやるぜ! まさに天才あらわる、震えて眠れ!」


 
 みたいな阿呆は赤点まっしぐらです。昔の自分に、猛説教だ。
 
 
 
 ■筒井康隆『家族八景』(読了
 
 七瀬シリーズといい、筒井の小説は生々しくエロいことが多い。
 
 
 ■中島敦『山月記・李陵』(読了

 太宰治『人間失格』と並ぶ、中2病文学の名作。
 
 でも個人的には、この作品に共感する人は、なーんか信用できない。
 
 なんとなく、「オレは努力するつもりはない」って宣言されてるような気がして、なんだかなー。
 
 ほんで、オジサンになって飲み屋で
 
 「自分は本当才能があって、あのとき努力してたら、今ごろは……」

 とか特に根拠もない「元天才」として自己陶酔を楽しむ未来が見えて、そんなの聴きたくないもん。
 
 私は意外と、今を前向きにがんばる人が好きなのだ。 
 

 

 ■原ゆたか『かいけつゾロリ ちきゅうさいごの日』『かいけつゾロリのめいたんていとうじょう』(未読)

 読んだことないなあ。


 ■ジュリアン・バーンズ『終わりの感覚』(未読)
 
 読んだことないけど、あらすじ読んだらおもしろそう。
 
 

 ■コナン・ドイル『シャーロック・ホームズの冒険』(読了
 
 新潮文庫版は、いつ「完全版」になるんだろう。 
 
 

 ■劉慈欣『三体3 死神永生 下』(未読)
 
 積読です。『折りたたみの北京』も買って、まだ読んでないんだよなー。
 

 

 ■フリオ・リャマサーレス『黄色い雨』(未読)
 
 スペイン語圏文学はアタリが多い。買おうかなあ。

 
 

 ■ジョン・クラカワー『荒野へ』(読了

 なんかこういう「若者の自分探し」的なお話には全然惹かれない。
 
 いや、沢木耕太郎の『深夜特急』とか好きだから、嫌いではないんだろけど、自然がどうとか独力で生きる力とか、「意識高い」感じが合わないのかも。ちょっとヒッピームーブメントっぽいというか。

 沢木さんも自らの旅のことを「酔狂」と定義づけて、そういう匂いをなるたけ消そうとしていたフシもあるし。でも、本の方はとてもおもしろいです。

 あと「架空のキャラと、実在の人物のを同列に並べていいのか」問題に関しては、なんか、別にいんじゃね? としか思わなかったなあ。
 
 

 ■ジーン・ウルフ『デス博士の島その他の物語』(未読)
 
 読んでません。
 
 しかし、なんか、『ド嬢』もすっかり物語の雰囲気が、変わってしまった印象。

 私は前の能天気なノリの方が好きだけど、こっちの「友情編」の方がウケがよさそうなのはわかる。
 

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驚愕の「鈴木流早石田」 佐藤康光vs鈴木大介 2006年 第77期棋聖戦 第3局

2022年10月17日 | 将棋・好手 妙手

 「自分では絶対に思いつかない手」

 これを観ることができるのが、プロにかぎらず、強い人の将棋を観戦する楽しみのひとつである。

 「光速の寄せ谷川浩司九段の寄せや、「羽生マジック羽生善治九段の逆転術に、藤井聡太五冠のアッと言う見事な詰み筋など、終盤のすごみもいいが、序盤戦術での新構想にも、シビれることが多い。

 世代的にやはり、もっともおどろかされたのが「藤井システム」で、これははずせない。

 

 

 

 伝説的な「藤井猛竜王」誕生や、それにまつわる「一歩竜王」など語っていけばキリがないほどエピソードはあるが、振り飛車党の棋士からは、

 

 「藤井システムがなければ、三段リーグを突破できなかったかもしれない」

 

 という声も聞いたりして、藤井本人だけでなく、それこそシステムのせいで三段リーグを「突破できなかった」者もふくめて、多くの人間の人生にも影響をあたえた戦法であった。

 これともうひとつ、中座真七段が考案した、

 

 「中座流△85飛車戦法」

 

 

 平成の将棋で死ぬほど見た「中座飛車」。

 従来は「悪形」とされた高飛車が、攻守ともに絶好のポジションであったことが理解されたとき「革命」が起こった。

 ちなみに、考案者の中座は、この△85飛を▲35歩と、角頭を責められるのを牽制した守備的な意味で指したそう。

 それを見て、すぐさまその優秀性に気づき「攻撃」の戦法として訳し直し、ブレイクさせたのが野月浩貴八段。

 

 

 

 この2つが、平成の将棋界を様々な形でゆるがした二大新戦法だが、そんな数ある新手の中で、個人的にもっともおどろいたのは、鈴木大介九段考案の手。

 まず見ていただきたいのが、この局面。

 

 

 

 

 2006年、第77期棋聖戦五番勝負の第3局佐藤康光棋聖との一戦。

 初手から▲76歩、△34歩、▲75歩、△84歩、▲78飛△85歩▲74歩△同歩▲同飛としたところ。

 先手の鈴木大介が選んだのは「升田式石田流」または「早石田」と呼ばれるもので、アマチュアにも人気が高い戦法である。

 なんてことない局面に見えて、すでにここは風雲急を告げている。

 △88角成として▲同銀に△65角

 

 

 

 飛車が逃げるしかないが、△47角成歩得を作って後手優勢
 
 これがあるから、先手から▲74歩と交換するのは無理筋といわれていたのだが、ここで鈴木大介が驚愕の発想を見せるのだ。

 

 

 

 

 

 △88角成▲同銀△65角に、▲56角と打ち返すのが、2005年度に「升田幸三賞」を受賞している「鈴木新手」。

 といっても、これだけ見たらなんじゃらほいというか、ムリヤリ飛車取り角成の両ねらいを受けただけのようだが、これが意外と手ごわいのだ。

 △74角▲同角で、先手から▲63角成というねらいができる。

 △72金と受けると、そこで▲55角が絶好の一手。

 

 

 

 一回△73歩と角を追って、▲56角に、香取りを受けるには△12飛と打つしかない。

 

 

 見た瞬間「はあ?」と言いたくなるような、異様な形だが、これでいい勝負だというのだから恐れ入る。

 ここまで来ると、振り飛車というよりは横歩取りのような空中戦

 

 

 

 以下、こういう局面になって、前例なんてあるわけない。

 結果は佐藤が勝って棋聖防衛に成功するが、将棋自体は先手が相当に有望だった。

 ちなみに、▲56角の局面は第1局でも現れており、そのときは佐藤が飛車を取らずに△54角と引いている。

 

 

 

 ここから比較的じっくりした戦いになった。

 

 

 

 勝負は佐藤がものにしたが、△54角という手に妥協を見たのだろう、第3局はしっかり対策を練って、堂々と踏みこんでの力将棋

 結果ではどちらも、先手が敗れたものの、この両者のやり取りだけでも、充分にインパクトはあった。

 将棋の序盤は新構想の宝庫だということを再認識させられた、スゴイ棋譜で、今でもおぼえているのだ。

 

 (郷田真隆の絶品石田流退治に続く)

 

 ■おまけ

 (鈴木大介の魅せた終盤術はこちらから)

 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 

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施川ユウキ『ベルナルト嬢曰く』に出てきた本、何冊読んだ? その6

2022年10月14日 | 

 施川ユウキ『バーナード嬢曰く』が好きである。

 ということで、

 「このマンガに出てきた本を何冊読んだか数えてみよう」

 との企画。前回の5巻に続いて、今回は6巻です。

 


 ■チャールズ・ブコウスキー『死をポケットに入れて』(未読)

 

 ブコウスキー読んだことないけど、「ポケットに文庫本」は本好きの基本スタイルで、このフレーズを聴くだけでワクワクする。

 私の場合は文字通り、ハヤカワポケミスで、シェリイスミス午後の死』とか、スーザンジャフィーもう一人のアン』とかレイモンドポストゲート十二人の評決』とか、尻ポッケにつっこんで街に出たものだ。
 
 でもポケミスって、サイズ的に微妙なところがあって、あんましポッケ本にむかない(苦笑)。

 あと本屋に入ると、万引きに間違えられないように気を使うとかね。


 ■マルク・ボナール&ミシェル・シューマン『ペニスの文化史』(未読)

 イェルト・ドレント『ヴァギナの文化史』(未読)

 以下、いっぱい文化史の本(未読)

 

 ズラッと「文化史」本が並ぶけど、書き写すのがめんどいでの割愛。当然、1冊も読んでません。
 
 でも、こういう口に出しにくいタイトルの本とか、映画ってありまして、柳下毅一郎殺人マニア宣言』とか、ドイツ映画の『制服の処女』とか。
 

 

 ■アーサー・C・クラーク『幼年期の終わり』(読了)
 
 
 高校生のころ、ハヤカワで読んだけどこっちは『終り』。
 
 ここでは光文社古典新訳文庫版。賛否両論ありますが、このシリーズにはわりとお世話になってます。

 「読み返す」いい機会になってるというか。

 セールのときに勢いで『罪と罰』買ってしまったけど、果たして読み返すんだろうか。

 あと『あしながおじさん』は続編の方がおもしろいから、そっちも訳してほしい。

 

 ■山崎直美『シャーロック・ホームズの算数パズル』(未読)

 

 ホームズは大好きだけど、ホームズ・パスティーシュはあまり興味がない。
 
 J・J・マローン・パスティーシュとか、パーカー・パイン・パスティーシュとかなら読んでみたいぞ。

 

 ■青山剛昌『名探偵コナン』(原作はほとんど未読)

 

 20代のとき、すごいハマって(そんな前からやってんだねえ)、近所のビデオ屋で借りて(まだVHSの時代だ)山盛り見た。
 
 ただ、金田一もそうだけど、この手の作品は最後の「説教」がイヤでねえ。
 
 復讐とかで人を殺した犯人に、


 
 「そんなことをして、殺された家族がよろこぶのかな」
 
 「どんな理屈をつけたところで、今のあんたはただの殺人鬼なんだよ」


 
 とかなんとか、めぐまれた才能でマウントを取るのが趣味の若造が、地獄の苦しみを味わって、耐えきれず罪をおかした者に対して、エラそうな態度取るんじゃねえよ!

 とか本気で憤りを感じちゃうんだよなあ。何様だよ、マジで。
 
 
 

 ■レイモンド・カーヴァー『村上春樹翻訳ライブラリー 大聖堂』(読了

 

 再三言ってますが、村上春樹はあんまし合わない。カーヴァーもいくつか読んだけど、そんなにだなあ。

 


 ■メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』(未読)


 
 SFの古典中の古典で、作者が19歳の美少女だったとか、バイロン卿と仲良しとか、そっちのエピソードは有名だったけど、実際に読んだ人の少ないお話。
 
 私はどうかといえば、こういう本はたいてい「読了した気分」になってるよね。
 
 
 

 ■アゴタ・クリストフ『悪童日記』『ふたりの証拠』『第三の嘘』(未読)


 
 読んだことなし。


 
 「続編読んだら、一作目の見方が変わる」


 
 という問題に、「あるあるー」とか共感したけど、では具体的にはなんかあるっけ。
 
 あー、映画だと『ベスト・キッド2』でメチャクチャあっさり彼女と別れてたところとか、「おいー」ってなったなあ。
 
 まあ、ヒロインがスケジュールの都合とかで、出られなかっただけなんでしょうケド
 
 
 
 ■川村元気『世界から猫が消えたなら』(未読)


 
 よく「犬派」か「猫派」か論争になるけど、私は飼ってたので「うさぎ派」
 
 うさぎの頭をなでさせたら、北半球一の男であると自負している。
 
 

 ■テリー・ケイ『白い犬とワルツを』(未読)


 
 タイトルだけで中を想像するというのは、よくあること。
 
 実際に読んでみて、「オレの妄想の方がおもろかったやんけ!」と言いたくなることも。
 
 『アルジャーノンに花束を』とか。私の中でアルジャーノンは天才になったあと、自分をいじめた連中を様々なトリックを駆使して殺していき、最後は「名探偵になったねずみ」とロンドン上空で対決。

 そんな戯曲を昔に書いた記憶が。
 
 
 

 ■ルイス・セプルベダ『カモメに飛ぶことを教えた猫』(未読)
 
 ■リチャード・バック『かもめのジョナサン』(未読)


 
 「クライマックスにいいセリフがあるんだ」
 
 と思ってたら、別の作品のものだったりは、よくあること。

 

 「おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ」
 

 という有名すぎるニーチェの言葉を、ずーっとシェイクスピアのセリフだと勘違いして恥をかきました。

 でもなんか、あったような気がするんだよなあ。

 「敵と戦うときは気をつけろ。だんだん相手に似てくるからな」みたいな、そんなニュアンスで。

 内容的には『マクベス』だったかなーとか思うけど、読み返して確認するのはめんどいので、まあいいや。

 

 ■アーシュラ・K・ル=グィン『ゲド戦記1』(読了


 
 「真の名前」という概念がおもしろいと思っていたら、どこかで
 
 「要するに銀行ATMのパスワードみたいなもんです」
 
 と説明があって、完璧な解説だけど、ミもフタもねーなーとか思ったり。
 
 

 ■南条範夫『戦国残酷物語』(未読)


 
 戦国と幕末という、二大人気日本史シーンにほとんど興味がない。
 
 で結局、新選組って「ええもん」なのか「わるもん」か、どっちなん?

 

 あ、また1回で終わらなかった。続きはまた今度
 

 

 

 

 

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「さばき」の大サーカス 久保利明vs羽生善治 2007年 第65期A級順位戦

2022年10月10日 | 将棋・名局

 久保利明のさばきは将棋界の至宝である。

 ということで、前回は「さばきのアーティスト」こと久保利明九段の、芸術的な振り飛車を紹介したが、今回も久保のさばきを見ていきたい。 

 

 2007年の第65期A級順位戦

 羽生善治三冠(王位・王座・王将)と久保利明八段の一戦。

 名人挑戦をかけた戦いは、羽生がここまで4勝2敗で、5勝1敗首位を走る郷田真隆九段を追っている。

 一方の久保は波に乗れず、ここまで1勝5敗降級のピンチ。

 ここで敗れれば、ほとんどA級陥落が決定するという、双方ともに負けられない戦いなのだったが、この将棋は久保の芸術的指しまわしが冴えまくったのだった。

 後手になった久保のゴキゲン中飛車に、羽生は▲36銀型急戦で対抗し、むかえたこの局面。

 

 

 

 羽生が飛車を成りこんで、次に▲41角のねらいなどがあるが、ここから久保のワンマンショーがはじまる。

 

 

 

 

 

 

 △14角と打つのが、さばきのファンファーレ。

 金取りを見せつつ、△32連絡をつけている振り飛車らしい攻防手。また、遠く▲69にあるにもねらいをつけているのもポイントだ。

 羽生は▲36歩と軽く突いて、△同歩▲58歩角道を遮断する。

 ならばと久保は△22銀と打って、一転して先手の飛車を殺しにかかる。

 

 

 玉形に差があるため、飛車をただ取られるわけにはいかない羽生も、▲43角と強引に刺し違えにかかるが、△31金▲同竜△同銀▲52角成△同金▲33銀成の総交換に。

 

 

 

 先手は金桂2枚替え駒得になり、敵の囲いも乱しているが、後手はを先に好位置に設置し手番ももらっている。

 このあたりの攻防で、どちらが得したかはむずかしいが、後手は△37歩成▲同金△57歩成▲同銀と軽く成り捨てを入れてから△28飛と打ちこみ。

 このままでは△58角成があるし、飛車のタテの利きで▲21飛の打ちこみも消されている。

 そこで先手は▲25歩の手筋で、大駒の効果を半減させようとする。

 

 

 

 

 角のブランチャーを防ぎながら、次に▲21飛のねらいもあって、まだまだねじり合いは続きそうに見えたが、ここからの久保のがすさまじかった。

 と、その前に、まずは渋い手をここで見せておくのが、振り飛車の呼吸。

 

 

 

 

 

 

 

 △51歩底歩で固めておくのが、「ザッツ振り飛車党」という先受け。

 これで自陣は相当耐えられる形になり、攻めに専念できる。

 羽生は▲21飛と反撃するが、そこで△32銀とぶつけるのが、△51の底歩と連動してピッタリの返球。

 

 

 

 

 ▲同成銀と取るしかないが、△同角▲22飛成△76角と気持ちよすぎるさばき。 

 

 

 

  これまで△58の地点をねらっていたが、ジェットコースターのような大回転で、今度は先手陣の急所である△87に照準を合わせている。

 とはいえ、ここで▲39金と飛車を殺す手があり、それで先手が優勢なように見える。

 

 

 

 本譜も羽生はそう指したが、その次の手が久保のねらっていた快打だった。

 

 

 

 

 

 

 ▲39金△34角と打つのが、盤上この1手ともいえる、またもやピッタリの第二弾。

 ▲79桂と受けるしかないが、△25飛成と死んでいたはずの飛車が生還しては、後手も笑いが止まらない。

 

 

 

 

 2枚の「筋違い角」による、あざやかな空中ブランコで、まさに「加古川大サーカス」とでもいうような、さばきの大嵐。

 あの最強羽生善治が、ここまで好き勝手かきまわされるとは、なんたることか。

 この将棋は、決め手も見事だった。

 

 最終盤、先手が▲53金と打ったところ。

 次に▲62銀や、が入れば▲71竜からトン死をねらう筋などあるが、ここで感触の良い良い決め手がある。

 

 

 

 

 

 

 

 △21竜と交換をせまるのがトドメの一着。

 ▲同竜の一手に△同角と取って、を逃げつつ、遊んでいるが手持ちの駒になっては後手の勝ちは決定的だ。

 以下、▲51飛△61香▲52銀という、元気も出ない重い攻めに、△75桂と打って決まった。

 

 

 

 以下、考えるところもなく△87から殺到して圧倒。そのまま押し切った。

 2枚角の躍動が、なんだかチェスビショップの動きみたいで、後手だけ違うゲームをやっているかのような錯覚におちいってしまいそう。

 会心の指しまわしで大敵を屠った久保は、8回戦で深浦康市、最終戦では佐藤康光と、やはり手強いところを連破し残留を決める。

 ひとつでも負ければお終いのところに、こんな名局を披露するのだから、久保の精神力も恐ろしい。

 まさに「さばきのアーティスト」の底力を見せた形と言えよう。

 

 ■おまけ

 (久保の芸術的さばきといえば、この将棋

 (久保将棋に魅せられたら、ぜひ大野源一九段の振り飛車も見てください)

 (その他の将棋記事はこちらから)
 

 

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グレゴリ青山『深ぼり京都さんぽ』 海外旅行「ネットあり」の便利さか、「ネットなし」の自由さか

2022年10月07日 | 海外旅行

 「でもウチらが若いころインターネットがなくてよかったと思う」

 「うん、ネットのない時代に知らん国歩けてよかったよね」

 

 先日読んだ『深ぼり京都さんぽという作品の中で、そんなことを言ったのはマンガ家でイラストレーターのグレゴリ青山さんであった。

 

 

 

 

 

 「未知」のおもしろさか「便利」の快適さか。

 今では「スマホなしで海外旅行」など、まず考えられないだろうが、はそれがごく当たり前の話であった。

 私が主に海外旅行を楽しんでいた、90年代後半から2000年代初頭でも、ネットを利用するとなると現地のインターネットカフェを活用するくらいで、日本語対応のパソコンもないことも多く、あまり便利とは言えなかったのだ。

 なのでグレゴリさんのような「なし」の時代のリアリティーも、十分すぎるほど理解している世代だが、ではこれが

 

 「ない時代に歩けてよかった」

 

 これに賛成なのかと問うならば、そこはもう断然

 「ネット万歳派」

 これなのである。

 というと、かつてのバックパッカー仲間から、

 

 「裏切り者」

 「堕落したな」

 「フ、ド素人が」

 

 バカにされそうだが、いやー、これはホンマにそうなんです。

 ネットで宿や乗物の予約ができて、地図もナビしてくれて、調べものもチョチョイノチョイの今の状況が、とってもですばらしい。

 と言いたくなる理由に、まず宿探し嫌いということがあった。

 今はあらかじめ予約して、ナビの示す通りに行けばホテルやユースホステルにたどりつけるが、いにしえの時代はそうはいかない。

 自由旅行をしていると、まず空港についたところから、自力で宿を探さなければならない。

 これがしんどい。ロッカーでもあればいいけど、そうでない場合は重い荷物を背負って、街をさまよわなければならない。

 「ホテル街」(というとなにやら誤解をまねきそうだな)があればいいけど、そうでないと1軒1軒の間が遠くて足がガコガコになる。

 で、手あたり次第に良さそうな宿(これを選別するのも手間だ)をめぐっては「空いてますか」と聞いて回るのだが、これが大変だし、部屋を見せてもらって満足できないことも多い。

 そもそもシーズン中や、夕方くらいに街につくと、どこに行っても「full」の札が揺れており愕然とする。

 この「今日の宿が見つからない」プレッシャーはなかなかのもので、暗くなると、ほとんど恐怖になる。

 しかも、仮に首尾よく宿が見つかったとて、そこからまた、ロッカー荷物を取りになどに戻らないといけなかったりする。

 もう、これがしんどすぎて、実際かつてイタリアを旅行したとき、8月フィレンツェでは、どうしてもリーズナブルなホテルが見つからず、ボロボロになったことがあった。

 マジで野宿を覚悟したが、それに同情したある宿のおばあちゃんが、物置に使っている部屋を空けて、そこに格安で入れてくれたが、あの親切がなかったらどうなってたことか。

 下手な外国語でチケット買ったり、迷子になったり言葉がわからないとかいうのは平気なんだけど、この「歩いてホテル探し」の苦痛が、とにかくネック。

 

 

 

 マジでこんな感じです。

 

 

 ガイドブックなどには、

 

 「ホテル探しの道程も、街歩きや観光の一環として楽しみましょう」

 

 とか書いてあるけど、看板探すのに必死で街のことなんか見られないし、そもそも「泊まるとこなかったら、どうしよう」と不安でちっとも楽しめないよ!

 てゆうか、ホテル探すくらいなら、その時間でゆっくり観光したい!

 なんてグチばかり言っていたものだが、このホテル探しを今はしなくてよくなったため、文明の利器バンザイ派なのである。

 この一点だけでも、人類はインターネットを開発した意義がある。ほめてつかわすぞ。

 もちろん、いいことの中に失われたこともあるわけで、私の場合は前日の夜などに「明日どこに行こう」と考える自由さだ。

 ネットで宿の予約をできるのは無敵だが、一回取ってしまえば絶対にそこに泊まらなくてはならない。
 
 その点、宿など事前に決めようもなかった時代では、そのあたりをメチャクチャいい加減に決められた。

 それこそ、パリで明日ロンドンに行こうと決めていても、その日の気分や旅行者同士の情報交換で惹かれたら、突然イスタンブール行きの長距離バスに飛び乗ったり。

 コペンハーゲン行きの夜行列車に乗ったり、マルセイユから船でアルジェリアに渡ったりもできる。

 その突発性の魅力。

 なにも決めずに、ユースのベッドで寝転がってとか、あるいは朝コーヒーを飲みながら「トーマス・クック時刻表」をめくり「次の目的地」を思いつきで考える楽しさ。すぐ動ける軽やかさ。

 それがなくなってしまったのは残念で、その意味でグレゴリさんも、

 

 「ネットなしで海外って、すげえな」

 

 おどろいていた友人ヤオ君も、どちらの旅行者の気持ちも理解できるのだった。

 

 

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さばかれた世界 久保利明vs羽生善治 2005年 第63期A級順位戦 その2

2022年10月04日 | 将棋・名局

 前回の続き。

 2005年の第63期A級順位戦

 羽生善治四冠久保利明八段の一戦は双方5勝2敗という、名人挑戦をかけた直接対決

 生き残りのためには、負けるわけにいかない大一番だが、序盤は「さばきのアーティスト」の魔術が冴えまくり、久保がペースを握ることに成功する。

 

 

 △14角と打って、振り飛車がこれ以上ないほど、うまくいっている。

 平凡な▲21竜△58角成から殺到され、寄せられてしまう。

 かといって飛車を渡すわけにもいかず、進退窮まっているように見えるが、ここでアッサリとあきらめるようでは四冠王の名が泣く。

 ましてや順位戦ともなれば、そう簡単に投げるわけにいかないということで、あれこれと手を尽くすのだが、ここからは羽生の腕の見せどころだ。

 まず▲37金と打って、△同竜と取りの形にしておいてから▲14竜と、逆モーションでこちらのを取るのが、いかにも「ひねり出した」という手順。

 

 

 

 

 △14同歩▲37桂で、駒損が残りるうえに遊んでいたもさばかせて、これは後手がおもしろくない。

 そこで△26竜とかわすが、▲16竜とぶつけるのが、またも不思議な形。

 

 

 

 

 こんなところで竜交換を求めるなど、見たこともないやりとりで、なんだか「不思議流」と呼ばれた中村修九段の将棋みたいだ。

 △29竜と駒を補充しながら敵陣に入るが、そこで▲45角と放つのが、また面妖な手。

 

 

 

 攻守ともに、利いているのかどうか微妙だが、このふんわりした感じが、羽生将棋の真骨頂で、依然後手が優勢ながら簡単には土俵を割らない。

 クライマックスはこの場面。 

 

 

 やはり久保優勢な局面で、一目は後手が勝ちである。

 次に必殺の一手があるからだ。

 

 

 

 

 

 △89角と打つのが、カッコイイ寄せ。

 ▲同金△69飛成と取って、▲同玉△68金まで詰み。

 ▲同玉しかないが、やはり△69飛成と取られて、▲同金頭金だから取れない。

 決まったようにしか見えないところだが、まだ勝負は終わってないのだから、将棋を最後まで勝ち切るのは、本当に大変な作業である。

 ましてや、相手があの羽生善治となれば。

 次の一手が、これまた実にしぶといのだ。

 

 

 

 

 ▲78飛と、この日2度目の自陣飛車で耐えている。

 大駒を自陣で受けに使うときは、「飛車」のイメージでというが、まさにそんな形だ。

 羽生玉をここまで追いつめ、あと一歩、それこそ指一本分でも伸びればそれで倒れているような王様だが、そのわずかが届いていない。

 なにかはありそうなこの場面で、久保は残り4分になるまで懸命に考えたが、ついにとどめをさせず△19竜とゆるむ。

 それでもまだ後手が優勢だったが、玉頭戦のもみ合いの末、ついにうっちゃられてしまった。

 以下、羽生が逆転で勝利し2敗をキープ。その後、藤井が敗れ、最終戦も勝った羽生が名人挑戦権獲得を果たした。

 久保には残念だったが、敗れたとはいえ序中盤を圧倒したさばきは、まさに神業級のすばらしさ。

 そこからの羽生の曲線的なねばり腰と合わせて、両者の力が存分に発揮された、名局と言っていいのではあるまいか。

 

 

 (久保が魅せた「さばき」の大サーカス編に続く)

 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

  

 

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さばくのは俺だ 久保利明vs羽生善治 2005年 第63期A級順位戦

2022年10月03日 | 将棋・名局

 久保利明のさばきは将棋界の至宝である。

 よくスポーツ選手などがインタビューで、リオネルメッシロジャーフェデラーのようなあこがれのアスリートについて熱く語ったあと、

 

 「でもプレーの参考にはしません。すごすぎて、とてもマネできないので(笑)」

 


 なんて締めることがあるが、将棋界だとそれは「久保のさばき」にあたるのではあるまいか。

 あれはねえ、ホントにマネなんてできませんぜ。

 

 2005年の第63期A級順位戦

 羽生善治四冠久保利明八段の一戦。
 
 名人挑戦をかけたリーグ戦は、羽生と久保の双方5勝2敗という直接対決

 2敗にもうひとり藤井猛九段もいるため、生き残りをかけた大一番だ。

 後手の久保が得意のゴキゲン中飛車に振ると、羽生は▲36から速攻でくり出して行く。

 むかえたこの局面。

 

 

 


 ▲35歩と打って、一目後手が困っている。

 飛車の行く場所がないし、かといって△同角▲同銀△同飛▲36歩と一回受けてから▲21飛成で先手が大優勢。

 後手が困っているようだが、実はこれが久保のしかけたで、すでに振り飛車のさばけ形

 羽生はレールの上に載ってしまった自覚こそあったが、気づいた時にはすでに軌道修正が不可能だったそうだ。

 

 

 

 

 

 △27歩、▲同飛、△26歩、▲同飛、△23歩できれいに受かっている。

 ▲同銀不成△35飛▲36歩△55飛を取って、▲同角には△26角飛車を取られて駒損してしまう。

 本譜は▲34歩と取るが△26角と取って、包囲網を突破することに見事成功。

 

 

 

 

 敵の駒を引きつけるだけ引きつけて、戦線が伸び切った瞬間、一気にを仕掛ける。
 
 まるでドイツ軍の名将エーリヒフォンマンシュタインが得意とした「機動防御」のようであり、もうシブすぎる指し回しなのだ。

 ▲24にあるの処置に困った羽生は▲28飛自陣飛車を打つが、後手から△49飛がきびしい打ちこみ。

 以下、▲26飛△47飛成▲58角が、いかにも苦しいがんばり。

 

 

 

 

 △38竜▲23銀成△57金と打って▲59歩の受け。

 そこから△58金、▲同歩、△23金▲同飛成とわかりやすく清算して△14角と打つのが指がしなる一着だ。

 

 

 

 将棋の本をサクサク読むコツ

 「むずかしい手順はどんどん飛ばす

 ことだが(お試しあれ)、ここをあえて載せてみたのは、流れるような久保のさばきを味わってほしいから。

 あの完封されそうだった飛車が、気がつけば先手陣のド急所をねらう位置にいるのだから、もう笑いが止まらない展開ではないか。

 四冠王だった羽生相手に、ここまでかきまわせる「さばきのアーティスト」も見事だが、ただ順位戦はここからが長い

 これまでは久保のワンマンショーだったが、ここからは羽生が魅せるターンで、そう簡単に勝負は終わらないのだ。

 

 (続く

 

 

 

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