2022年ラストラン

2022年12月31日 | 日記

 2022年も、もうすぐおしまい。

 私はこの年末年始ゴロゴロ時間が大好きで、このときのために1年がんばっている(たいしてがんばっていない)ようなものである。

 仲のいい友人との忘年会以外は、なにも用事を入れず家でおこもり。

 ひたすら本を読みながら、たまに映画を観て、昼寝して、散歩して、気が向いたら銭湯に行って。

 湯上りに濃いめのカルピスを飲みながら、おこたでラジオを聴いて、自転車ロードレースやテニスを見ながら、気がつけばまた眠っていたり。

 『ファーゴ』のシーズン2を観るのが楽しみなんだよなあ。

 最近ようやく見たのよ1を。おもしろかったなー。ああいう「大暴れドラマ」は大好き。

 ということで、今回はぷよぷよ頭で今年を振り返っておしまい。

 とりとめなんかないので、こんなの私の顔ファン以外は全然読まなくていいです。では、ドン。

 


 ヨーロッパの映画やドラマをよく見た、フィジェットキューブを買った、岡田斗司夫のスマートノートを再開する、語学系YouTubeにハマる、子供のころセーブデータを吹っ飛ばした『ドラクエ3』をこの歳でやり直してやっとクリア、『ドラゴンクエスト2』も何十年ぶりかで再プレイするもムチャクチャ不条理で笑いそうになる、兵動さんとウェザーロイドの漫談打率がすごすぎる、なぜかフランス語をはじめる、『ジョーカー』『セッション』は好き嫌いに関わらず一度は観るべき映画、孔明の出ない回の『パリピ孔明』なんてジャック・ニコルソンの出ない『シャイニング』みたいなもん、ネットとリアルの両方で変な粘着にからまれる、DEEPLとかエルサスピークとか英語アプリがすごすぎ、『ジャイアントキリング』を一気読みする、とりあえずバナナと豆乳と卵と納豆とドライフルーツ入りナッツを食っておけばいい、 『摩由璃の本棚』がkindleになっていたので即買い、「窮屈な社会」という言葉に「そうなった戦犯のひとりに松ちゃんも入ってると思うけどなあ」とか苦笑い、アルカラスのスター性は期待できるがテニスのタイプ的に好みなのはメドベージェフのほう、すっかり寒さに弱くなった、病気や戦争のニュースは苦手だ、来年はたくさん本が読みたい、映画も観たい、そうしてまたたいして変わらない1年を過ごす、それもまたよし。

 


■今年おもしろかった本

 

飲茶『哲学的な何か、あと科学とか』

衿沢世衣子『制服ぬすまれた』

ディック・フランシス『興奮』

樹村みのり『フライト』

J・M・クッツェー『恥辱』

田中真知『アフリカ旅物語』

アーウィン・ショー『サマードレスの女たち』

村田 沙耶香『コンビニ人間』

猿谷要『ミシシッピ川紀行』

ジョージ・オーウェル『動物農場』

小泉喜美子『男は夢の中で死ね』

米澤穂信編『世界堂書店』

広瀬正『ツィス』

 


■今年おもしろかった映画・ドラマ

 

『ブックスマート』

『ジョーカー』

『パンズ・ラビリンス』

『おとなの事情』

『アイアン・スカイ』

『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』

『エスター』

『ラビリンス1945 平和の虚像』

『クリーピー 偽りの隣人』

『ファーゴ』シーズン1

『ウインド・リバー』

『コリーニ事件』

『希望の灯り』

『ジュディ 虹の彼方に』

『インターステラー』

『ドイツ1983』

『ブラウン神父 シーズン1』

 

 それでは、本年はここまで。

 サンキュー、バイバイ!

 また来年。

 

 

 

 

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ダイヤモンド野澤輸出 M-1グランプリ最下位記念「おもしろ将棋」

2022年12月28日 | 将棋・雑談

 「おもしろ○○」
 
 というお笑いジャンルがある。
 
 これは、先日行われたM-1グランプリ2022年でスベ……高得点を獲得する笑いに不自由していたお笑いコンビ、ダイヤモンド野澤輸出さんが、主にツイッターなどで披露しているもの。
 
 
 【例】

 
 ★おもしろ湯

 「ぬるま」
 
 ★おもしろサンダルの呼び方
 
 「つっかけ」
 
 ★おもしろするだけ
 
 「チン」 
 
 ★おもしろ朝ドラスタッフ
 
 「ことば指導」 
 
 ★おもしろくるしい
 
 「愛」
 
 

 ちなみにこれは、アレンジ(?)して漫才にもなっている。

 私はダイヤモンドのネタが大好きで、特に「竹ブラジル」は


 
 「マジ、ただの天才やん」
 


 感動したものだが、その才能の特異性ゆえにM-1決勝では期待と同時に
 
 「危ないかもなあ」
 
 危惧していたら、それがモノの見事に当たってしまった。
 
 まあ、ダイヤモンドのファンは意外と予想してたかもしれないけど、出演後の表情や言動を見ていると、マヂカルラブリー野田さん言うところの


 
 「ポップ最下位」


 
 に変換できそうだし、これから期待できるのではないか。
 
 ということで、みんなダイヤモンドの漫才と、野澤さんのツイッターを見よう!

 と今回はこれだけが言いたかったんだけど、なんだかここで終わるのも愛想がない。
 
 そこで、私もひとつ野澤流「おもしろ○○」にチャレンジしてみたい。
 
 テーマは「おもしろ将棋」。ぜひ、野澤さんの相方である小野竜輔さんの声で、読み上げてください。

 


 

 ★おもしろ八大タイトル 

 「竜王」

 

 ★おもしろ棋戦優勝者

 「達人」
 
 
 ★おもしろ女流タイトル
 
 「女王」


 ★おもしろ無冠

 「前名人」


 ★おもしろ戦法

 「タコ金」
 
 
 ★おもしろ囲い
 
 「カニ」


 ★おもしろ矢倉囲い

 「流れ」
 

 ★おもしろ美濃囲い

 「ちょんまげ」
 
 
 ★おもしろ棋風

 「地蔵流」


 ★おもしろ負け方

 「トン必至」
 
 
 ★おもしろ反則
 
 「行きどころのない駒を打つ」


 ★おもしろ駒

 「竜馬」


 ★おもしろ盤

 「足つき」

 

 ★おもしろ飛車

 「生飛車」

 

 ★おもしろ角

 「成り角」

  
 ★おもしろ盤外戦術
 
 「たくさんご飯を食べる」

 

 ★おもしろ千日手
 
 「一人」

 

 それではみなさん、よいお年を。

 

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エンダーのゲーム 羽生善治vs島朗 1989年 オールスター勝ち抜き戦

2022年12月25日 | 将棋・名局

 「最後は羽生さんが勝つゲーム」

 将棋について、こんな言葉を残したのは藤井猛九段であった。

 ネット中継のどこかで聞いたような気がするので、ややうろ覚えだが、

 

 「将棋とは1対1で、盤と20枚の駒を使って戦い、最後は羽生さんが勝つゲーム」

 

 みたいな言い回しで、かつては「一歩竜王」の伝説となった竜王戦七番勝負で勝利をおさめ、羽生の「2度目七冠ロード」を阻止したこともあるという藤井猛が言うと、なにやらただの賞賛や自虐ではすまない凄味が感じられる。

 そんな羽生将棋は、少年時代からその強さが、特に終盤力が圧倒的で、どんな不利な局面におちいっても、

 

 「でも、結局は最後、羽生がなんとかするんでしょ」

 

 みたいな空気感が支配的。

 実際、羽生はその期待(諦観?)に応えて、あざやかな絶妙手を駆使し、勝利をおさめるのだ。

 そこで前回は村山聖九段との激戦を紹介したが、今回はこれもまた伝説となった研究会を主宰し、羽生に多大な影響をあたえたであろう先輩との一局を見ていただきたい。

 

 1989年オールスター勝ち抜き戦

 島朗竜王羽生善治五段との一戦。

 島と羽生と言えば、かの有名な「島研」でしのぎを削った間柄であり、のちに何度もタイトル戦で顔を合わせることにもなる。

 オーソドックスな相矢倉から、派手な駒交換になり、後手の羽生が一気に攻めこんでいく。

 島はを駆使してしのごうとするが、羽生もうまく手をつないで先手の矢倉を壊していく。

 むかえたこの局面。

 

 

 


 先手陣はうすく、が強力なようだが、それを責められると

 

 「玉飛接近すべからず」

 

 格言通り、先手先手で寄せられてしまう可能性も高い。

 とはいえ先手からも、▲41銀と掛ける形が矢倉攻略の基本のキであり、状況によっては一撃で仕留められてしまう恐れもあるところ。

 歩切れなのも痛く、後手優勢ではあるが油断できないところで、次の手をどうするか難しい局面だが、ここで羽生が鬼手を放つ。

 

 

 

 

 

 


 △86銀と打つのが、意表の一手。

 があれば△86歩だが、無い袖は振れないわけで、ならばとタダでというのがすごい発想。

 ひょえーと声が出そうだが、今ならそれこそ藤井聡太五冠が指しそうな手ではある。

 ▲同竜の一手に△85香と打って、が逃げられないから(△89竜で1手詰み)、これで決まっているようだが、島も▲77角としぶとく受ける。

 

 

 

 島といえば妙にあきらめのよいときもあり、「早投げ」のイメージも強いが、こと一旦ねばると決めたときには、このように万力でロックしたかのごとく、しがみついてくる。

 △86香には▲同角で、これが▲34桂△33玉▲32銀成△同玉▲42金のような筋で、詰まされても文句は言えないという、危険きわまりない形。

 羽生は竜を取らずに一回△42金寄と辛抱し、▲65歩の王手に△44銀

 そこで▲35桂がきびしい反撃で、△41金▲43桂成で、後手陣も相当にせまられている。

 

 

 

 

 逆転しててもおかしくない流れで、羽生は△89銀▲87玉△86香と王手でをはずして、▲同玉△82飛

 

 

 

 

 王手しながら、飛車横利きで受けにも利かした攻防手だが、ここで先手に絶対手といってもいい一手がある。

 

 

 

 

 

 ▲83歩と打つのが、是が非でも覚えておきたい手筋

 △同飛は飛車の横利きが消え、後手陣が格段に寄せやすくなる。

 この歩のような筋が、読みとか以前に本能で指せるようになると、初心者から中上級者への壁を突破できたと言っていいのではあるまいか。

 とはいえ、△83同飛と取るしかない羽生は、▲76玉△94角と必死の追撃。

 ▲66玉で手順に先手の角道を遮断し、▲44角の王手を消したものの、△69竜▲68香で、先手玉にまだ詰みはない。

 ここで弾切れになった後手は▲34桂を防いで、いったん△33歩と手を戻す。

 

 


 さあ、クライマックスはここだ。

 島の手をつくしたがんばりに、ここではすでにムードがアヤシイ。

 手番をもらった先手には大チャンスで、後手陣にいかにも寄せがありそうだが、次に指した手が痛恨だった。

 

 

 

 

 

 ▲52銀と打ったのが敗着。

 この手は次に▲32金から入って、△同金、▲同成桂、△同玉に▲43▲32▲22と、をペタペタ並べていけば詰むという一手スキ

 ▲83歩の効果で、飛車の横利きを消された後手は△52同飛のような手段も失って、一目受けがない。

 先手玉に詰みはなく、後手は持駒もないためワザもかかりそうにないようだが、ここでまさかの切り返しがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 △64歩と突くのが、盤上この一手のあざやかなカウンターショット。

 これが、▲32金、△同金、▲同成桂、△同玉、▲43金△同飛と取れるようにしながら、△65銀と出る詰み筋を作った、きれいな「詰めろのがれの詰めろ」なのだ。

 この手があるなら、▲52銀では▲52金とするべきだった。

 

 

 

 

 これなら、△64歩としても、▲32金からバラして、飛車の利きに入らない▲42金打から、▲31銀の順番で打って行けば詰む。

 とはいうものの、こういうところはというのが

 後手陣は、金を手持ちにしておいたほうが詰みやすそうだし、▲43成桂ヒモをつけているのも、一目いい感じ。

 また、なにかで△41を取る展開になったとき、▲41金より▲41銀不成と取りたいのが人情ではないか。

 そりゃ時間がない状態で、ここのかの選択を迫られたら、とっさにを手にしてしまうよなあ。

 ▲52金と、▲43成桂の組み合わせに、どうしても違和感があるのだ。

 いやあ相当打てない、ここでは。

 AIならこれは一目であろうが、その意味では先入観にとらわれないAIと、「経験」が大きな武器であり、同時にそれが「思いこみ」を産んでしまうこともある人間の特徴を比較するのに、よい例となるかもしれない。

 つまりは、それくらい難解で、紙一重の終盤戦だったということだ。

 よく居飛車党からは

 

 「矢倉はすべての駒が働くから楽しい」

 

 という意見を聞くが、それが実感できる熱戦でした。いい将棋ッス。

 

 (羽生の大番狂わせ編に続く)

 

 ■(その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 

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ジョー・ダンテ『MANT!』と『マチネー/土曜の午後はキッスで始まる』はB級映画大好き青春映画

2022年12月22日 | 映画

 『マチネー/土曜の午後はキッスで始まる』を観る。

 ジョーダンテ監督。1960年代のアメリカ、フロリダ州の田舎町を舞台にした青春ラブコメディーだ。

 子供たちのういういしい恋愛感情に、世界を震撼させた「キューバ危機」をめぐる混乱と、監督自身の映画へのをまぶした、なかなかいい感じの佳作に仕上がっているが、やはりこの映画の最大のポイントは、オープニングで紹介されるアレ

 主人公たちがのドタバタを披露するのは、街にある映画館(と、その地下にある核シェルター)なんだけど、そこでかかる映画というのがイカしている。

 忍び寄る突然変異体、逃げまどう群衆、絹を切り裂くような美女の悲鳴……。

 そう、それこそが蟻と人間の合体した「アリ人間」が人を襲う恐怖映画、『MANT!』なのだ!

 『MANT!』。

 

 

 

 

 これを見せられた時点で、みんな思いますよね。

 あ、これ絶対オモロイ映画やん、と。

 オープニング・クレジットのバックに予告編が流れるんだけど、これがやたらと演出がおどろおどろしいとか、悲鳴がやかましいとか、役者の演技が微妙とか。

 でも、アリ人間の着ぐるみだけやけに出来がいいとか(笑)、いやもう、

 

 「ジョー、わかってるやん!」

 

 という内容。タイトルもすばらしい!

 

 

 

 

 

 開始数分で「勝ったも同然」と思わせる出だしだが、さらにピュウと口笛でも吹きたくなるのが、『MANT!』の監督であるローレンスウールジー

 

 

 

 

 アルフレッドヒッチコックのバッタもんのようだが(劇中間違えられて不機嫌になるシーンもある)、モデルはオーソンウェルズとか、ウィリアムキャッスルとか、エドウッドとか、ロジャーコーマンとか、そのへんの「ハッタリ」系の天才映画人が持つケレン味を詰めこんだ感じ。

 口八丁の手八丁、サービス精神旺盛で、映画が当たりさえすればどんなウソでも平気でつけるという、クリエイターというよりは興行師という呼び名の方が似合うタイプ。

 この人が実に味があって、「アトモビジョン」(もしかして「アトミック・ビジョン」?)なる、あからさまにうさんくさい「発明」を看板にあげながら、堂々と会場に乗りこんでくる。

 その正体は映画のアクションに合わせてが出たり、が立ち込めたり、スクリーンの向こうから本物(?)のアリ人間が飛び出してくるなど、今でいう「4DX」の走りのようなもので、これがなかなかのアイデア。

 実際、劇中の上映シーンでも観客は大喜びで、ストーリとともにそのドタバタもゴキゲンで楽しいのだ。

 そのB級感が、なんともいえない。「4DX」のような「流行の最新設備」ではなく、どちらかといえば移動遊園地の「見世物小屋」テイスト。

 マリトッツォやカヌレでなく、カルメラ焼きベビーカステラのお店。チープだけど、それがいい。楽しい

 本編の恋模様と、このやたらと大仰なスラップスティックのバランスがよく、実にうまくできている。

 いやあ、オレも、この映画館行きたいよ!

 ストーリー自体は正統派なラブコメで、中学のクラスメートであるジーンサンドラが、ひょんなことから地下の核シェルターに2人きりで閉じこめられて、もうドキドキ。

 そのうち『MANT!』が上映されると、その音や振動で2人は「第三次大戦」がはじまったとカン違いして、

 

 「どうせ死ぬんやったら……」

 

 顔が徐々に近づいて行って、いやもうこれキスするんちゃうか……。

 ……て、ワシらがアリ人間の映画観てるウラで、お前ら、そんなイチャイチャすな!(笑)

 そんな、とってもカワイイお話です。 

 バカっぽく見せかけてるけど、当時の風俗とか、「核戦争」「第三次大戦」の緊張感など、意外と幅広い見どころのある作品。

 上映時間も90分ちょっとと、コンパクトでサクッと見られるし、それこそ土曜日のデートにもいいかも。

 あと、この映画とかローレンス・ウールジーに魅せられた人は、ぜひセオドアローザックフリッカー、あるいは映画の魔』という小説もどうぞ。

 ちょっと長くてマニアックだけど、メチャクチャにおもしろいです。『このミス1位は伊達じゃない!
 

 

 ★おまけ ウールジーの傑作『MANT!』(ジョーはちゃんと全編撮っているのだ。エライ!)は→こちら

 

 

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チャンピオンたちの朝食 羽生善治vs村山聖 1989年 第47期C級1組順位戦 その2

2022年12月19日 | 将棋・名局

 前回の続き

 1989年C級1組順位戦羽生善治五段村山聖五段の一戦は、将来の「名人候補」の対決らしい大熱戦になった。

 

 

 

 図は先手の村山が少し不利ながら、手順を尽くして金銀両取りをかけたところ。

 これがなかなかの迫力で、こうなると先手の攻めも相当に見える。

 村山らしい力のこもった切り返しだが、羽生はここから見事な組み立てで、この攻撃をしのいでしまう。

 

 

 

 

 

 まず△25飛と打つのが、しのぎの第一弾。

 がない先手は▲27桂と、つらい辛抱しかないが(これが▲24歩と打ち捨ててしまった罪)、これで遠く△85ヒモをつけてから、今度は△72角と打てば、なんと両取りがピッタリ受かっている。

 

 

 

 

 

 いや、受かっているどころか、これが▲54に当たっており、しかもその先には飛車角両方とも、先手陣の急所である▲27の地点もねらっている。

 もう、一石で何鳥落としたかわからないくらいの、利きに利きまくった絶好の攻防手になっているのだ!

 まるで手品のようなしのぎに、見ているほうは茫然とするしかないが、羽生からすれば「ま、これくらいは」てなもんであろう。

 村山は▲46金と戦力を足すが、一回△68角成として、▲45金△33玉▲85飛成△23銀と味よく受けて先手が足りない。

 

 

 

 以下、▲82竜△67馬▲35金△54角と取って、いよいよ仕上げに入る。

 手段に窮した村山は▲62竜を差し出すしかない。


 

 

 

 大熱戦も、ついに幕を下ろすときが来たようだ。

 先手玉には詰みがあるのだが、この手順がなかなかいいものなので、少し考えてみていただきたい。

 △27角成から入って、途中くらいまでは私レベルでも思いつくが、そこからの流れにちょっとした味がある。

 ヒントはの軽やかな舞。手数は逃げ方によるが、19手詰くらいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 正解はまず△27角成として、▲同銀△同飛成とこれも捨てて、▲同玉に△15桂

 ここまではわかるとして、▲16玉△25銀と打つのがシャレた手。

 

 

 

 ここでウッカリ△27銀と先に打つと、▲15玉で詰まない。

 これは大逆転で、後手が負け。

 いつも思うのは将棋の終盤戦はよく「スプリント勝負」など言われるが、実際に一番近いのは「弾丸摘出手術」「爆弾処理」「ジェンガ」といった作業ではないのか。

 ここは先に△25から打って、▲同金△27銀が正着。

 こまかいようだが、これであらかじめ、▲25に寄せておくのがミソ。

 ▲15玉△14銀と出て、▲26玉

 

 

 

 ここで△25銀を先に打った意味がわかる。

 次の1手が、これまた詰将棋のように華麗な手で、拍手、拍手。

 

 

 

 

 

 

 

 △36銀成と一回王手していた銀を成り捨てるのが、両雄の戦いを祝福するかのような、さわやかな収束。

 ここを単に△25銀▲27玉で「あ!」となる。

 △36を捨ててを前進させておけば(▲25に寄ってないと、ここで▲同金がある)、▲同歩、△25銀、▲27玉に△36銀と出られるから詰み。

 △27角成を決行する前、羽生は時間を6分残していたが、消費わずか1分でサッと決断。

 

 「余裕で読み切ってますよ」

 

 という宣言みたいなものだから、単に詰ますだけでなく、村山に対するアピールの意味もあったのかもしれない。

 こうして東西天才対決は羽生の勝利で終わった。

 終局後、羽生が去ったあと盤の前にひとり残された村山は、ポツリとつぶやいたそうだ。

 

 「なんて強いんじゃ……」

 

 髪をかきむしり、顔をおおって、もう一度しぼり出すように、

 

 「なんて強いんじゃ!」

 

 この期、羽生は8勝2敗で締めくくりながら頭ハネを喰らうも、次の年はまたも村山に、佐藤康光森下卓という競争相手を直接対決で吹っ飛ばして全勝昇級を決める。

 村山はC1こそ4年かかったものの、B級2組は幸運もあって1期抜けを決める。

 続くB級1組2年でクリアし、羽生に2年遅れたものの、堂々のA級棋士になるのだった。

 

 (島朗との熱戦に続く)

 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 

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「西の怪童丸」との対決 羽生善治vs村山聖 1989年 第47期C級1組順位戦

2022年12月18日 | 将棋・名局

 藤井聡太羽生善治のタイトル戦が、ついに実現した。

 ということで、当ページはこのところ「羽生善治特集」になっており、主にまだ10代のころの将棋を取り上げている。

 今の藤井聡太五冠が20歳だから、このころの羽生とくらべてみるのも、おもしろいかなーとか思っており、そこで今回もヤング羽生将棋を見ていただきたい。

 これまでは格上のタイトルホルダー中堅クラスの棋士との戦いが多かったが、今回は同年代同士の戦いを。

 いわゆる「羽生世代」のレジェンド棋士が、10代のギラギラ感を漂わせたまま、最大のライバルにぶつかっていく様を、どうぞご堪能ください。

 

 1989年、第47期C級1組順位戦の8回戦。

 羽生善治五段村山聖五段の一戦。

 昨年度、C級2組を抜けた羽生と村山は、当然のごとくC1でも昇級候補バリバリで、リーグの目玉になることを期待されていた。

 ……はずだったが、そこは順位戦というもののおそろしさ。

 羽生は途中、佐藤義則七段剱持松二七段という中堅ベテランの棋士に苦杯を喫し、大苦戦のレースを強いられる。

 一方の村山も、こちらは昇級候補にあげられている神谷広志六段室岡克彦五段との直接対決に敗れ、すんなりとは上がらせてもらえない模様。

 星の上では上位に室岡克彦五段、浦野真彦五段西川慶二六段伊藤果六段がいて、村山の場合など、さらに羽生と泉正樹五段まで叩き落されることとなった。

 「名人候補」の2人が5、6番手に追いやられるというのが、特に人数の多いCクラスのおそろしいところだが(なんて息苦しい制度なんだ。いいかげんにしてほしい)、どっちにしろ、ここで負ければおしまいなのは両者共通しているところだ。

 将棋のほうは村山先手で、羽生の横歩取りの誘いを拒否し、ひねり飛車に組む。

 玉をしっかり囲った羽生が△93桂から動いていくが、ここからプロらしい押したりり引いたりの中盤戦に。

 ワザをかけるぞ、かけさせないぞ、のこまかいやり取りは渋くて難解だったが、局面が動いたのはこのあたりだったと言われている。

 

 

 

 先手が▲24歩△同歩を入れてから▲45角と打ったところで、これが玉頭と、遠く△81飛車もねらったするどい手。

 専門的には、ここでは▲24歩保留して、単に▲45角のほうが良かったらしいが、どこかで▲23に駒をぶちこむ筋もできるから、こう指したくなる気持ちはわかる。

 次に▲43銀成と突っこまれると、これが飛車取りにもなっていてまいる。

 羽生は1回△59と、を入れて▲39金△85飛と、のラインを外しながら横利きで玉頭をケアする。

 村山は▲34角とせまる。ここで、ふつうに受けていてはダメと見て、羽生は△44桂と一発カマす。

 

 

 

 きわどいタイミングでの桂打ちで、逃げてくれるなら打ち得ということだろうが、この瞬間がかなり怖いところ。

 現にここでは▲23歩とたたいて、△同金▲43銀不成と特攻し、△56桂と飛車を取られたときに▲同金(!)で先手もかなり有望だった。

 

 

 

 

 飛車をほとんどタダのような形で取らせるのは思いつきにくいが、このジッと▲56同金がなかなかの手で、

 「4枚の攻めは切れない」

 の格言通り、後手も振りほどくのは大変なようなのだ。

 村山も、もちろん見えていただろうが、薄いと見たか自重して▲46飛とかわす。

 これも自然なようだが、ギリギリのところでをゴリ押ししてきた△44桂が通ったというところは、先手が「ひるんだ」とも解釈できる。

 なら桂を打った甲斐が局面的にも、またメンタル的な勢いの面でも大きく、ここでグイっと△33玉

 

 

 

 まるで木村一基九段のような顔面ブロックだが、これが力強い好手で、どうも、このあたりからは羽生ペースになってきたよう。

 村山は苦しいと見たか、▲22歩△同銀▲45飛(!)の勝負手を放つ。

 

 

 

 

 △34玉タダだが、王様を危険地帯におびき寄せてから、▲85飛、△同銀、▲82飛

 

 

 


 この金銀両取りが強烈で、こうなると先手の攻めも、なかなかに見える。

 △62を取られると、△34玉と上がらせた効果で、また△32金取りの先手。

 △85を取らせるのも、の横利きが露出したに直撃してくる。

 先手も相当せまっているように見えるが、そこは相手が天下の羽生善治

 ここからうまい組み合わせの手順で、先手の攻めをうまくいなしてしまうのだった。

 

 (続く


 

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クリスマス前「出会い系パーティー」で、バトルロイヤルの鉄則を見る

2022年12月15日 | 時事ネタ

 前回の続き。

 後輩オウギマチ君につれられて、クリスマス前


 
 「かけこみ出会い系パーティー」


 
 なるものに出席することになった、2004年12月の私。

 話題はこの時期らしくM-1グランプリになり、


 
 「笑い飯優勝間違いなし」


 
 という空気の中、当時まだ無名の南海キャンディーズに注目していた私は、ここをチャンスと判断。

 ダークホースの名前を出し話題をかっさらって、盛り上がったまま後輩にバトンをつなぐ。まさに「修哲のアシスト王」というべき、いい仕事を披露しようとしたわけだ。

 そこで何度目かの


 
 「やっぱ優勝は笑い飯やんな」


 
 との声に、


 
 「ちょっと待って!」


 
 思わず百恵も、プレイバックと歌い出す早業で話に飛び入ると、

 

 「いやいやボクは今年、南海キャンディーズに注目してるねん」

 

 さりげなく披露。
 
 このシブい情報に歓喜した女性陣は、すぐさま感嘆の声を上げ、
 

 

 「さすが!」

 「すごい!」

 「通は見るところがちがう」


 
 絶賛の声を、その身いっぱいに浴びるであろうという予測に反して、その反応というのが主にこういうものだった。

 

 「はあ?」

 「知らない」

 「だれ、それ?」

 

 あれ? あれ?

 どした?

 そう首をひねる間もなく、第二波がやってきて、
 

 「なんで、そんなマイナーな芸人知ってるの?」

 「もしかして、痛いマニア系ですか?」

 「すごい壁を感じる」
 

 などなど、ブレイク寸前の知る人ぞ知る芸人さんの名前を出しただけなのに、なぜかものすごい拒否モードの反応が返ってきた。

 え? え? なんで? そんな急に冷たい
 
 さっきまで、みんなで楽しく飲んでたやないの。

 突然の逆風に、体勢を立て直すきっかけもつかめない私。

 またヒドイというか当然というか、こちらが「しくじった」ことを即座に察知したそこの男子たちが、ライバルを一人でも蹴落とそうと、そこに乗っかって、

 

 「マジ、この人ヤバいッスね」
 
 「いるよなー、マニアックな知識で主導権取れると思ってるヤツ」

 「うわー、激痛やん。なんか、ひくわー」

 

 あおるわ、あおるわ。

 これが、えげつないのは、


 
 「まず一番強いヤツを全員でたたく」


 
 これがバトルロイヤルの鉄則なのに、戦力的には間違いなく下から数えたほうが早いはずのから消しにかかるとは。
 
 仁義もなにも、あったものではないというか、今でいう「炎上」のよう状態だろうか、とにかくなぜか袋叩きに。
 
 まあ、むこうも
 
 「とにかく、ライバルを一人でも削っていきたい」
 
 それだけ皆必死だったのだろうが、こちらとしては、とんだ災難である。

 あまつさえ女の子のひとりに

 

 「なんか、そんな売れてない芸人の話、嬉々として話す人キモイ」

 

 などと。今思い返してもヒドイことなど言われたりして、なにかもう太宰のごとく、


 
 「生まれてすいません」


 
 土下座しそうになったくらいだ。もう、ボコボコですがなあ!

 まあ今思えば「笑い飯優勝」で盛り上がっているところに、皆が知らない別の名前を出して、会話の流れ滞らせたのはマズかったか。

 あと、それが今で言う「知識マウント」をカマしてきたと解釈されたのなーとか想像するけど、まあそのときは泡を食ったもの。

 そういった感情が錯綜する中、人間あせるとロクなことがないもので、

 

 「い、いや、ちゃうねん、こ、これはオウギマチ君に教えられた話やねん」

 

 修正できないまま、当初のもくろみ通りの発言したのだが、これだと後輩をアシストどころか、なんだか

 

 「自分の失言を後輩になすりつけている卑劣な先輩」

 

 としか見えず、場はますます雰囲気が悪くなり、頭をかかえたのであった。

 結局その後、我々はこの大量失点を挽回できず、私のも折れて、なにもできずに終わった。

 これにて「ザンダクロス作戦」は頓挫。もちろん、私はおろかオウギマチ君までも、そのパーティーで彼女ゲットはならず。
 
 後輩はひとりさみしい聖夜をすごし、先輩の評価は地に落ちたわけだが、ひとつ納得いかないのは、その後南海キャンディーズはM-1で準優勝して大ブレイク

 今では予想通り、すっかり人気芸人である。

 ちょう待てい、私の目は確かだったではないか。
 
 そこを見事に射貫いたのに、なんで「キモイ」とか言われなあかんかったんや!
 
 さらに納得いかないのは、この話を聞いてやはり

 

 「そらあかんやろ。南海キャンディーズってだれやねん。女の子だけやなく、オレでもそういうわ」

 

 と笑った友人ヒラカタ君である。

 彼はM-1の後、のうのうと「2005年明けましておめでとうコンパ」なるものに出席し、

 

 「南海キャンディーズって、すごいやろ。オレは昔から目をつけてたから」

 

 などとのたまって、

 

 「えー、ヒラカタさん、あのふたりのこと昔から知ってたんですか? すごい!」

 

 女の子にモテていたという。

 いやいや待て! それはオレの役目や! 
 
 しかも、ただの「にわか」と思われないよう、私から仕入れた「足軽エンペラー」や「西中サーキット」の情報を駆使し、さも前から応援していたように語ってきたという。
 
 まったく、けしからん話であるが、まあ人が「結果」を出せば手の平を返すのはサッカーのワールドカップを見ていてもよくわかる。
 
 つまるところ、それを出せなかった私とオウギマチ君の全面敗北だったわけで、M-1で流れる『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の曲を聴くと、今でもあの時の光景をふと思い出すことがあるのだ。
 
 

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「聖夜に彼女ゲットだぜ!」妄想と、M-1グランプリ2022&2004優勝予想

2022年12月14日 | 時事ネタ

 前回の続き。

 後輩オウギマチ君に頼まれて、クリスマス前「出会い系」合コンだか、パーティーだかに出席することとなった2004年12月の私。

 要は聖夜に向けての「ぼっち」回避のための、テストでいう追試、サッカーでいうアディショナルタイムでのもがきのようなもの。

 ここに発動されたオペレーション「ザンダクロス」により、われわれはクリスマス遊撃隊「ヴェアヴォルフ(人狼)」は大阪の繁華街である難波の地に降り立ったのだった。

 会場はふだんチェーン店になじんでいるわれわれには、ちょっと敷居の高そうなオシャレ洋風居酒屋。

 さすが24日という「暁のデッドライン」がせまっている時期ということで、パーティーとはいえ楽しみながらも、どこか緊張感が漂った雰囲気でもある。
 
 まあ、そこは私の場合、あくまでオウギマチ君のつきそいで、サポートに徹すればいいという気楽さもあって、大いにリラックスしていた。 

 ちびちびとグラスをかたむけながら、さて、どうやって後輩をプッシュすればいいのやら。
 
 機会をうかがっていると、話題は間近に迫った「M-1グランプリ」に流れていった。

 そうなると自然、だれが優勝するだろうと予想などしてみることになるわけだ。

 それこそ、今年のファイナリストは「竹ブラジル」が天才過ぎたダイヤモンドをはじめ、真空ジェシカキュウウエストランドロングコートダディさや香男性ブランコカベポスターヨネダ2000と、ムチャクチャに私好みの人選で個人的にはかなりアツい。

 真空ジェシカがイチ押しだけど、お茶の間ウケしないからなあ。その点では、天然のくんがいるロングコートダディが「使いやすい」かも。

 ダイヤモンドはいつものなネタやってほしいけど、それだと優勝できないか。ストレートに言えば関西人として、さや香に勝ってほしいかなあ。

 などなど盛り上がるところだが、今から18年前(!)のM-1といえば、圧倒的に笑い飯が人気であったのだ。
 
 女の子の一人が、「笑い飯、おもしろいよね」というと、男子たちが太鼓持ちか将軍様に仕える「喜び組」のごとく、


 
 「笑い飯ちゃう?」
 
 「そら、笑い飯やんね」
 
 「絶対、笑い飯で決まりやん。ナヒコちゃん、メッチャええセンスしてるやん!」


 
 追従の嵐であり、思わず「やってんなあ」と苦笑しそうになったが、いや待てよと、ここでこちらの目がキラリと光った。

 こここそ、自分をアピールするチャンスではないのか。

 というのも、その年の私は、もちろん笑い飯がおもしろいのは重々認めながらも、ひそかに注目していた他のコンビがいた。
 
 それが、まだ無名時代の南海キャンディーズ

 今と違って、当時の南海キャンディーズはまったくの世間で知られていなかったが、私はその存在にたまたま触れており、かなりいけるのではないかと思っていた。
 
 お笑い好きの友人もイチ押ししていたし、そもそも、
 
 「足軽エンペラー
 
 「西中サーキット
 
 という、山ちゃんしずちゃんが、以前にそれぞれ組んでいたコンビは関西では若手実力派として認知されていた。
 
 だが、このテーブルでは、まだ一度もその名前が出ていない。

 これは、いかにも大チャンスではないか。

 世間が「笑い飯優勝」一色であるところに、ポーンとここで、ダークホースである南海キャンディーズの名前を出す。
 
 となると、そこにいる女子たちも

 

 「へえ、そうなんですかー。シャロンさんって、お笑いにくわしいんですね」

 

 大いに感心してくれるにちがいない。女子はお笑い好きな人が多いのだから。
 
 笑い飯などというベタなところではなく、玄人はもっと深いところを見ているのだと、きっと喰いついてくれるはず。

 もちろん、心やさしき私はその手柄を独り占めするつもりなどない。
 
 「すごーい!」と、女子が目をハートにさせたところでで、すかさず、

 

 「いやいや、これはオウギマチ君情報やから。彼の笑いのセンスは、かなりのもんなんや」

 

 後輩にあざやかなパスを送り、

 

 「すごいですね、オウギマチさん、わたしもお笑い大好きなんです。クリスマスの日、おひまですか?」

 

 これでカップル成立めでたしめでたし。

 こういう算段だったのである。
 
 こうなればもちろん、仲間のために自らの報酬を犠牲にするという私の男気に、ほだされるという女子も出てくるに違いない。
 
 ホームランより「送りバント」を貴ぶのが、われらが大日本帝国の臣民というものである。


 
 「自分よりもお友達を優先するなんてステキ! もう今すぐ抱いて!」


 
 なんてことになって、渋くスクイズを決めるつもりが、うまく「セーフティ」スクイズとして自分も出塁できるやもしれぬ。
 
 いや場合によっては、甲府学院賀間さんか『燃えろ!!プロ野球』のごとく
 
 「バントでホームラン
 
 というミラクルだって、ありえるのではないか。

 思い出すのは、野球映画『ヒーローインタビュー』。

 そのラストシーンで真田広之さんと鈴木保奈美さんが、

 

 「今夜はベッドでキミをホームラン」

 「場外まで飛ばしてね」

 

 なんてやりとりしているのを爆笑しながら鑑賞したものだが、嗚呼まさか私がここで「ひろゆき」と同じ立場になろうとは。
 
 かように、取らぬ狸の妄想は燃え上がったが、ここからすべてが「皮算用」へと軽やかに転がっていくのは、まあ人生のお約束というものであろう。
 
 (続く
 






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クリスマス「駆けこみ」合コンと南海キャンディーズの思い出

2022年12月13日 | 時事ネタ

 この時期になると思い出すのが、南海キャンディーズでひどい目にあった合コンであった。
 
 もうすぐ、クリスマスである。

 今はどうか知らないが私の若かりしころは、はじけたとはいえ、まだバブルの残り香がただよっていた時代。
 
 なもんで師走と言えば男女とも、特に若い子の醸し出す空気は、ハッキリ二分されることとなり、ひとつは

 

 「余裕しゃくしゃくな人」

 

 もうひとつは

 

 「冬なのに、額に汗しながら走り回っている人」

 

 いうまでもなく、イブを一緒に過ごす相手が、いるかどうかということだ。

 当時はテレビ雑誌などで、

 

 「クリスマスを一人ですごすヤツは、一生地べたをはいつくばって生きる、昆虫以下の生物。マジ、自殺以外に道ない(笑)」

 

 などと、ここは本当に先進国かと疑いたくなるような精神的カツアゲ(本当に、雑誌とかにそんな記事が載っていた)が横行しており、みななんとか「二等国民」の座から、のがれようと懸命だったのだ。

 となると12月ともなれば各所で飲み会や、合コンなどが開かれることとなる。
 
 なんといっても「締め切り」は間近。みな生き残るために必死なのだ。

 これは忘れっぽい私には、めずらしく年度が特定できるが、2004年のこと。
 
 ひょんなことから、後輩オウギマチ君にそういった「出会い系パーティー」に誘われることとなった。

 出会い系パーティー
 
 そんなもんノリの悪い私は、ふだんなら見る聞くなしに断るところだが、オウギマチ君は、

 

 「先輩、お願いします。オレ、クリスマス一人ですごすのはイヤなんス」
 
 
 そのまま土下座せんばかりの勢いで、
 
 
 「まだ24日まで時間あるから、なんとかしたいんス。だから一緒に行ってください」。

 

 などと懇願するのであった。
 
 うーん、そういわれてもなあ。

 だったらもっと、そういうイベントになれた明るいヤツでも連れて行けよと思ったが、後輩によるとそういう連中はとっくに相手を「キープ」済みで、お呼び出ないと。
 
 さらには、あまり手慣れた男を連れて行って、せっかく目を付けた女の子を「トンビに油揚げ」と、目の前でさらわれるリスクも避けたい。
 
 そこで、同じモテな……世間の流行に安易に迎合しない硬派な男であり、一緒にいても自分よりもモテることなどありえないという私に、白羽の矢が立ったわけだ。
 
 「飲み会には、絶対に自分より不美人な子を連れてくるかわい子ちゃん」
 
 と同じ思想であり、まあこういうのは男女を問わず、やることは変わらないらしい……て、おいおい、だれが安パイやねん。
 
 ずいぶんとナメられたもんであるが、まあこっちもヒマと言えばヒマだし、なによりクリスマス前の駆けこみ合コンというのに好奇心がわかないこともない。
 
 そこで半分「潜入取材」のようなノリで行くことにしたわけだが、もちろん私にだって行ってみればなにか、ステキにハレンチなイベントなど待っているやも知れぬ。

 なんといっても、おそらくは東部戦線のドイツ軍よりも必死なオウギマチ君とちがって、こっちは完全に冷やかし

 失うものなどなく、いわば「負けてもともと、勝ったらもうけ」という気楽すぎる戦いなのだ。

 思えば、大学受験資格試験も、こういうアバウトなノリでクリアしてきたもので、私は「消化試合」でこそ力を発揮できるタイプなのだ。

 これはもしや、オウギマチ君以上にワンチャンあんじゃね?

 よし、ここはいっちょう、後輩の尻馬に乗ってみよう。聖夜の桃色遊戯にそなえて、すてきな彼女をゲットとしゃれこむぜ!

 もしかしたら、自分一人だけ「このあと、二人で抜けない?」なんて展開も考えられ、もちろんそのあかつきには、フルスロットルで仲間を裏切る覚悟はできている。

 ここに「ザンダクロス作戦」と命名された任務により、われわれクリスマス遊撃隊「ヴェアヴォルフ(人狼)」は勇躍、大阪は難波の街に出撃することとなったのだった。

 

 (続く

 

 

 

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キングに気をつけること 羽生善治vs関浩&大内延介 1986年勝ち抜き戦&1987年名将戦

2022年12月10日 | 将棋・ポカ ウッカリ トン死

 前回中村修王将戦に続いて、まだ荒削りだった、若手時代の羽生善治九段の将棋を。

 将棋にかぎらず、才能勢いのある若手が活躍するのは、どの世界でもおなじみの光景。

 デビュー当時の羽生もそうだったし、続けてあらわれる村山聖佐藤康光森内俊之先崎学郷田真隆屋敷伸之とか、今でも藤井聡太五冠を筆頭に伊藤匠五段とか服部慎一郎五段なんかも、いつ見ても勝っていて、周囲の棋士からすれば迷惑を感じていることだろう。

 常に年間7割以上、ときには8割勝つ彼らだが、たとえ8割勝っても2割負けるのが勝負というもの。

 そこで今回は「勝って当然」のエリートが見せる2割の負けを、それも「え?」とおどろくレアな負け方を紹介してみたい。


 1986年のオールスター勝ち抜き戦。羽生善治四段と関浩四段との一戦。

 

 

 

 相矢倉のねじり合いから、先手の羽生が▲74と、と引いたところ。

 銀桂交換の駒損ながら、と金が手厚く先手も指せるとの読みだったのだろうが、この構想はそもそも成立していなかった。

 後手から次の手は△86歩だが、▲同歩に続く手を羽生はウッカリしていた。

 

 

 

 

 

 

 △86歩、▲同歩に△55銀と出るのが、「次の一手」のような切り返し。

 ▲同歩とさせてから、勇躍△86飛と走り、▲87歩△77歩成で一丁上がり。

 

 

 

 ▲同金寄△46飛と、きれいな十字飛車が決まって後手優勢。

 駒得なうえに飛車もさばけ、先手のカナメ駒である▲74と金までも空振りさせて、痛快なことこのうえない。

 その後も関が、丁寧な指しまわしで、期待の新人から金星

 これで羽生は、デビューからの連勝で止められ、プロ初黒星を喫する。

 
 続いては1987年の名将戦。大内延介九段戦。

 大内得意の穴熊に対して、羽生は銀冠からうまく指しまわす。

 

 

 

 図はを交換したところで、これからの将棋だが、次の手が参考にしたい一着だった。

 

 

 

 

 

 △25歩と、ここを突くのが、ぜひとも指に憶えさせておきたい感覚。

 が手に入ったので、△26歩、▲同歩、△27歩、▲同銀、△35桂の穴熊崩しを見せながら、△24角とのぞく筋もできている、一石二鳥の味の良い手。

 戦いが起こっているのが7筋なので、どうしてもそこに目が行きがちだが、視野を広く持って指すのが見習いたいところ。

 そこからも羽生が順調にリードを広げ、この場面。

 

 

 

 

 後手の勝ちは決定的で、ここから数手で終わるはずが、まさかの信じられないポカをやらかしてしまう。

 

 

 

 



 △39香成としたのが見落としか、それとも油断かという大悪手





 

 すかさず▲78飛が飛車の横利きを最大限に利用する受けの手筋。

 なんとこれで、受けなしに見えた先手玉に寄りがないのだから、羽生少年も目の前が真っ暗になっただろう。

 先の図では先に△28銀成として、▲同玉に△27金を決めてから△39香成とすれば、せまい穴熊は駒を打つスペースがなく、投了するしかなかったのだから。

 

 

 ▲78飛以下、△28銀不成、▲同玉、△38金から飛車を奪って攻めるが、これがいかにも細い攻めで逆転模様。

 ▲38同飛△同成香、▲同玉、△78飛▲49玉と落ちて、後手の攻めは完全に空振りだ。

 

 

 

 先手玉には詰めろもかからず、後手玉は飛車取りは残っているわ、▲24歩は激痛だわと収拾がつかない。

 大内は「怒涛流」のパワーを見せつけ、あっという間に後手の銀冠を攻略。

 まさかという着地失敗で、「天才」羽生善治にもこういうことがあるのであるが、こういうのをふくめて8割以上勝っているのだから、どんだけ強かったんやという話でもあるのだ。

 


 (若き羽生と村山聖との熱戦に続く)

 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 

 

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うちの本棚の「日本タイトルだけ大賞」

2022年12月07日 | 
 「日本タイトルだけ大賞」という賞がある。
 
 文字通り、本を中身や売れ行きや著者の知名度などまったく度外視して、「タイトルだけ」で選ぼうというもの。
 
 過去には
 
 
 『今日は天気がいいので上司を撲殺しようと思います』

 『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後』

  『顔がこの世にむいてない。』
 
 
 などといった、おもしろそうなタイトルがノミネートされているが、あるとき思いついたことは、
 
 「あれ? これウチの本棚でもできんじゃね?」
 
 私も子供のころから、部屋の含有率が異様に高い、怒涛の読書野郎である。
 
 なので、本棚をながめると、題名だけでもインパクトある作品というのが、けっこうあるようなのだ。
 
 そこで今回は、中からいくつかチョイスして、ここに並べてみたい。
 
 あと、賞のノミネート作品を見て気になるのが、最初から明らかにタイトルから「ねらってる」ものが目立つことで、こういうのは、
 
 「どう? おもしろいでしょ? インパクト充分で、思わず手に取りたくなるでしょ?」
 
 なんて態度でせまられると、冷めることはなはだしい。
 
 その点、ウチの本棚はそんな、露骨にあざといものは少なく、それでいて作者の言語センスが味わえる良タイトルも多い。 
 
 「おもしろそうじゃん」と、手に取ってみる1冊があれば幸いである。
 
 では、ドン。

 

『ウは宇宙船のウ』

『密室殺人ゲーム王手飛車取り』

『鹿男あをによし』

『殴り合う貴族たち』

『翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった』

『ここに死体を捨てないでください!』

『裸はいつから恥ずかしくなったか』

『良い戦争 』

『死んでいるかしら』

『私はいかにハリウッドで100本の映画をつくり、しかも10セントも損をしなかったか』

『アイドル八犬伝』

『仁義なきキリスト教史』

『サンタクロースのせいにしよう』

『砂漠で溺れるわけにはいかない』

『世界は右に回る』

『弱いのが強いのに勝つ法』

『眠りをむさぼりすぎた男』

『ぎろちん』

 

 どれもちょっと変なタイトルですが、中身はおススメのものばかり。気になった作品があれば、ぜひご一読を。

 

 

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「受ける青春」の蹉跌 羽生善治vs中村修 1986年 新人王戦 その2

2022年12月04日 | 将棋・名局

 前回の続き。

 1986年新人王戦

 羽生善治四段と、中村修王将との一戦。

 タイトルホルダーと未来のタイトル候補という好カードは、期待にたがわぬ好局となる。

 

 

 

 

 双方、指す手が見えにくい局面で、△95歩と端を突いたのが、中村のセンスを見せた手。

 専門的には「手として有効である一手パス」という、ややこしいものをひねり出さなければならないという、激ムズな中盤戦だったが、そこで見事な「正解」を出したのはさすがであった。

 だが、それに対する羽生の応手が、またすさまじい。

 

 

 

 

 

 ▲95同歩が、「らしいなー」と声をあげたくなる一手。

 といっても、端を突かれたから取っただけで、なにをそんなに感心するのかと思われる方もおられるだろうが、これは感嘆を呼ぶ手であり、同時にものすごく「羽生らしい」手でもある。

 この難解な局面で遅いような、それでいて、あせらされる手を見せられたら、この手番を生かして、なんとか少しでも攻めたくなるのが人情だ。

 そこを、じっと自陣に手を戻す。

 デビューしたての若者が、タイトルホルダー相手に、

 

 「どうぞ、好きに、やっていらっしゃい」

 

 その、ふてぶてしさと、

 

 「パスしたい局面で手を渡してきたなら、こっちも同じような手で返せば敵は困るはず」

 

 という論理性を内包した、実に味わい深い一手なのだ。

 将棋は好きだけど、あまり指すことはないタイプの「観る将」の方に私はよく、

 

 「たまには実戦も、指してみるのもいいですよ」

 

 オススメするのことがあるんだけれど、それはゲームとして面白いのはもちろんだが、それともうひとつ、実際にだれかと指してみると、この▲95同歩のような手の魅力がわかるようになるから。

 これがねえ、自分で指してると、ホントしみじみ理解できる。

 自分が先手だったとして、「格上」の人相手に△95歩みたいな手を指されてですねえ、それを堂々と取るのはムチャクチャに勇気がいるのだ。

 だって、その瞬間になにをされるのか、わかったものではない。絶対、オレの読んでない手が飛んでくるに決まってるんだ。

 そんな疑心暗鬼におちいりながら、なにかあせって単調な攻めの手を指して、あっという間に負けてしまう。もちろん、この局面の中村もそれを誘っている。

 そこを完全に看破し、タイトルを持って勝ちまくっている先輩相手に、

 

 「おう、来いよ、ビビってんのか?」

 

 みたいな態度で▲95同歩と取れるのが信じられない。

 よほど自分の読みに自信があるのか、それとも天才となんとかは紙一重なのか。

 きっと両方なんだろうけど、なんかもう、とにかくシビれる一着なのであり、ぜひこの興奮を「観る将」の人たちにも味わってもらいたいですよ! いやマジで!

 こんなことをされては、さすが温厚な中村王将も怒るというもので、△86歩、▲同歩に△85歩から騎虎の勢いで襲いかかる。

 少し進んで、この局面。

 

 

 

 玉頭で押さえ、2枚のが急所に利いている。

 も取られる形だし、並みならつぶれているところだが、なかなかどうして、先手もくずれない。

 

 

 

 

 

 

 ▲77金寄が、力強い受け。

 を連結させながら、頭を押さえているにアタックをかけ、これで先手陣はなかなか寄らないのだ。飛車の横利きも、なにげに頼もしい。

 △同銀成は味を消してつまらないと、を補充しながら△95銀の転進に、今度こそ攻めるのかと思いきや、そこで▲47歩とまたも催促。

 

 

 

 これがまた、強気というか、なんと言うか。

 こんな受けになってるかどうかわからない手で、ここから一気に寄せられでもしたら、どうするんよ。△86香とか、メチャ怖いやん!

 それでも平気の平左。少し前まで中学生だった少年とは、思えない図太さではないか。

 そして最後に羽生は、すばらしい寄せを披露する。

 

 

 

 図は、中村が、△56馬と寄ったところ。

 中村、羽生ともに秘術をつくした熱戦となり、形勢は超難解

 先手は手番をもらった、この一瞬でラッシュをかけたいが、相手は「受ける青春」中村修のこと。

 そう簡単にはいかないようで、たとえば、▲42とは、自然な△同銀には、▲同成銀、△同金に▲51飛が、馬取り▲31角の両ねらいでうまいが、ここは△同金で取るのがミソ。

 ▲同成銀△同銀に、▲52飛馬銀両取りには、今度は△53銀打で受け切り。

 

 

 

 また、▲54角△31金▲71飛とせまる手も見えるが、これには△86香とされて、受けがなくなる。

 そこで▲31飛成とボロっとを取って、△同玉なら頭金だが、△13玉とかわされて詰みはない。

 

 

 

 

 

 このなんなり手がありそうなところで、スルリと抜け出すのが、「不思議流」「受ける青春」中村修の真骨頂。

 大名人中原誠をはじめ、幾多の棋士がこのイリュージョンに惑わされたものだが、羽生はしっかりと見えていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 ▲43と、と捨てるのが絶妙手

 といっても、攻めのカナメ駒である、▲53と金タダで捨てるなど、まったく意味がわからないが、△同金▲41成銀と入るのが、継続の好手。

 

 

 

 

 を上ずらせて、そのにすりこむ成銀

 といわれても、子供のころの私はまったく意味がわからなかった。

 成駒のような手が一段目に行くのは、利きが弱くなって一番使えないはずなのだが、なんとこれで後手はすでに防戦が困難なのだ。

 先手は次に、▲52飛王手馬取りがあり、△32金と埋めても、やはり▲52飛取りと▲31角があって後手がまいる。

 また後手が、どこかで△86香と攻めてきても、▲同金△同銀▲31角王手銀取りで抜けてしまう。

 おそろしいことに、どうやっても後手が勝てない形になっているのだ。

 「負けなし」と言われる▲53と金を捨て、成銀をわざわざ働かない位置に移動するのが絶妙とは……。

 中村は△42金打と抵抗するが▲51飛と打って、以下、中村の猛攻を冷静に受け止めて勝ち。

 ▲43と、からの寄せは当時絶賛され、またタイトルホルダー相手に競り合いを制したことからも、

 

 「羽生少年、おそるべし」

 

 という評価は、ここに確固たるものとなったのであった。

 

 (羽生の大ポカ編に続く)

 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 

 

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「不思議流」の剣技 羽生善治vs中村修 1986年 新人王戦

2022年12月03日 | 将棋・名局

 前回に続いて、羽生善治のデビュー当時の将棋について。

 羽生は少年時代から、えらいこと強かった。

 将来タイトルを取るようになる棋士は、そもそも皆そういうものだが、そこからさらに上を行くスターとなると、もうひとつ求められるものがある。

 それは、ただ勝つだけでなく、観戦者を「おお!」と感嘆させる妙手の類。

 「藤井聡太の▲41銀

 などといった、

 

 「コイツは、モノが違う」

 「この注目を集める将棋で、こんな手を指せるとは、【持ってる】な」

 

 こうして、周囲に圧倒的な印象を残していくことによって、さらなるビクトリーロードが開けるのだ。

 

 

 

2021年の竜王戦ランキング2組。
藤井聡太王位・棋聖と松尾歩八段との一戦で飛び出した、伝説の「▲41銀」。
△同金ならそこで▲84飛。△同玉なら▲32金を決めてから飛車を取れば、後手玉の逃げ道がふさがっていて先手が勝つ。

 

 

 もちろん、羽生も若いころから、その種の手をバンバン披露しており、今回はそういう将棋を。

 

 1986年新人王戦

 羽生善治四段と、中村修王将との一戦。

 若くしてタイトルホルダーになった中村といえば、同じ「花の55年組」である高橋道雄や、南芳一塚田泰明島朗らと並ぶ若手トップの存在。

 羽生を今の藤井聡太になぞらえれば、さしずめ「藤井四段」が菅井竜也王位斎藤慎太郎王座と戦うようなものである。

 ここを負かせば「本物」とお墨付きをもらえるわけだが、もちろん先輩としても簡単にゆずるわけにいかず、その通り将棋の方も双方持ち味の出た熱戦になるのだ。

 戦型は、相矢倉「脇システム」から、後手の中村がを作って、攻めの銀もさばいていくと、羽生も力強く反撃に出る。

 

 

 

 図は羽生が、▲43銀と打ちこんだところ。

 これで、守備のを1枚はがされることが確定で、ちょっと怖い形だが、こういう突貫をなんとも思わないのが、中村修の強みである。

 

 

 

 

 

 △52歩と打って、簡単にはつぶれない。

 「受ける青春」と呼ばれる中村修はこういう手を積み重ねて、しれっと、しのぎ切ってしまうから油断できないのだ。

 ▲32銀成を取るのは一瞬気持ちはいいが、△同玉で後続手がない。

 ゆえに、▲52同角成しかないが、よろこんで△同飛と取って、▲同銀成と攻め駒がソッポに行くのが、いかにも感触が悪い。

 

 

 

 

 ただ、うまく行ったように見えて、この局面では後手の指す手が、存外むずかしい。

 当然、なにか攻めたいところだが、下手なところに手をつけると、相手にを渡したりして、むしろ反動がきつくなったりする。

 たとえば、△36歩▲26銀△46馬は、▲48飛△19馬▲53歩成とされ、次に▲43歩からのと金攻めが受からない。

 

 

 

 

 相手を動かせ、△46馬を取らせてから反撃すれば、一気に決まるというわけ。

 一方先手も、やりたいのは当然のこと▲53歩成

 だが、たとえば△73桂などしたところで、いきなり成っても△51歩がおぼえておきたい手筋で、これはうまくいかない。

 

 

 

 

 先手も後手も、相手が指したところで、カウンターに好手があるという。

 なにかこう、手番をもらったほうが指し手に窮しており、この将棋を観戦していた河口俊彦八段によると、

 

 


「不思議なことに一手パスしたいような局面である」


 

 なら、手番をもらった中村が苦しいことになるが、さすが、ここでうまい手をひねり出す。

 

 

 

 

 

 △95歩と、端を突いたのが、中村のセンスを見せた手。

 後手は(先手も)一手パスをしたい。

 かといって下手なパスでは、相手にそれをとがめられて不利におちいる。

 そこで、「パスだけど有効手」をひねり出したのが、この端歩の突き捨てで、▲同歩と取らせれば大きな利かしだし、▲53歩成は、やはり△51歩で無効。

 また他の手なら端からラッシュをかければいいわけで、河口老師も絶賛の1手だったが、これに対する羽生の応手が、また見事だった。

 

 (続く

 

 

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