『アサシンクリード オデッセイ』で、藤村シシンと古代ギリシャを旅しよう! 

2021年09月29日 | 海外旅行

 「旅に出たい病」は不治の病である。

 今でこそ、若いころのような


 
 「世界の果てまで行きたいぜ!」


 といったギラギラ感こそなくなったが、自分でも「病気やなあ」と思うのが、他人の旅行話を聞くとき。

 ふだんボンクラで、物欲などもとぼしいタイプだが、旅の土産話だけはNGで、


 「夏休みはハワイに」

 「年末は暖かいニュージーランドで過ごす予定」


 なんて聞くと、

 

 「ふざけるな! 強盗にでもあったらええねん!  ……てゆうのは、ちょっとかわいそうやから、ホテルの予約に失敗して、当初の予定より、ちょっとだけせまい部屋に案内されろ!」

 

 なんて、小さなスケールで呪いをかけることになる。

 こんなことをやっていると、精神衛生上悪いうえに、周囲からも、


 「なんと器の小さい男であることか!」


 バカにされまくることになるので、できれば避けたいところだ。

 解消法で一番簡単なのは、


 「自分も旅に出ること」


 というのが、100%正義の結論だが、お金お休みの問題もあって、そうもいかないことも多い。

 そもそも、今はコロナだ。どうせえっちゅうねん。

 そこで最近ハマッているのが、YouTubeなどに上がっているゲーム動画の異世界。

 これなら、気軽に「旅行」できるし、なにより自分だけでなく、だれもが


 「本当に行くことはできない」


 から、いちいち妬まなくてもすむという算段だ。

 なんという斬新なアイデアなのか。まさに、天才あらわると言えよう。

 お気に入りは、『アサシン クリード』というゲーム。

 この舞台が18世紀パリとか、オスマン帝国のイスタンブールとか、いちいちツボなのだが、最高なのが古代ギリシャ。

 他のヨーロッパは、やはり「暗黒時代」的ななごりか、やや陰鬱な画面になる。

 それこそ、映画『キングダムオブヘブン』のように、中世ヨーロッパをあつかった映像作品はたいてい曇り空で、寒々しいのだ。

 まあ、それが雰囲気出てるんだけど、その点、古代ギリシャは建物や街並みも荘厳

 南国ということで、全体的に暖かそうだし、なによりがキレイ!

 ハードな「ゲーム」としては、過酷な環境の方が燃えそうだが、ブラブラ歩きをするなら、やはり、ゆるい土地の方がラク。

 しかも、古代ギリシャには、NHKなどでおなじみの、古代ギリシャ研究家藤村シシンさんが解説してくれている動画もある(→こちら)。

 これが実に楽しい。

 藤村さんはトークも上手で、ライムスター宇多丸さんのラジオなどでも爆笑をさらっているほど。

 ぜいたくを言えば、もっと「ポスチオン」がらみのお話も聞きたいものだが、それはしょうがないだろう(どうしょうがないかは検索してみてネ)。

 「観光案内つき」で、今では絶対にいけない古代世界を堪能できるんだから、旅好きにとって、こんな極楽はない。

 他にもベタに、ビザンツコンスタンティノポリスとか、ヴィクトリア朝ロンドンに、遣唐使がのぞいたとか、アケメネス朝ペルシャとか、ベルリン黄金の20年代とか、古代クメールとか、ベル・エポックパリとか、グレートジンバブエとか、大航海時代アムステルダムとか、平安時代京都とか。

 歩いてみたい街はいっぱいあるぞ。

 それこそ、「『アサクリ観光で世界地図」みたいなソフト、作ってくれないかしら。

 地図をクリックして、


 「1552年 神聖ローマ帝国 ドレスデン」


 とか入れると、その街を歩けるの。マジで欲しいッス!

 


 ★おまけ 「ポスチオン」の話が山盛り聴ける、宇多丸さんのラジオでの「夏のギリシャ祭り」2016(→こちら)と2017(→こちら
 
 

 

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

詰むや詰まざるや 伊藤看寿「図巧 第一番」 米長邦雄『逆転のテクニック』より その2

2021年09月26日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 前回(→こちら)に続いて、「将棋図巧 第一番」の解き方。

 若き日の米長邦雄少年が、思わず固まってしまったのが、この局面。

 

 

 

 一週間におよぶ苦悶の末、ついにたどり着いたのは、▲15飛と打つ筋であった。

 

 

 といわれたところで、こちらには1ミリも理解できないわけだが、ここから伊藤看寿必殺の大江戸大サーカスがはじまる。

 飛車の王手に、△84玉と逃げるのは、▲95馬から簡単に詰み

 また、△75歩のような合駒は、▲95馬△76玉に、▲16飛を取って詰む。

 ▲15飛に、△75香移動合するのが、この際の手筋だが(△74玉と逃げる空間を作っている)、これも▲95馬から、ちょっと長いが、さほどむずかしくない手順で詰むのだ。

 なるほどー、▲15飛かあ、ええ手があるもんやなあ。

 なんて、おさまっている場合ではない。

 話はここで終わりではなく、なんとここで、後手にしのぎがあるのだ。

 それが、△25飛と打つ手。

 

 

 なんともトリッキーな手だが、これに対して、平凡に▲95馬とすると、△76玉▲16飛△26歩と合駒。

 さらには、▲77馬△85玉▲76角△84玉となって、「詰んだ!」とばかりの▲95馬通らない

 

 見事に詰んだと思いきや、△25に飛車がいてギャフン!

 

 なんとここで、△25飛横利きがスーッと通ってきて、△95同飛と取られてしまう。

 後手の△25飛は、ここまで見据えての合駒だったのだ!

 なんちゅう、あざやかな手順なのか。まさに、空中アクロバット

 そしてここへ来て、とうとう米長少年は、△16にいた意味を理解した。

 この駒こそが、この図式のテーマである、

 

 「打ち歩詰め回避」

 

 この主役となるべき存在だったのだ!

 と言われたところで、どこまでいっても、こちらにはチンプンカンプンだが、もう少し様子を見て見よう。

 △25飛には、まずは素直に▲同飛と取っておく。

 後手は△同角

 

 

 そこで一回▲95馬と飛び出して、△76玉▲26飛
 
 後手はそこで、△36飛(!)と、またしても軽業

 

 

 この合駒の意図は、先手が▲77馬、△85玉、▲25飛、△35歩、▲76角、△同香、▲95馬、△74玉、▲96馬、△85香と進んだとき、

 「▲66桂で詰み!」

 歓声をあげたところ、「やーい、やーい、早とちり」と△同飛と取ってしまうためだ。

 

 △36に飛車以外の合駒だと、これを△同飛と取れず詰み。

 


 なので、ここも、すなおに▲36同飛と取る。

 △同角▲77馬△85玉▲35飛

 後手は先の△25飛と同じ意味で、▲95馬を消すべく、△45飛と合駒。

 

 

 ▲同飛△同角▲95馬△76玉▲46飛

 これまた先の△36飛と同じ意味で、▲66桂を消して、△56飛の合駒。

 

 

 ▲同飛、△同角、▲77馬、△85玉

 と手順を踏んで、

 「これ、さっきからなにやってんの?」

 私と同じく、いぶかしんだかたも、多いのではあるまいか。

 

 

 先手は▲15飛からずっと、「▲77馬▲95馬」のループと、飛車王手を続けているだけ。

 たしかに、後手の飛車合はドラマチックだけど、同じようなことのくりかえしで、正直飽きるんですけどー。

 なんてボヤきたくもなるが、そこは一度飲みこんで、盤面を見ていただきたい。

 同じような手をくり返しているようでいて、先ほどとは明らかに違う配置の駒がある。

 そう、後手のだ。

 何度も執拗に、飛車の王手をくり返していたのは、そうしながら、△16に置いてあった角を、静かに誘導していく意図があったのだ。

 そしてそれが、約束の地である△56に来たところから、一気に蒙が開ける。

 手の見える方は「あ!」と、なったかもしれない。

 不思議な手順で△56に移動させたのは、この駒が「ある地点」に利くようになるからなのだ。

 照準にとらえた瞬間、すべての歯車が一気に回り出す。

 すかさず▲84飛と「ファイヤー!」。

 

 

 △同玉、▲95馬、△83玉、▲82金、△同歩。

 と並べてみると、おいおい、それはさっきの「打ち歩詰め」の手順と同じではないかと怒られそうだが、よく見てほしい。

 

 角を動かさずに▲84飛として、△同玉、▲95馬、△83玉、▲82金、△同歩、▲84歩、△92玉、▲81銀、△91玉、▲82と、△同玉、▲72金、△91玉に、▲92歩まで「打ち歩詰め」の図。

 もしこの図で、角が△56の地点にあるとすると……。

 

 

 そう、最後▲92歩で、まだ後手玉は詰んでいない

 遠く△56が利いていて、後手は△92同角と取れる。

 いや、「取らされる」のだ。

 とはいえ、このままだと、まだ△74香車がジャマで、▲92歩は打ち歩のままだが、そこで▲75桂の跳躍が、うまい活用。

 

 

 この桂馬は、先手が▲95角成とするときの、土台の役割をする駒だと思っていたが、ここで2度目活躍するとは、なんともではないか。

 ため息が出るような、さわやかな手であり、△同銀▲73馬だから、△同香しかないが、これで見事に航路が開通。

 あとは収束に向かうのみ。

 さっきと同じく、▲84歩△92玉▲81銀△91玉▲82と△同玉▲72金△91玉▲92歩

 

 

 この瞬間のための、▲15飛からの一連の手順だったのだ。

 △同角と取るしかないが、ここからは、もはやむずかしいところもない。

 ▲同銀成△同玉▲74角△91玉▲82金△同玉▲83歩成△71玉▲62馬△同玉▲63銀成△61玉▲72と△51玉▲52成銀まで、69手詰

 

 

 

 米長邦雄や内藤國雄をはじめ、多くの棋士やファン、詰将棋作家が、この図式を見て感動したわけだが、その気持ちを共感できた。

 なんという、すばらしい作品なのか。

 米長は、単に解けたというよろこびだけでなく、

 

 「詰将棋に抱いていたイメージ」

 

 これが根本的に塗り替わったそうだが、これもまた、私の棋力ではクッキーのカケラ程度ではあろうが、それでも多少理解はできた。

 そう、この詰将棋にはハッキリと「テーマ」がある。

 そして、「作家性」「芸術性」というものも。

 私もまた、これら江戸時代の古典に触れることによって、詰将棋とは文学音楽に匹敵する「芸術」であることが、痛いほど伝わってきた。

 と同時に、増田康宏六段の有名なセリフである、

 

 「詰将棋は意味ない」

 

 の本当に伝えたいことも。

 たしかに、まっすーの言う通り、手順がマニアックすぎて、実戦で役に立つかはむずかしいところですわ(苦笑)。

 あと、これは余談だが、詰将棋の美を理解できたことによって、逆算的に、文型人間にはなかなか理解しがたかった、数学における、

 

 「数式や定理の美しさ」

 

 これもまた、ゴマ粒程度のものであろうが、感じ取れるようになった気がした。

 詰将棋の「論理で組み立てた」に感動できるなら、論理的に考えれば、数学のそれも同じのはず。

 私が理系の本を読むようになったのは、まちがいなく伊藤兄弟の影響である。

 こうして思いもかけないところで、知識や思考がつながっていくのは、おもしろいものであるなあ。

 

 (伊藤宗看「将棋無双」編に続く→こちら

 (宮田敦司七段の解説する「図巧 第八番」の解説は→こちら

 

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

詰むや詰まざるや 伊藤看寿「図巧 第一番」 米長邦雄『逆転のテクニック』より

2021年09月25日 | 詰将棋・実戦詰将棋

 詰将棋を「鑑賞」するのは楽しい。

 先日ここで、

 

 「詰将棋はムリして解かなくても、一応は有段者になれる」

 「苦手という人は、解くより【鑑賞】するという手もある」

 

 といったことを書いたが(→こちら)、では具体的に

 

 「詰将棋を鑑賞する」

 

 とは、どういうものなのか。

 そこで今回は、解けはしないが「見て楽しい」という図式を、具体的に見ていただきたい。

 それにはやはり、「古典詰将棋」がいいでしょう。

 ということで、その年、最高の創作詰将棋の問題にあたえられる「看寿賞」に名を残す、江戸時代の名人伊藤看寿の作品から。

 図式制作に、たぐいまれなる才能を発揮した看寿が、幕府に献上した「将棋図巧」は、兄である伊藤宗看の「将棋無双」と並んで、江戸時代の、いやさ将棋史上に残る大傑作。

 単に棋力向上だけでなく、内藤國雄九段をはじめ、多くの詰将棋作家に影響をあたえた、何百年単位でクリエイターのをゆさぶる、スーパーインフルエンサーなのだ。
 
 そこで今回は、有名な「図巧 第一番」を紹介したい。

 もちろん、私の棋力で解けるはずもないので、

 

 「【無双】と【図巧】の200番を解くだけで、最低でもプロ四段にはなれる」

 

 とのセリフで有名な、米長邦雄永世棋聖の『逆転のテクニック』という本を参照して、語ってみたい。

 


 「図巧 第一番」

 と言われても、ふつうはまあ、こんな反応であろう。

 

 

 詰将棋素人だと、そもそも初手から見えないが、とりあえず▲54銀から入るのが正解らしい。

 ちなみに、詰将棋では詰ます方を「攻方」(せめかた)、詰まされる方を「玉方」(ぎょくかた)「受方」(うけかた)とい言いますが、ここではわかりやすく「先手」「後手」で表記することにします。

 こまかい変化は、書いているとキリがないから、ポイント以外はサクサク飛ばすとして、▲54銀には△75玉と逃げる。

 ▲87桂と、と金をはずしながら王手で跳ね、△86玉

 そこで、▲95角成とすれば簡単に詰みそうだが、それには△76玉と逃げられ、▲77歩

 

 「打ち歩詰め」

 

 という反則になって不許可。

 

 ▲77歩で王様が動けないが、これは反則。

 意味不明ともいえるこのルールにより、詰将棋という文化は、とんでもない奥深さを獲得することになる。

 

 なんていう導入部からして、カンのいい方なら「あー」となるのではあるまいか。

 そう、この「第一番」は、玄人向け詰将棋の基本中の基本ともいえる、この

 

 「打ち歩詰め」

 

 によって仕掛けられた罠を、いかに回避するかがテーマになっているのだ。

 腕自慢の方は、「ほんなら」と腕まくりでもするところであろう。

 この図式を中学生のころ(!)解いたという、米長の解説では(改行引用者)、

 


 打ち歩詰めを打開するには2通りの手がある。

 まずは味方の駒の利きを弱めて打ち歩詰めにならないよう逃げ道を与えること。

 もう一つは、敵の駒を呼んで、歩を打ったとき、敵の駒で取れるようにして打ち歩詰めを避けるようにすることである


 

 
 ここでは後者の方法を使うのがよく、△86玉▲66竜と王手して、△同竜と取らせてから、▲95角成とする。

 そうすれば、△76玉のときに、▲77歩△同竜とできるようになるから、「打ち歩詰め」は回避できるというカラクリだ。

 

 取れる駒を呼び寄せておけば、歩を打っても詰みではない。

 上級クラスの詰将棋では、頻出するテクニック。

 

 

 にゃーるほどー、と感心することしきりだが、この程度は詰将棋力の高い人なら、まあ見破れるだろうところ。

 これくらいのワザは、この図式では口当たりのいいオードブルにすぎず、ここから重量級のメインディッシュが、用意されているのだ。

 ▲77歩、△同竜、▲同馬に、△85玉で、まず第1の関門は突破できたが、まだまだゴールは長い。

 

 

 事実、若き日の米長少年は、ここで動きが止まってしまう。

 次の手が、この図式随一の超難問だったからだ。
 
 一目の▲95馬は、△76玉と逃げられて、▲77馬△85玉は同一局面がループしてしまいアウト。

 米長の第一感は▲84飛

 

 

 だが、これには△同玉、▲95馬、△83玉、▲82金、△同歩、▲84歩、△92玉、▲81銀、△91玉、▲82と、△同玉、▲72金、△91玉に、▲92歩が、またしても「打ち歩詰め」。

 

 

 長手順になってしまったが、自然に追う形でむずかしくないので、ぜひ並べてみてほしい。

 なるほど、たしかにこれだと不詰で、またしてもである。

 

 「打ち歩に詰みあり」

 

 という格言もある通り、こういうところは一工夫すれば、結構詰むものというか、そもそも詰将棋なので、絶対になにかはあるんだけど、それが思い浮かばない。

 のちに、四冠王名人まで昇り詰めるほどの天才が、完全に固まってしまったのだから、これはよほどのことである。

 また、米長少年を悩ませたのが△16にポツンと置かれた

 これが、なんのためにあるのか。

 事情を知らないで見たら「誤植」とすら思えるような、おかしな駒。

 その意図がくみ取れず、そのこともまた、米長少年をして、頭をかかえさせたのであった。

 苦行すること、なんと1週間

 といっても、昼間は学校に行って、帰ってからも内弟子の雑用をやったりしていたから、丸々費やしたわけではないが、それにしたって大変なものだ。

 でもって、脳みそを七転八倒させながら、ついにたどりついた解が、またスゴイのであった。

 

 (続く→こちら

 

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

終盤は駒の損得よりもスピード 羽生善治vs谷川浩司 第63期棋聖戦 第5局

2021年09月22日 | 将棋・好手 妙手

 「駒得は裏切らない」

 

 というのは、森下卓九段が若いころ、よく使っていた言葉である。

 将棋の形勢判断には4つの指針があると言われ、それが

 

 「駒の損得」

 「駒の働き」

 「玉の固さ」

 「手番」

 

 これらを比較していけば、おのずとどちらが有利か見えてくる、便利な考え方。

 特に駒の損得は、直接的な戦力差につながるので、相当に重要なファクターである。

 ところがときには、安易に駒を取らないことが好手になることもあり、

 

 「終盤は駒の損得よりスピード」

 

 という格言もあるほど。

 ただ、その「取らない場面」の見極めがむずかしく、現実に「現ナマ」の魅力もあって、つい目先の駒得に走ってしまいがち。

 前回は高橋道雄九段渡辺明名人の、落ち着いた勝ち方を紹介したが(→こちら)、今回は「常識」のバーを軽く超える将棋を。

 

 1993年開幕の第63期棋聖戦は、谷川浩司棋聖王将羽生善治竜王棋王・王座が挑戦。

 前年、谷川から竜王を奪って三冠王になった羽生は勢いに乗っており、開幕2連勝と早くも奪取に王手をかける。

 このところ、羽生に押され気味な谷川からすれば、ここですんなり奪取をゆるすと、「四冠」と「一冠」になってしまい、ナンバーワン争いで大きく水をあけられてしまうこととなる。

 それはゆるさじと、なんとそこから2度千日手をはさんで、今度は谷川が2連勝し、2勝2敗のタイに押し戻すという激戦に。

 むかえた最終局は、羽生の先手で(このころの羽生は振り駒でことごとく先手番を引いていた)相矢倉に。

 先手がから攻めかかると、後手もを作っていなしにかかる。

 

 

 

 図は後手が、△14香と玉頭にせまるをはずしたところ。

 形勢はまだわからないが、先手は一瞬だが銀2枚損なので、とりあえずは▲54竜と、を取り返しておきたいところ。

 先手陣は▲57がはなれ駒になっており、かなり薄い形で、△86歩などの反撃も気になるところだが、駒損を回復しておくのも自然に見える。

 ということで、やはり反射的に金を取ってしまいそうなところだが、羽生の思考はそのを行っているのだ。

 

 

 

 

 

 

 ▲72竜と入るのが、なかなか見えない、いや見えても指せない手。

 ただでさえ駒損が気になる局面なのに、それを取り返す手を無視して、逆方向を使う。

 なんでやねんという話だが、これがだれも気づかなかった妙手で、先手が優勢なのだ。

 たしかによく見ると、ここで後手は飛車のいい逃げ場所がない。

 自然なのは△31飛だが、それには▲43桂と打つのが痛打。

 

 

 

 △41飛など逃げると、▲11角、△同玉、▲32竜が、詰めろ飛車取りでおしまい。

 なので、本譜の△41飛くらいしかないが、それにもやはり▲11角が効いて、△31玉に▲63歩、△61歩の交換をソツなく入れてから、▲13歩とタラして攻めがつながっている。

 

 

 

 △同桂は▲33角成で、取れば▲22銀詰み

 まともには受からないとみて、後手は△71香という緊急避難のような犠打を放つ。

 ▲同竜△22銀として、▲12歩成、に△11銀と、をはずしてがんばる。

 ▲同とに、△93角両取りに打って、相当に見える。

 

 

 

 一瞬、後手の反撃が急所に入ったようだが、羽生は冷静に▲72竜

 △57角成▲21と、△同玉、▲33桂がまたも痛烈な王手飛車で、△同金は詰みだから、△22玉とし、▲41桂成

 飛車をボロっと取りながらの詰めろで、先手の一手勝ちと思いきや、そこで△62金と打つのがハッとするねばり。

 

 

 

 ウッカリ▲同歩成は後手玉の一手スキが解除され、△69銀で一瞬にして後手が勝ちになる。

 将棋の終盤戦のおそろしさである。

 ただ、金打ち自体は意表の勝負手だが、この場面は局面そのものはサッパリしていて読みやすく、あまり相手を間違わせるようなドロドロした雰囲気はない。

 先手は、とにかく詰めろの連続でせまればいいのだから、ここで▲33香と放りこむのが寄せの手筋。

 △同金と取らせてから、▲62歩成が手順の妙で、やはり先手勝ちは動かない。

 ……というと、

 「あれ? その局面は後手玉が一手スキじゃないから、△69銀と詰めろをかけられたら、先手負けじゃね?」

 そう感じる腕自慢の方はおられるかもしれないが、それはかなりスルドイ意見である。

 

 

 

 たしかに、先手玉は受けがむずかしく、一方後手玉は▲61と、と王手しても△32香で、▲31銀と追って△13玉

 以下、▲12飛、△同玉、▲22金には再度の△13玉で、あと1枚が足らず不詰

 なら逆転かと言えば、これがそうはならず、そこがこの局面の「わかりやすさ」につながる。

 後手玉が詰まないのはハッキリしているが、あるトリックを使えば、それをクリアできるのだ。

 

 「金はトドメに残せ」

 

 という格言があるが、今、先手が一番ほしい駒はそれではない。 

 ▲61と△32香▲68金打と、一回受けるのが好手。

 これには△78銀成、▲同金に△69銀おかわりして、なんら変わってないじゃないかと思われるかもしれないが、ひとつちがうのが、先手の持駒

 

 

 

 このやりとりで、先手の持駒は金から銀に代わった。

 この両替がものを言って、後手玉には▲31銀からの簡単な詰めろがかかっているのだ。

 詰みがなかったはずの王様が、駒を1枚、クルンと入れ替えしただけで必至になっている。

 実にきれいな収束で、羽生の見事な読み切りが証明された。

 2度目の△69銀に、▲31銀まで谷川投了

 これで羽生は「第7局」を勝利して、初の棋聖を獲得。

 同時に、やはり初の四冠王にもなり、「七冠王」への大きな足場を作ることとなったのだ。

 

 

コメント (4)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

芥川龍之介『羅生門』は「異世界転生で無双」小説 inspired by 北村薫『六の宮の姫君』

2021年09月19日 | 

 「高校デビューの話って、なんやねん!」

 

 先日、LINEにそんなメッセージを送ってきたのは、友人スミノドウ君であった。

 なんでも友は、こないだ私が芥川龍之介の名作『羅生門』を、

 

 「あれは【高校デビュー】がテーマの短編」

 

 と紹介したところ(詳細は→こちら)、

 

 「またアイツは、高尚な文学をつかまえて、なにをチョケとるんや」

 

 あきれて連絡してきたというのだ。

 たしかに、名作文学を称して「高校デビュー」は言葉が軽いとは思うが、これは決してヨタではなく、それこそ高名作家の方がおっしゃっていること。

 その名も、北村薫先生。

 日本ミステリ界に「日常の謎」という新ジャンルを作り出し、直木賞も受賞した、私のようなミスヲタには神のごとき存在。
 
 その北村先生が、「あれはそうなんですよ」と言っているんだから、こっちからすれば、文句あんのかアーン? という話なのだ。

 言及されているのは、「円紫さんと私」シリーズの長編『六の宮の姫君』。

 内容は、主人公の「」が大学の卒論を書くのに、芥川や菊池寛を取り上げようとしたところ、ある謎の一言に出会う。

 「私」はそれを解き明かすべく、過去の日本文学について資料を読み、考察していくという、ジョセフィン・ティ時の娘』のような、「歴史さかのぼりミステリ」て、そこで取り上げられる作品のひとつが『羅生門』なのである。

 どう「高校デビュー」なのかは、本文を実際に読んでもらうとして、ここでザックリとだけ説明してみるならば、『羅生門』のラストについて。

 あの教科書にも載っている、有名すぎる一文、

 

 「下人の行方は、誰も知らない」

 

 わずか一行なのに、底知れぬ深い余韻を残す、文学史上に残る名文と呼ばれているが、これがもともとは違う内容だったのも、これまた有名なお話。

 

 「下人は、既に、雨を冐して、京都の町へ強盗を働きに急いでゐた」

 

 だれも知らんどころか「無敵の人」になって、京の都で大暴れ

 「完全版」とくらべて、こちらの評判がすこぶる悪いというのは、日本文学の世界ではおなじみで、

 

 「通俗的で、つまんないよねー」

 「書き直して、芥川マジ正解」

 「最初のバージョンやと、絶対スベってたよな、危ない危ない」

 

 ボロッカスに言われまくりなのは、本編でもブツブツ文句を言う海外の研究者の文章などで引用されている。
 
 ではなぜ、芥川は最初、その評判の悪い「通俗的」なラストを書きこんだのか。

 北村先生の考察では、このシーンこそが『羅生門』で、本当に書きたかった部分だというのだ。

 「私」の調査で、『羅生門』執筆当時の芥川が、ダメダメでドツボにハマっていたことが判明する。

 なんでも、自分たちが出した本で、芥川が不義理を働いたどころか、その売り上げを着服したなど中傷を受けていたのだ。

 もちろん、それは誤解なのだが、もともと神経細い芥川はそれを気に病んで、クヨクヨと悩む日々。

 それを見かねた、友人の菊池寛が、

 

 「ブツブツいうてるくらいやったら、それネタにして、なんかスカッとする小説でも、書いてみたらどないや」

 

 そのアドバイス受けて書かれたのが『羅生門』のあのラスト。

 そう、あのボツになった「京の町で大暴れ」は、なにを隠そう芥川自身の

 

 「死ぬまでにやりたい100のこと」

 

 このひとつだったわけなのだ。

 「炎上」でムカついたから、オマエらやったるで

 オレの悪口を言うウザいヤツらは、あの髪泥棒のババアみたいに、ボッコボコにしてやるだわさヒャッハー!

 中2病というか、ボンクラ青年の意趣返しというか、『ボーリング・フォー・コロンバイン』というか、とにかくそういう、

 

 「死刑! 死刑! オレ様をイヤな気分にさせたヤツら、全員死刑!」

 

 という、楽しすぎる「願望成就小説」。

 いわば、流行りを超えてジャンルとして定着した、

 

 「異世界に転生して無双」

 

 のような、「京の街に転生して、やりたい放題」とでもいう「なろう小説」だったのだ。

 そりゃまあ、強盗することを「勇気」とかいっちゃてるしねえ。

 ここを読んだとき、私はもう感動しましたね。

 

 「はー、これって勉強できて、おとなしい男の子が、急に不良になる【高校デビュー】がテーマの小説やったんやあ」

 

 なんかええよなあ。底が抜けてるよなあ。

 文学というと、なんだか敷居が高いけど、こう説明されれば親近感もわくというか、人の考えることなんてインテリスカタン高校生も、案外変わらんもんです。

 しかも、やりかたも正しい

 なんぼ腹立っても、暴力はいけませんが、

 

 「なら小説書いて、その中でブッ殺したったらええねん!」

 

 というのは、映画『桐島、部活やめるってよ』の神木隆之介君による、

 

 「コイツら全員、喰い殺せ!」

 

 と同じく、まったく「正しい芸術の使い方」であるわけだし。

 春休みに遊びまくる、チャラチャラしたアメリカの学生を見て

 

 「なんだ、あのバカどもは。殺すしかねーな」

 

 とばかりに魚に食い殺させた(監督がちゃんと自分でそう言ってます)、『ピラニア 3D』とかね。

 そう、最初の『羅生門』って、『ピラニア』なんスよ。B級ホラー。下人はジェイソン。

 ではなぜ、せっかく、あんな「なりたいオレ」を書けたのに、「だれも知らない」という、自分は関係ないバージョンに直したのかと問うならば、それこそが芥川の「文学性」。

 龍之介からすれば、書きたいことは書いたけど、そんなんホンマは文学ちゃうんちゃう?

 そこをマジメに考えてしまうわけだ。

 彼にとって書きたいのは、「京の都で大暴れ」だが、それが「小説」としてダメなのは、だれだってわかるもの。

 しかも芥川はなまじ「誰も知らない」という、見事なシメを思いついてしまう才能(ここがただの「中2病」とちがうところだ)があっただけに、これが迷うタネに。

 「大暴れ」は書きたいことだし、の願望を物語に昇華させるという意味では、れっきとした「文学」である。

 ただし、そうすると「小説」としてのは落ちてしまう。

 「誰も知らない」はさすがの着地だが、でもこれだと、そもそもこの物語を書いた意味がなくなってしまう。

 『羅生門』は「オレ様ヒャッハー」ありきのもので、芥川が本来得意とする『今昔物語』などをベースとした、

 

 「格調高い、風雅な小説」

 

 など、ハナからお呼びでないのだから。

 自我vs客ウケ

 お笑いで言う「やりたいネタ」か「ウケるネタ」か。

 新海誠監督なら、「中学生妄想で原液100%」な『秒速5センチメートル』か、ちゃんと一般ウケしてメジャーになれた『君の名は。』か。

 みたいなことで芥川は悩んで、最後は自分の「文学的理性」が勝ってしまい、修正しましたと。

 要するに、「はじけられなかった」わけで、菊池師匠はそれを見て、

 

 「だから、お前はアカンねや。気ィ小さいのう」

 

 ガッチリとダメ出しをしたそうだが、後年の「ぼんやりした不安」にる自殺も、こういうところにあったのではというのが、菊池と、北村先生もまた考えるところなのだ。

 いわば、『桐島』における神木君がラストの屋上で、

 

 「ゾンビ映画で、この腐った世界を破壊するなんて、そんな考えはよくないよな。子供じゃないんだから、もっと健全な、先生とか大人がよろこんでくれる、さわやか映画でも撮ろう!」

 

 なんて言い出したようなもの。

 そら、菊地からすれば「おい!」てなものであり、腰砕けなことはなはだしい。

 町山智浩さんが、『映画秘宝』片手に「テメー、コノヤロー! ふざけんじゃねえぞ!」と暴れまわる姿が、目に浮かぶようである。

 

 「盗んだバイクで走り出す」

 

 と歌った尾崎豊が、そのあと反省して、

 

 「盗むのはよくないから、バイトして買ったバイクで走ったよ! あと学校の窓ガラスを割ると迷惑だから、ちゃんと弁償しようね!」

 

 なんて歌詞を書き直したら、そりゃそっちが「正しい」かしらんけど、「なんだかなあ」ではないか。

 そう聞かされれば私など断然、最初に書かれた「大暴れ」バージョンを推したいわけである。

 あれは「貴族趣味」と言われた芥川が、そのイメージを破ってでも書きたかった、まさにドラゴン渾身の『マッドマックス 怒りの平安京』なのだ。

 創作の本質が、「書きたいことを書く」なら、たとえそれが稚拙でも、真の「文学」でないのかい?

 なので、同じボンクラ仲間の私としては、ここに堂々と、

 

 「『羅生門』は高校デビューをあつかった、『ピラニア3D』である」

 

 そう宣言したい。苦情は文藝春秋と東京創元社まで。

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

読まずに勝てる(?)将棋必勝法 詰将棋やらずに初段になれるって本当ですか?

2021年09月16日 | 詰将棋・実戦詰将棋

 前回(→こちら)の続き。

 ダラダラ棋譜並べネット将棋だけで二段になれた私。

 よくそんないい加減なことで、特に詰将棋を解かず、よく勝てるなとあきれる向きもあるかもしれないが、今回はまさにその「詰将棋」の話をしたい。

 私は詰将棋が苦手であり、これまで、ほとんどマジメに取り組んだことがない。

 その理由をズバリ答えるならば、

 

 「頭を使うのが、めんどくさい」

 

 そもそも将棋ファンに、不向きなんじゃないかという話だが、実のところ解けと言われれば、まあそこそこには、できたりする。

 ネット中継の休憩時間や、連盟ホームページにある「今日の詰将棋」みたいな問題なら、むずかしくないから、それこそサクッと解けるもの。

 棋力のおとろえた今試してみても、7手から11手詰くらいの問題なら、ウンウンうなって、がんばってやれば、一応大丈夫なようだ。

 これは別に「解けるぜ」という自慢とかではなく、オーソドックスな詰将棋というのは指し将棋(詰将棋ファンはいわゆる「将棋」のことをこう呼びます)の技量が上がれば、自然に解けるようになるものだから。

 つまり、ふつうは、

 

 「詰将棋を解く」→「上達する」

 

 というイメージだが、逆もまた真なりで、

 

 「上達する」→「詰将棋が解けるようになる」

 

 というパターンもあるわけだ。

 私は明らかにこっち

 なので、

 

 「詰将棋、やりたくない」

 「やっても解けないから、つまんない」

 

 という級位者の方がいれば、無理に取り組まなくてもいいと思うわけなのだ。

 実際、私はそれで初段以上になれたし、こないだも言ったように先崎学九段も、




 「詰将棋や詰碁をやらなくても、アマ三段くらいにはなれる」




 と本で書いている。希望にあふれている言葉だ。

 では、われわれのような詰将棋をやらない


 「終盤力がこんにゃく」


 というアマが、詰む詰まないの部分を、どう戦えばいいのか。

 ひとつは、テレビやネット中継の解説を参照する。

 将棋中継を見ていると、難解な局面ではたくさんの変化が出てきて、


 


 プロ「まあ、これは、だいたい詰みですよね」

 聞き手「だいたい、ですか(笑)」

 プロ「【約詰み】です。いや、それじゃダメですよね。じゃあ、いっちょ詰ましてみますか。あーやって、こーやって」

 聞き手「あれ? 意外と、むずかしいですね」

 プロ「【だいたい】で済ますと、これがあるんですよ(苦笑)。あ、待ってください! 詰みました。いやー最後が金じゃなく、先に桂でピッタリかあ」



 

 みたいな流れがよくある思うんですけど、この詰み筋をしっかりと見ておく。

 これなら、プロが考えてくれるし、目で追うだけでも結構勉強になります。

 あと、「投了図以下の解説」も学べます。

 実は将棋の詰みの場面というのは、その多くが「並べ詰み」。
 
 一時期、増田康宏六段

 

 「詰将棋は意味ない」

 

 と発言して話題を読んだが、もちろんまっすー本人が言うように、詰将棋自体が無駄というわけではない。

 疑問なのは、難解な詰将棋の持つ

 

 「絶対に実戦には出てこないマニアックな変化」

 

 これが不要と言っているだけで、むしろ実戦で出てくる「手筋」の類の詰み筋はマスターすべしと。
 
 具体的には、美濃囲いなら

 

 「▲71角、△92玉、▲93香、△同桂、▲82金

 

 矢倉なら、

 

 ▲23歩成、△同金、▲同飛成、△同玉、▲41角

 

 なんていう、実戦の頻出問題とか。

 

 

 

 教科書通りな「美濃くずし」からの詰み筋。

 ▲71角に△92玉は▲93香、△同桂、▲82金。

 また持駒が金だけだと、▲82金と打って、△93玉に▲72金と銀を取りながら王手して、△92玉には▲82角成。

 △84玉には▲75銀(▲85銀)で詰むが、舟囲いのように先手の歩が▲87にいると、▲75銀には△85玉と抜けて詰まない。

 などなど、こういう定番の形をたくさんおぼえておくと、終盤でとっても役に立ちまくりです。

 

 

 こういう

 

 「当たり前すぎて、詰将棋だと今さら出てこない形」

 

 こそが即戦力になるわけで、

 「投了図以下の解説」

 はそれこそ初心者にとって、の山と言っていい。

 こういうのをたくさん身につけると、逆算的に詰将棋も解けるようになります。これはマジで。

 詰将棋の役割は、

 

 「手を読む根気をやしなう」

 「脳内にある将棋盤を可視化する」

 

 というところにあるから、逆にある程度、将棋がわかってきてから、手を付けるというのはアリ。 

 あと、これは有段者になってから私もやったが、解くのがめんどいなら「鑑賞」という手もある。

 これはなかなか、ピンとこないかもしれないけど、詰将棋には「芸術」という面もあるのです。

 自分は湯川博士さんと門脇芳雄さんの

 

 『秘伝 将棋無双 詰将棋の聖典「詰むや詰まざるや」に挑戦!』

 

 という本に大感動して、詰将棋の美しさに開眼したのだが、それを解くのでなく、ただ「鑑賞」する。

 これが存外、役に立ったような気がする。

 解くのが無理でも、問題を見て、解けなかったらすぐ解答ページを開き、その手順を頭の中でなんとなく再現してみる。

 これなら終盤力ヘボヘボでも、なんとかなるし、なんといっても美しい詰将棋を味わうというのは、至福の時間でもあるのだ。

 浦野真彦八段の『詰将棋ハンドブック』なんか、あれはまあ、解きやすく作ってくれてるけど、「鑑賞」するにもステキな作品ばかりで超オススメ。

 数学でも問題を解くには、ただ考えるだけでなく、様々な問題と解答をに触れて、パターンをたくさん身にしみこませるのがいいから、詰将棋もそうのはず。

 実際、詰将棋の上達メソッドとして、

 

 


「詰将棋の本は問題を見て解けなかったら、答えを見てもいい」



 

 とは、よく言うもの。

 もちろん解ければベストだけど、むずかしければ、すぐに答えを見て、ちゃちゃっとの問題にいく。

 で、最後の問題が終わったら(答えを見たら)、最初のページに戻って、またくり返し。

 それをサクサクやっていれば、4回目には、ほとんど解けるようになる。

 私はこれと同じやり方を、大学受験のときやって、旺文社の『英単語ターゲット1900』を3ヶ月ちょっとでクリアできたりしたから、きっと効果あり。

 要するに、詰将棋を使った「棋譜並べ」をやればいいのですね(棋譜並べのやり方については→こちら

 最後に、やっぱり一番大事なのは、ミもフタもないけど、

 

 「そもそも一手違いの終盤戦にしない」

 

 スプリント勝負にならないように手厚く勝つ。

 あるいは、詰ますんじゃなく、相手に寄せ損なわせる

 あとまあ、実戦では


 見切り発車で、王手してたら詰んだ(詰まされた)」


 なんてケースも多いので、もういっそ「くじ引き」みたいなものと割り切る。

 まあ、これでも案外勝てるしなあ。

 だって、おんなじくらいの棋力でこっちが詰ませられないんだったら、まあだいたい向こうも出来てません。

 テキトーだけど、実戦ではこれくらい図太い気持ちで戦うのも大事。

 なんだか、マジメな将棋の先生に怒られそうなことばかり書いてるけど、こんなもんでも初段になれるんですから、なかなか希望のあるハナシではありませんか。

 

 (江戸時代の詰将棋「将棋無双」編に続く→こちら

 

 

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

読まずに勝てる(?)将棋必勝法 その4 逆転したら、お茶を飲んで深呼吸!

2021年09月14日 | 将棋・雑談

 前回(→こちら)の続き。

 ダラダラ棋譜並べネット将棋だけで、定跡もおぼえず、詰将棋も解かず二段になれた私。

 その武器は

 「いい意味テキトーに指しての逆転勝ち」

 というか、「逃げ切り」がヘタなので「逆転でしか勝てない」という、かたよったスタイルなのだが、ここまで不利になったら、

 

 「とりあえず、敵陣にイヤミつけとけ」

 「とりあえず、玉を固めとけ」

 「とりあえず、成駒作って寄せていけ」

 

 これをやるべしという、3つの実戦的挽回術を紹介した。

 そんなアバウトなもんでいけるんかいなと、いぶかしむ人もいるかもしれないが、実際私はこのやり方で二段に、それも「あと1勝三段」(←それはもういいよ!)という二段になれたのだから、それなりの効果はあるはず。

 なにより、この3つをやっておくと決めておけば、いざ苦しくなったときに頭を悩まさなくてもよく、

 

 「読まないで指せる」

 

 これが大きい。

 集中力は、最後の最後にとっておく。

 また、これでいざ逆転となると

 

 「敵陣が乱れている」

 「自玉は固い」

 「成駒がたくさんで相手玉を俗手で寄せられる」

 

 となるわけで、かなり「勝ちやすい」のだ。

 そこで今回は、こう言った具体的な要素を押さえたうえで、勝つために大事な心構えを確認しておきたい。

 

 心構え その1

 

 「不利な局面でいちいち考えない」

 

 将棋において、先取点を取られると勝ちにくいのは、そのリードされたこともさることながら、

 

 「苦しい局面を、じっと考えなければいけない」

 

 このストレスによる疲弊があるから。

 駒損で王様も薄く大駒も働いてない、みたいな評価値マイナス1000くらいの局面を、じっと見つめてみよう。

 いい手は見えないし、読んでも読んでも光明は見えないしで、グッタリするどころか、下手すると投げてしまう人もいる。

 こういうときはマジになってもしゃあないので、いい意味で「いい加減」に指す。

 

 「負けた、負けたと言いながら」

 

 なんて人もいるように、「どうせ不利なんだから」と開き直って勢いよく指す。

 

 

1991年、第58期棋聖戦5番勝負の第4局。
屋敷伸之棋聖と、南芳一王将の一戦。
南が2-1で王手をかけ、この一局も中盤で必勝形になるが、そこから屋敷が居直ったような「16手連続ノータイム指し」を披露。
それに幻惑されたのか、ここで南が▲33銀と打ったのが大悪手で(冷静に▲46銀が正解)、△48歩、▲同飛、△37歩成で一気に差が縮まり、そのまま屋敷が大逆転勝利。

 

 

 負けてるときはヘラヘラしろ。

 ネット将棋なら、相手が見えないから、一回あくびでもするか、鼻歌を歌うのもいい。

 とにかく、肩の力を抜く。

 こういうとき、深く考えなくても手を選べる、前回までの「イヤミ玉カタ成駒」の「三原則」が役に立つのだ。

 2008年の「永世竜王シリーズ」で、いきなり3連敗をくらった渡辺明竜王のように、

 

 「どうにでもしてくれ」

 

 とやれば、意外に相手が「勝てるぞ」と固くなり、乱れてくれたりするのだ(「永世七冠」をかけた「100年に1度の大勝負」は→こちら)。

 必敗のところを、「三原則」を使ってねばりまくり、相手がもてあまし、あせり出してくればしめたもの

 口笛でも吹きながら、あとは「GO」のサイン(相手が決定的に「やらかす」瞬間)を待つ。

 逆転勝ちするコツは、勢いを疑わないこと、いい意味でテキトーに指すこと。

 そしてなにより「詰まされるまで投げない」根性図々しさである。

 「テキトー」と「根性」は矛盾するようだが、やってみると不思議なほど、使い分けることができます。

 

 「最初はテキトーで、【負けた負けた】と言いながら、無欲で喰いつく」

   ↓

 「だんだん差が詰まってくるうちに、テンションが上がってきて、勝負手をひねり出す気力もわいてくる」

   

 「逆転模様の終盤は元気百倍で、自然と集中力もMAXに!」

 

 という流れが理想。合言葉は、

 「角損くらいなら互角」。

 どうせ負けなんだから、失うものなどないのだ。

 米長邦雄永世棋聖鈴木大介九段など、

 

 「序中盤は少しくらい不利な方が力が出る」

 

 とおっしゃっていたが、その気持ちで戦うべし。

 

 心構え その2

 

 「逆転した後は、しっかりと時間を使え」

 

 これは当たり前のことだが、勝負で高まっているときには、つい軽視しがちだ。

 根性が報われて、負け戦を「どっせい!」とばかりにひっくり返したとき、そこで一回すわり直すのが大事。

 ここまでは居直りと時間攻めなどもふくめて、パシパシとばかりにノータイム指しに近いことをしてきたかもしれないが、いったん逆転となったら、そこでギアを入れ替えるべし。

 これが簡単なようで案外できないことも多く、むしろ逆った瞬間に、

 

 「やったラッキー」

 「これで勝てる」

 

 浮足立って、時間があるのについ手拍子で指してしまったり、浮かれた頭で、地に足のついてないまま局面を進めてしまったりする。

 これでは逆効果どころか、今まで自分がやってきたことを、そのまま自分に返していることになる。

 ひっくり返すために、あれこれ手を尽くして相手にゆさぶりをかけているのに、勝ちが見えたとたん、自分の心がコントロールを失っては本末転倒

 不思議なことに、将棋というのは相手が悪手を指したとたんに、

 

 「しめた!」

 

 とばかりに、すぐ指してしまいたくなる。

 時間はあるし、待ったもできないのに、なぜ、そんなことになってしまうのか。

 謎ではあるが、これは本当に困った「あるある」なのである。

 将棋というのは

 

 「最後に悪手を指した方が負けるゲーム」

 

 となれば、相手が悪手を指したところからは、

 

 「いかにこちらが、悪い手を指さないか」

 

 にシフトしなければならない。

 こういうとき、時間をしっかり使うというのが、一番大きな味方なのである。

 

 

2002年、第60期A級順位戦。藤井猛九段と、森内俊之八段の一戦。
勝てば名人挑戦という森内は、すべて決まったこの局面で、手を止める。
1分を費やして、ゆっくりとお茶を飲み、△29金と指して勝った。

 

 

 とにかく、有利になったら一回、手を止める

 こうなると盤面のみならず、メンタル面でもアドバンテージを握れるわけで、あとは落ち着いて料理すればよい。

 コツは、まずお茶を飲む。

 ウェットティッシュで顔と首の後ろをぬぐう。時間があるなら、トイレに立つ。

 ほほを軽くたたく、ちょっと立って体操でもする、頭にアイスノンを乗せる。

 手拍子で指さないように、マウスやスマホから、いったん手を放して後ろに回し、お約束だが目を閉じて、ゆっくりと深呼吸する。

 全部は無理としても、そのひとつを「ルーティン」にするといい。

 かつて、大名人だった中原誠十六世名人は相手が悪手を指した瞬間、すかさずトイレに立つという習慣があった。

 やはり気を静め、手拍子で指してしまわないようにすることと同時に、相手に反省をうながす効果も、あったという。

 悪手というのは、不思議なことに、指した瞬間!」となることが多い。

 中原に去られ、残された対戦相手は、自らのミスと盤の前で一人対峙しなければならない。

 実につらい時間である。

 これにより、着手したとたん、中原が席を立つのは、

 

 「お前は今、とりかえしのつかない失敗をしたんだぞ」

 

 という「死の宣告」の役割を果たすこととなり、多くのトップ棋士たちがをへし折られてきた。

 今でいえば、羽生善治九段が勝ちを読み切ったとき見せる、手の震えと似たようなところがあったわけだが、ともかくも、

 

 「チャンスで、すぐに指さない」

 

 というのは、いろんな意味で有効である証。

 逆転するまでは「勢い」が大事だが、勝ちになったら一転「平常心」こそがモノを言う。

 そうしてから、

 

 「こうなったら、逃がさんでえ」

 

 不敵に笑って、再度盤面に没頭すれば、なにも考えないより、相当に再逆転しにくくなるはず。

 これは絶対、間違いない。お試しあれ。

 

 (詰将棋との向き合い方編に続く→こちら

 

 

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

読まずに勝てる(?)将棋必勝法 その3 成駒作って、にじり寄れ!

2021年09月12日 | 将棋・雑談

 前回(→こちら)の続き。

 ダラダラ棋譜並べと、ネット将棋だけで、定跡もおぼえず詰将棋も解かずに「あと1勝で三段」だった二段になれた私。

 その武器は

 

 「いい意味テキトーに指しての逆転勝ち」

 

 であり、前回はそのコツのひとつ、

 

 「とにかく玉を固めとけ」

 

 というのを紹介したが、今回伝えたいのがこちら。


 
 ■逆転のコツ その3

 

 「とりあえず、成駒寄せとけ」

 

 将棋の不利な局面で、

 

 「駒損で、攻めが切れ筋におちいる」

 

 というのがある。

 私など序盤のかけ引きなんかが、めんどくさいタイプなので、なにも考えずに、どーんと仕掛けて行ったりする悪癖がある。

 これがまた攻めの下手な自分が、うまくやれるわけもないので、たいていが、

 

 「大きな駒交換があって、おちついたところで計算したら銀損で、一体なにをやってるのか」

 

 みたいなことに、なりがちなのだ。どんだけ見切り発車やねん。

 で、私の場合「ここからが本番」になるのだが(←いや、そのにもっと考えろよ!)、駒損だと困るのが、とにかく戦力が足りないこと。

 まともな攻め合いでは勝ち目がないので、こういうとき発動させるべき「クレイヴァリング作戦」により、とりあえず成駒を作るのが良い。

 基本はをタラしての「と金」作りで、

 

 「と金は金と同じで金以上」

 

 という格言通り、これが一枚加わるだけで、一気に頼もしさを感じる。

 特に穴熊はがんばって、と金でを一枚けずれたら、相当に「見えてくる」形だ。

 残念ながら歩切れだったり、いいところに立つ筋がなくても、をひっくり返して攻める。
 
 振り飛車なら遊んでいる桂馬を▲85桂から▲73桂成とか、場合によってはでなく「をたらす」なんてのもありだ。

 

 

1996年の第54期C級2組順位戦。武市三郎五段と、勝又清和四段の一戦。
▲72歩とタラしたのが、「こんな手で幸せになったのは、大山先生しかない」と言われた手。
だが、この歩はのちに▲71歩成となり、▲72と、▲73と、と桂馬を取る活躍を見せ、武市はその桂を好機に使って勝利。
『対局日誌』でこの将棋を取り上げた河口俊彦八段は、
「この局面で筋は▲46歩、△同歩、▲45歩だが、きれいな手はかえって危ないという面もある」

 

 

 え? 筋が悪い? あとで棋譜を見た人に怒られそう

 さもあろう。

 だが、こっちは現実に今、局面が不利なのである。こういうときは

 「なりふりかまわず、貼りついていく」

 これが大事なのである。

 カッコつけるより、とにかく嫌がらせをする。この精神で戦う。

 そのためには、「成駒を作って寄せていく」というのは、なかなかのメソッドなのだ。

 元手がかからないうえに、成桂と金がジリジリせまっていくと、これが相手に相当なプレッシャー

 

 

 

 1993年のB級1組順位戦。加藤一二三九段と森安秀光九段の一戦。

 加藤はA級昇級、森安も消化試合ながら、勝てば兄のように慕っている内藤國雄九段にチャンスが回ってくるとあって、おたがい負けられない大一番。

 先手が指しやすそうながら、次の手がむずかしいと言われる中、▲11にいたと金を▲12と(!)、と引いたのが鍛えの入った名手。

 以下、先手は▲13と、▲14と、▲24と、とパクパク駒を取り、振り飛車にプレッシャーをかける。

 あせらされる森安は暴れていくが、加藤は得した駒で▲39歩、▲67銀と面倒を見て、最後は端からラッシュをかけ、4度目(!)のA級復帰に成功。 

 

 

 さらには、こちらが

 

 「むずかしいことを考えなくていい」

 

 というのも大きい。

 有利な局面では、むこうが「決め手」を発見しなければいけないが、こっちはただ成駒を動かして「あなたまかせ」でいいのだから、なものである。

 敵の猛爆を、防空壕の中で耐え忍びながら、それでもジリジリと忍び寄っていく。

 相手が寄せそこなえば、その瞬間に、と金ガブリとかみつけばいいのだ。

 成駒で金銀ボロボロはがせる形になると、なにも考えずに寄せることができるから、詰将棋をやらない、穴だらけの終盤でも簡単に勝てる。

 こうやって、相手が必死で手を読む中、こっちはノータイム▲73桂成▲63成桂▲53成桂▲42成桂▲32成桂と、ひたすらなにも考えずにすり寄っていく。

 そうして、むこうが28秒58秒)くらいまでギリギリ考えてるのを見ながら、

 

 「おー、あせってる、あせってる。こら決め手がありそうで、なさそうで、悩んでますなあ。大悪手や大ポカ、お待ちしてます」

 

 必敗の局面にもかかわらずスマホやタブレットの画面に、そんな余裕ぶっこき丸な態度を取れれば、すでに逆転への黄色いレンガの道は見えてきているのだ。

 

 (続く→こちら

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

読まずに勝てる(?)将棋必勝法 その2 玉を固めてチャンスを待て!

2021年09月10日 | 将棋・雑談

 前回(→こちら)の続き。

 ダラダラ棋譜並べネット将棋だけで、定跡もおぼえず詰将棋も解かずに「あと1勝で三段」だった二段になれた私。

 その武器は

 「いい意味テキトーに指しての逆転勝ち」

 であり、前回はそのコツのひとつ、

 「効いてるかどうかはわからんが、とりあえずハッタリで敵陣イヤミをつけろ」

 というのを紹介したが、今回伝えたいのがこちら。


 
 ■逆転のコツ その2

 「とにかく、玉を固めとけ」。

 将棋というのは言うまでもなく、王様が詰まされると負けるゲームである。

 となれば、それを守るというのは一番大事な作業であり、特に不利な局面では、いかに1手でも2手でも延命できるか。

 そのテクニックが、試されるのである。

 まず基本的なのが「金銀を埋めまくる」。

 泥臭く、決してカッコいいとはいえないが、やはりここはなりふり構わず行きたい。

 カナ駒がなければ、でもでも、とにかく玉まわりのスキマをふさぐ。

 ここに発動された「決号作戦」により、陥落寸前の玉でも、投げずにペタペタ駒を張っていると、

 「これで、案外ねばっている」

 というケースも結構あったりするのだ。

 振り飛車なら、いいタイミングで▲59歩の「金底の歩」とか。

 矢倉銀冠で飛車を打ちこまれたとき「▲79香(▲39香)」とか、△86歩、▲同歩を利かされた矢倉なら「▲87銀」と埋めるとか、穴熊でも▲39歩底歩が固い。

 

 

 

1995年、第54期C級2組順位戦。先崎学六段と、藤原直哉五段の一戦。
後手が大苦戦ながら、歩を3枚バリケードにして、必死の防戦。
吹けば飛ぶようなバラックの城だが、藤原に痛い見落としが出て、先崎が執念の逆転勝ち。

 

 

 とにかく飛車でもでも埋めまくる。

 「もったいない」

 「そこで駒を使うと攻め味がなくなる」

 と言われるかもしれないが、とにかく「駒の壁」を形成しておけば、容易には負けない。

 勝ち味が少なくても、1手でも手数を伸ばせば

 「相手が大ポカをするチャンスが1ターン増える

 プロですら、大差の将棋でも「早く投げてくれないかな」と考えるというのだから、どんな形でも

 「早く終わらせない」

 ことは有力な戦術である。

 私なども、そこらにあるものをすべて投げつけて、駄々っ子のような粘着でねばりまくる様は、米長泥沼流ならぬ、

 「スターリングラード流

 と恐れられ(あきれられ?)たものだが、将棋で、特に同レベルの棋力がぶつかれば、最後に大事なのは結局「根性」であり、その意味で私のファイトスタイルは旧日本軍の正当な後継者であった。

 郷田真隆九段も、言ってたではないか。

 

 「将棋は情念のゲーム」 

 

 すごい大差でも、「本土決戦」の精神で戦えば、予想以上にまくれるものです。投げたらアカン。 

 ちなみに、テキトーと根性は相反するようで、意外と両立できます。これ本当。

 埋める駒がないときは、「玉の早逃げ」を考える。

 よく

 

 「さすがに、八手も得しないよね」

 

 といわれる早逃げだが、いいタイミングで発動させると思いのほか効果があるし、相手の意表をつける。

 なにより、いかにも玄人っぽい指しまわしなので、むこうが

 

 「コイツ、けっこうやるやんけ」

 

 という気分にさせられるかもしれない。

 オススメは「米長玉」で、ガッと攻めこまれたときに、サッと指をすべらすように▲98玉と寄ると、なにやら五条大橋で弁慶を翻弄した牛若丸のようでカッコいい。

 実際、「羽生世代」の棋士たちや「受ける青春」の異名を取った中村修九段が若手時代、終盤でこの「▲98玉」や「▲97玉」を発動させ、土壇場で体を入れ替えるという将棋をよく見たもの。

 

 

 

1993年、第34期王位戦第3局。
郷田真隆王位と、羽生善治四冠との一戦。
後手が指せそうな局面で、すっと寄った▲98玉の「米長玉」が、羽生らしい手渡し。
これで玉が遠くなったうえに、いつでも▲88金打で固めるねばりも効く。
実戦も、ここから羽生が逆転勝ち。

 

 あと「中段玉」というのもあるが、これはやや上級者向きである。

 玉の上部脱出は、相手をあせらせる有効な手段だが、いざ自玉が裸で中段に踊りだすと、指し手がむずかしい

 

 「中段玉寄せにくし」

 

 これは本当だが、実は玉のダンシングはやっているほうも、目がチカチカするのも事実。

 手がまったく見えないし、流れ弾にいつ当たるかわからないし、なにより「読まずに指す」スタイルには存外向かない。

 

 

2012年、第25期竜王戦7番勝負の第3局。渡辺明竜王と、丸山忠久九段の一戦。
入玉形の熱戦だが、丸山の時間に追われて打った、▲14角が敗着となった。
ここでは▲47角なら、先手が勝ちだったようだが、こういう形は攻め方も受け方もゴチャゴチャして、正解を選ぶのは至難。

 

 

 なので中段玉は敵陣にと金など成駒があって、かなり入玉できそうなときなら一目散に目指すべきだが、そうでないなら

 

 「中段玉行くぞ」

 

 という姿勢を見せて、プレッシャーをかけるくらいがいいと思う。

 とにかく、時間をかせいで相手に

 

 「一手でも、多く指させる」

 

 ことが秘訣で、

 

 「おー、もてあましてる、もてあましてる。金銀埋めまくって《コイツ、筋悪いなあ》ってイラ立ってますなあ。大悪手や大ポカ、お待ちしてます」

 

 必敗の局面にもかかわらず、スマホやパソコンの画面に、そんな余裕ぶっこき丸な態度を取れれば、すでに逆転への黄色いレンガの道は見えてきているのだ。

 

 (続く→こちら

 

コメント (2)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

読まずに勝てる(?)将棋必勝法 不利な局面における、正しい嫌がらせ講座

2021年09月08日 | 将棋・雑談

 「ゴロゴロ寝ながら、初段になりたい!」

 

 という、ダメ人……費用対効果を重視する、経済観念にすぐれた将棋ファンのため、同じような「グズグズ初段」だった私が、その棋歴を思い出し、アドバイスを送っている。

 そのラインアップは、

 

 ガチすぎ道場編こちら

 高校詰将棋青春篇こちら

 ネット将棋でブレイク編こちら

 棋譜並べの方法編こちら

 まずは「3級」を目指そう編こちら

 

 といったところで、定跡本も読まず、詰将棋も解かず、

 

 「そんないいかげんなやり方で二段に、それもあと1勝三段の二段になれたな」

 

 あきれる読者諸兄も、おられるかもしれない。

 たしかに

 

 「ダラダラ棋譜並べして、あとはテキトーに実戦を指しただけ」

 

 と聞けば単なるナマケモノのようだが、実はこの

 

 「テキトーに指す」

 

 というのが、私にとってひとつ、勝つコツのようなものであった。

 もちろん、ふつうにダラけたり、無気力に指すのは論外だがいい意味で」テキトーというのは大事。

 これまで再三書いてきたが、私の将棋というのは前半に大量リードをゆるしても、そこから勝負手根性で追い上げるという、典型的な「逆転勝ち」タイプ。

 このスタイルで大事なのは、

 

 「不利な局面でヘラヘラしていられる」

 

 それには「テキトー」は不真面目どころか、すこぶる大きな武器になるのだ。

 そこで今回はナマケモノの見る、アマチュア級位者から、初段レベルの逆転術を紹介したい。

 キーワードは「手を読まずに勝つ」。

 それではどうぞ。

 

 ■逆転のコツその1

 

 「とりあえず、イヤミつけとけ」

 

 将棋で不利になると、ふつうの手を指していては勝てるものでなく、相手に悪手を指してもらうのが必須になる。

 とはいえアマチュアでも、3級くらいから上になると、基本的な手筋や詰みの形はマスターしているもの。

 なので、わかりやすく「筋に入る」形になると、なかなかミスなど期待できないものだ。

 では、どうするのかと問うならば、これはもう筋の見えにくい、ゴチャゴチャした形に持って行って、プレッシャーをかけるのが一番。

 ここに発動された「オイレンシュピーゲル作戦」により、まずは何も考えずに、端歩など突き捨ててみる。

 ▲95歩、△同歩、▲93歩とか(矢倉なら▲15歩から▲13歩)、とにかく嫌味をつける。

 

 

2016年、マイナビ女子オープン第1局。
加藤桃子女王と室谷由紀女流二段との一戦。
先手優勢の局面から、端歩を突くのが定番の嫌がらせ。
その後も室谷必勝の局面が続くが、加藤の根性もすさまじく、最後は逆転してしまった。

 

 

 美濃囲い相手なら、▲62歩の頭に一発タタく。

 

 

 1997年の第56期C級1組順位戦。先崎学六段と、鈴木大介五段の将棋。

 6連勝同士の大一番は、先崎が優位に進め、図の▲62歩が手筋一閃。

 どう応じても美濃囲いが乱れて味が悪い。

 鈴木大介は△71金とかわすが、▲69飛が狙いすました一撃で、△76金に▲65飛と切り飛ばし、△同角に▲45飛と飛車が大海にさばけて先手優勢。

 

 

 ▲74歩コビンをいじくる。▲86桂と設置して、▲74桂打の「つなぎ桂」をねらう。

 逆に振り飛車は、とにかく▲26香と設置して、舟囲い△23の地点をねらう。

 矢倉なら▲24歩と突き捨てるとか、▲41銀とかけるとか。

 

 

 

 1977年の王位戦。加藤一二三棋王と、米長邦雄八段の一戦。

 形勢不利な局面で、米長の放った▲24歩が「一本、筋」という突き捨て。

 △同歩は▲25歩のツギ歩があるから、加藤は△同銀。

 こうして中央がうすくなったところで、▲45歩とするのが、リズムのいいゆさぶり。

 

 ▲23歩と一発タタくとか、▲22歩△同金(銀)でにする。

 穴熊ならやはり▲14歩、△同歩、▲13歩、△同香、▲25桂とか。▲32歩の頭にタタくとか、いきなり▲13桂成のダイブとか。

 なんかとにかく、相手の玉形を乱しておく。これが効きます。

 

 

2018年の叡王戦。石井健太郎五段と石田直裕五段の一戦。

穴熊相手にはとにもかくにも、まずは端から手をつける。

ここにイヤミがあるだけで、穴熊側もなかなかなストレスだし、この局面だと△44にいる角のニラミも頼もしい。

 

 

 え? ▲95歩、△同歩、▲93歩に△同香とか素直に応じられて、次の攻めがないって?

 いえいえ、それでいいんです。

 こういうのはズバリ「ハッタリ」。

 さらに言えばその場のノリ雰囲気である。

 これといったねらいがなくとも、やられた方はイヤなもの。

 みなさんだって、の立場だと、つぶされることはないとわかっても、結構悩むでしょ?

 矢倉△86歩と突かれたときに、▲同歩▲同銀かは、居飛車の永遠のテーマ。

 

 

1953年第12期名人戦第5局。大山康晴名人と升田幸三八段の一戦。
中盤の難所で、△86歩、▲同歩、△87歩が居飛車党なら必修の手筋。
▲同金は金が上ずるうえに、将来の△95桂を警戒しながら戦わなければならないが、放っておくのもイヤミで、玉も狭すぎる。
升田は▲同金と払うが、そこで△56歩と戦端を開いて先手のムリ攻めを誘い、大山がそれをしのいで勝ちに。

 

 


 
 これが、相手にプレッシャーをかける。

 なんてことない嫌がらせが、結構バカにならないし、持ち時間をけずれるのも実戦的にでかい。

 ミスを誘うに、一番いいのは精神的な疲弊に追われる状況なのだから、それを呼びこむ「最善手」は

 「ねらいはハッキリしないけど、なんとなくイヤな手」

 島朗九段はかつて、こんなことを言った。

 

 「優勢になると、蚊に刺されても痛く感じる」

 

 あの剛直で「男らしい」棋風である郷田真隆九段ですら、

 

 「勝ちになると、一回王手されるのも嫌」

 

 数々の修羅場をくぐり抜けた、トップ棋士でもそうなのだ。

 ならもう、どうせ不利なんだから、ジワジワせまりましょう。王手も、するだけならタダだ。

 相手が読んでなさそうな方角から弾を飛ばすと、より効果的である。

 それで泥仕合に持ちこめば、もうこっちのもん。

 どんな負けてても、どうせ秒読みの激戦で「正しい手」を指し続けることなんて、ウチらクラスでは(プロでも?)できないのだと、うそぶいていればいいのだ。

 こうやって、実は効いてるかどうか微妙な端攻めや、タレ歩でゴキゲンをうかがって、相手が28秒(58秒)くらいまでギリギリ考えてるのを見ながら、

 

 「おー迷ってる、迷ってる。こら優勢と見てフルえてますなあ。大悪手や大ポカ、お待ちしてます」

 

 必敗の局面にもかかわらず、スマホやパソコンの画面に、そんな余裕ぶっこき丸な態度を取れれば、すでに逆転への黄色いレンガの道は見えてきているのだ。

 

 (ねばりの極意編に続く→こちら

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「3級」からが、将棋はより楽しい! ボンクラ上達法 初段まで一歩手前編 その2

2021年09月05日 | 将棋・雑談

 前回(→こちら)の続き。

 将棋は「3級」になると、これまでより、また何倍もおもしろくなる。

 また「初段」ほどハードルが高くなく、私や友人コウノイケ君のような、

 

 「めんどい方法は捨てて、好きな勉強法だけやる」

 

 という、呑気なやり方でも到達できるし、さらにはその後の「ブレイクスルー」の下地にもなるため、この、

 

 「一点突破で、とりあえす3級」

 

 は、かなりオススメである。

 というと、そんな「棋譜並べだけ」とか、「詰将棋だけ」で、ホンマに上達でけるんかいなと、疑問に感じられる方もおられよう。

 しかしこれは、私たちのヘボい経験だけでなく、先崎学九段も、似たようなことを、おっしゃっているのだ。

 先チャンの場合は「囲碁」のはなしだが、『NHK囲碁講座』テキストのコラムで、自身の囲碁上達プロセスを書いておられた。

 それはもう、

 


 「このゲームは形が大事」


 

 

 というところから、手筋集や、石の形に明るくなるを読んで、それで有段者(ここで六段になるのがボンクラと天才の差だ)になったそうな。

 本人曰く、石の生き死になど、理解しないままやってたから、

 


 「筋はいいが、とんでもなく非力な六段」


 

 とのことで、まあ、謙遜もあるのだろうが、やはり棋譜だけで学んだ私も、似たようなところがあるから、言いたいことはわかる。

 要するに、将棋で言えば、

 

 接近戦が苦手」

 「詰みの部分が、あいまい

 

 みたいなもんで、かたよってはいるが、やはり、

 

 「ゴロゴロ寝ながら」

 「ひとつを極める」

 

 というメソッドで、ある程度強くなれることの証明でもあるし、実際、

 


 「アマチュアの方でも、詰将棋や詰碁をやらなくたって、三段くらいはなれる」


 

 など、われわれボンクラが、喜びにむせび泣くようなことも、書かれていた。

 詰将棋(詰碁)をやらなくていい

 なにかこう、「われわれの勝利だ!」と気炎をあげたくなる話ではないか。

 私個人としては、楽してニ、三段になれれば、それ以上のぜいたくは言わないわけで、この「先崎宣言」で大いに満足。

 それどころか、将棋を本格的に楽しむことは「観る将」でも「指す将」でも、3級でいいと思っているわけだから、ますます希望のある話ではないか。

 ただ、中には、せっかく3級や初段になれたなら、

 

 「もっと強くなりたい」

 

 という人も出てくるかもしれない。

 その心意気や良しだが、三段以上の四段五段クラスになるには、私の見たところ、正直これでは限界がある。

 四段以上になると、たとえば私のスタイルだと付け焼刃の「アヤシイ手」など通じないし、終盤のスプリント勝負は、てんで話にならない。

 なにより序盤の駒組で決定的な差をつけられ、仕掛けて数手で中押しとか、まったく将棋にならなかったりする。

 これは「詰め将」コウノイケ君も、大学で実感したそうで、

 


 「得意の、トン死ねらえる局面に行く前に、コールド負け食らうねん。てゆうか、その終盤戦も、みんな全然ボクよりレベルが高い!」


 

 自己流の哀しさである。

 『ヒカルの碁』で、葉瀬中の三谷くんの力戦が、海王中の岸本くんに、まったく通じなかったときのようなものだ。

 

 

 「自己流」の実戦的戦い方で挑む三谷くんですが……。

 

 

地力の差はいかんともしがたく、この余裕っちな態度

 

 

 これは、まさに先チャンの本にも書いてあって、六段で頭打ちになったのを、囲碁のプロ(奥様の穂坂繭三段)に相談すると、

 「詰碁

 一言だけ帰ってきたそうな。
 
 詰将棋好きで、すぐれた詰将棋作家を大リスペクトし、その本の中で、

 

 


 「詰将棋だけをひたすら解いていれば、それだけで県代表クラスになれる」


 

 

 とまで豪語する先チャン(ちなみに羽生善治九段も、これと同じことを昔言っている)だが、なぜか詰碁はお嫌いなようで、

 

 


 「詰碁は苦手でねえ。他にないかな?」

 「詰碁」

 「いや、それは頭が痛くなるし」

 「詰碁」

 「それだけは勘弁してください、お代官様」

 「だから、詰碁だってば!」


 

 

 まさに、取りつく島がないとは、このことである。

 たしかに自己流だと「三段限界説」というのは、自分自身を照らし合わせても、説得力があるところではある。

 私は定跡がおぼえられないし、詰将棋を「鑑賞」するのは好きだが解くのはめんどくさい

 コウノイケ君は詰将棋が得意とはいえ、「詰み」だけに特化しすぎて、終盤戦での「腕力勝負」や心理的な「駆け引き」のようなものに疎い。

 なので戦い方に「厚み」がなく、三段どまりなのだ。

 まあ、そこはまた、そこまで行ってから悩めばいいわけで、私的にはまず「3級」を目指すべし。

 「一点突破」で3級

 プラス「実戦」で初段

 その後もコツコツやってれば、「ブレイクスルー」が起こって(2、3ヶ月から半年くらい)、もしかしたら二段、三段も視野に入るかもしれないが、自分の感覚では将棋って、

 

 「2、3級で、初段を目指しているときが、一番楽しい」

 

 とも思うので、その意味でも、

 「まず3級

 になれる「一点突破」勉強法はオススメなのです。

 

 (実戦の逆転術編に続く→こちら

 

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「3級」からが、将棋はより楽しい! ボンクラ上達法 初段まで一歩手前編

2021年09月04日 | 将棋・雑談

 「ダラダラしながら初段になりたい!」


 という、ふざけ……自分の人生に嘘をつきたくない真摯な将棋ファンのため、茫洋と二段になった私が、アドバイスできることはないか。

 ということで、私的「楽して上達法」を紹介しているところ(激辛道場編は→こちら 高校で詰将棋マニアとの出会い編は→こちら ネット将棋で大ブレイク編は→こちら)。

 前回は、


 「ボンヤリと棋譜並べ+ネット将棋」


 という、私的有段者への道を紹介してみたが(→こちら)、この経験から言えることは、


 「自分が楽しくできる勉強だけで、初段くらいならいけるかも」


 よく、初心者向けの「将棋入門」や、プロのアドバイスなど訊くと、


 


定跡をおぼえて、得意戦法を作って、簡単な詰将棋を解いて、あとはプロの対局を鑑賞して参考にしつつ、実戦を指しまくればいい」




 まさに、ぐうの音も出ない「正解」であるが、われわれボンクラからすれば、


 「それができりゃあ、世話ないよ」


 そこで私は、自分もやった「一点突破型」をすすめるわけだ。

 上記の勉強法のすべては無理でも、楽してというか、さほどストレスなさそうなやりかたを、ひとつだけやる。


 「定跡のマスター」だけ

 「得意戦法を磨く」だけ

 「詰将棋」だけ

 「観戦」だけ


 それだけで、まず3級にはなれます。

 事実、「棋譜並べだけ」の私と、先日登場いただいた、「詰将棋だけ」の友人コウノイケ君(詰将棋マニアな彼との出会いは→こちら)は、他がスカスカでも、それくらいの棋力はあったと思う。

 というと、「3級ねえ……」とテンションの上がらない方は、おられるかもしれないが、なかなかどうして、3級をあなどってはいけない

 というのも、だれかと指したり、また自分自身の経験でもわかるが3級というのは、


 「将棋をある程度、玄人っぽく楽しむ」


 ということが、可能になってくるラインだからだ。

 将棋というゲームは、ルールおぼえたての、10級同士の遊びでも十分おもしろいが、ある程度の棋力が備わると、より「深み」「厚み」が増してくる。

 その第一段階が「3級」ではないかと思うのだ。

 これくらいになれば、自分で指していても、ちゃんときれいな駒組ができて、「手筋」「格言」通りの手が指せる。

 最後の詰みも、ちょっと詰将棋っぽい手が披露できたりすることもあったりして、なんというのか、


 「いわゆる、プロとかのっぽい将棋」


 を楽しめるようになるのだ。

 テニスでいえば、子供用のスポンジボールで遊んでいたのが、曲がりなりにも公式のボールで、ちゃんとしたコートでプレーできるようになる感じ、とでもいうのか。


 「公式戦に出て、それなりな試合の形になる」


 というくらいが3級のイメージだから、なかなかのもんでしょ?

 さらにいえば、観戦していても、そこそこ予想手が当たるようになったり、解説でいう、

 


 「先手優勢ですけど、勝ちやすいのは後手かな」


 「ふつうはこうですけど、○○九段ならこうやりそうですね。ほら、当たった」


 「AIはこう言ってますけど、人間的には怖くて指せませんねえ」


 

 みたいな、感覚的なものが、なんとなく理解できるようになったりも、3級くらいからではないか。

 具体的には、昨年の竜王戦第3局で、羽生善治九段豊島将之竜王に、評価値で90%以上の数字をたたき出しながら、そこから敗れてしまった。

 それを

 

 


「まさかの結末」

 「必勝からの大逆転」

 「ついに羽生もおとろえた」


 

 みたい記事や、ファンの声が聞かれたりしたわけだが、コアな将棋ファンは、

 

 「あそこで▲94角は、指せないよなー」

 

 ということが、なんとなく理解できてたりするから、

 

 「いやー、あれを負けても、羽生さんのせいじゃないよ」

 「むしろ、折れずにヒタヒタと追い上げていった、とよぴーの精神力と勝負術をほめるべきやんね」 

 

 てな気になるわけで、そのラインが「3級」くらいなんじゃないかと。

 

 

 2020年の第33期竜王戦、第3局。

 羽生が優勢ながら、豊島もいやらしくねばって、超難解な終盤戦。

 ここで羽生が指した▲53銀が敗着で、AI推奨の▲94角とすれば、先手が勝勢に近かったが、これが「詰めろ」だと看破するのは超難解で、現に両対局者とも「後手勝ち」で一致していたそう。

 3級くらいになると、「いやー、ここで角は人間にはムリっしょ!」とか、語っちゃえるようになって、通っぽい気分が味わえ楽しい。

 

 
 また昨年度、王位戦第2局とかも、


 


「藤井聡太、大逆転勝利」




 て書かれてたけど、あれだって、

 

 「評価値は圧倒しても、あそこから勝ち切るのは、実はかなりの難問やねんなー」


 「藤井のがんばりもすごかったし、木村王位が足を踏み外しても、決しておかしいことではないよなあ」

 

 とかね。

 まあ、「オレくらいになると、その辺わかんねん」と。

 

 

 

 2020年の第61期王位戦、第2局。

 飛ぶ鳥落とす勢いの藤井聡太を、木村一基王位が圧倒。

 途中から、ずっと先手勝ちだったが、評価値の数字以上に局面がむずかしかったことと、藤井七段の巧妙なねばりもあって、木村は勝ち切れず。

 でも、これをもって「木村がヘボい」とは思わないくらい、この終盤戦の難解さ(と、おもしろさ)を感じれられるのが、3級くらいから。

 

 

 要するに、「3級」になると、


 「ここから将棋が、またさらに、10倍くらい、おもしろくなる」


 だからまず、初心者は初段の前に「3級」を目指すべきで、それなら私やコウノイケ君のような


 「わがまま一点突破勉強法」


 でもクリアできる。

 でもって、そこからさらに「初段」を目指したければ、あとは実戦を指しまくればよい(「実戦だけ」で3級になった人は、他の勉強法をチョイ足しすればよい)。

 私はそれで二段だし、コウノイケ君も大学で将棋部に入り、実戦に目覚めたら、一瞬で三段になった。

 それもこれも「棋譜並べ」「詰将棋」という触媒があったおかげで、一気に花開いたわけだが、2人とも別に「勉強」しようと思って、やっていたわけではない。 

 ただただ、のほほんと自己流で将棋に接していたら、それが知らぬ間に「下地」になっていただけだ。

 肩肘張らなくても、3級なら行けるし、


 「将棋をちょっと専門的に楽しむ」


 なら、これでも充分。

 初段はハードルが高いという人は、まずここを目指してみては、いかがであろうか。

 

 (続く→こちら

 

 

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

1手ゆるめて勝率アップ! 高橋道雄vs藤井猛 2011年 A級順位戦 渡辺明vs佐藤天彦 2016年 第41期棋王戦

2021年09月01日 | 将棋・好手 妙手

 「ここで1手、落ち着いた手を指せれば勝てましたね」

 というのは、駒落ちの指導対局で負けたときなどに、よく聞く言葉である。

 将棋で難しいと感じる場面は多々あって、定跡がおぼえられないという人もいれば、終盤の詰むや詰まざるやが、読めないという人もいるだろう。

 その中で、やや地味なものでは、こういうのもある。

 「中盤から終盤の入口あたりで、ハッキリ優勢だけど、それをどうキープして勝ちに結びつけるか見えにくい」。
 
 将棋というのは

 「優勢なところから勝ち切る

 というのが大変なゲーム。

 「はい、この局面は、あなたがリードしています。では、ここからそれをキープして、ゴールまで走ってください」

 突きつけられると、具体的な手が見えないし、

 

 「勝たないといけない」

 「これで負けたら恥だぞ」

 

 なんていう、いらんプレッシャーも感じるし、相手は一度死んだ身だから捨て身の勝負手特攻をかけてくるしで、もう頭はクラクラ。

 

 「野球のピッチャーは1-0でリードしているときが苦しい」

 「サッカーは2-0で勝っているときが危ない」

 

 なんて、よく言われるけど、その気持ちはよくわかるのだった。

 私も、「逃げ切り」は苦手なんだよなあ……。

 そうやって手こずっていると、早く勝ちたいもんだから単調直接手に頼ってしまい、ついには逆転

 ガックリ肩を落としながら、

 

 「ここで1手、落ち着いた手を指していたら……」

 

 前回は、大山康晴十五世名人の冷静な勝負術を紹介したが(→こちら)、今回もそういうときに、参考になる将棋をご紹介。

 

 2011年A級順位戦最終戦。

 高橋道雄九段藤井猛九段の一戦。

 ここまで4勝4敗の高橋は、すでに残留を決めているが、藤井は3勝5敗で敗れると降級

 勝っても、丸山忠久九段が勝つと、やはり10期守ってきたAクラスの座を失うことになる。

 苦しい立場の藤井だが、とにかくまずは勝つしかない。

 磨きあげた、角交換四間飛車にすべてを託すが、高橋の腰の重い指しまわしに苦戦を強いられる。

 むかえた、この局面。

 

 

 駒の損得こそほぼないが、先手陣は手厚く、手持ちの飛車に、9筋の位も大きく、高橋優勢だ。

 負ければおしまいの藤井は、△15歩と打って、次に△14桂で、飛車を捕獲しようとねらっている。

 先手がリードこそしているが、まだ後手の美濃囲いも健在で、ここから勝ちに結びつけるとなると、これが一仕事。

 そこで見習いたいのが、こういう手なのだ。

 

 

 

 

 ▲19歩と打つのが、落ち着いた1手。

 △同馬と取らせて、▲28歩とフタをすれば、後手にとって攻防の要駒だった馬が、完全に無力化されてしまった。

 

 

 指し手に窮した藤井は△43銀と引くが、▲23成香△34桂の飛車取りに、かまわず▲33成香と踏みこむのが、

 

 「終盤は駒の損得よりもスピード」

 

 △26桂と取られても、▲43成香、△同金に▲41飛の攻めの方が早い。

 

 

 ここで、一連の手順の効果が出ており、もし△64にいれば、△42金と飛車に当ててから、△41歩の底歩などでねばれるが、あわれ頼みの馬は僻地で箱詰めにされている。

 泣きの涙で△53金とよろけるしかないが、▲62香△71金の「美濃くずし」の手筋を入れてからの▲94歩と突くのが、急所中のド急所

 

 

 

 △同歩は、▲92歩△同香▲91銀が、お手本通りの手筋で、△同玉に▲71飛成まで寄り。

 後手は右辺にある、4枚角桂がヒドイことになって、もう泣きたくなる。

 すぐに飛車をおろすような手より、こちらのほうが、結局は速いことがおわかりいただけるだろう。

 

 もうひとつ、急がない勝ち方で思い出すのが、この将棋。

 渡辺明棋王佐藤天彦八段が挑戦した、2016年の第41期棋王戦五番勝負。

 1勝1敗でむかえた第3局

 渡辺が当時、後手番でたまに指していたゴキゲン中飛車から、相穴熊の戦いに。

 双方、大きく駒をさばきあって、むかえたこの局面。

 

 

 佐藤天彦が▲21飛成と、桂馬を取ったところ。

 ▲28飛車取りを無視してのことだから、おどろくところだが、続く渡辺の手が落ち着いた好手だった。

 

 

 

 

 △83銀打と、ここを埋めるのが穴熊の感覚。

 △85歩と突いた形(渡辺はこの形をよく指していた印象がある)は△86歩など攻撃力がある反面、▲84を打たれて反撃されると、一発でガタガタになるリスクもある。

 そこをしっかりケアするこの銀打は、いかにも穴熊党というか、指しなれている感がバリバリ。

 囲碁でいう「大場より急場」で、この場合は△28と、と飛車を取るよりも、こっちのほうが最優先事項なのだ。

 佐藤は▲29飛と逃げるが、△56角で後手の攻めが続く。

 以下、堅陣を頼りに攻めまくり、渡辺が圧倒。

 

 

 

 

 図は佐藤の穴熊が、上から押しつぶされる形で陥落寸前。

 こうなると、後手陣が固すぎる上に、△83に打たれた厚みが頼もしすぎる。

 劣勢の佐藤天彦も、この後ねばりにねばりまくり、70手(!)近く持ちこたえたが、最後は渡辺の軍門に下った。

 熱戦の多いシリーズだったが、最後は3勝1敗で、渡辺が棋王防衛を果たしたのだった。

 

  (羽生善治によるスピード勝負編に続く→こちら

 

コメント (2)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする