ダーク・ゾーン 郷田真隆vs渡辺明 2015年 第64期王将戦 第6局

2024年03月30日 | 将棋・ポカ ウッカリ トン死

 信じられない錯覚というのがある。

 将棋の世界では、トッププロでもウッカリポカはめずらしくないが、ときにそれが「両対局者同時」に起こることがあり、見ている方も「えー!」 と目が回ることになる。

 

 



 2015年の第64期王将戦

 渡辺明王将棋王郷田真隆九段との七番勝負は渡辺が3勝2敗と防衛に王手をかけ第6局に突入。

 角換わり腰掛け銀から大激戦になり、入玉模様の難解な終盤戦が続いている。

 

 

 

 角の王手に、後手の渡辺がを打って受けたところ。

 後手のと金が大きく、寄せるのは難しそうだが、先手も3枚▲19が生きているのも頼もしく、なんとかなりそうにも見える。

 先手玉も危なく、その兼ね合いもあり、また駒を使うと、どこかで王手しながら抜かれる筋も警戒しないといけない。

 ここからの戦いがすごいのだ。

 

 

 


 ▲38桂と、ここから王手するのが好手。

 ここでは▲47銀が後手玉に圧をかけながら、▲58にヒモをつける一石二鳥の手に見える

 だが、これには△79飛と打って、▲66玉△19飛成とカナメのを除去され入玉が確定。

 

 

 そこで▲38桂と捨て、△同と、とさせてから▲47銀と打つ。

 

 

 

 これなら、△79飛から△19飛成▲38銀と、と金をはずして後手玉は捕まっている。

 なるほどという手で、まるでパズルのようだが、ここは郷田が力を見せた。

 渡辺は大ピンチだが、ここで△17飛(!)という豪打(?)を繰り出す。

 

 

 

 

 これがまた、見たこともない筋だが、強い人はこういう「ひねり出す」手にも妙味がある。

 将棋は勝ちが決まったあとの収束の仕方と、不利なときのねばり方棋風が出ると言われるが、クールでロジカルな渡辺から、こういう力ずくな手が飛び出すのも混戦のおもしろさ。

 しかし、スゴイ手だなあ。

 ▲38銀は一手スキにならないから△58飛成で後手勝ち。

 ▲17同香はそこで△48と、こちらを取り、▲28銀△99角と打てば詰み

 えらい手があったものだが、郷田は負けじと▲18銀と打つ。

 △同飛成▲同香に後手は△65歩詰めろをかけ、▲66歩△69銀と下駄をあずける。

 

 

 先手玉は詰めろだが、ここでの手番は値千金で、先手に勝ちがありそう。

 ▲17銀と王手して、△27玉▲38銀と取る。

 △同玉▲28飛で詰むから△18玉ともぐりこむが、そこで一回▲68金と受ける手が冷静で、先手玉に一手スキが来ない。

 いよいよ手がなくなった後手は、△46桂とプレッシャーをかけ「寄せてみろ!」と最後の勝負をせまる。

 ここが問題の局面だった。

 

 


 

 ここでは▲28飛と打って、△17玉▲37銀と取っておけば先手玉に詰みはなく、後手玉は必至で明快だった。

 ところが、郷田は▲29銀としてしまう。

 

 

 

 これが信じられない大悪手だった。

 そう、なんと△同桂成と取られてタダなうえに入玉が確定。

 

 

 それで渡辺が王将防衛だ。

 手順を尽くして、ついに勝利をつかんだかに見えたその刹那の一手バッタリ。将棋は無情である。

 だが、ドラマはここで終わらなかった。なんと後手は△同玉と取ってしまうからだ。

 これには▲28飛と打って、△19玉▲43成桂と質駒のを取ってジ・エンド。

 感想戦で△29同桂成を指摘されると、ふたりとも「はあ?」。

 まさかのまさかだが、渡辺と郷田の両方が、この△29同桂成が見えていなかった

 両者の読みが、あまりにも一致していたせいか、ウッカリもまたおたがいをトレースしてしまったのか。

 この後の第7局郷田が制して王将獲得するのだから、結果的に見て、とんでもなく大きな錯覚であった。

 トッププロ同士でも、こういうことがあるから入玉形の将棋と秒読みは怖いのである。

 


(郷田がA級昇級を逃した大ポカはこちら

(その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 

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『ベルナールトス嬢曰く』第7巻に出てきた本、何冊読んだ? その3

2024年03月27日 | 

 施川ユウキ『バーナード嬢曰く』が好きである。

 ということで、前回に続いて

 

 「このマンガに出てきた本を何冊読んだか数えてみよう」


 
 との企画。第7巻の第3回。

 


 ★『サバイバー』チャック・パラニューク(未読)
 

 

 『ファイトクラブ』でおなじみの人。
 
 一部ボンクラ男子にカルト的人気を誇るが、私はピンとこない。
 
 純文化系なので、「肉体の強さこそが男の生きる証明」みたいな発想がまったくないのだ。

 だから、ブルースリーや『バキ』とかも全然ハマらない。

 とか映画とか好きな文化系の中にも、「強さへの憧れ」がある人と、どうでもいいタイプに分かれるのはおもしろい。

 私は典型的な後者

 世界で一番エラい男子って、ドイツ軍歴代主要戦車の名前とか、全部言えるヤツでしょ?
 
 


 ★『汽車のえほん』『きえた機関車』ウィルバート・オードリー(未読)
 

 

 「主人公がダメな奴だと、見ている人がストレスを感じて楽しめない」
 


 というと思い出すのが、ケンドーコバヤシさんが『新世紀エヴァンゲリオン』見て、
 


 「オレ、あんなウジウジしたヤツ大嫌いや! 世界滅ぶんやろ? 男やねんから、さっさと乗って戦えよ!」

 
 とかマジで怒ってたこと。
 
 同じ「ジャンプ黄金時代世代」として気持ちはわかるけど、実際に軍隊の基地に連れていかれて、零戦に乗せられて、


 
 「これで鬼畜米英の戦艦と戦ってこいや!」


 
 とか言われたら絶対無理なわけで。

 そう考えたら、そのさらに上の無茶振り食らってるシンジ君の反応は百パー正しいとは思うけど、このあたりは時代性が出るのかもね。
 
 


 ★『プロジェクトヘイルメアリー』アンディ・ウィアー(未読)
 

 

 超オモシロ小説『火星の人』の作者。
 
 自分が好きな本を、自分が嫌いな人がほめてると、イヤなような、それでいて不思議な気分になる。


 
 「あんなヤな奴やのに、これの良さがわかるんやー」


 
 きっと、むこうも似たようなこと感じてるんでしょうね。

 そういや中学生のとき、私のことを嫌いなある子(クラスでイケてるタイプが)

 

 「おまえはどうせ、長渕剛の良さがわからんのやろ。そんなしょうもない人間や!」

 

 とか罵倒してきて意味がわからなかったし、まあ実際、そんなに好きではない。

 でも、あんとき真顔で

 「わかるよ……。すごいわかる」

 って応えてたら、どんな反応が返ってきたんだろうとか、ちょっと考えてしまった思い出が。

 逆にコーネルウールリッチの面白さとかを、むこうに「メッチャわかる……」て言われたとき、こっちはどう感じるのか。

 よけいに嫌悪感が強くなるのか、それとも案外仲良くなれたか、どっちなんだろ。
 

 


★『マーダーポットダイアリー』マーサ・ウェルズ(未読)

 

 本に飽きることは、まあたまにある。
 
 でも、そこで飽きたままだと、


 
 「積読になってるこの子たちは、どうするのよ!」


 
 という気持ちになって、また読み始める。愛というより貧乏性
 
 

 


 ★『10月はたそがれの国』レイ・ブラッドベリ(未読)

 

 ブラッドベリは山ほど読んだから、


 「ブラッドベリはマニアックじゃない」
 

 と言われたら、たしかにだけど、でも本を読まない人は聞いたこともないだろう。

 まあ、そんなもんだ。


 
 「ワハハハハ! おまえ本当に高校生か」


 
 と言いたくなるのは、北村薫先生の「円紫さんと私」シリーズを読んだときいつも。

 フランソワコッペとか、ふつうの高校生は読まねーって。
 
 それにしても、この中に出てくる女性キャラ、どいつもこいつも、みんなヤな女だぜ。
 

 


 ★『火星に住むつもりかい?』(未読)
 ★『ゴールデンスランバー』(未読)
 ★『モダンタイムス』(未読)
 ★『オーデュボンの祈り』伊坂幸太郎(未読)
 
 
 4冊もあるのに、しかも伊坂幸太郎は一時期よく読んだのに、既読が1冊もないという。
 
 調べてみたら読んだのは『陽気なギャングが地球を回す』『重力ピエロ』『死神の精度』『終末のフール』『グラスホッパー』『アヒルと鴨のコインロッカー
 

 どれもおもしろいけど、「語りたい!」って感じにはならないなー。さわやかでオシャレだから?


 『重力ピエロ』読んだとき、これは作者「自信あり」なんやろなと思ったもの。


 
 「春が二階から落ちてきた」


 
 なんてフレーズ、「勝算」ないと書けないじゃんねえ。

 


(『バーナード嬢曰く』5巻の感想はこちら
 

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ソフトと升田幸三賞 渡辺明vs郷田真隆 2015年 第64期王将戦 第1局

2024年03月24日 | 将棋・好手 妙手

 「新手」が登場したときは、見ていて興奮するものである。

 将棋のおもしろさには、中盤の押し引きや終盤の競り合いもあるが、序中盤で見せる新手や新戦法もはずせない。

 特に昨今はAIの発展によって、人なら盲点になるような筋から新しい展開が発見されたりと、より可能性が広がった印象。

 ということで、今回はちょっといわくつきな、おどろいた将棋を。

 


 2015年の第64期王将戦七番勝負。

 渡辺明王将棋王郷田真隆九段のシリーズは、第1局から注目を集めることとなった。

 話題になったのが、この局面。

 

 

 


 角換わり腰掛け銀の中盤戦だが、なにやらすでに、先手が苦しげである。△65歩と打たれて、の処置がむずかしい。

 この局面自体は前例があって、▲65同銀直と取るのだが、△同銀▲同銀△55角

 これで不利というわけでもないが、先手番なのに受け一方になり、つまらない展開ではある。

 となると不思議なのが、先手の渡辺明が自分からこの局面に誘導したこと。

 他にも分岐点はあったのに、あえてここにしか到達しない手を選んで進めていたのだ。

 観戦者たちは、かたずを飲んで見守っていた。西尾明六段によると、これと同じ局面を指し、

 


 「先手を持って自信がなかった」


 

 と感じたそうだが、なんとここで逆に、先手が優勢になる順が研究会で発見されたというのだ。

 果たして、渡辺明はその手を指した。

 中座真七段高野秀行六段をはじめ、並みいるプロが「驚きの声を上げた」という一着は……。

 

 

 

 

 


 ▲55銀左△同銀▲47銀で先手優勢。

 当たりになっているを捨て、逆モーションでもう1枚の銀を引く。この組み合わせで、見事に難局をクリアしている。

 このまま▲46銀を取られてはいけないが、逃げる場所も少なく、△13角には▲15歩で攻めが続く。

 郷田はこれを見て2時間25分の大長考に沈み、そのまま封じ手に突入するが、結局打開策はなく△37角成から特攻するも、冷静に受け切られてしまった。

 見事な切り返しだったが、となると気になるのは、渡辺がどこで新手の存在を知ったか。

 大川慎太郎さんの取材によると、渡辺は仲のいい村山慈明七段から聞き、村山は森下卓九段から教えてもらったという。

 そして森下によれば、

 

 


 「実はソフトに指されたんですよ」


 

 人間の検討では「先手苦しい」で一致していたところ、ソフトの新手により新しい可能性が開ける。

 今ならよくあるだろうか、当時はまだ新鮮だった。

 ちなみに渡辺は

 


 「ソフト発の新手なのに升田幸三賞にノミネート(自分が)されると困る」


 

 と思ったから、素直に研究内容を話したそう。

 たしかに、そういう誤解は問題だが、新手というのはいつも、出どころがハッキリするとは限らないのが悩みどころでもある。

 よくあるのは、新手の出どころは奨励会だけど発案者はまだ無名なうえに、研究が転がっているうちにだれが創始者かわからなくなる。

 そのうち、それを公式戦で採用したプロの名前で、その戦法がクローズアップされたりして、


 ◯◯新手ってあるけど、別に◯◯さんが考えた手なわけじゃないよね……」


 なんかな感じになったりとか。

 またおもしろいのは、なんと対戦相手の郷田はこの手を「潜在的に考えていた」ことがあったとコメントしている。

 対局中はそのことを忘れてしまっており、対策には生かせなかったが、こういう相乗効果で話が進むことだってある。

 さらに「へえ」だったのが、▲47銀と引いた局面で、もしかしたら△13角と逃げる手が、最善のねばりだったかもしれないということ。

 


 「駒に勢いがない。とても指す気がしなかった」


 

 と当初は否定的だった郷田だが、後に「引くべきだったかもしれない」と意見を変えている。

 気持ちはわかる。相手の画期的新手を喰らって苦しいときに、さらに屈服するような手ではとても勝ちは望めない。

 強い人ほど、△13角のような手は排除するはずなのだ。

 だが、ここでもやはり先入観の先に光があった。
 
 △13角▲15歩△31玉▲14歩△22角で一目屈辱的だが、決めるとなると先手もハッキリしないのだ。

 

 


 これは広瀬章人八段も同じ感想を抱いている。

  なるほどという手順だが、それにしても△13角△31玉△22角は指せない。

 ずーっと言いなりになってるだけだもんなあ。しかも歩切れだし。

 進歩というのは、こういった「できない」「ありえない」というものを、試行錯誤の末に突破したときにこそ生まれるもの。

 その意味ではソフトと人とが切磋琢磨して影響をあたえ合えば、これからもどんどんおもしろい将棋が見られるはずで、これからの展開も大いに期待したいものだ。

 


(人間だって負けてないぞ! 平成の棋界を震撼させた「中座飛車」)

(その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 

 

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『ベルナールトス嬢曰く』第7巻に出てきた本、何冊読んだ? その2

2024年03月21日 | 

 施川ユウキ『バーナード嬢曰く』が好きである。

 ということで、

 「このマンガに出てきた本を何冊読んだか数えてみよう」
 
 との企画。前回に続いて、第7巻の第2回。

 


 
 ★『NETFLIXの最強人事戦略 自由と責任の文化を築く』パティ・マッコード(未読)

 うちはアマゾンプライムだけど、『クイーンズギャンビット』目当てにネトフリに入った。
 
 『コブラ会』『サンクチュアリ』『全裸監督』あたりも見る予定。時間あるかなあ。

 しかし『コブラ会』はすばらしいタイトルだ。「竜牙会」と並んで一度は入ってみたい会である。

 


 ★『完訳 千一夜物語9』(未読)
 
 
 黒田幸弘『クロちゃんのRPG千夜一夜』はダンジョンズ&ドラゴンズで遊びまくってたころ、『D&Dがよくわかる本』と一緒に死ぬほど読み返した。
 
 『よくわかる本』と一緒に、Kindleにならないかなあ。あとD&D版の『ロードス島戦記』も。
 
 



 ★『三体3 死神永生下』劉慈欣(未読)
 
 『三体』は電書で買って積読。いつ読むんだ。
 



  ★『刺青の男 新装版』レイ・ブラッドベリ(読了
 
 
 ブラッドベリ最初の一冊と言えば、『火星年代記』か『太陽の黄金の林檎』かコレ
 
 『万華鏡』が有名だが、それをオマージュした『サイボーグ009』のラストもすばらしい。
 
 『形勢逆転』を読むと「憎しみの連鎖を断ち切ろう」という一見美しい意見が、


 
 「アンタらの番で泣き寝入りしてくれ」


 
 というムシのいい提案だということがよくわかる。

 



 ★『進化しすぎた脳』池谷裕二(未読)
 
 脳の退化におびえる日々。なんでもすぐ忘れちゃうものなー。
 
 もっとも、イヤなこともすぐ忘れるから、それはあなどれないメリット。
 
 悩むタイプの人は、中年以降になるとちょっとになるから安心して。 
 
 


 ★『真鍋博の世界』(未読)
 
 そりゃあもう、ハヤカワっ子のクリスティーヲタでしたから、真鍋先生はおなじみでした。
 
 星新一ももちろん。古本屋で安いの山ほど買ってきて、ゴリゴリ読みまくった。みんなも読もうぜ!
 
 


 ★『ゼロ時間へ』アガサ・クリスティー(読了)
 
 クリスティーは高校生のころ夢中になった。

 ポアロもミス・マープルも出ないノンシリーズものだから、どうかなと思ったけどメチャおもしろい。

 マイナーどころだと『謎のクィン氏』や『パーカーパイン登場』もグッド。
 
 クリスティーはミステリとしても一級品だけど、当時のイギリスの雰囲気を味わう小説としても楽しくて、その点では「御三家」の中で抜けていると思う。
 
 


 ★『ライト、ついてますか一問題発見の人間学』 ドナルド・C・ゴース ジェラルド・M・ワインバーグ(未読)
 
 翻訳が読みづらい本と言えば、『嵐が丘』。
 
 だれの訳か忘れたけど、信じられないくらいの悪訳で逆に感動
 
 海外旅行に持って行ったんだけど、パリのユースホステルで日本人旅行者に読ませたら

 

 「ヒデーなコレは」

 「一行も読み進めない。マジで日本語なの?」

 「エニグマ暗号機で書いたのかと思った」

 

 などなど大ウケだったので大満足。
 
 だれか、どの訳だったか教えてくれんかなあ。
 
 


 ★『10の世界の物語』アーサー・C・クラーク(未読)
 
 ビミョーな短編と言えば、江戸川乱歩の『火星の運河』。
 
 見たをそのまま書いたとか言う、それだけでも「事故物件」のにおいがするが、内容もよくわかんねーや。

 フィリップ・K・ディック『ヴァリス』も似たようなもんなのに、こっちは妙におもしろいんだけどね。不思議。

 

 (続く)

 


 (『バーナード嬢曰く』2巻3巻の感想)

 

 

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合言葉は勇気 佐々木勇気vs高崎一生&千田翔太 2012年 新人王戦 2013年 加古川青流戦

2024年03月18日 | 将棋・好手 妙手

 佐々木勇気NHK杯で優勝した。
 
 ここまでアベマトーナメント順位戦、そして昨年度決勝など痛い目にあわされてきた藤井聡太八冠相手に見事リベンジ達成。
 
 将棋の内容も、終盤戦はどっちが勝ちかわからないハラハラドキドキで、大いに堪能。
 
 震える手で駒をすべらす勇気に、勝ち将棋をおかしくしたことに落胆し、がっかりした様子を隠そうともしないまま、それでも簡単には勝たせない藤井聡太。
 
 いやこれは、盤面なしもでおもしろいくらいに、両対局者様子も興味深かった。
 
 「胃が痛い」で話題になった表彰式でも、熱戦の余韻冷めやらぬのか、ほとんど挙動不審みたいになっていた優勝者が、また見ていてほほえましい。
 
 いやあ、やっぱり勇気はがあるなあ。
 
 今期はA級残留にビッグトーナメント制覇と、大きな仕事をやってのけた佐々木勇気。
 
 だがもちろん、ファンはそんなものでは、まったく満足していない
 
 これはねえ、期待してるからこそもう一回言うけど、「まったく」満足していない。
 
 彼ほどの男なら、もっとバリバリとタイトル戦で戦わないと!
 
 今の伊藤匠の位置に、この男がいないのが違和感しかないのだ。
 
 というわけで、今回はエールをこめて佐々木勇気の将棋を紹介。

 


 2012年新人王戦

 高崎一生六段と、佐々木勇気四段の一戦。

 相振り飛車から、双方7筋と3筋をそれぞれほじくって行き、戦いに突入。

 むかえた、この局面。

 

 

 先手の高崎が、▲88角と引いたところ。

 中盤の難所だが、後手は△22にいるが、使えてないのが気になるところ。

 ▲33でフタをされ、場合によっては▲23銀成から責められたりすると負担になってしまいそうだが、佐々木はここでワザを見せる。

 

 

 

 

 

 

 △32金とするのが、ハッとする手。

 ▲同歩成とすると、△88角成、▲同銀に△67角が、飛車銀両取りでうまい。

 

 

 高崎は▲36金と、イヤミな拠点を取り払うが、後手も△33金と力強く前進。

 ▲73歩△82金の交換を入れてから、▲74飛とさばいていくが、△84銀と受ける。

 ▲64歩の手筋に、△56歩、▲同歩に△34金と取って、後手の駒がのびのびしてきた。

 

 

 

 ▲22角成とするも、△同飛で、箱詰めにされていたはずの角が、見事にさばけてしまった。

 以下、▲63歩成△66角と、その角で反撃し、その後も激戦だったが後手が勝利。

 佐々木の才能を感じさせる、うまい駒さばきであった。

 

 続けて、もう一つ。

 2013年加古川清流戦決勝に残ったのは、佐々木勇気四段と千田翔太四段

 決勝の3番勝負は初戦佐々木が、2戦目千田が取って決戦の第3局に。

 千田が先手で相矢倉になったが、玉頭の斥候で佐々木がリードを奪う。

 

 

 図は千田が▲56銀と上がったところ。

 先手が苦しいながら、後手も飛車が使えておらず、決めるとなるまだ大変に見えるところ。

 後手からすれば、8筋の拠点を使って攻めたいが、いきなり△87銀と打ってもたいしたことはない。

 なにかセンスのいい手が欲しいところだが、まさにそれがここで飛び出すのだ。

 

 

 

 

 

 

 △95角と軽やかに飛び出して、後手が勝勢

 次に△87歩成から△59角成を素抜く筋があるから、▲77金寄と受けるが、そこで一転△85銀と玉頭に重くロックをかける。

 

 

 

 先手はなんとか△86を払ってねばりたかったが、その望みは絶たれた。

 そこで▲26角とこっちに転換するが、△75歩▲同歩△76歩と拠点を作ってから、△45銀と遊んでる銀を活用し「をよこせ」とせまる。

 ▲同銀しかなく、△同歩に今度こそのぶちこみでまいるから、▲79桂とがんばるが、そこで△65歩飛車に活が入って勝負あった。

 

 

 

 

 ▲同歩△同飛▲66歩△75飛と、キャノン砲を絶好の位置に配置。

 以下、△77銀から数の暴力で押し切り、見事に佐々木が棋戦初優勝を飾ったのだった。 

 


(その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

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『ベルナールトス嬢曰く』第7巻に出てきた本、何冊読んだ?

2024年03月15日 | 

 施川ユウキ『バーナード嬢曰く』が好きである。
 
 読書を題材にした日常ギャグだが、本好きだとついつい、
 
 
 「オレ、この中の何冊読んだっけ?」
 
 
 みたいなことが気になってしまうもの。
 
 そこでこれまでも、「何冊読破したか数えてみよう」とやったことはあるのだが、今回第7巻も出たことだし、久しぶりにやってみたい。
 
 


 ★『ドラえもん0巻』藤子・F・不二雄(未読)
 
 『ドラえもん』は子供のころ友達に借りて、飛び飛びだけど30何巻かくらいまでは読んだ。
 
 第1話は、おもちがうまそうだった記憶があるけど、それ以外にもエピソードがあったとは知らなんだ。

 私のバージョンだとエゴむき出しで歴史を変えようとする、ドラたちの言い訳が苦しすぎて憤ったのもおぼえてるなあ。

 他人の人生をなんだと思ってるんだ。ネットのインフルエンサーとかレベルの詭弁で、ガッカリこの上なく、四次元ポケットだけ置いて、とっとと消えやがれ! とタンカを切ったものである。
 
 あと、言うまでもなくこの作品で一番の名セリフはやはり、
 
 
 「ジオラマにかかせない『三感』」
 
 「12チャンネルで4機ばらばらに動かせるんだ」

 

 ラジコン大海戦、マジで参加してー!

 円谷英二教のオレはマレー沖海戦がいいな。プリンス・オブ・ウェールズとレパルスを秒で沈めてやりたいぜ!
 


 ★『中学校 国語 平成24年度版』光村図書(未読)
 
 
 本を読みまくる人生を送っていたにもかかわらず、とにかく国語の成績は良くなかった私。
 
 なので、どんな教科書で勉強してたか興味津々だったが、中学で最初にやったのが
 
 『あの坂をのぼれば
 
 これはよくおぼえていて、なんかアイドルが出てこない「全力坂」みたいな話だよね(ホントにおぼえてるのか?)。
 
 ただそれ以降は、全然記憶になくてビックリ。
 
 最初のインパクトが過ぎれば、それ以降は内容はおろか、どの作品で授業をやってたのかもサッパリ記憶にない。
 
 これはヒドイと2年、3年のも見たがやはり全滅
 
 さすがに『走れメロス』は読書感想文に
 
 
 「メロスみたいな真正バカに、人生をあずけなければならなくなったセリヌンティウスが、とてもかわいそうだと思いました。王様は彼をとっとと死刑にすべきだと思いました」
 
 
 とか「感じるまま素直に書きましょう」という先生のアドバイス通りに書いたら、書き直しさせられたからおぼえていた。

 メロスで思い出すのが、たしか『3年奇面組』で、

 

 「『走れゴメス』は読んだな」

 「メロスだろ!」

 

 とかいうのがあって、メチャおもしろそうだな『走れゴメス』って思ったものだ。

 やっぱシトロネラアシッドから逃げてるのかしら。結城昌治さんの『ゴメスの名はゴメス』読んだときも、

 

 「そこは『ゴメスの名はゴメテウス』にしてほしかったな」

 

 とか思ったもの。教科書、全然カンケーねーや。

 あと魯迅の『故郷』もえらいこと辛気臭い話で、それはそれでうっすら記憶にあって、大人になってちゃんと文庫本買って読んだら、やっぱり辛気臭かった。
 
 「豆腐屋小町」ってワードがたしか出てきたはず。
 
 町一番の美女だったんだけど、人生で苦労しすぎて、ヨボヨボの意地悪ばあさんになってるという救われないエピソード。
 
 当時の中国の問題点を浮き彫りにした作品なんだけど、どこまでいっても辛気臭かった。

 今なら読書感想文に、

 

 「とても暗い話でイヤになったと思いました。映画化したときには故郷に帰ったら地底怪獣が暴れてて、それを魯迅とか孫文がみんなでやっつけるという話にしたら、すごい友情とか恋とかも生まれて、メッチャ盛り上がったと思いました」

 

 とか書くな。やっぱ書き直しか。

 

 (続く

 



 (『バーナード嬢曰く』の感想はこちら

 (1巻に出てきた作品についてはこちらからどうぞ)

 

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「さばきのアーティスト」は「ねばりもアーティスト」 久保利明vs森内俊之 2011年 第69期A級順位戦

2024年03月12日 | 将棋・名局

 久保利明のねばり強さは、一種異常である。
 
 久保と言えば、軽快な振り飛車から「さばきのアーティスト」と呼ばれるが、もうひとつの大きな武器に終盤でも折れない心にある。
 
 必敗の局面でも、土下座のような手で耐え、そのうちにひっくり返してしまうという腕力はまさに


 
 「ねばりもアーティスト」


 
 今回はそういう将棋を見ていただきたい。
 
 


 2011年、第69期A級順位戦の最終局。
 
 久保利明棋王王将森内俊之九段の一戦。
 
 この期の森内は好調で、ここまで2敗をキープ。
 
 この最終戦を勝てば、同じ2敗で並ぶ渡辺明竜王プレーオフ以上が決まる。
 
 一方の久保は4勝4敗という五分の星だが、ここで敗れたうえに、上位3敗丸山忠久九段藤井猛九段の両者ともに勝たれてしまうと落ちてしまう。
 
 どちらも負けられない大一番は久保のゴキゲン中飛車で幕を開け、迎えたこの局面。
 
 
 
 
 
 双方、大駒をさばき合っての中盤戦だが、を作った居飛車がやや指せるように見える。
 
 後手が、どう巻き返していくか注目だったが、ここで久保が渋い手を見せる。
 
 
 
 
 
 
 △61歩と先受けするのが、振り飛車の極意。
 
 後手陣はがはなれているところが、やや薄いが、この底歩で相当に固くなった印象だ。
 
 森内も合わせるように▲68金と締まっておくが、そこで△92玉と寄るのが、また雰囲気の出た手。
 
 
 
 
 
 
 
 この「米長玉」で戦場から一路はなれたことにより、終盤戦で金銀1枚半くらい違う印象だ。
 
 ならばと森内は「端玉には端歩」で▲96歩と突きあげるのが、また腰の据わった手。
 
 
 
 
 
 いかにも順位戦らしい間合いのはかり方で、思わず
 
 「うーん、玄人の手やなあ」 
 
 うなりたくなるが、さすがに次▲95歩とされると圧がすごいので、久保は△85金と局面を動かしに行き、ここからは終盤戦へと一気になだれこんだ。
 
 
 
 
 
 
 むかえた最終盤、森内が▲71角と打ったところ。
 
 次に▲82金までの簡単な詰めろだが、▲76にあるの利きが絶大で、後手に受ける手がない。
 
 △82金▲同角成
 
 △72金▲82金から詰み。
 
 テレビの前で私も、こりゃ投了しかないかとさじを投げ、控室の検討でも「森内勝ち」で一致。
 
 このころ、渡辺はすでに敗れており、森内の挑戦権獲得は決定的で、スタッフやカメラマンもインタビューの準備をして待機していたそうだが……。
 
 
 
 
 
 
 △68飛▲78桂△87金が、「そうはさせじ」のすごい手。
 
 といっても、これだけ見ても意味は分からない。
 
 △68飛はまあ、形づくりというか、秒に追われての「思い出王手」みたいなものだろうけど、この△87金って何?
 
 なんだか、将棋ソフトのやる「水平効果」のムダな王手みたいだけど、これを人間がやるということは、なにか意味があるということか。
 
 くらいは私でも予想はつくけど、とはいえその後の手順などまったく見えない。
 
 どないすんねんと森内は▲87同玉だが、△67飛成と王手して、▲77金△76竜(!)とを取る。
 
 ▲同金△72金と埋めて、なんとこれで後手玉にかかっていたはずの必至がほどけているではないか!
 
 
 
 
 
 これにはテレビの前で私も「すげー!」とひっくり返ったが、森内もおどろいたことだろう。
 
 解説の棋士が、
 
 


 「角を打って、森内さんは投げてくれると思ったでしょうけど、そこにこんなことされたらパニックですよ!」



 
 
 頭をかかえていたが、さもあろう。
 
 森内と言えば決して浮ついたところのないタイプだが、それでもヒーローインタビューの文言を考えているところに、こんなねばりを食らったら、私だった「マジか」と声も出ますよ。
 
 しかし、土壇場でこういう手を食らっても、落ち着いていられるということにかけて、森内俊之という男の右に出る者はいない。
 
 ▲61飛と打って、△82香のさらなる抵抗に、じっと▲65金右としたのが冷静な手。

 

 
 取られそうなを活用しながら、中央を厚くするという大人の対応。
 
 この状況で、ようこんな手させるなとあきれるが、こういうところがトップクラスの凄味だ。
 
 こうして手を渡されてみると、大きな駒損をかかえている久保が劣勢なのは明確だった。
 
 △67銀不成と活用し、▲77金△68銀不成と懸命にしがみつくが、▲64歩と打たれて、いよいよ受けがない。
 
 だが、執念の久保は△77銀成と一回取り、▲同桂に、△71金▲同飛成△72飛(!)。 
 
 
 
 
 
 ▲同竜△同銀▲76飛の攻防手に△73飛(!)。

 


 
 連続の自陣飛車で頑強に抵抗する。
 
 しかも、この△73飛は遠く▲13もねらっているという手で油断ならない。
 
 さすがの森内もウンザリしたかもしれないが、ここで馬取りを放置して▲74銀と打つのが決め手。
 
 △13飛と辺境のを取らせてから、▲71金と打って今度こそ決まった。
 
 いかがであろうか、この久保のねばり。
 
 敗れたとはいえ、その「アーティスト」ぶりを十二分に発揮し、見ているこちらは大興奮であった。
 
 この結果、森内は羽生善治名人への挑戦権を獲得。
 
 久保は藤井が敗れたことにより、からくも降級を逃れたのであった。
 
 


(他の久保による強靭なねばりこちら

(久保と言えば、やっぱり「さばき」でこちら

(その他の将棋記事はこちらからどうぞ)
 

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いつまでも旅慣れないバックパッカーはたぶん永遠に鬼瓦警部 その2

2024年03月09日 | 海外旅行

 「で、結局《鬼瓦警部》ってなんやねん!」

 

 近所の串焼きやで、そんなツッコミを入れたのは、友人ハマデラ君であった。

 と、それだけ聞いても、皆さまにはなんのことかサッパリであろうが、それは前回の

 

 「旅行好きで旅なれてるけど、《仕事ができない》私にガイドとかトラブルシューティングは無理やから!

 

 という井上光晴「全身小説家」宣言ならぬ「全身無能者」宣言を表明した件で(するなよそんなもん)、冒頭に

 

 「だから《鬼瓦警部》やって、ゆーてるやん!」

 

 と書き出しておきながら、その後いっさいそのワードに触れることなく文章が終わってしまったからである。

 なので、友の「なんやねん」という発言は至極まっとうであり、要するにこちらが「伏線の回収」を忘れただけなのだが、つまり私はに出ると一緒に行った人からよく、

 

 「鬼瓦警部か!」

 

 とのツッコミをいただくことが多いのだ。

 そう説明されても、ますますなんのこっちゃだが、私は旅行好きだが「旅人」としてのスキル低レベルなのである。

 それは

 

 「スキルなど身につけようとしなくてよい」

 

 このことこそが、旅の楽しいところからなのだが、もうひとつ自分が「案内人」に向かない理由がある。

 それが「方向音痴」だ。

 それほど重度ということはないが、それでも、

 

 地図を観るのにタテにしたりヨコにしたりしなければならない」

 

 という「方向音痴あるある」を実践するほどにはそうであり、スマホのない時代は探検家でもないのにコンパスを持っていくのが必須だった。

 なんといっても私はスペインバルセロナをおとずれたさい、かの大観光地であるサグラダファミリアを観なかったのだ。

 それは、

 

 「観光地をめぐるなど、本当の旅ではない」

 

 という、いにしえのバックパッカーのようなトガッたノリではなく、ただただ道に迷って目的地にたどり着けなかったためだ。

 タイワットポーアムステルダムレンブラントの家も、最初の一回ではたどりつけなかった。

 それどころか、一度はたどり着いたものの、なんだかずいぶんと、しょぼくれた施設だったりして、

 

 「有名なところらしいけど、意外と、しょうもないところなんやなあ」

 

 とか納得していたら、それが宿に帰って調べてみると全然別の建物だったりして、ただの地元お寺を「ワット・ポー」だと思いこみ、ただのアパートを「レンブラントの家」と信じて観光していたのだ。

 このように、私の観光は常に「にせロンドンブリッジ」や「にせギザのピラミッド」にだまされる危険をはらんでおり、まさにスリリングなトラブル・トラベラーとして闊歩することになる。

 そうなると、必然的にもう一回という二度手間になり、同行者たちから

 

 「阿呆」

 「無能」

 「目ぇ噛んで死ね!」

 

 罵倒をいただくのだが、さらに悪いことに、私はこういうときいつも

 

 「自信満々で間違える」

 

 という特技がある。

 に迷ったり、地下鉄を乗り間違えたり、言葉がわからず「右に行け」と言われてるのにさわやかに左折したりするわけだが、そのときでもかならず、

 

 「大丈夫! もうわかったから!」

 

 高らかに宣言するわけだ。

 バット大振りで間違っておいて、この自信。

 この様は推理小説ミステリ映画に出てくる、「トンマ警部」そのものではないか。

 古くはシャーロックホームズに対するレストレード警部金田一耕助に対する等々力警部

 事件が起こるたびにしゃしゃり出てきて(まあ警察だから当然なんだけど)、なにかをアヤシイと見るや、

 

 「そうか、わかったぞ!」

 

 と手を打ち、トンチンカン推理を披露したあげく名探偵と読者に失笑されるアレだ。

 道に迷い、まったく違う建物を「観光地」と言い張り、地図とぞうきんの区別もつかない私の姿はまさに、探偵ドラマに出てくる「鬼瓦警部」そのもの。

 大いに改善すべき点だが、コラムニストの玉村豊男さんも、フランス語がしゃべれるうえに毎年のように仕事で海外に出ているのに失敗はなくならず、

 

 「わたしは、いつになったら《旅なれる》のだろう」


 

 そう、なげいておられておられました。

 このレベルでもそうなるんだから、私なんかたぶん永遠に無理ですわな。

 

 

 

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「伝説の真剣師」対「伝説の棋士」 小池重明vs升田幸三 1982年 角落ち記念対局

2024年03月06日 | 将棋・好手 妙手

 駒落ちの将棋は、平手とちがった独特のおもしろさがある。

 上位者に教えてもらえるという下手側のメリットもさることながら、上手は上手で、

 

 不利な局面をまくる悪力

 

 これを鍛える効力もあるのではないかということは、前回お伝えした通り。

 駒落ちよりも平手で指したいという人は多いが、棋力に差があると中盤とかで大差がついてしまい、将棋で一番おもしろい終盤のスプリント勝負まで持っていけない、なんてことになりがち。

 それはつまらないところもあるので、駒落ち将棋はもっと普及してもいいのではと思うんだけど、やっぱり「駒を減らす」というスケールダウン感がネックなのだろうか。

 囲碁だと「置き石」という、下手側の戦力を増やす戦いになるわけだけど、将棋も逆に「飛車置き」「角置き」みたいな、パワーアップ系のハンディ戦があってもいいのかもしれない。

 むこうが「六枚落ち」よりも、「飛車金2枚セットもらい」で戦うとかの方が、特に子供はよろこんで飛びつきそうだ。

 


 1982年升田幸三九段と、小池重明アマ名人との間で角落ち戦が行われた。

 小池重明といえば「伝説の真剣師」(真剣師とは【賭け将棋】で生計を立てるアマチュアのこと)で、リアル『カイジ』のような無頼派の天才。

 独特すぎる勝負強さでプロを次々と破り、その中には現役A級棋士で、すぐに棋聖のタイトルを取ることになる森雞二八段の名前もあるというのだから、すさまじい。

 そんな在野で最強の小池が、ついにアマ名人のタイトルを獲得し「無冠の帝王」を卒業。

 しかも、大会前夜は一睡もせず飲み明かし、対局中には「眠気覚まし」と称して差し入れられた(渡す方もどうかしているが)ビールを飲むというムチャクチャさ。

 酔っ払いが、相手の考慮時間中に寝ながら指して優勝というのだから、スゴイというか、開いた口がふさがらないというか。

 しかも、優勝のご褒美である大山康晴十五世名人との角落ち記念対局も、前夜に泥酔してケンカし、留置場から対局場にかけつけるという有様。

 やはりヒドイ二日酔の状態にもかかわらず、わずか消費時間29分快勝してしまうのだから、ホンマにマンガの登場人物みたいな人である。

 そんな小池には当然「プロ入り」の話も出るわけだが、小池の素行の悪さ(決して「悪人」ではないのだが)や組織の閉鎖性もあってプロ棋士も強く反対

 それだけでなく、小池自身が応援してくれた人々にも不義理をかますなどして、ついに実現しなかった。

 ただ、私生活こそ大酒のみで、他人の金を持ち逃げして蒸発したりとロクなもんではないが(団鬼六先生の超オモシロ本『真剣師 小池重明』を読もう!)、それでも将棋だけはデタラメに強く、また妙に人に好かれる愛嬌もあってか、支援者も多くいた(たいていは裏切られたが)。

 そしてついには、これまた伝説棋士である升田幸三と対戦する機会を得たのだった。

 むかえた、この局面。

 

 

 

 角落ち戦の中盤だが、▲85歩と打って小池が好調に見える。

 △94金と逃げるしかなさそうだが、▲86角とさばいて、後手(上手)の玉形がひどく振り飛車優勢。

 さすがの升田幸三も、すでに引退の身とあっては小池にかなわぬかと思われたとき、鬼手が飛び出した。

 

 

 

 

 

 △85同金と取るのが、小池の見落としていた手。

 ▲同銀△87歩成で、歩切れの先手(下手)はこれ以上の攻めがない。

 

 

 それは上手の思うつぼと、小池は▲74歩からあばれていくが、△76金▲同飛△87歩成▲73歩成△同金▲84歩のタタキに、強く△同玉で升田必勝

 

 

 上手玉は危険きわまりないが、下手に歩がないのと、△87と金の守備力もあって、すでに攻めは切れている。

 完全に手の平の上で踊らされた小池は▲75金と打ち、△83玉▲95角(!)の勝負手を放つ。

 

 

 

 

 ハッとする手で、角をタダで捨てる代償に1歩を手に入れ食いつこうということだが、△同香▲74歩△63金▲96歩にも△84銀で、やはり受け止められている。

 

 

 

 ▲同金△同玉▲75銀には△85玉(!)で、先手は指しようがない。

 

 

 これぞ駒落ちの将棋というか、まさに上手が下手を「いなす」形で完勝。

 小池も唖然としたろうが、それにも増してヒゲの大先生は上機嫌だったそうである。お強いですわ。

 


(晩年の小池と団鬼六の交流についてはこちら

(升田の「自陣飛車」の絶妙手はこちら

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いつまでも旅慣れないバックパッカーの名は鬼瓦警部

2024年03月03日 | 海外旅行

 「だから《鬼瓦警部》やって、ゆーてるやん!」

 

 なんて嘆き節を発したくなるのは、いつも旅先のことである。

 私は旅行好きであり、ひまさえあればザック背中に外国を経めぐったバックパッカーというやつだ。

 みなが女の子とデートしたり、将来に備えてせっせと貯金にはげむのを尻目に、海外をほっつきあるいていたせいで、末は孤独死決定の独身貴族だが、そんな人生を送っている「あるある」にこういうものがある。

 

 「だれかと一緒に旅行に行くと、なんとなくられてしまう」

 

 外国に行くというのは楽しい反面、多少の不安もともなうものである。

 言葉が通じないとか、なれない食べ物でお腹をこわさないかとか、買物でボッタクリにあわないか、スリ置き引きに合わないか、などなど。

 そういったとき、彼ら彼女らはそっとうかがうように、こちらを見るのだ。

 「頼むで」と。
 
 これに対して、私は声を大にして言いたいわけだ。

 それ、無理やから。

 言っておくが、私は旅行が好きで、数もそれなりにこなしているという自負はあるが、

 

 「旅の技術」

 「トラブル対処法」

 

 などにおいては、ほとんど成長のないタイプである。

 言葉はいわゆる「中2英語」程度だし、ホテル探しは嫌いだし、バス地下鉄の券など買うのは人の3倍くらい時間がかかる。

 さらにいえば、私はまあまあの方向音痴である。

 「旅なれた人」と一緒に旅行する人というのは、わりかし安気というか、完全に「おまかせ」して温泉気分な人が多いが、そんなことをしていてはまともな観光などできるはずがない。

 ボヤボヤしてると、明らかに繁華街から離れたところを歩かされ、
 
 
 「これ、どこ向かってんの?」
 
 「さあ……」
 
 「え? エッフェル塔を見に行くはずやなかったん?」
 
 「らしいけど、どこやろ」
 
 「どこって、知らんと歩いてた? もしかして迷子になってる?」
 
 「そうやで。気づいてなかった?」
 
 
 なんてハメにおちいるが、もちろん一切の責任はこちらにはない。
 
 こう見えて私は「自助努力」という言葉を重んじるタイプでなのである。要するに投げっぱ。

 私見では、旅行の際チャキチャキと事務処理をこなし「幹事」「ガイド」の役割ができる人は、その通り「仕事ができる」人に多い。

 それに比べて、私は仕事ができない。

 もう、東京03角田さんの口調で、しみじみと、

 

 「そう、オレは仕事ができない。できないんだ!」

 

 力説して、飯塚さんに「そんな力強く言うことじゃないよ、それ」と、あきれてつっこまれたいくらいに、できないんである。

 そもそも私が旅行が好きなのは、そういう「仕事」と無縁でいられるからだ。

 特に一人旅は、言葉が通じなかろうが、に迷おうが、忘れ物をしようが平気の平左。

 ホテルが見つからなかろうが、バスのチケットの取り方がわからず1時間近くウロウロしようが、なんの文句も言われない。

 

 「自由であること」

 

 これこそが旅の醍醐味であるのに、そこに

 

 「チャキチャキ仕事すること」

 

 という逆噴射な思想など入り込む余地はなく、結局いつまでたってもスキルも上がらない。

 でもいいんである。それが楽しいから。

 なもんで、海外旅行に不安のある人は、決して「旅なれている」からといって、私のようなボンクラを頼りにしないように。

 いや、これは言い訳とかではなく

 

 「予定通りに行かない」

 「てか、そんなもん無視していい」

 

 ことこそが、自由旅行の本当の楽しさなのですから。

 

 (続く

 

 

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