「テリー・ファンクよ、ジャイアント馬場の元子夫人について応えよ」と『サイキック青年団』で竹内義和は言った

2022年04月29日 | オタク・サブカル

 「だからオレ、そこをジャイアント・ロボに変えるってゆうたやろ!」

 先日、そんな怒りのメッセージを送ってきたのは、カネダ先輩であった。

 これだけ聞けば、なんのこっちゃだが、話は先日の『レディ・プレイヤー1』についてのことに、さかのぼる(詳細はこちら)。

 そこでホンドウ君とういう男が、

 

 「自分で登場人物をカスタマイズした、オレ・プレイヤー1を考えよう!」

 

 と提案し、そこから皆ボンクラ丸出しで、それぞれの妄想を語りまくったのだが、そこに問題があるという。

 その中で、映画のラストに出るガンダムを、自分ならどのメカにするかという質問に、カネダ先輩は「ロビー・ザ・ロボット」を提案。

 SFファンの先輩らしいチョイスだったが、その少し後に気が変わって、「ジャイアント・ロボ」に変更したそうなのだが、それを私はすっかり忘れていて、ロビー・ザ・ロボットのまま載せてしまったのだ。

 それが先輩の逆鱗に触れたらしく、この人類の歴史的には死ぬほどどうでもいいが、オタク男子のボンクラトークだと、万死に値する間違えに、訴えを起こしたわけだ。

 もちろん、議事録なんか取ってないから、多少の間違いは勘弁してほしいが、同じスカタン仲間として、先輩の怒りも理解できなくもないので、ここに書いておこう。

 カネダ先輩が「オアシス」で、一緒に悪と戦いたいメカは、ロビー・ザ・ロボットも捨てがたいがジャイアント・ロボということになりました。謹んで、おわびします。

 これでいいでしょうか、先輩。

 もういい歳した大人なのに、おそらくは世界史上もっとも、だれの心にも響かないメッセージを、ありがとうございます。男を見ました。

 まったくもって他人のことは言えないが、かくのごとく、オタクというのは非常にめんどくさい生き物である。

 ふだんは、おとなしい人が多いが、いったん自分の「ホーム」の話となると、これがメチャクチャにあつかいにくくなるのだ。

 カネダ先輩なんか、あやまれば、ゆるしてくれるだけ寛容だが(まあ、そもそも妄想トークでマジ切れもおかしいですが)、他の面々は私と同じ「コドモオトナ」なので、まあ、やらかしているのも1度や2度ではない。

 ざっと思い出せる範囲であげてみると、たとえば後輩ベットウ

 プロレスファンの彼は、

 

 「プロレスって、八百長なんやろ?」

 

 というイジりには慣れっこで、軽い舌打ちくらいでスルーできるが、「無知」にはきびしいらしく、「新日」と「全日」を間違ったり、

 

 「馬場と猪木って、戦ったとき、どっちが勝ったん?」

 

 みたいなことを言われると、とたんにになり、われわれ先輩にも容赦なく胸ぐらをつかんできます。

 

 「ちゃんと勉強してから、もの言うてください!」

 

 かくいう私も、以前彼に、

 

 「ジャイアント馬場の奥さんって、どんな人?」

 

 と、たずねたとき、なんともいえない深みのある表情をされたことがあった。

 ラジオ番組『サイキック青年団』にテリー・ファンクがゲスト出演した回を聴いていて、竹内義和さんが、

 

 「馬場さんの奥様の、元子夫人についてどう思いますか?」

 

 と質問したところ、番組の雰囲気が、急激におかしくなったことがあったのだ。

 テリーは怒りだしたのか、わけのわからないことを喚きはじめ、トークの半ばで、突然CMに飛んでしまったりしたわけだ。

 その理由が知りたかったのだが、ベットウ君は哀れな子を見るような目で、

 

 「そういうのん、あんま言わんほうがええッスよ」

 

 なんとなく、たしなめられてしまった。

 「そういうのん」って、一体どういうのん?

 私はプロレス音痴なので、いまだにこの世界の地雷が、どこにあるのかわからへんなあ。

 

 

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新たなる王の時代 中原誠vs大山康晴 1972年 第31期名人戦 その6

2022年04月26日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 前回(こちら)の続き。

 大山康晴名人王将王位)と中原誠十段・棋聖とで争われた、1972年の第31期名人戦七番勝負。

 3勝3敗のタイスコアで、ついに最終局に突入し、その将棋も、とうとうクライマックスをむかえた。

 

 

 

 ▲43竜と飛車を取った場面で、先手の大山は防衛を確信していた。

 △同銀▲91飛から詰み。

 △68と、▲同金と、△39にある角道を開通させてから、△93角成と取るのは、▲同香成なら△43銀と取る。

 これなら、カナ駒がないから後手玉に詰みはなく、中原勝ちになりそうだが、△93角成に▲93同香不成の絶妙手が詰めろで入るから、これも先手が勝つ。

 

 

 だが、この大山の読みには、大きな落とし穴があった。

 以下の手順を見れば、それがわかる。

 ▲43竜に、中原は△68と、と取り、▲同金に△43銀と取る。

 と、ここで、

 

 「あれ? △93角成と取らないの? それだと、▲39の角取られるんですけど」

 

 おどろいたアナタは正しい。

 先手は▲39角成と角をボロっと取れるが、そこで△71玉と寄った形を見てほしい。

 

 

 


 あれほど端で危険にさらされていた玉が、すっかり安全地帯に避難してしまっている。

 金銀のフォーメーションが、すこぶる頼もしく、後手玉にはすでに寄りがない形。

 一方、先手陣は△99飛のような手で、すぐにお陀仏だ。

 一瞬逆転劇で、なにが起ったかよくわからないが、あえてをあげてしまうというのがポイントで、大山が軽視したのはここだった。

 整理すると、後手が受けるには△39を働かせないといけないから、△68と、と角道を開通。

 続けてふつうに△93角成ではなく、単に△43銀と取るのが盲点の一着だった。

 

 

 これだと、▲39角成と角をタダで取られてしまうが、もちろんウッカリなどではない。

 この局面では角はもう、あげてもいい。

 それよりも、後手玉を△71から逃げるルートを押さえていた▲93を、遠くにどかしたほうが大きいのだ。

 ちなみに、ここで▲91飛、△同玉、▲71角成は、この瞬間△39が生きていて、▲93香が打てず不詰

 あの△93に利かした守備ともいえる駒を、むざむざ渡すわけがないと、だれもが思いこんでしまうところ、ただひとり中原だけが、その先入観の上を行っていた。

 後手は先程から、再三△93角成という受けの手をちらつかせていたが、それはおとりであった。

 そう、あの角は守備の要であると同時に、相手に取らせてにかける巧妙な「毒まんじゅう」だったのだ!

 巨人と謳われた大山康晴が、この土壇場で、まさかの読み負け

 大名人は△93角成と取らせて、▲同香不成で後手玉を仕留める筋に溺れ、それ以外の手を掘り下げられなかったのだ!

 ここで、すさまじいのは中原の勝負術だ。

 なんと中原は、▲43竜と取られたこの局面で、指さずに夕食休憩に入ったのだ。

 前回、相手のミスにつけこんでの▲31銀という必殺手を、一回スルーして▲78歩と受けた精神力を賞賛したが、ここでもそう。

 ▲43竜と取られたところで、中原はハッキリと大山に読みぬけがあることに気づいている。実際、

 


 「受け切れると思ったので休憩前には指さなかったんです」


 

 と後に語っている。

 これが、さりげないように見えて、とんでもない胆力である。

 勝てば名人という勝負で、相手に見落としがあり勝ちが決まった。

 ふつうなら、平静ではいられないどころか、「早く終わらせたい」という想念にとらわれるはずなのだ。

 そこを、あえて指さずに休憩を入れる。

 このすごさを理解するには、羽生善治九段がはじめて名人位を獲得した一局の自戦記を読めばわかる(『羽生善治全局集』で読めます)。

 「相当優勢」になった局面で夕食休憩に入った羽生四冠は、手がしびれて駒が持てず、休憩中も食事がのどを通らなかった。

 なら、せめて盤の前にすわっていられればいいが、タイトル戦ゆえにそれもかなわない。

 


 「夕食休憩の1時間を、これほど長く感じたのは初めて」


 

 その苦しさを吐露している。

 あの羽生九段でもこれほど煩悶するそこに、あえて飛びこんでいるのだから、なんという落ち着きなのか。信じられない図太さである。

 △71玉以下、大山は▲99飛から懸命にがんばるが、もはや形勢は入れ替わることはない。

 棋譜の細かいところは忘れても、この将棋の最終手が「△67香成」なことは今でもおぼえている。

 それは東公平さんの観戦記を、子供のころ何度も読んだからで、

 


 「▲5二銀打ち、△7三玉に▲9三飛成。見るまに中原の両の頬がまっかになった。何度もまばたき。やがて、茶をグッと飲みほし、口もとをハンカチでぬぐい、上体を傾けて、△6七香成り」


 

 

 

 この瞬間、「絶対王者」の座が入れ替わった。

 この後、中原は加藤一二三に奪われるまで、名人戦を9連覇することになる。

 


 (2年後、1974年の中原と大山との再戦編に続く→こちら) 

 (中原と加藤の名人戦「十番勝負」はこちら

 

 

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最後の試練 中原誠vs大山康晴 1972年 第31期名人戦 その5

2022年04月25日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 前回(こちら)の続き。

 大山康晴名人王将王位)に中原誠十段・棋聖が挑んだ、1972年の第31期名人戦3勝3敗のタイスコアで、ついに最終局にもつれこんだ。

 第2局から5局までの流れは完全に大山ペースで、中原もなかばあきらめていたが、開き直って振り飛車で戦った第6局は相手の乱れもあり、なんとか踏んばる。

 最終決戦となる第7局でも、後手番になった中原は中飛車に振る。

 思わぬ拾い物でフルセットになったのだから、ここで心を切り替えて居飛車という選択もあったと思うが、「教えてもらう」という初志貫徹は変わらない。

 大山は今では見なくなった、▲46金型の急戦で迎え撃ち、前局同様のうまい指しまわしでリードを奪う。

 むかえたこの局面。

 

 

 大山が▲95歩と端を攻めたところ。

 形勢自体も先手がいいが、そういう客観評価以上に、ここで▲95歩と突く流れの美しさよ。

 △73桂と跳ね、△84歩を突いてない(△83銀のような受け方ができない)美濃囲いは、とにかく9筋が頼りない。

 この形で、飛車がさばけて、持駒に桂香が潤沢にあれば、これはもう見る聞くなしに▲95歩。

 今なら、▲69の金が▲79にいてエルモ囲いなら、より完璧だろうが、ともかくも見事な戦い方。

 振り飛車に苦戦しているという急戦党の方は、ぜひ大山の絶品振り飛車退治を鑑賞してほしいものだ。

 端を△同歩と取り切れない後手は、△43飛と遊んでいる飛車を使うが、▲94歩と取りこんで、△47歩成の突破に一回▲93歩成を決める。

 △同香、▲同香成、△同玉で、後手玉は危険地帯に引きずり出された。

 このあたりのことを大山は、

 


 「1一とで、香得となり、飛車の侵入も見えるから、私は自信を深め、心が浮き立ってきた。本当はここで、グッと気持ちをひきしめるべきであったのだが…」


 

 端を決めるだけ決めて、先手は▲21飛成

 

 

 を作って自然なように見えるが、これが疑問手だというのだから将棋はむずかしい。

 ここでは▲44歩、△同飛、▲45歩、△同飛、▲46歩と飛車の頭を連打して止めれば、変化はあっても先手が勝ちだった。

 

 

 

 難を逃れた後手は、▲21飛成△41歩と底歩でがんばる。

 そこで▲99香と、一回王手。

 きびしい手だが△94歩と打って、▲同香と取らせてから、△82玉が覚えておきたい手筋

 歩を損しただけのようだが、香を上ずらせることによって、将来△98飛の王手に、△97銀△96歩の退路封鎖も用意。

 また、▲94桂の王手も消している。

 ちょっとでも、相手にイヤな形を強要するのが、逆転勝ちのコツなのである。

 この苦しいながらも最善のがんばりに、とうとう大山が誤った

 

 

 ▲32竜とせまったのが敗着となった。

 ここでも▲44歩、△同飛、▲45歩と連打し、△同飛に▲37桂と活用するのが、遊び駒を使う味の良い決め手。

 

 

 △同と、には▲46歩

 △42飛には▲45香と、むりくり飛車を封じこめてしまえば、ハッキリ勝ちだったのだ。

 この手を選ばなかったのは、大山に必勝の手順が見えていたから。

 ▲32竜に中原は△57と、と踏みこむ。

 そこで▲93角と打って、△81玉▲43竜質駒の飛車を取る。

 

 

 これで勝ったと大山は思った。

 △43同銀なら▲91飛と打って、△同玉に▲71角成、△92合駒、▲同香成、△同玉、▲93香までピッタリ詰み。

 決まったかに見えるが、ここでひとつだけ、しのぐ形がある。
 
 ポイントになるのは△39に、しれっと置いてあるだ。

 これが、なにげに遠く△93の地点をにらんでいる。

 そこで、まず△68と、と王手で取って角道を開通。

 ▲同金に△93角成と、後ろ足を伸ばして取る。

 ▲同香成△43銀と手を戻せば、先手はカナ駒がないから後手玉に詰みはない。

 

 

 これなら、たしかに後手が勝つが、もちろん、その程度のことは大山の掌の上だ。

 大山が組み立てた必勝手順は、△93角成と取ったとき、▲同香不成と取る絶妙手があるというところ。

 

 

 

 

 これなら△43銀には▲91飛で詰みだから、後手は飛車を取り返せず先手が勝ち。

 このあたり、ちょっとややこしいが、ともかくも、それなら大山防衛が決まる。

 だが、ここに大きな穴が開いていた。

 第6局に続いて、またも大山が致命的な誤りを犯してしまったのだ。

 

 (続く) 

 

 

 

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撃つな!アラシ 中原誠vs大山康晴 1972年 第31期名人戦 その4

2022年04月24日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 前回(こちら)の続き。

 大山康晴名人王将王位)に中原誠十段・棋聖が挑んだ1972年の第31期名人戦は、第5局まで終わって3勝2敗と大山がリード。

 だれもが「大山防衛」を確信しており、当の中原すら、

 


 「カド番で気楽になったといっては変だが、とにかく今年はダメだと思った」。


 

 こんなことを書くくらいだから、よほどこのときの大山は圧巻だったのだろう。

 腹をくくった中原は、なんと第6局で、大山の得意戦法である振り飛車を逆に選択。

 大山も意表をつかれただろうが、東公平さんの観戦記によると、

 


 ▲96歩。とうとう出た。一度はあるだろうと予想されていた中原の振飛車指向だ。


 

 とあるから、まったく予期されなかったわけでもないらしい。

 もっとも、中原によると、

 


 振飛車は四段になってからたしか十一回目ですよ。これまで八勝二敗です


 

 相性こそいいが、それでも、ほとんど指していない形をこの大一番に投入するのは、「ダメだと思った」ゆえのことだろう。

 この選択に、大山はおどろいたであろうが、同時に心の中で、ほくそ笑んだのではあるまいか。

 なんといっても大山といえば、ただでさえメチャクチャ強いのに加えて、相手の心理を読むことにかけても一級品の棋士だった。

 過去何度も、対局相手の心の乱れを察知し、揺さぶりをかけることによって勝利をものにしてきたのだ。

 ならば、中原が飛車を振ったのを見て

 

 「苦しまぎれか」

 「もう半分あきらめてるな」

 

 といった流れを、すぐさま見抜いたに違いない。

 それともうひとつ。振り飛車の達人である大山だが、実は自身が振るよりも「振り飛車破り」の方がうまいと言われている。

 これは「大山チルドレン」である藤井猛九段にも共通するところ。

 この両輪がそろった振り飛車党は強い。

 相手の得意戦法を封じた先に、もうひとつ「本物の」得意戦法が待ち構えているのだ。

 裏をかいたつもりが、密かなにハマっている。

 振らせてもダメ、振ってもダメ。町田町蔵さんの曲ではないが、

 「ほな、どないせえっちゅうねん!」

 と叫びたくなる大山のスキのなさで、実際この第6局も、中原のさばきを丁寧に受け止めて優位を築く。

 むかえたこの局面。

 

 

 先手が▲78歩と、桂取りを受けたところ。

 飛車銀交換の駒得で、手番も握っている後手が優勢。

 ここでは△66飛と歩を補充して、▲67歩に△64飛と軽快に使うのが良かった。

 

 

 これなら△64の飛車がタテヨコに自在で、次に△89飛などの打ちこみからボチボチせまっていけばいい。

 ▲64同馬△同歩でカナメの馬が消えるうえ、後手陣にうまい飛車の打ちこみ場所がなく、これなら後手が優位をキープできた。

 ところが、大山は単に△89飛とおろしてしまう。

 

 

 

 自然な手のようだが、これがまさかの大落手だった。

 次の手で将棋はお終いだが、わかりますか? 私は当てましたよ、フッフッフ。

 

 

 

 

 

 ▲31銀と打つのが、強烈なスマッシュ。

 私が「当てましたよ」などと自慢したのは、この手が小学生のころ読んだ『中原の駒別次の一手』という本の問題に出ていたから。

 まあ、手自体は「初段コース」くらいだけど、それでも正解できてうれしく(私は「次の1手」が苦手なのです)、今でも憶えているのだ。

 玉を逃げても、▲15歩からの端と▲42銀成とはりつく筋をからめて、この攻めは振りほどけない。

 △31同金しかないが、▲43馬と取るのが飛車金両取りでピッタリ。

 

 

 

 

 両方受けるには△71飛しかないが、▲82銀と追撃してバラバラの後手陣はとても持たない形だ。

 

 

 信じられないことに、大山はこの銀打ちが、まったく見えていなかった。

 そもそもポカに理由などないことがほとんどだが、油断するようなシチュエーションでもないし、堅実な棋風の大山だから、なおのことありえない。

 まさに純正のウッカリである。

 第3局とは逆に、中原が中押しのような形で勝つも、今回この記事を書くにあたって、「そっかー」となったところがあった。

 カンのいい方なら、すでに気づいてるかもしれないが、そう、この勝負を決めた▲31銀という手は、もっと早くに発動できたはずだった。

 最初の図を見て直していただきたい。

 中原は▲78歩と桂取りを受けたのだが、今回のタネ本のひとつである『将棋世界』のインタビュー記事で本人も語るように、ここで歩を打たずにすぐ▲31銀と打てるのだ。

 

 

 いや、もちろん▲78歩を打ってないと、本譜と同じ△31同金、▲43馬、△71飛、▲82銀に、△77飛成と、金を見捨てて攻め合いにくる筋があり、うまくいってるかは微妙だ。

 とはいえ、▲78歩と打ってしまえば、次に先述の△66飛から△64飛の筋で▲31銀を消されると、勝負手を放つチャンスを、もうあたえてもらえないかもしれないのだ。

 それを承知で、△66飛から△64飛と指されれば悪いのをわかっていながら、よりよい時期をねらって、じっと▲78歩と受ける。

 これはすごい精神力である。

 中原からすれば、相手の様子から、▲31銀を発見できてないことは察知していたのだろうが、それでも一回、ここで耐えられるというのが信じられない。

 私にかぎらず、かなりの人が誘惑に負けて、また相手に悟られることが怖くて、「未完成」のまま▲31銀と打ってしまうのではあるまいか。

 そこを平然と▲78歩。

 この辛抱こそ、本局の白眉だった。

 先崎学九段が扇子などに揮毫する言葉に

 

 「毒蛇は急がない」

 

 というのがあるそうだが、まさにそれ。

 何度見ても、ここでこらえて▲78歩にはシビれる。

 一見、凡ミスで終わっただけの将棋も、その裏には様々な思惑や心理戦の交錯があるとわかり、将棋のおもしろさを再確認できる一手であった。

 

 (続く

 

 

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「次のA級で必ず1位になれる」 中原誠vs大山康晴 1972年 第31期名人戦 その3

2022年04月23日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 前回(こちら)の続き。

 大山康晴名人王将王位)に中原誠十段棋聖が挑んだ、1972年の第31期名人戦は第3局まで終わって2勝1敗と大山がリード。

 初戦は中原が快勝するも、

 

 「番勝負は2戦目が大事」

 

 という大山が、その言葉通り得意のしのぎの技を見せて第2局をものにすると、第3局はそれを引きずったか、中原が名人戦史上に残る大ポカを披露してしまい「一手バッタリ」の中押し負け。

 挑戦者には嫌な流れだが、第4局でも調子は戻らず、またも序盤で見落としが出てしまう。

 

 

 △75飛と打たれた局面だが、これが王手桂取りになっている。

 この飛車打ちの前の手が▲85桂で、銀が逃げれば▲63歩成だから、銀桂交換になると目論んでいたところ、このシンプルな切り返しを中原はウッカリした。

 これまた第3局に続く初心者のようなミスだが、中原にとって幸いだったのは、△85飛と取った形が案外働かなかったことと、ここで返し技をひねり出せたこと。

 △75飛以下、▲76歩、△85飛に▲44角と飛び出すも、△45歩と角を責められて息苦しく見える。

 

 

 

 ▲55角上しかないが、△同銀にそこで▲55同角ではなく、逆モーションで▲11角成としたのが、うまい手だった。

 

 

 以下、△64銀▲21馬と桂馬を取って、△42飛に▲77桂、△84飛、▲86香と飛車を殺して先手が指せる。

 

 

 そこから大山もねばりを見せるが、チャンスを生かせず中原が逃げ切った。

 危ないところをしのいで、これで2勝2敗のタイに戻ったが、あんな簡単な手が見えないようでは、やはりまだ中原は本調子とは言えなそう。

 続く第5局で、中原は第2局、3局に続き、またも棒銀を採用する。

 一度も勝ててない戦法に、あえてこだわるあたり、中原も意地になっているが、振り飛車らしいカウンターが冴え、大山が圧勝する。

 これで3勝2敗と、名人が防衛にリーチ。

 スコアのみならず、将棋の内容でも大山ペースで進行しており、報道でもまだ5局しか終わってないのに、

 

 「名人戦はいよいよ大詰めをむかえた」

 

 といったような書き方をしていたそうだから、だれもが、このまま波乱なく終わると感じていたようなのだ。

 では、追いつめられた中原は、このときどういう心境だったのか。

 『将棋世界』誌が中原に行なったインタビュー記事「我が将棋人生」によると、このシリーズはハッキリ「勝てないと観念した」と語っている。

 続けて、

 


 「棒銀が全然通じない」

 「受けが強くて、どうしようもない」

 「今年はあきらめろと、自分に言い聞かせました」


 

 ネガティブな言葉がこれでもかと並んで、大勢と同じく、すでにあきらめムードだったのだ。

 他では圧倒していたはずの対大山戦だが、ことこれが名人戦となると話がまったく変わってくるのだから、昭和の棋士にとって、このタイトルがいかに特別だったかわかろうというものだ。

 そしてここで、もうひとつ有名な話があり、中原は第6局以降、逆に自分が振り飛車をやろうと決意する。

 振り飛車もやらないことはないが、基本的に当時の中原は矢倉を中心とした居飛車本格派で、いくら負けを覚悟したからといって、大舞台でなれない戦法を選ぶことは勇気が必要だろう。

 中原からすれば、そのリスクをしょってでも、あえて大山に自身の得意戦法である振り飛車をぶつけてみたかった。

 その心は、もちろん次の対戦にそなえてのことだが、ここで伝説ともいえる中原のコメントがあり、

 


 「次期のA級ではかならず1位になれる。だから逆に振り飛車を教えてもらおう」


 


 このエピソードを著書などで何度も紹介していた河口俊彦八段によると、これはこの名人戦から10年以上たったころ、銀座クラブで中原の口から出たものだそう。

 河口八段自身、初めて聞く話で、個人的な飲みの席で(棋士も2人だけでなく複数いた場だった)ポツリともらしたことだから、かなりリアルな話ではある。

 ちなみに河口八段は、事実よりも「物語性」「推測」「願望」を重視する書き手で、自身も『将棋世界』の木村義雄十四世名人のことを描いた連載でハッキリ、

 


 「事実に基づいた評伝は、読んでいてあまりおもしろくない」


 

 ということで、自分はそうでない風に書くという「おもしろ優先宣言」をしていたほど。

 だから、ファクトに関しては相当いい加減というか、まあ「小説」として読むくらいがちょうどいい(そして、それがめっぽう「おもしろい」)んだけど、この件に関しては中原自身も、

 


 「当時は、それくらい自信を持っていました」


 

 みたいな内容のことをインタビューで認めていたので、どうやら本当のことのようだ。

 すでにいくつものタイトルを獲得し、A級で全勝して挑戦権を得ているのだから決して過信ではないが、それにしても、すごい迫力だ。

 後年、これを聞いた藤井猛九段は、

 


 「今の羽生さんも心の中ではそう思ってるんじゃないかな」


 

 そんな感想を述べたが、あの羽生善治九段だって初の名人獲得から4期目で防衛に失敗すると、その後5年は挑戦者になれなかった。

 これにより、「永世名人」の座を森内俊之九段に先んじられることになってしまったわけだが、その森内九段もまた、名人獲得には25歳での初挑戦から6年かかっている。

 どんな強者でも「かならず」なんて、決して言い切れるものではないのだ。

 この自信と図太さ、そして一度死んだ開き直りから、決まったと思われたシリーズはまたも揺れ動くこととなる。

 そしてその原因は、今度は盤石の態勢を敷いていたはずの大山の乱れだというのだから、勝負の流れというのは本当に読めないものである。

 

 (続く

 

 

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進撃の巨人 中原誠vs大山康晴 1972年 第31期名人戦 その2

2022年04月22日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 前回(こちら)の続き。

 大山康晴名人王将王位)に中原誠十段棋聖が挑んだ、1972年の第31期名人戦

 開幕局を制したのは「若き太陽」中原だった。

 本人も「会心の一局」という完勝劇で、対戦成績や(中原から見て27勝18敗、タイトル戦は5勝2敗24歳49歳という年齢差を考えれば、

 「新名人誕生」

 で決まりと言いたいところだが、そうは問屋が卸さないのが「昭和の名人戦」のおそろしさ。

 なんと戦前の予想では圧倒的に「大山防衛」に傾いており、実際、百戦錬磨の大名人が、ここから底力を徐々に発揮しはじめるのだ。

 明けて第2局。大山のツノ銀中飛車に中原は棒銀

 「自然流」中原の攻めを「受けの大山」が迎え撃つ、という棋風通りの展開で激しいつばぜり合いとなったが、終盤で△54歩と打ったのが、『現代に生きる大山振り飛車』という本の中で、藤井猛九段中川大輔八段もうなった一着。

 

 

 意味としては、中央を制圧しているにプレッシャーをかけて、攻めを催促しているわけだが、これはムチャクチャに怖い手である。

 銀を取られたら攻めが切れてしまうから、ここから先手は、死に物狂いの猛攻を仕掛けてくるのは目に見えている。

 後手は玉が露出している一方で、先手は攻め駒が豊富だし、玉はどれだけ駒を渡しても詰まない鉄壁ときている。

 この形から力まかせにガリガリ来られてしまうと、まず銀を取り切ることは不可能で、そうなれば、このいそがしい場面での△54歩は、まったくの一手パスになってしまう可能性が高いのだ。

 それだったら、△36角とか攻防手っぽいのを指したいのが人情だが、そこを堂々と「やってこい」と。

 この度胸が、並ではない。

 いや、それは的外れな感想か。

 その後の大山の指し手を見れば、これは決して「度胸」などという、あやふやなものに立脚したものではないのだから。

 「寄せあり」と見た中原は、▲86桂と王手。

 △73玉に▲74銀と追って、△72玉に▲73銀打と強引にかぶせていく。

 △同桂、▲同銀成、△同玉、▲85桂、△72玉に▲73飛と打って、この場面。

 
 
 

 ほとんど一本道で進んだ、この局面。中原は勝ちを確信していた。

 いや、挑戦者だけではない。検討していた関西の二大エース内藤國雄八段有吉道夫八段(今で言えば斎藤慎太郎や菅井竜也みたいな存在か)もまた「先手勝ち」と断定していた。

 さもあろう。△62に逃げても△82にかわしても、▲74桂から自然に追っていけば、▲33と金も好位置で、質駒もあり、どうしても後手玉は逃げ切れないのだから。

 ところがこの場面は、ハッキリと大山が読み勝っていた。

 将棋の常識には本来ないはずの、すごい受け方があったのだ。

 

 
 
 
 
 
 
 
 
△81玉と落ちるのが、すばらしい見切り。

 「玉は下段に落とせ」

 という格言にしたがえば、ふつうは一番あり得ない逃げ方であり、▲83飛成をゆるしては、その時点でお終いと、思いこんでしまうものだ。

 そこを、あえて逆張りの方向へ逃げて、しのいでしまう。

 これこそが、「受けの大山」の真骨頂である。

 完全に読み負けていた中原は、愕然としたことだろう。

 以下、▲83飛成△82歩、▲73桂不成、△71玉、▲61桂成、△同銀、▲72歩、△同銀、▲53竜、△61銀打まで進めば、大山玉にまったく寄りがないことは明白だ。

 

 

 

 結果もさることながら、「上を行かれた」負かされ方は、さすが楽観派の中原もこたえたようで、

 

 「あの玉が寄らないなんて、信じられない」

 

 ショックを引きずってしまうこととなる(棋譜はこちら)。

 続く第3局で、そのダメージがモロに表出してしまった。

 大山の四間飛車に、中原は引角にする工夫から、ふたたび棒銀で仕掛けていくが、ここで信じられな大ポカをやってしまう。

 

 

 

 図は後手が△72飛と、金取りに寄ったところ。

 まだ駒がぶつかったばかりで、これからの将棋に見えるが、実は次の手で試合終了なのである。

 

 

 

 

 

 

 ▲85金と捨てるのが、一撃必殺の強烈なアッパーカット。

 △同銀は▲33角成から▲72飛成と飛車を素抜いておしまい。

 

 

 先に△77飛成として、▲同飛△85銀なら一瞬金得だが、やはり▲72飛成と成りこまれてしまう。

 

 

 

 2枚飛車はきびしいし、駒得など桂香を取られてすぐ解消されるし、どちらにしても△85に取り残されたがヒドすぎる。

 なんと中原は、この手をウッカリしたのだ。

 たしかにこの金捨ては妙手ではあるが、純粋に盤面だけ見れば、そんなに難しいものではない。

 いい手があるとわかっていれば、私レベルでも発見できるだろう。

 「次の一手 初段コース」くらいの難易度で、これが見えなかったなど、通常ではありえないではないか。

 この手を見た中原は、2時間におよぶ大長考の末、なんと△73銀と引いた。

 これまたすごい手で、自分の間違いを完全に認めた、土下座中の土下座

 苦渋の辛抱を通り超えた、ありえない大屈服で、プロなら死んでも指さないという、屈辱きわまりない命乞いである。

 さらには、▲74歩の追撃にも△62銀(!)。

 

 

 

 

 一歩取られた上に、その▲74と連動して大イバリ

 銀の撤退は何手損したかわからないくらいだし、飛車も押さえ込まれてヒドイ。

 それでも指したのは、中原もまた名人にかける想いが並ではないことを示しているが、局面自体はすでに大差で、以下、先手が勝ち(棋譜はこちら)。

 これで、大山が白星先行。

 中原からすれば緒戦の快勝から一転、イヤな負け方が続いて、頭上に暗雲が立ちこめつつあったのを感じていたことだろう。

 

 (続く

 

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将棋界の若き太陽 中原誠vs大山康晴 1972年 第31期名人戦

2022年04月21日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 昭和将棋界の「分岐点」といえば、中原誠名人が誕生した瞬間であろう。

 「名人」と聞くと、少し前なら羽生善治森内俊之

 藤井聡太五冠からファンになった方には、佐藤天彦豊島将之渡辺明といったイメージだろうが、戦後から昭和中期にかけての将棋界では、圧倒的に大山康晴であった。

 私は世代的に大山の晩年しか見ておらず(引退をかけたドラマの数々はこちらから)、「無敵時代」については本や伝聞でしか知らないが、単純に数字を並べるだけでも、そのすごさは伝わる。

 1953年の第12期名人戦、3度目の挑戦で木村義雄からはじめて名人位を奪取すると、いきなり5連覇で「永世名人」を獲得。

 一度、升田幸三に奪い取られるも、2年ですぐ復位し、そこからは怒涛の13連覇

 その勝ちっぷりも並でなく、升田幸三や山田道美といったライバルをはじめ、加藤一二三二上達也といった並みいる「名人候補」の若手も、鼻息プーで蹴散らし続ける。

 なんといっても、合計18期在位のうち、フルセットまでもつれこんだのが、たったの2回だというのだから、いかに圧倒的だったか、わかろうというものだ。

 当然、他の棋戦でも勝ちまくりで、このころの記録にこんなものまであり、それが、

 

 「タイトル戦50回連続登場」

 

 当時のタイトルはだいだい5個だから(王座と棋王は比較的新しいタイトル戦)、つまりは、この10年間のすべてのタイトル戦が「大山対○○」という皆勤賞。

 すさまじいというか、正直飽きちゃうよなあというか、実際その派手さのないキャラクターと強すぎることで、大山は人気の面では、あまり恵まれなかったそうだ。

 そんな難攻不落の大山名人(王将王位)に、最強の挑戦者が名乗りを上げることとなるのが、1972年の第31期名人戦

 A級2年目で、順位戦8戦全勝という快挙を成し遂げ、初の名人戦に登場することとなったのは、当時24歳の「棋界の太陽」中原誠十段棋聖であった。

 これはよく誤解されるというか、かくいう私自身が思いこんでいたのだが、大山と中原の名人戦は、2人のタイトル戦における初顔合わせではないということ。

 調べてみると2人は、この名人戦までに、何度も大きな勝負を戦っているのだ。

 その内訳は、すでに45局も相まみえており、中原の27勝、大山は18勝

 タイトル戦でも棋聖戦王将戦などで当たっており、中原が5勝に大山は2勝

 これだけ見ると、すでにタイトル戦などでは「定番」のカードであり、さらに言えば戦績から見れば、ハッキリと2人の格付けもできあがっている。

 ズバリ、今では「中原が大山より強い」。

 今で言えば藤井五冠が、渡辺明名人や豊島将之九段といった先輩をコテンパンにして、圧倒的感を醸し出しているのと、似たような状態だろうか。

 ではなぜ、今さらながら名人戦が「頂上決戦」と謳われたのかと問うならば、それはもう名人の権威というのが、今とは比べ物にならないほど大きかったから。

 正直、私の世代(「羽生世代」デビュー時に将棋を知ったくらい)でもピンとこないが、昔の名人というのは、それはそれは偉かったらしい。

 なんといっても、先崎学九段中村太地七段の共著『この名局を見よ! 20世紀編』によると、大山が名人から陥落したとき、

 

 「いさぎよく引退すべし」

 

 なんて一般の週刊誌(!)で、よけいなお世話なことを書かれていたそう。

 また後に、十段(今の竜王)・棋聖王位棋王の「四冠王」になった米長邦雄永世棋聖にも、

 

 「名人を取ってないくせに」

 

 ヤカラを入れる人も多かった。

 今、名人を失冠したから引退しろ、なんていう人はいないだろうし、「名人」と「四冠王」がいれば、素直に後者をすごいと判断するだろう。

 まさに「時代の流れ」というやつだが、この価値観を押さえておくと、過去名人戦を観賞するときに厚みがグッと増してくる感じで、実際中原も『将棋世界』のインタビュー記事である「我が棋士人生」でも、

 


「名人戦での大山先生は別人の強さだった」


 

 大山からすれば、他で少々痛い目に合わされようと、

 

 「なんか最近、調子のっとるか知らんけど、名人を取ってから言えや」

 

 くらいものだが、逆に言えばここを突破されると、今度こそなにを言っても聞き入れられない。

 

 「え? 名人じゃなくなったの? じゃあ、おまえ、もうなんだから、黙ってろよ」

 

 文字通りの「絶対防衛ライン」で、大名人も死に物狂いの秘術をくり出してくることは必定であり、その注目度もピークに達したのである。

 開幕局。先手になった大山の三間飛車に、中原は左美濃で対抗。

 

 

 

 局面は終盤戦。先手が▲25歩から玉頭戦を挑んだところ。

 形勢はいい位置に成桂を作り、先手の金銀が上ずっていることもふくめ、一目後手が指せそうに見える。

 ただ、玉頭にアヤをつけられているのはイヤなところで、飛車も使えていないため、これといった決め手はまだなさそうに見えるが、ここで中原は妙手をくり出すのだ。

 

 

 

 

 

 △96歩と突いたのが、突破口を開く、するどい攻め。

 放置すると△97歩成から食い破られるため、▲同歩しかないが、△98歩と打たれてシビれている。

 

 

 ▲同香△99角が、飛車金両取り。

 ▲同飛には△96飛とぶつけ、飛車交換になれば△57にある成桂▲38をはがせる形だから、先手はねばれない。

 オープニングマッチを制したのは、挑戦者の中原。

 将棋の内容もお見事で(棋譜はこちら)、これを見れば「新名人誕生」と期待が高まるのも当然だろう。

 だが、ことはそう簡単ではなかった。

 ここまで中原は大山相手に常に優位に戦ってきたが、こと「名人戦」の舞台だけは、少しばかり話が違っていたのであり、ここからシリーズは大きくもつれていくのである。


 (続く

 

 

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妄想力と「少年の心」で、自分だけの『レディ・プレイヤー1』を脳内上映

2022年04月18日 | 映画

 「観たあと『オレ・プレイヤー1』考えるのが、ホンマの楽しみ方やろ!」。

  という友人ホンドウ君の提言で、


 「映画『レディ・プレイヤー1』のキャラクターを、すべて自分の好みで脳内変換する」


 という、遊びで先日盛り上がった(詳細は→こちら)、私とそのゆかいなボンクラ仲間たち(40代)。

 こんなもん、ただのオタクの妄想なんだから、そこだけの話で終わらすはずだったが、そこにいたベットウ君という男が、

 

 「せっかく盛り上がったんやから、ブログのネタにしてくださいよ!」

 

 そんなもん、だれが読むねんとは思ったが、まあこんなもん、別にだれが読んでるわけでもないので、そんなんでもええかと納得。

 ということで、今回は私とゆかいな仲間たちの『妄想プレイヤー1』をご紹介。

 全員、1970年代の生まれ。

 多分に、そのへんの記憶が放り込まれているということで、同年代くらいの「元少年」だけ笑ってください。

 

 

 

 1 あなたのアバターと、カーレースに参加する乗り物はなんですか?

 


 ベットウ「剛球超人イッキマンサイドマシン

 ホンドウ「サンソン大門軍団のスーパーマシン」

 ワカバヤシ「怪盗ジゴマローラースケート

 ドイガキ「サファイア王女ポケバイ

 カネダ「岸部シロー沙悟浄ジェットモグラ

 私「快獣ブースカ犬ホームズベンツ

 


 2 あなたが恋に落ちるヒロイン「アルテミス」のアバターは?

 


 ベットウ「雪子姫

 ホンドウ「真野妖子

 ワカバヤシ「日高のり子

 ドイガキ「バーバレラ

 カネダ「さびしんぼう

 私「森永奈緒美

 


 3 心ゆるせる相棒「エイチ」のアバターは?

 


 ベットウ「レンタヒーロー

 ホンドウ「ジェイガン

 ワカバヤシ「ノッポさん

 ドイガキ「野村義男

 カネダ「Aチームコング

 私「岸田森

 


 4 レースの邪魔をする2匹モンスターはなんですか?

 


 ベットウ「次藤洋早田誠

 ホンドウ「REX巨大松坂慶子

 ワカバヤシ「いじわるばあさん海原雄山

 ドイガキ「エド・ゲインアンソニー・パーキンス

 カネダ「トリフィドと『クレイジー・クライマー』のゴリラ」

 私「グエムルハングラー

 


 5 あなたが戦うノーラン・ソレントの正体は?

 


 ベットウ「坂本金八

 ホンドウ「桔梗屋利兵衛

 ワカバヤシ「宮脇健

 ドイガキ「ゲーリー・オールドマン

 カネダ「金子信雄

 私「ウルトラ・スーパー・デラックスマン

 


 6 ノーランを助ける凄腕女秘書フレーナは?


 ベットウ「志穂美悦子

 ホンドウ「24周目のシルビア

 ワカバヤシ「茂森あゆみ

 ドイガキ「デミ・ムーア

 カネダ「ドリュー・バリモア

 私「クロエ・モレッツ

 


 7 失恋相手にダンスを申し込む場面で舞台となる、映画と流れている音楽は?


ベットウ「『ロケッティア』とSSTバンド

ホンドウ「『シベリア超特急』と【閣下音頭】」

ワカバヤシ「『小さな恋のメロディ』と【シンドバッドのぼうけん】」

ドイガキ「『天井桟敷の人々』とセックス・ピストルズ

カネダ「『時計じかけのオレンジ』とワンダバ

私「『イントレランス』の古代バビロンミッシェル・ガン・エレファント

 


8 水晶の鍵ゲットのためにクリアしなければならないゲームは?


ベットウ『マイケル・ジャクソンズ・ムーンウォーカー

ホンドウ『イーガー皇帝の逆襲

ワカバヤシ『ヘルメット

ドイガキ『バルーンファイト

カネダ『クルードバスター

私『アイドル八犬伝

 


 9 劇中で使われる、あなたにとっての「手榴弾」は?

 

 ベットウ「コルトパイソン.357マグナム

 ホンドウ「ストームブリンガー

 ワカバヤシ「ボタンパンチ

 ドイガキ「オルゴン・エネルギー

 カネダ「ライトンR30爆弾

 私「バリツ

 

 

 10 大ボス怪獣、あなたならなにを選ぶ?

 

 ベットウ「ミンスク仮面

 ホンドウ「ドルアーガ

 ワカバヤシ「ツチノコ

 ドイガキ「アンゴルモアの大王

 カネダ「クトゥルフ

 私「ジャンボキング

 


 11 それに対抗するあなたメカヒーローは? 


 ベットウ「ジェットアローン宇宙刑事ギャバン

 ホンドウ「プロジェクトグリズリーのスーツとPL時代清原和博

 ワカバヤシ「ゴルゴングオシシ仮面

 ドイガキ「ロボコンジャンボマックス

 カネダ「ロビー・ザ・ロボットユン・ピョウ

 私「ジェノバジャンボーグA

 

 

 

 12 あなたにミッションを課す「ハリデー」の正体は?

 

 ベットウ「宮内洋

 ホンドウ「松岡修造

 ワカバヤシ「マルクス・アウレリウス・アントニウス

 ドイガキ「中島らも

 カネダ「千石イエス

 私「安田均

 


 以上、12項目。

 あなたの答えと一致するところがあれは、友達になりましょう。

 

 

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「遠見の角」に好手あり 羽生善治vs佐藤康光 2012年 第71期A級順位戦

2022年04月15日 | 将棋・好手 妙手

 角の妙手というのは、カッコイイものである。

 射程距離が長い駒なので、「遠見の角」や「攻防の角」といった使い方ができると、実に気持ちがいいものなのだ。

 


 2018年竜王戦で羽生善治竜王が広瀬章人八段に放った「遠見の角」。
 飛車の利きをさえぎるし、「天野宗歩」のイメージでつい▲18から打ってしまいそうだが、相手の応対によっては▲16角とシフトチェンジできるところが、羽生の発想のやわらかさ。

 

 とはいっても、われわれのような素人には、馬ならまだしも生角をうまく活用するなど、なかなかうまくはいかないもので、やはりこういうのは、強い人の将棋から学びたいもの。

 前回は、中原誠名人が見せた、名人戦史上に残るかというウッカリを紹介したが(→こちら)、今回は羽生善治九段の見せた角の名手を見ていただきたい。

 


 2012年の第71期A級順位戦

 羽生善治三冠佐藤康光王将の一戦。

 佐藤のゴキゲン中飛車に、羽生が星野良生四段発案の超速▲46銀で対抗し、序盤から斬り合う激しい変化に突入。

 飛角金銀桂香のすべてが乱舞する大激戦になり、むかえた最終盤。

 先手玉も相当せまられているが、まだ後手に金銀がないため、いきなりの詰みはない。

 一方の後手玉もまだ詰めろになってないが、次に▲63歩とたたかれたりすると、もう手番が回ってこない。

 なので、この一瞬に、なんとか先手玉を受けなしに追いこみたいのだが、自然な△67と、は▲79香との交換が得になるかどうかは微妙

 超難解な戦いだが、ここからの数手は力が入っている。

 

 

 

 △77角、▲98玉、△88角打

 すごい形で、いかなカナ駒がないとはいえ「玉の腹から銀を打て」ならぬ「腹角」の二枚重ねは、なかなか見ないのではあるまいか。

 それに対する羽生の受けも、また根性入っている。

 

 

 

 ▲89飛

 先手の自陣飛車も、この局面になれば打つしかないが、それでも「こんにゃろ!」とでも言いたげな気合を感じる一手だ。

 接近戦で、大駒が頭突きをかまし合う珍型だが、熱戦とはこういうのを言うのであろう。

 足が止まったらお終いの後手は、なんとか攻めを継続したいが、△68歩▲78金で、金を守りに使われてしまう。

 後手もヌルい手だと、なにかのときに先手から▲57歩と取るのが、攻め駒を除去しながら飛車横利きを通す、ピッタリの受けになるかもしれず、そこも気をつけないといけないのだ。

 そこで佐藤は△68と、とすりこむが、アッサリ▲同金と取って、△同角成に▲88飛

 △78金と打つのも、部分的にはきびしいが▲同飛△同馬

 

 次に△88飛の1手詰め。

 一見、先手玉に受けがむずかしそうだが、ここで作ったようにきれいな手がある。

 

 

 

 ▲44角と打つのが、まさに攻防の名角。

 △88飛の詰みを消しながら、▲62角成、△同銀、▲61銀からの詰みを見た、見事な「詰めろのがれの詰めろ」。

 △88飛、▲同角、△77桂成という緊急避難のような手も、▲同角、△同馬が一手スキでないので▲63歩で負け。

 ▲44角に佐藤も、△82玉と執念を見せるが、▲84香、△72金、▲63金と羽生が押しつぶした(棋譜はこちら)。

 この勝利で羽生は、当時なんと順位戦20連勝(おいおい……)。

 それもAクラスでのそれだから、ちょっと信じられない数字である。

 その後、次の高橋道雄九段戦にも勝利して、連勝を21まで伸ばし、この年の名人戦挑戦権も獲得したのであった。

 

 (「中原誠名人」誕生編に続く→こちら

 

 

 

 

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オレ様専用『レディ・プレイヤー1』を妄想するのは国民の義務です

2022年04月12日 | 映画

 「観たあと『オレ・プレイヤー1』考えるのが、ホンマの楽しみ方やろ!」。

 オンラインの飲み会で、そんなことをほたえたのは、友人ホンドウ君であった。

 先日、ここで古いマンガ『プラモ狂四郎』を取り上げたところ(→こちら)、それを読んでくれたホンドウ君が、「なつかしいねー」と、すぐさま連絡をくれた。

 そこから、懐古趣味的オタク話で盛り上がっていると、

 「楽しそうなことやってるやん、オレもまぜてくれよ!」

 続いて、他のボンクラ仲間たちが集まってきたのだ。

 話はプラモやマンガを経て映画のことに飛び、『レディ・プレイヤー1』がおもしろいよな、という流れに。

 そこでワカバヤシ君という友(関東出身)が、

 

 「あそこでガンダムは熱いけど、ちょっとベタだよね」

 

 というと、別の友人カネダ先輩が、

 

 「あー、原作(アーネスト・クライン『ゲームウォーズ』)ではレオパルドンやねんから、もっと、自由なチョイスでよかったな」

 

 そう提言すると、ドイガキ君という男子が、

 

 「でも、レオパルドンに対抗できるメカも、なかなかないでしょ、いろんな意味で」

 

 そこに後輩であるベットウ君がすかさず、

 

 「まあ、レオパルドンはレオパルドンで、逆にワーキャーッスけどね。どっちにしても、あそこはガンダムより、もうちょっと、ありそうですもんねえ」

 

 そこから話は盛り上がり、

 

 「わかる、ガンダムって、実はそんなかっこよくないねん」

 「カッコ悪くはないけど、いかにも主人公メカって感じでなー。それやったら、ガンキャノンの方が魅力あるよ」

 「SFファンは、そう言いますよね。『宇宙の戦士』つながりで」

 「ちゅうか、あそこ別に、モビルスーツやなくてもええんスよね」

 「時代的には、ダグラムとかザブングルとか」

 「それも王道だなあ……」

 「いや、別にマイナーメカに、せなあかんてゆうルールはないから(笑)」

 「でも、あれって大喜利の要素もあるやん」

 「あー、あるねえ。ジェットジャガーとか、まさにそうや」

 「レオパルドンやったら、ウルトラマンのところも、80ザ・ウルトラマン

 「アンドロメロスとかね」

 「今の子、知らんやろなー。アーネストとスティーブンは知ってるやろけど」

 

 なんて盛り上がっていたところ、冒頭のようにホンドウ君が、

 

 「せやねん、結局そこにいきつくねん。【オレやったら、こうする!】てなるやん。だから今日はもう、みんなで『オレだけのレディ・プレイヤー1』決定版を作ろうぜ!」

 

 うーむ、なにやら、おもしろげなことに、なってきたではないか。

 あの映画は、見たらとにかく男子の中にある「少年の心」を、むやみにくすぐるところがある。

 ヤクザ映画を観たあと、やたらと風を切って歩き、音楽ライブの帰りは電車の中でエア楽器を奏でるように、オタク映画は観終わって、

 「オレなら、あそこはあのキャラを出す!」

 と妄想を働かせるものなのだ。

 じゃあやってみようとなったが、なんせみんな喋りたいもんだから、マイクの奪い合いで収集がつかない。

 もう、みんな40代で、家庭を持ってる奴も多いのに阿呆……もとい気持ちは若いが、そこで、手まめなワカバヤシ君が、

 「設問形式でまとめるから、それに答える形で行こう」

 ということで、以下、ワカバヤシ君がまとめてくれた質問箱。

 これに答えると、あなたも自分だけの『レディ・プレイヤー1』が脳内上映できます。

 

 1 あなたのアバターと、カーレースに参加する乗り物はなんですか?

 2 あなたが恋に落ちるヒロイン「アルテミス」のアバターは?

 3 心ゆるせる相棒「エイチ」のアバターは?

 4 レースの邪魔をする2匹のモンスターはなんですか?

 5 あなたが戦うノーラン・ソレントの正体は?

 6 ノーランを助ける凄腕女秘書フレーナは?

 7 ダンスを申し込む場面で舞台となる、映画と流れている音楽は?

 8 水晶の鍵ゲットのために、クリアしなければならないゲームは?

 9 劇中で使われる、あなたにとっての「手榴弾」は?

 10 大ボスの怪獣、なにを選ぶ?

 11 それに対抗するあなたメカヒーローは? どちらも答えてください

 12 あなたにミッションを課す「ハリデー」の正体は?

 

 他にも色々あるけど、キリないからこれくらいで。

 この遊び、いや、すんげぇ楽しかった。通話が終わったあとも、

 「さっきの3番やけど、やっぱ最初に言うてたやつに変えてもええ?」

 とかラインでやりとりしてるの。中学生昼休みか!

 それくらいアツくなる『オレ・プレイヤー1』(それぞれが何を選んだかは→こちら)。

 自分の中の「正解」が次の日には変わってるから、何度でもやり直せて、時間つぶしには最適。

 いや、メチャメチャ楽しいな、コレ!

 

 

 

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将棋 「棋界の太陽」の大ポカ 中原誠vs谷川浩司 1990年 第48期名人戦 第2局

2022年04月09日 | 将棋・ポカ ウッカリ トン死

 桂馬というのは、ウッカリを呼びやすい駒かもしれない。

 将棋におけるポカといえば、詰まないはずの玉が詰んでしまう「トン死」が代表的だが、われわれのようなアマチュアレベルだと、

 「駒をタダで取られる」

 こっちのほうが、よくお目にかかるもの。

 遠くから飛車が利いてるのを見落としてしまう、というのが多いケースだと思うけど、時に桂馬がからんで「あれ?」となることもある。

 桂という駒は他とくらべてトリッキーな動きをするので、特に数枚が交錯すると錯覚を起こしやすいのだが、それが大舞台でも飛び出したことがあるのだ。

 前回は森内俊之九段の見せた、金銀6枚「鋼鉄銀冠」を紹介したが(こちら)、今回は名人戦で飛び出した、桂馬のウッカリを見ていただきたい。

 


 1990年、第48期名人戦

 谷川浩司名人王位中原誠棋聖王座との七番勝負。

 中原先勝でむかえた第2局

 先手の谷川が角換わりを選択すると、中原は棒銀で対抗。

 先手が右玉から、角を打って後手玉のコビンを攻めると、後手も金をくり出して中央から圧迫しにかかる。

 むかえたこの局面。後手が△76歩と取りこんだところ。

 

 

 

 ふつうなら、何も考えることなく▲同銀

 それで、これからの将棋に見えるが、谷川浩司の思考はその先を行くのである。

 

 

 

 

 

 

 ▲14歩と、この瞬間に仕掛けるのが谷川「前進流」の将棋。

 ▲76同銀△55歩と角筋を止められて、おもしろくないのだろう。そこで、この一瞬にパンチを放つ。

 「端玉には端歩」の手筋で、後手もさすがに△同歩と取るしかないが、▲13歩△同桂▲14香△25銀▲同歩△55歩に、そこで▲76銀と手を戻す。

 

 

 

 

 銀桂交換の駒得で敵陣を乱し、先手満足に見えるが、後手も△26角と王手して▲37銀△17角成

 

 

 

 こう、じっくりともたれておいて、形勢は意外と難しいというのだから、さすがトッププロ同士の対局である。

 そこから、中盤戦の攻防を経て、この場面。

 

 

 ▲24歩と突いたのが好手で、先手の評判が良い。

 ここでは▲16飛と寄る手が目につくが、△27馬、▲13香成、△21玉で二の矢がない。

 ところが、▲24歩△同歩が入っていると、そこで▲23歩とたらす手が詰めろで入るため、攻めが続くのだ。

 

 

 控室の検討では、中原はこの手を軽視していたのではと言っていたそうだが、まだ決まってはいなかった。

 ▲24歩には△同歩と取って、▲16飛△23玉とがんばる手があるのだ。

 

 

 ▲13香成△同香で受かる。

 ▲18飛をタダで取られてダメのようだが、そこで△17歩のたたきや、△25桂と跳ねて飛車をいじめる筋があって、けっこう大変なのだという。

 大事な馬をボロっと取られて、それで指せるというのだから、将棋というのは奥が深いと感心することしきりだが、中原はこの手を選ばなかった。

 そして、その代わりに指したのが、とんでもない一着だったのだ。

 

 

 

 △25桂打が、ありえない大ポカ

 ▲13香成、△同玉、▲25飛△24歩として、桂馬を犠牲に先手を取ってしのごうとしたのだが、これがとんでもない尻抜け。

 みなさんなら、どう指しますか?

 

 

 

 堂々、▲25同飛と取る手があるではないか。

 ▲14がいるから、△同桂と取り返すことができない(玉を取られる)。

 ただ、桂を一枚プレゼントしただけの利敵行為。

 終盤の競り合いで、こんなことになっては勝てるはずもなく、以下、谷川が圧倒してスコアをタイに戻した。

 それにしてもすごいウッカリだが、さらにおどろくのは、中原はこの手に25分を費やしていること。

 つまりはに追われてのポカとかではなく、まさに腰を落として、じっくりと読みに読んで、このボーンヘッドなのだから信じられない(棋譜はこちら)。

 まさに死角に入ったとしかいいようのない手だが、ついでにもうひとつビックリなのが、このシリーズは4勝2敗で、中原が名人を奪取していること。

 こんな負け方をしても、そこから立て直せる中原のずぶとさもすごい。

 それとも、こんな笑うしかないようなミスだと、案外と尾を引かないものなのだろうか。

 なんにしても、強い人の精神構造というのは、すごいものであるなあ。

 

 (羽生善治の「遠見の角」編に続く→こちら

 

 

 

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『プラモ狂四郎』 スクラップ&ビルドによる、「クラフトマン」倉田太の闇ビジネス

2022年04月06日 | オタク・サブカル

 「プラモがボロボロに壊れる設定は、ヒドかったよなあ」

 先日、LINEにそんなメッセージを送ってきたのは、友人テンマ君であった。

 そこで前回は、『プラモ狂四郎』に出てくる模型店「クラフトマン」店主である倉田太氏の、ゆがんだ性的指向について考察したが(→こちら)、そもそもこの作品は、そういうサディスティックなキャラクターが多く、たとえばこの人。

 

 

 

 とってもナイスな悪役、蔵井明市郎くん。

 この格好は、ドイツだと逮捕されます(マジ)。部下の2人も、なにげにいい味。

 

 

夢の対決、ガンダム対ドイツ軍。

今はメーカーのかねあいで、まず不可能な「異種格闘技戦」が魅力だった。

ザブングルvsザク(『ゴッドマーズ』のゾンデ装着)とか、ダンバイン対零戦とか。

 

 蔵井君が従える「ジオン少年隊」なるモデラー男子たち(たぶんクラスでは陰キャ)。

 「蔵井財閥」御曹司の彼は、コスプレ少年をはべらせ、「総帥」と呼ばせるなど、

 「金があったら、こんなこともできるんや!」

 と子供たちに、多くの夢をあたえてくれた。

 

 

 蔵井君はシミュレーションの中で小学生の女の子を拉致し、「捕虜」と称してで縛るわ、京田君に睡眠薬を飲ませ(おいおい……)、やはり拉致し、「プラリング」なる自分に一方的有利な条件で戦ってボコボコにするわと、やりたい放題であった。

 なにか、ミリヲタシミュレーションゲーマーの評価を決定的に下げている気もするが、なかなか素晴しいヒールっぷりであった。

 そんな蔵井君に「危険なプレーはやめなさい!」とか説教していた倉田氏だが、彼の方もなかなかなのは、前回も語った通り。

 ちなみに倉田氏は「プラモ帝国エンペラー」のリーダー山根くんにも、

 「相手のキットを、メチャメチャにすればいいってもんじゃない!」

 とかエラそうに語ってたけど、こんなにさわやかな「オマエが言うな」など、聞いたことがない。

 思うに、もうひとつ、氏が子供のプラモを無残に破壊する理由には、

 「ビジネス

 これにもつながるのであろう。

 シミュレーションによるバトルの末、プラモを失った子供は、次の戦いにそなえて、当然新しいキットを購入することになる。

 また、修理しようというツワモノも、当然その材料であるポリパテやバルサ材、塗料などが必要となる。

 それを買うのは、どこか。

 当然、倉田氏の経営する「クラフトマン」である。

 そう考えれば、氏のやっていることが、非常に理論立ったビジネスシステムであることが、よくわかる。

 「少年好きなサディスト」である氏は、子供たちのプラモ愛やゲームへの情熱を利用して、シミュレーションマシンによる合法的な破壊活動を行う。

 それによって傷ついた、少年の涙と悲しみをすすり、欲望を満足させるだけでなく、くわえて「実利」も得る。

 なんという、悪魔的なシステムであろうか!

 まるで、子供たちを意のままに操る悪魔、パイパーのようではないか。まさに死の商人

 さらに言えば、やはりプラモシミュレーションを別ルートで作ったサッキー竹田氏は、ゲーム内のメカがやられると、プラモのみならず、プレーヤーにもダメージが行く(なんで?)システムを作り出した。

 

 

 

 

 

こんな危険なゲーム、子供がやるなよ……。

 

 

 

 倉田氏は「なぜそんなことを……」と愕然としていたが、このやりとりから推測するに、どうやら氏はサディズムは肉体ではなく、

 「精神的なものであるべき」

 という美学があるのだろう。

 直接のダメージは邪道である、と。

 このあたり、実に奥が深く、澁澤龍彦氏あたりに考察していただきたいところだ。

 もっと言うと、その後シミュレーションを使った全国大会があるのだが、そこで使う「バイオバッジ」にも、プラモが傷つけばプレーヤーもケガをするという仕様がある。

 

 

 

 

 

 こんな大会、今なら間違いなく炎上で中止だ。

 なぜ、そんな手間をかけてまで、子供に痛い思いをさせねばならんのか。しかも、プラモで。

 どうやら、このあたりに業界のがありそうだ。

 「女子高生との、ふしだらを目当てに教員免許を取る」的なゆがみが感じられ、真相の解明が急がれるところである。

 

 

 

 

容赦なくぶっ壊されるパーフェクトガンダム。

 

 

味方だからって油断できない。ストリーム・ベース小田さんによる「かわいがり」。

小学生に「取り外せる装甲」をイチから作れと……。

 

 なんたって、倉田氏はこの全国大会に備えて、訓練用に、

 「プラモが破壊されないシミュレーションマシン」

 これを作っているのだ。

 

 

 

 

 

 順番逆だろ! 

 ふつうは、ただのシミュレーションマシンだけ作って、オプションで「壊れる」ようにするのが順番ではないのか。

 手間暇かけて、わざわざ大変な仕様で発表する。

 そこには、「どうしても、子供たちのプラモをバラバラにしたい

 という、氏の深い情熱がうかがえる。

 我が街大阪には、「難波秘密倶楽部」なる、蛙亭イワクラさんも通った大人の社交場があるが、まさにこの「クラフトマン」の2階こそ、

 「いたいけな子供が、一所懸命に作ったプラモデルを、思う存分に破壊したい!」

 という、特殊な趣味を持った紳士の集う、「東京模型倶楽部」なのだろう。

 そんな倉田氏は、その後「クラフトマン」を発展的解消し、骨董屋を営んでいるという。

 これまでのやり方を見ると、そこでどうやって利益を得ているのか、容易に想像がつくというものだ。

 「プラモシミュレーションの生みの親、逮捕!」の文字がネットニュースを賑わす日も、そう遠くないのかもしれない。

 

 

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伝説の「鋼鉄」銀冠 森内俊之vs深浦康市 2009年 第22期竜王戦 挑戦者決定3番勝負 第2局

2022年04月03日 | 将棋・好手 妙手

 「穴熊の暴力

 という言葉がある。

 穴熊、特に居飛車穴熊は、その固さ遠さのアドバンテージを活かして、無理っぽい攻めをムリヤリ通してしまったりする。

 その理不尽さが「暴力」という表現につながるわけだが、ときにはその穴熊を実にうまく料理してしまう人もいる。

 鈴木大介九段とか、若手なら石井健太郎六段や、西田拓也五段なんかも四間飛車から、端攻めなんかをからめて、退治してしまうイメージだ。

 前回は降級にさらされた一流棋士の見せた「順位戦の手」を紹介したが(→こちら)、今回はアベマトーナメントのドラフトで大人気だった、森内俊之九段の伝説的な穴熊攻略を見ていただきたい。

 

 2009年、第22期竜王戦の挑戦者決定3番勝負。

 深浦康市王位と、森内俊之九段の一戦。

 深浦先勝でむかえた第2局は、森内の振り飛車と居飛車穴熊の戦いになった。

 松尾流穴熊に組み替えた先手に、森内が1筋から仕掛けたのが機敏で、ペースを握るも、深浦もをさばいて反撃に出る。

 

 

 

 

 図は▲45歩王手したところ。

 穴熊は固いが、2枚のタレ歩が不気味にぶら下がっており、先手もをかけられている。

 飛車角も好機にさばけそうで、振り飛車がやれそうだが、こういうところから「暴力」を喰らってうっちゃられるのが、穴熊の理不尽なおそろしさ。

 だが、次の手が森内らしい力強さで、先手の反撃を封じるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 △73金打が、森内流「鋼鉄の受け」。

 金銀4枚がガッチリくっついたマグネットパワーで、これ以上先手に攻めがない。

 

 

 

 数手進んだこの局面が、当時話題になった鉄の壁

 まさに金銀でできた重戦車で、取りつく島がない。攻略するのに、何手かかるか計算したくもない。

 まさに「オレに恨みでもあるのか」と、泣きごとのひとつも言いたくなる固さではないか。もう、グッタリである。

 以下、▲32桂成をアッサリ見捨てて、ゆうゆう△45飛とさばいていく。

 その後も、森内が好きなように指して圧倒

 

 

 

 

 図は▲89香と、深浦が最後の根性を見せている場面。

 後手陣は相変わらず無敵すぎる上に、3枚のタレ歩がド急所を押さえ、先手の4枚穴熊は見る影もない。

 ここで森内に、気持ちのいい決め手がある。

 

 

 

 

 

 

 

 △15飛、▲同角、△97香まで後手勝ち。

 △15飛と遊んでいる飛車でを取るのが、計ったようなトドメの一手。

 最後に質駒を補充して必至をかけるという寄せの理想形で、こんな爽快な手で勝てれば最高の気分であろう(棋譜は→こちら)。

 △97香と投げナイフを決めて、先手に受けはない。ここで深浦が投了

 快勝に気をよくした森内は、続く第3局も制して、見事竜王への挑戦権を獲得したのだった。

 

 (中原誠が名人戦で見せた大ポカ編に続く→こちら

 

 

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