王位獲得記念特集「木村一基ならこう指すね」 vs藤井猛 2012年 第70期B級1組順位戦

2019年09月30日 | 将棋・好手 妙手

 木村一基が王位になった。

 ということで、前回はそのお祝いに木村一基王位の名局を紹介したが(→こちら)、今回もその持ち味が存分に出た珍局(?)を。

 2012年、第70期B級1組順位戦

 相手は前回と同じく藤井猛九段

 藤井の角交換振り飛車から、やはり木村が自陣飛車を打つ独特の戦いを見せる。

 むかえたこの局面。

 

 

 ここからの2手を当てたアナタは気ちが……もとい個性派プロ級の腕前と言っていいでしょう。

 やはり、ブロンソンズのごとく「木村一基ならこうやるね」と、したり顔で選びたいのは……。

 

 

 

 

 ▲36飛が、のけぞるような異能感覚

 まあ、そりゃ先手陣はコビンが攻められていて、どこかで△66歩の突き捨てとかイヤらしいけど、それにしたって、スゴイところに手が伸びるもんだ。

 さらに、これに対する藤井の手もブッ飛んでいる。

 

 

 

 

 △66飛と打ちこんで勝負と。

 先手が飛車を投入してまでコビンを受けているのに、「ゆるさん」とに飛車。

 なんだか、意地意地のぶつかり合いがすごく、2枚の飛車の形も異常で目が回る。いやあ、熱いですわ。

 この将棋は中終盤の攻防も見ごたえたっぷりで、ぜひ盤に並べて味わってほしいが、終盤の決め手がまた木村っぽかった。

 

 △46角と後手が銀を取ってせまったところ。

 ▲同金△57銀で受けが難しいが、ここではすでに見切りであった。

 

 

 

 

 

 ▲58玉とあがるのが、「千駄ヶ谷の受け師」らしい力強い玉さばき。

 以下、藤井も懸命に攻め続けるが、最後まで切っ先は届かなかった。

 それにしても、木村の飛車とか竜は、いつも自陣にいるなあ。

 

 

  (羽生善治の寄せ編に続く→こちら

  (木村一基の無冠時代の苦闘は→こちら

 

 

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

王位獲得記念特集「木村一基ならこう指すね」 vs藤井猛 2007年 第66期A級順位戦

2019年09月27日 | 将棋・好手 妙手

 木村一基が王位になった。

 当ページは前回の大山康晴十五世名人のように、基本古い将棋をあつかっているが(→こちら)、今回はトレンド入りも果たした時事ネタを。

 この王位戦は、どちらを応援するか、非常に悩ましいシリーズだった。

 木村一基豊島将之ともに人気棋士というだけでなく、その実力は充分すぎるほどに認められながらも、長らくタイトルを取れず苦しんできた苦労人

 木村一基が一度はタイトルホルダーになるべき人物なのは当然だが、奨励会時代から期待されていた「豊島時代」を盤石にするため、王位もここで負けるわけにはいかない。

 というのは、結構なファンが同じ想いに身を焦がしたと思うんだけど、結果は木村が勝ちで王位に。

 豊島負けは残念だが、木村がタイトル戦で味わった苦悩の数々を考えると(詳細は→こちらなど)、やはりホッとしたところもあり、ここは素直にうれしいというのも本当のところ。

 そこで今回は、木村王位誕生記念にその将棋を大放出。

 よくプロの将棋を語るのに

 

 「棋譜を見ただけで、指している人がわかる」

 

 と言われることがあるが、木村将棋はその筆頭ではあるまいか。

 

 2007年の第66期A級順位戦

 藤井猛九段と木村一基八段の一戦。

 藤井が四間飛車から△54銀とくり出し、玉頭銀で木村陣にせまる。

 中央で競り合いがあって、先手が竜を作ったが、後手も△27角を作りに出たところ。

 

 金取りをどう受けるかだが、ここでまず木村流の手が飛び出す。

 

 

 

 ▲59竜と引くのが「受けの木村」の手。

 俳優チャールズ・ブロンソンのファンであるみうらじゅんさんが、田口トモロヲさんと、

 

 「ブロンソンならこう言うね」

 

 という、すばらしいタイトルの本を出版されていたが、これぞまさしく、

 

 「木村一基ならこう引くね」

 

 ここから中央で、金銀がゴチャゴチャぶつかり合う競り合いになり、むかえたこの局面。

 

 

 

 2枚のが、いかにも木村将棋。

 やはり、受け将棋は成駒自陣に引くものだ。

 そういえば、デビュー当初の永瀬拓矢叡王の将棋は、こんなのが多かったなあ。

 このままでは押さえこまれてしまいそうな藤井は、△15角▲49竜△46歩▲38竜△37歩▲同桂△36銀と懸命の食いつきを見せる。

 

 

 ここでまたすごい手が出る。

 「木村一基ならこうやるね」

 ニヤリとしながら選びたい手は……。

 

 

 

 

 ▲28金と、ここに打ちつけるのが、あきれるような受け。

 もうね、こんな手を実戦で指されたら、泣きたくなるというか、

 「え? この人、オレのこと嫌いなん?」

 そこを疑ってしまうほどだ。

 これで後手の攻めは受け止められている。

 藤井は△33桂と援軍をくり出すが、▲78金と締まって、△25桂▲同桂△55歩▲37歩△56歩▲36歩△45馬に、▲58銀打(!)

 

 これで先手陣は鉄壁。

 金銀4枚プラス竜2枚で、笑っちゃうような堅陣である。

 以下、藤井の必死の攻めを丁寧に面倒見て快勝

 いかがであろうか、この木村の強さ。

 以前も書いたが、これほどの男がいまだタイトル獲得がなかったというのは、やはり違和感ありまくりだったわけで、今回の王位獲得はそのモヤモヤが晴れて一息というところ。

 まあ、これは「取ったからなんとでも言えるよ」と笑われそうだが、「豊島将之三冠」のときも感じたけど、この木村の勝利も「悲願」とかじゃなく本来の実力なら、

 「この状態がふつう

 といっていいはずなのだ。

 現に7回もタイトル戦に出ているし、今年だってA級復帰竜王戦でも挑決に進出。

 アベマの早指し戦でも大活躍と、すごい勝ちっぷり。

 そこで負かしたのも八代弥増田康宏菅井竜也稲葉陽斎藤慎太郎永瀬拓矢、そして豊島将之

 いずれも若手で、アブラののったプレーヤーばかり。こりゃ本物だっせ。

 その強さにもかかわらず、三段リーグタイトル獲得で予想以上の苦戦を強いられた、遅咲きの男木村一基。

 もしかしたら、「本当の全盛期」は、今日ここから始まるのかもしれないのだ。

 

 (木村一基の名局編はさらに続く→こちら)

 

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「受けの大山」に脱帽 大山康晴vs神谷広志 1987年 棋王戦

2019年09月24日 | 将棋・好手 妙手
 「大山先生は、全然手を読んでないんですよ」
 
 
 というのは、大山康晴十五世名人の将棋を語るとき、よく出てくる言葉である。
 
 前回は中田功八段の芸術的な三間飛車を紹介したが(→こちら)今回がコーヤンの師匠である、大山康晴十五世名人の振り飛車を。
 
 羽生善治九段をはじめ、大山名人と指した人の多くが、
 
 
 「そんなに深いところまで読んでいる感じがしない」
 
 「なのにパッと見で、指がことごとく良いところに行くのがすごい」
 
 
 といった感想をいだいているようで、また『先崎学&中村太地 この名局を見よ! 20世紀編』という本では、先崎九段による、
 
 
 「大山先生は詰みのところが苦手だったんでしょうけど」
 
 
 という発言があったり、どうも大山の強さは、トップ棋士の多くが武器にしている「精密な読み」に頼るものではなかったらしい。
 
 まあ、若手棋士だったころはわからないが、晩年の将棋はそういった印象が強いようで、その「読まなくても指せる」秘訣はなんだったのか。
 
 感覚か、それとも経験値か。
 
 まあ、いわゆる「大局観」というものがズバ抜けていたのだろうけど、そうなると少し不思議なのが、大山が「受けの達人」であること。
 
 将棋にかぎらず、サッカーや野球などスポーツもそうだが、こういった戦いは基本的に攻める方が気楽ではある。
 
 簡単というわけではないけど、シュートをはずしたり、チャンスでヒットを打てなくても「無得点で終わる」だけだが、守備でエラーやファウルをすると「失点」が致命傷になりがちだ。
 
 将棋も、攻めが受け止められても立て直しはきくけど、受けは1手間違えれば、そのままつぶされる恐れがある。
 
 その意味では、受け将棋というのは水も漏らさぬ「ベタ読み」が必要とされ、その分の負担が大変なのだ。
 
 ところが大山は、受けの達人にもかかわらず「読んでいない」というのだ。
 
 そんなスタイルで、なぜか相手の切っ先をかわしてしまうのだから、そこが謎ではある。
 
 となると、「これも、読んでなくてやってるの?」と、いろいろ疑問は出てくるわけで、今回紹介したいのは1987年の棋王戦、神谷広志五段との一戦。
 
 大山の三間飛車に、神谷は左美濃に組む。
 
 飛車角を大きくさばきあう、対抗形らしい戦いとなったが、終盤では神谷の攻め足が一歩早いように見えた。
 
 
 
 
 
 後手の神谷が△48銀と食いついて、かなり攻めこんでいるように見える。
 
 美濃囲いは▲49を責めるのが急所。
 
 次、△49銀不成▲同銀△59竜のきびしい攻めがある。
 
 
 「53のと金に負けなし」
 
 
 の形で受けはむずしそうだし、かといって攻め合っても後手は左美濃が健在で、も使いにくく一手負けしそうだ。
 
 神谷の金星かと思われたが、ここから大山がすばらしい組み合わせで、新鋭の希望を打ち砕く。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ▲35桂と打つのが、大山マジックの第一弾。
 
 金取りだから△同歩と取るが、そこでもう一丁、空いた空間に▲34桂と打つ。
 
 タダ捨ての連打であり、にわかには意味がわからないが、王手だからこれも△同金と取る。
 
 そこで先手は▲35歩
 
 
 
 
 
 ここで、2枚のを気前よく、くれてやった理由がわかる。
 
 3筋にむりくりをあけ、攻めのスピードアップをはかろうという、終盤の手筋だ。
 
 そして、この手にはもうひとつのねらいがあった。
 
 カンのいい方なら、もう気づいたのではないだろうか。
 
 そう、指しているのは「受けの大山」だ。
 
 でもって、受けにはもっとも頼れる、「あの駒」がここで働いてくるではないか。
 
 後手玉がまだ詰めろではないのを頼りに、神谷は△49銀不成と取って、▲同銀△59竜とせまるが、次の一手こそが2連打の真のねらいだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ▲27馬と引きつけて、これで先手が勝勢
 
 馬冠の力が強すぎて、先手玉に詰めろがかからない。
 
 △48と、のような手には、ゆうゆう▲34歩と取って先手勝ち。
 
 数手前まで、後手が
 
 
 「固い、攻めてる、切れない」
 
 
 の形で、いかにも勝てそうに見えたのに、連打馬引きで、あっという間に速度が入れ替わってしまった。
 
 そう、あの桂馬の犠打2連発は攻撃と同時に、進路を自陣まで一気に開通させる狙いがあったのだ! 
 
 一瞬の逆転劇で、なにがなんだかわからないが、ともかくもこれで先手が勝っている。
 
 後手は△33金と引くが、ここで手番を渡しては勝ち目がない。
 
 以下、▲34香△51歩▲33香成△同銀▲34香とカサにかかって攻めつけ圧勝してしまう。
 
 いかがであろうか、この大山の見事なしのぎ。
 
 △48銀とからまれたところから、受けきるだけでも至難なのに、それを「読まずに」やってのけるというところが、おそろしい。
 
 あの玉頭に使うというのが、なんともすごい発想だ。
 
 おそらくはもう、
 
 「これは、この形でだいたいしのげる」
 
 体にしみついているのだろう。
 
 もし本当にこれを「パッと見て」勝ちと判断できるのなら、それはもう超人と言わざるを得ないすごさである。 
 
 
 (木村一基と藤井猛の熱局編に続く→こちら
 
 (大山が米長邦雄に見せた、さらなら受けの妙技は→こちら
 
 
 
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『テニスマガジン』発 妄想で対決! 新旧名選手どっちが強いの? いぶし銀プレーヤー編

2019年09月21日 | テニス

 お盆休みは古いテニス動画を楽しんだ。

 ロッドレーバーケンローズウォールや、ビヨンボルグと戦うハロルドソロモンビタスゲルレイティス

 そういった、下手すると自分が生まれる前にやってた試合を観るのは、なんだか昔の名画を観るような味わいがあっておもしろい。

 この我ながら渋い趣味は、若いころ読んでいた『テニスマガジン』の影響が強いかもしれない。

 最新情報とともに、当時のテニマガはちょいちょい

 

 「学生時代はみんなフィラのウェア着てバンダナ撒いて、木のラケットでトップスピンを打っていた」

 「ケン・ローズウォールのバックハンドのスライスは今思い返しても優雅で美しい」

 

 などといった話を放りこんできて、なんだか気にはなっていたのだ。

 そこにとどめを刺したのが「新旧妄想対決」という企画。

 これは編集部がのトップ選手と過去の名選手の全盛期を「妄想の中」で戦わして、そのレポートをするというお遊び

 さすがに、くわしいことはおぼえてないけど、たしか

 

 「ケン・ローズウォールvsマイケル・チャン」

 「クリス・エバートvs伊達公子」

 「ロッド・レーバーvsアンドレ・アガシ」

 

 とかあった気がする。

 ダブルスジョンマッケンローピーターフレミングトッドウッドブリッジマークウッドフォードの「ウッディーズ」だったかなあ。

 ピートサンプラスはだれと戦ったっけ? ジョンニューカムとかか。それとも、スタンスミス

 そんなマニアックなうえにもマニアックな話をして、だれが興味を持つのか不思議だったが、まあが持つわけである。

 こんな記事から刺激を受けて、

 

 「ロイ・エマーソンって、どんな選手やろ」

 「『禅テニス』とかいう本を書いてるビル・スキャンロンって、こんな人なんや」

 

 などなどネットでチェックするようになったわけで、今ではすっかり

 

 「自分が生まれる前にやってたテニスの動画」

 

 これを見るのが趣味になってしまったわけだ。

 連休のヒマついでに、の選手で「新旧妄想」をやると、どういうメンツになるだろうか。

 あれこれ考えていると、こんな感じに。将棋のタイトル戦みたいに七番勝負で。

 


 1将戦  ステファノス・チチパス vs ヒシャム・アラジ

 

 2将戦 (ダブルス) フェリシアーノ・ロペス&フェルナンド・ベルダスコ組

               vs

          トーマス嶋田&バイロン・ブラック組

 

 3将戦 ロベルト・バウティスタ・アグート vs フェリックス・マンティーリャ

 4将戦 リシャール・ガスケ vs マルセロ・リオス

 

 5将戦 (ダブルス) ジュリアン・ベネトー&ミシェル・ロドラ組

                   vs

           マヘシュ・ブパシ&レアンダー・パエス組

 

 副将戦 ジル・シモン vs マーク・フィリポーシス

 大将戦 ダビド・ゴファン vs トーマス・エンクヴィスト

 

 人選がかたよっているのは、完全に個人的趣味だからです。3将戦なんか、世界で私しか見ないかも。

 

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

文化系ノスタルジア NHK「将棋フォーカス」 高校選手権2019年特集

2019年09月15日 | 将棋・雑談

 将棋の高校選手権2019の特集を見る。

 都成竜馬五段と、乃木坂46の向井葉月さんが司会をつとめる(なんてさわやかな絵面なんだ……)NHK『将棋フォーカス』で取り上げられたものだが、これがおもしろかった。

 将棋部ではないが、私も高校時代文化系クラブに所属していたこともあって、このジャンルをプッシュされると弱いのである。

 この世界の古典ともいえる大槻ケンヂ『グミ・チョコレート・パイン』をはじめ、アニメにもなったクイズ研マンガ『ナナマル サンバツ』。

 書道部をあつかった『とめはねっ! 鈴里高校書道部』など、文化系の若者たちが世間でマイナーとされるジャンルで熱く青春しているのを見ると、昔の自分に重なって、つい見入ってしまうのだ。

 今回、熱気あふれる大会の模様を見て、あらためて感じたことがこれだった。

 「将棋を指す女性の姿は魅力的だ」。 

 人がなにかと真剣に向き合っている姿はそれだけで美しく、また人を惹きつけもする。

 それこそ、先日新しくできた清麗のタイトルを獲得した里見香奈女流六冠の対局姿など、大げさではなく一片の絵画のような芸術性があるほどで、思わず見入ってしまう。

 終局後のホッとしたような笑顔も、またいいというか、まあ、これは別に将棋とか男女とか関係ない話で、それこそ『グミチョコ』のオーケンも、「モテたかったらバンドをやれ!」と言っていて、その理由がやはり、

 「女の子は、なにかに一心に打ちこんでいる男を好きになるのだ」

 それが「正しい」と全面的に言い切れないところもあるけど(苦笑)、原則としてはそうだとは思う。

 「ふり向くな君は美しい」

 これはサッカーだけの専売特許じゃないのだ。

 見ているうちに、なんだか自分もタイムスリップというか、高校生のころの思い出がつらつらとあふれ出てくる。

 そういや自分はもともと好きになる子も、なってくれる子も(奇特な子がいるものなのです)勉強が得意だったり、倫理観が高かったりという「頭のいい子」が多かった。

 つまり人は自分にないモノに惹かれるということだろうが、なもんだから将棋のような知的ゲームに没頭する彼女らを見ていると、自分が現役の高校生だったときこんな同級生がいたらポーッとなっちゃうだろうなあと、妙に甘酸っぱい気分になったり。

 いいなあ、こんな女子部員いたら、オレも将棋部入っちゃうよ。もう、マンガの世界やん! 青春やなあ。みんなで全国行こうぜ!(←卒業して何年経ってるのか)

 ウチの地元大阪は近大付属か、準優勝の清水南ってたしか、これまた文化部青春作品『ハルチカ』シリーズの舞台になってる学校だよね。

 うーん、わが母校大阪府立S高校もそうだけど、文化部のレベルが高い学校は女子もかわいいんだよねえ。

 ま、男はたいていボンクラだけど。だから男子の部はこっぱずかしくて見れない。昔のオレらみたいに、尻に敷かれてんのかな、とか(笑)。

 とかなんとか、なんだかヤングたちの熱気にアテられて、すっかり気分は10代のころに戻ってしまっているというか、そもそも私のようないい大人が

 「女子高生っていいよね」

 などと発言するなど、もはやあらぬ誤解しかまねきそうにないが、なんにしても勝った笑顔、負けた涙、みんなキラキラしてて、今のブームをきっかけに、もっともっと将棋を指す女の子(もちろん男の子もネ)が増えてくれたらうれしいなあと、あらためて思った日曜の朝でした。

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

三間飛車の芸術的さばき 中田功vs真田圭一 1993年 C級2組順位戦 その2

2019年09月11日 | 将棋・名局

 前回(→こちら)に続いて、中田功真田圭一の決戦。

 三間飛車のスペシャリスト中田功が、その腕を存分に振るって序中盤はペースを握る。

 

 



      

 だが、自力昇級の権利を持つ真田も、負けるわけにいかない大勝負。

 根性を見せ▲64金と取って、△同歩に▲54角と打つのが実戦的な手。

 金銀にねらいをつけ、いつでも囲いを薄くできる形で、相手にプレッシャーをかけるのが逆転のコツだ。

 以下、真田は美濃囲いの急所である△61の金をはがし、▲48香と、飛車にアタックをかける。

 




 たしか、子供のころに読んだ『将棋マガジン』に紹介されていたのが、この場面。

 次の手が好手で、中田功の勝ちが決定的になった、と書かれていた記憶がある。

 飛車を逃げるのは、もちろん論外。ヒントは、ある「コーヤン語録」から。

 なんとかは捨てるイメージで……。





 飛車を見捨てて、△56歩とたたくのが、

 

 「飛車は切るもの」

 

 という、コーヤンだけでなく、久保利明藤井猛鈴木大介なども共通して語る、振り飛車必勝パターン。

 ▲68銀△47歩だから、先手は▲45香と取るが、△57歩成、▲同金、△56歩▲47金

 そこで、△57桂と打つのが、筋が悪いように見えて確実にせまる好打

 


 


 将棋は、相手のを攻めるゲームだ。

 ▲68金△59銀と掛けて、攻めは切れない。

 ▲79金は、強引に△69銀とねじこんで、▲88玉△78銀打と重ねて寄り。

 真田は▲12飛と反撃するが、一回△42歩中合するのが、おぼえておきたい軽妙な一着。

 

 

 

 ▲同飛成△72銀打で、この急造の銀美濃が、意外にしぶとく先手が困っている。

 △42歩の効果で、次に△15角の両飛車取りがある。

 ▲21飛成として、それをさけつつ次の▲61竜をねらいたいが、これには△69桂成詰めろで1手間に合わない。

 真田も必死でしがみつくが、どこまでいっても、完全無欠に中田功の計算通り。

 強すぎる。そら、先チャンと深浦も連破するわけや。

 しょうがなく先手は▲68金とするが、△15角で飛車を取りかえされては、ハッキリ差がついてしまった。

 以下、真田は若者らしい、根性のねばりを見せるも、中田功の的確な攻撃の前に討ち取られた。

 こうして大一番を自身の、いや三間飛車の歴史的名局ともいえる内容で勝利した中田功は、最終局も勝ってC1昇級を決める。

 子供のころも感じたが、この将棋は最初から最後まで、三間飛車のお手本のような手順ではないか。

 大駒を大きく使って敵陣を攪乱し、接近戦になったらバサッと切って、あとは美濃囲いの耐久力にものを言わせて、小駒でにじり寄る。

 これが振り飛車の極意なのだろう。

 ぜひ、初手から盤に並べて味わっていただきたい、コーヤンの大傑作だ。

 

 

 (大山康晴の受け編に続く→こちら

 

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

三間飛車の芸術的さばき 中田功vs真田圭一 1993年 第51期C級2組順位戦

2019年09月10日 | 将棋・名局

 中田功が見せる、三間飛車からのさばきは、いつ見ても惚れ惚れする。

 前回は島朗竜王が、羽生善治六段に見せた、攻め駒を責めるB面攻撃を紹介したが(→こちら)、今回は華麗な大駒の乱舞を。

 

 昨日の夜、なんとなくネットを見てたら、村中秀史六段のYoutubeチャンネルに中田功八段が出ていた。

 なんでも「王手将棋」をやるということで、こりゃすごい、と座りなおすことに(→こちらなどから)。

 なんといってもコーヤン(中田功八段の愛称)は専門誌『将棋世界』に、なぜか王手将棋の講座を持っていたという、その道のスペシャリスト。

  さらには、その天才的センスから、同誌の企画で先崎学九段との

 

 「飛車飛車vs角角」

 「金金金金vs銀銀銀銀」

 

 といった変則将棋対決にも抜擢された、知る人ぞ知るゲームの達人なのだ。

  こりゃもう見なきゃしょうがないと、そのあざやかな指し回し(と衝撃結末)を堪能したが、もちろんコーヤンのさばきが発揮されるのは、王手将棋だけではないのである。


 1993年、第51期C級2組順位戦の9回戦。

 中田功五段は、真田圭一四段と対戦することとなる。

 当時22歳だった中田功は、開幕2連敗を喫するも、そこから連勝して昇級争いに浮上。

 インタビューによると、この快進撃は師匠である大山康晴十五世名人が亡くなったことが、転機になったそう。

 順位も4位と好位置につけて、相当に有力だったが、中田にとって大きな試練だったのが、後半の当たりだ。

 まず6回戦では、プライベートでも仲の良い先崎学五段(4勝1敗)。

 続く7回戦では、新四段になったばかりの深浦康市四段(6連勝)。

 そしてこの9回戦では、7勝1敗の真田圭一四段。

 どれも、自力昇級の権利を持った、超強敵3連チャンだったのだ。

 このジェットストリームアタックにはコーヤンも、

 


 「今なら火を噴いてます(笑)」


 

 思わず苦笑いだが、このときの中田功は冴えていて、先崎、深浦という、未来のA級棋士をなで斬りにして2敗をキープ。

 むかえた最後の関門が、のちに竜王戦挑戦者になる真田圭一だが、ここでコーヤンは代表作といっていいほどの、すばらしい将棋を披露するのだ。

 この大一番に、中田は当然エースの三間飛車を投入。

 真田は穴熊全盛の時代では、なかなか見られなかった急戦策で迎え撃つ。

 むかえた中盤戦。▲45桂とはねて、居飛車が成功しているように見える。

 


 

 △同金▲33角成と、が取れる。

 角が逃げるのは、▲44角をいただいて、どちらも先手がうまい。

 一見、手段に窮しているように見えるが、もちろんのこと、これは中田功の掌の上。

 ここから、まるで舞を舞うような、スペシャリストの「ワザ」が見られるのだが、その第一弾のさばきとは。







 

 △42角▲44角△64角が、あざやかな三角跳び。

 負担になっているを取らせて、その逆モーションで角を好所にのぞく。

 これぞ、振り飛車のさばきの見本。

 それもこれも、三間飛車の職人として、この形のことを知りつくしているからこその、カウンターショットなのだ。

 まず序盤戦は振り飛車から「いい蹴り」が入ったが、この程度でまいってるようでは、順位戦は戦えない。

 真田は▲55金と投入して、力強く抵抗する。

 傷口にはマーキュロクロム、カルサバ(軽いさばき)には、重い押さえこみがよく効く。

 角が逃げれば、▲53桂成などで攻めがつながるが、もちろん、そんなのは振り飛車の手ではなく、△41飛と活用。

 

 



 「争点に飛車をまわる」

 振り飛車における、基本中の基本である。

 ▲64金△44飛と、フリーハンドで暴れまくりだから、先手は▲42歩と打って、△同飛に▲11角成と馬を作る。

 そこで、かまわず△45飛を取るのが、またピッタリの一着。

 




 

 ▲同金は当然、△28角成だから、取るに取れない魚屋の猫。

 後手の攻め駒は飛車角2枚だけなのに、それがあざやかなコンビネーションで、先手の連携を次々突破していく。

 アマチュアには振り飛車ファンが多いが、その理由がよくわかる一連の手順だ。

 こんなん見せられたら、そらみんな自分でも、指したくなりますわな。

 ここまで、好き勝手やっているように見える中田功だが、中盤以降も絶好調

 いやむしろ、ますますペースが上がっていく感じで、われわれの目を楽しませてくれるのだから、コーヤンの三間飛車は本当に官能的である。


 (続く→こちら

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

池内紀先生の思い出 『ぼくのドイツ文学講義』 ヨーゼフ・ロート『聖なる酔っ払いの伝説』など

2019年09月07日 | 

 池内紀先生が亡くなった。

 ドイツ文学者であり、フランツカフカギュンターグラスカールクラウス翻訳や、エッセイなど文筆の世界でも活躍された方。

 私も学生時代にドイツ文学を学んでいたことと、また読書と銭湯、それにお酒と山登りとを愛する自由な作風に大きな影響を受けたこともあって、このニュースには少なからぬショックを受けたのであった。

 池内先生の著作に初めて触れたのは、まだ高校生のころだった。

 エルンストフーケ―『水妖記』や、ショーペンハウエル読書について』。

 ハインリヒハイネ流刑の神々 精霊物語』、ホフマンの『黄金の壺』にエーリヒケストナー点子ちゃんとアントン

 などを読んで、ドイツ文学科に進学することを決意していた私は、なにかそれに関連する本をもっと、と本屋で見つけたのが先生のものだった。

 それが、池内紀『ぼくのドイツ文学講義』。

 池内流のカフカ解釈

 

 「『変身』は良質のシチュエーション・コメディである」

 

 をはじめ、ゲオルククリストフリヒテンベルクヨアヒムリンゲルナッツヴァルターベンヤミンなど、多くの魅力的な作家詩人をこの本で知ることができたが、それにもまして魅了されたのが、池内先生の文章自体だった。

 独特の乾いたような、それでいて飄々としたところもある文体は、妙にユーモラスでもあり、先生の紹介するドイツの偉人に勝るともおとらぬ魅力があった。

 『遊園地の木馬』『出ふるさと記』『悪魔の話』『幻獣の話』『モーツァルト考』『カフカのかなたへ』『ゲーテさんこんばんは』『町角ものがたり』『姿の消し方 幻想人物コレクション』etc.

 特にお気に入りだったのが、『恋文物語』と池内訳のヨーゼフロート聖なる酔っぱらいの伝説』。

 ロートの『四月、ある愛の物語』は、なんてことない小品だが、こんな美しい小説があるのかと、その訳文のすばらしさもあいまってにズドンと来た。

 当時の私は気に入った作家の文章をノートに筆写するクセのようなものがったが、坂口安吾風博士』や中島らもサヨナラにサヨナラ」と並んで、ロートの小説もそのラインアップに入ったのである。

 池内先生の言葉に、こういうものがある。

 

 「わたしは実際の生活よりも、本の中のほうからより多くの友人を得た」

 

 私はもないし、出世名誉に縁もないし、たいしてモテもしない。

 それでも自分では「そこそこ楽しく」やっているように思えるのは、たとえボンクラだろうがスカタンだろうが、先生と同じく書物を愛し、そこから「多くの友人」を得ているからだろう。

 だから今夜は池内紀の本を読みながら過ごすことにしたい。

 最初の一冊をどれにするかは、すでに決めている。それは、

 

 『戦争よりも本がいい』

 

 ロートやツヴァイクヘッセマン兄弟らを故郷から追い出したような、人種差別ヘイト国家主義民族主義的思想が可視化され「良し」とされる世相の中、この「友人」たちのことを忘れないようにすること。

 それこそが私の人生に多くのものをあたえてくれた、池内先生への「返歌」だと考えているからだ。

 

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

B面攻撃と駒のマッサージ 島朗vs羽生善治 1989年 第2期竜王戦

2019年09月02日 | 将棋・好手 妙手
 「攻め駒を責める」手が、守備に有効なときがある。
 
 前回(→こちら)は藤井猛九段の語る、振り飛車の魅力を紹介したが、今回はちょっと変化球な手筋を見ていただきたい。
 
 将棋の「受け」は、自陣にを埋めたり、中段玉でかわしたりすることが多いが、そこにもうひとつ、相手の武器庫を直接破壊して、戦力を半減させる手というのが存在するのだ。
 
 俗に「B面攻撃」とか「駒のマッサージ」なんて呼ばれたりもして、字面だけだと迫力に欠けるが、さにあらず。
 
 かの羽生善治九段も、△92△12に居る敵の飛車を、「▲83銀」とか「▲23金」と攻めるのを得意としている。
 
 これが「羽生ゾーン」と恐れられたりしているから、なかなかにあなどれない手筋なのだ。
 
 
 ここが「羽生ゾーン」。▲17飛に△28角成として、先手の攻め駒を封じこめる。
 
 
 
 私が感心した「攻め駒つぶし」といえば、島朗九段の見せてくれた、ある一手。
 
 舞台は1989年の第2期竜王戦
 
 「天才羽生善治が、満を持して、タイトル戦に初登場したときのことだ。
 
 開幕2連敗を喫したが、そこから力を出して3連勝し、羽生が3勝2敗と王手をかける。
 
 流れ的には、そのまま羽生の初タイトルかと思われたが、第7局持将棋の引き分けが、ひとつあるため実質は第6局)の島竜王の戦い方が見事だった。
 
 相矢倉でむかえた、終盤の入口ともいえる中盤戦
 
 
 
 
 後手の羽生は、飛車角をズラリと並べ、先手の玉頭にねらいをさだめている。
 
 攻め合うなら、先手も▲24歩▲33への打ちこみなどが見えるが、△86歩の一点集中のほうが、明らかに破壊力がありそう。
 
 後手成功かに見える局面だが、ここで島は意表の一手を放ち、流れを引き寄せる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ▲71銀と打つのが「攻め駒を責める」手。
 
 まだ子供で、アマ4級程度の棋力しかなかった当時の私には、サッパリ意味がわからなかったが、今見ると「なるほど」と感心することしきりの1手だ。
 
 この銀は一見、△72飛とされてタダで取られそうだが、それは先手の思うツボ。
 
 先手のねらいは、とにかく攻めの総大将である飛車を、玉頭からどかせること。
 
 そうすれば、△86歩からの攻めは、まったくの威力半減になってしまう。
 
 大駒のいなくなった8筋突破陣は、いかにも頼りなく、主砲が使えなくなった戦車も同然。
 
 ましてや、つづけて△71飛と銀を欲張った日には、後手の飛車は完全に使えなくなってしまう。
 
 つまり、先手の放った▲71銀は、ふつうならタダ取りだが、飛車の威力を半減させるだけでなく、「取らせる」ことによって1手稼ぐこともできる。
 
 終盤の攻め合いで、この2つの効果があるというのは、ものすごいであって、これで払いが銀1枚なら、メチャクチャに安い買い物なのだ。
 
 △72飛では勝てないと見て、羽生は△92飛とせめてに利かせるが、先手も▲24歩とここで攻め合い。
 
 後手は待望の△86歩だが、いったん▲23歩成と玉型を乱して、△同金▲86歩と戻す。
 
 以下、△同桂▲87歩と打てば、▲71銀のすばらしい効果が理解できるだろう。
 
 
 
 
 
 飛車△82にあれば、△78桂成▲同玉△87香成で崩壊だが、この形だと、それ以上の攻めがまったく無い
 
 それもこれも、▲71銀の一発で、攻守所を変えたせいなのだ。
 
 完全に攻めが頓挫した羽生は、△78桂成、▲同玉に△34金右と取る。
 
 ▲98歩の受けに、△36歩▲同飛△25金打と、上部脱出含みの寝技に転じるが、こういう形は「入玉のスペシャリスト」島朗の土俵。
 
 後手が上部を厚くする間を縫って、▲82金がまた「らしい」一撃。
 
 
 
 
 
 上部を開拓しながら、せまい場所で渋滞している大駒を取りに行く、いわゆる「5点攻め」を披露。
 
 大駒を取ってしまえば、後手が入玉しても点数で勝てない。
 
 もちろん、取った駒はそのまま寄せにも使えるわけで、飛車を捕獲した先手は、それを好所に打ちこんで、後手玉を攻略。
 
 最後は、8筋9筋に入玉用の脱出ルートを確定させながら攻め、まさに「負けない将棋」を見せつけた。
 
 いかがであろうか、この▲71銀
 
 これが無筋のようで、なかなか使える手筋で、△72飛なら、形によってはさらに▲62銀打として、ムリヤリ飛車を取りにいくこともある。
 
 
 

 1992年の第50期C級1組順位戦。有森浩三六段と丸山忠久四段の一戦。

 昇級のかかった大一番で、丸山は△39銀と飛車取りに打って、▲58飛に△48銀打の珍型を披露。

 これでムリヤリに飛車を奪って、強敵に圧勝し、見事にC1昇級を決める。

 

 
 また、後手玉が△31とか△41にいるなら、左右挟撃にもなり、
 
 
 「玉はつつむように寄せよ」
 
 
 の格言通り。
 
 私も実戦で指したことがあるけど、意外なほど使い出があります。
 
 「攻め駒を責める」▲71銀、おぼえておいて損はない筋です。
 
 
 
 
 (中田功の三間飛車編に続く→こちら)
 
 (羽生の竜王挑戦への道は→こちら
 
 
 
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする