DIARY yuutu

yuuutunna toki no nikki

三浦しをん(1976ー)「冬の1等星」(2006年):異なる人格の間に、完全な一体化・了解が生じた奇跡! 

2018-06-05 23:01:04 | 日記
(1)
たまに、借りた駐車場に置いた車の後部座席で眠る。浅い眠りのせいか、よく夢を見る。彼女(30歳)は夢が見たい。
(2)
「王様の道化が死んだ夢」を見た。その死体のちぎれた腕の中に、黄色いつぶつぶが詰まっている。すすって食べると、オレンジの味と香りがした。道化がじっと私を見ていた。
(3)
「道化の目」は、昔、自分(8歳)を誘拐した文蔵に似ていた。「オレンジの香り」は、車の灰皿の芳香剤の香りだった。
(4)
当時、8歳の彼女は、スーパーの後部座席で寝ていた。母親は鍵をつけたまま、店内に行った。見知らぬ男が、彼女がいるのを知らず、車を盗んだ。それが文蔵(20歳半ば)だった。「まいったねえ。ちっとも気づかなかったよ。どうしたもんかな」と彼が言った。
(5)
車が高速に入る。彼女は、母が気づかぬよう、勝手に車の後部座席に乗って、隠れていた。だから、電話して母に怒られるのが嫌だったので、サービスエリアで、母に電話しなかった。文蔵は「これは誘拐じゃないよ。あんたのことは、必ず家に帰してあげる」と言った。
(6)
「文蔵は、私を信じきっているようだったし、私は家に帰りたくなかった。もういいと言われるまで文蔵について行こう」と彼女は思った。彼は「大阪に行く」と言った。
(7)
父は仕事で忙しく、母は2歳の妹の育児疲れで苛立っていて、8歳の私(彼女)は、よく母に怒鳴られたりぶたれたりした。だから私は家に帰りたいと、あまり思わなかった。
(8)
文蔵は、私の話をちゃんと聞いてくれた。「南極とか、ピラミッドに行きたい」と私が言った時、お母さんのように、「そんなことばっかり考えるのは、やめなさい」と、彼は言わなかった。
(8)-2
夢の話をすると、お母さんは嫌がるけれど、文蔵は嫌がらなかった。「牛乳を飲む夢を見た。何度飲んでも全然減らなくて、お腹がいっぱいになって苦しくなった。」と私。それについて彼は、「それはいい夢だ。牛乳を買わなくてすむんだから」と言った。
(9)
「警戒心ってものがなくて、かなりボーッとしてる」と、文蔵が私に言った。そして「自分もそうだ」と彼は付け加えた。
(10)
そのうち、私は寝てしまった。「大坂だよ」と文蔵が言った。2:33だった。サービスエリアの駐車場。私は、「彼と、もう少し一緒にいたい」気がして、車の外に出た。
(10)-2
文蔵が「サイテーな夢ばっかり見る」と言った。「夢で、野原を走っていて、小さな花がたくさん咲いているのに、花が血の色をしていた」という。
(10)-3
それから、二人で、星を見る。たくさんの星に、私は「すごい」と思った。「母に叱られないよう、夜は早くに寝てしまうし、空気のきれいなところへ旅行するような家族でもなかった」ので、私はたくさんの星を見たことがなかったから。
(10)-4
「どんな動物が好き?」と文蔵が聞く。「うさぎ」と私。彼が、台形の形の4つの星を教えてくれ、「それがうさぎ座!」と言った。「文蔵がでっちあげた星座じゃないか」と私は思ったが、「同じ星を見ていたことはたしかだった」から、私はそれで満足した。
(11)
文蔵とは、高速を降りたファミレスで別れた。それから30分たって、私は家に電話した。それから大騒動になった。警察が来て、両親も来た。誰に何を聞かれても、私は「わからない」と答えた。「誘拐犯の名前も知らないし、顔もよくみていない」と言った。「男だった」ということだけ話した。
(12)
①文蔵は、小学生の女の子に暴力を振るわなかった。②学校の図書館の図鑑で調べたら、「うさぎ座」はうそでなく、本当に存在した。③彼が話した「血の色の花が咲く広い野原」の夢も本当なんだと、私は思った。私は、文蔵を信じた。
(13)
私(30歳)は、「並んで夜空を見る人と、同じ夜空を見ていると確認するすべがなく」、歯がゆさを感じることが、大人になるまでも、大人になってからも、何度も味わった。
(13)-2
そんなとき私は、文蔵とみた夜空を思いだす。「全天の星が掌(タナゴコロ)に収まったかのように、すべてが伝わりあった瞬間」!あのときの感覚。伝わることが確かにある!」
(13)-3
文蔵は、私を昏(クラ)い場所から守ってくれた。彼は、「細い線をつないで、だれかと夜空にうつくしい絵を描くこと」が可能だと教えてくれた。それは、「夜道を照らす、ほの白い一等星」のように、私を守ってくれる。

《感想1》
文蔵という架空の人格。かれと私が見た「夜空」。そのとき、異なる人格の間に、完全な一体化・了解が生じた奇跡。
《感想2》
「並んで夜空を見る人と、同じ夜空を見ていると確認するすべがなく」と著者が言う。だが確認できないのは、実は、《星が遠くにある》からだ。
《感想3》
「並んで《目の前のリンゴ》を見る人と、同じリンゴを見ていると確認するすべはある」。
(ア)二人が互いの手を取って、同時に、そのリンゴに触る。
(イ)二人の手、リンゴが、同時に一点に集まり、その一体化した一点に関し、二人が「これこそ二人が今、触っているリンゴだ」と同時に言明し、同時にその言明を聞く。
(ウ)この時、「並んで《目の前のリンゴ》を見る人」同士は、「同じリンゴを見ている」と確認する。
《感想4》
この《目の前のリンゴ》に関する二人の人間の共通確認経験が、リンゴの地平として広がる広大な物世界へと、《物世界の規則性的》に、かつ《意味的(つまり論理的、あるいは連合・連想的)》に延長されて、「夜空」へと至る。
《感想4-2》
「並んで夜空を見る人と、同じ夜空を見ていると確認するすべ」は、媒介的であって、まず「並んで《目の前の物》(Ex. リンゴ)を見る人と、同じ物(Ex. リンゴ)を見ていると確認する」手続きを、基礎とする。
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北原白秋(1885-1942)「あかき木の実」『邪宗門』所収(1909): 「あかき木の実」は、死の予感だ!君への愛が、死の予感を、忘れさせる!だが、それは、一時だけだ!

2018-06-05 19:50:25 | 日記
 あかき木の実 A red fruit

暗きこころのあさあけに At dawn when my heart is dark,
あかき木(コ)の実ぞほの見ゆる。 I faintly see a red fruit.
しかはあれども、昼はまた However, in the daytime,
君といふ日にわすれしか。 I thoroughly forget it because I love my girl through the day.
暗きこころのゆふぐれに、 At dusk when my heart is dark,
あかき木の実ぞほの見ゆる。 I faintly see a red fruit.

《感想1》
夜明けの薄明かり、「あかき木の実」が、暗い心に、ほのかに見える。
昼、君を愛する熱中で、その「あかき木の実」を、忘れる。
しかし、夕暮れの薄明かり、「あかき木の実」が、暗い心に、再び、ほのかに見える。
《感想2》
心が時系列的に分裂する。「あかき木の実」をほのかに見る暗い心と、君への愛にすべてを忘れる心。
暗い心、愛する心、暗い心、眠り、暗い心、愛する心、暗い心、眠り、暗い心・・・・・
《感想3》
「あかき木の実」は、死の予感だ。君への愛が、死の予感を、忘れさせる。だが、死の予感は、一時、忘れられるだけだ。「あかき木の実」が、夜明けの薄明かりの中に、そして夕暮れの薄明かりの中に、必ず姿を現す。
《感想4》
補論:眠りも、実は、時系列的に、二つに分裂する。一方に、死の予感(「あかき木の実」)が姿を現す悪夢、他方に、それが姿を現さない平穏な夢あるいは平穏な眠りだ。
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