rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

クラウス・シュワブCovid-19:The Great Resetを読む

2020-11-28 00:16:51 | 書評

社会に影響力のある集団が共通の認識を持つと、社会はその集団が考える方向に進んでゆきます。それは陰謀でも何でもなく自然な事です。会社の経営陣が会議で共通の認識を持てば、その会社の経営方針は経営陣の共通認識に基づいて決められて行き、現場の一社員が何を考えようが影響力を持ちえない事は日常経験しているはずです。世界の経済を回している超資本家と政治家が毎年開かれるダボス会議という席で共通の認識を持つよう仕向けられれば、世界の動向はその方向に沿って決まってゆくのです。だからダボス会議を主催するクラウス・シュワブ氏が「世界はこうなる」と本で述べていれば、その方向になることは必定であり、一般人の我々はこの先どうなるか、本を読めば分かります。先のブログで紹介したクラウス・シュワブ教授の近著「Covid-19: The Great Reset」の翻訳本が日経ナショナルジオグラフィック社から2020年10月26日発売になりましたので早速購入しました。

内容は毎年話題になる雑誌エコノミストの1月号表紙ほど暗示的ではなく、選択肢や根拠は示しながらも「このように変化してゆく」と決然と述べられているのが特徴的です。それはどこか「高圧的」で「傲慢」だと感ずる部分も多いのですが、まあ上記の様に世界の経済を動かしている経営陣のご託宣と思えば仕方がないとも思えます。構成は3部からなり、第一部マクロリセット では経済、社会、地政学や環境、テクノロジーのCovid-19によるロックダウン、経済停滞と生活様式の変化による大きな変革の概要を述べます。

第二部ミクロリセット ではより具体的な政府や個人の行動変容について例示的に説明します。

第三部 個人のリセット ではこの社会変容に対応する個人の在り方、倫理観や心身の健康の保ち方などについて著者の思う所が述べられます。全260ページのうち、第一部のマクロリセットが180ページを占め、著者が主に言いたい部分が世界全体の大きな変化であることは明らかです。以下目次に沿ってrakitarouが要約したものをまとめます。

 

「第一部 総論」

緒言として述べられている事は、「新型コロナ感染症は世界を変えた過去の伝染病のパンデミックに匹敵するが、人類が滅亡する様な悪性の病原体ではない、しかしパンデミックによって変化した生活態様がコロナ前(before Corona)の状態に戻ることはない」と断言し、この前提でその後の論が展開されています。理由はウイルス蔓延と情報のスピード、経済社会の複雑性と世界の相互依存関係に基づくとされていますが、これはダボス会議における既定路線と言えそうです。

 

「経済のリセット」

「命を犠牲にしても経済を守るべき論は誤り」とまず規定し、中世的な完全ロックダウンによる経済停滞を正当化します。私が良く問う所の「ウイルスと共存でなく抑え込みと決めつける根拠は?」という根源的な問いは封じられます。そこを問われるのはダボス会議としては痛い所なのでしょう。また経済も命も守るという選択肢も封じられます。欧米メディアの論調がこのダボス路線に沿っていて「逆らうことは許されていない」事も分かります。

その前提で、全人類へのワクチン接種は必須であるものの、経済は当分停滞すると断言します。またパンデミックが収まった後は過去においては雇用が増大し、好景気となったが、今回はAIが人手の代わりとなるから好景気にはならないだろうと予測します。製造業が経済成長の牽引役になるのは第四次産業革命が既に成就された現在無理な話である(65ページ)。したがって政府が主導する環境やサステナブルなエネルギーを育てるグリーンニューディールと呼ばれる政策が雇用対策として必要になる(67ページ)。

効率のみを求めるグローバリズムはもう成立しない。富は再配分すべきで、それは国家が主導して行われる。経済政策はケインズ式となり、財政出動はMMT理論に沿って大きな政府が期待され、政府は多大な借金を負う(ジャパニフィケーションと呼んでいるが、悪い意味ではないとしている)が、国民が豊かな生活であれば良いと述べる(76ページ)。米ドルの世界通貨としての役割は終わり、それに代わるバスケット制のデジタル通貨的なものが出現する。新自由主義は終焉を迎えるが、それで貧富の不平等がなくなる訳ではなく、溝はより深まる。結果として平等社会を標榜する社会主義的制度を取る国が増加するだろう(89-93ページ)。102ページからの社会契約の変化では、明確には述べられていませんが、著者はベーシックインカム導入を暗示している様に思う。それは最低限の平等化、管理社会の実現、財政出動の容易化に資するから。

 

「地政学的リセット」

グローバリズムはナショナリズムの台頭により成立しづらくなっている所にパンデミックが起きた。グローバリズム、民主主義、国家主義の三者は同時に二つしか成立しない(ハーバード大学ロドリック教授のトリレンマ)事から、トランプ現象や欧州のポピュリズムは後者二つが強くなってきた事が背景にある(114ページ)。米国が世界覇権国を降りようとする現在、今後は地域覇権国(多極主義)によるリージョナル・ガバナンスの時代になる。(見方によってはオーウェルの1984の世界観)

 

「環境・テクノロジーのリセット」

ロックダウンや人の往来がなくなっても環境負荷の改善はわずか(8%炭酸ガスの排出が減った程度)だった。今後は環境対策としての「グリーンニューディール促進」とデジタルテクノロジーの進歩に伴う在宅ワークなど「働き方の変化」が技術的進歩の方向性となる。その際、人間同士の接触が減り、無機質的な監視社会、ディストピアの招来が危惧される。それを避けるのは指導者と国家の見識である(181ページ)。(見方によってはディストピア不可避論にも見える)

 

「第二部ミクロリセット」

集客して行う娯楽、旅行、レストランなどがコロナ前に戻ることはない(と言い切る)ので新しい在り方を模索する必要がある。商品販売やサプライチェーンはデジタル中心になる。

より良い復興(build back better最近いろいろなメディアで取り上げられる言葉)のためにはESG(環境、社会、統治)の重視が大切である。大都市の必要性、必然性は減り、郊外の良い環境で在宅ワークできる社会を形作るのが良い。今後同じようなパンデミックが起きても回復力(レジリエンスが合言葉)の強さを決めるのはESGに基づく社会生活に変容してゆくことだ。

 

「第三部 個人のリセット」

地震や台風などの一過性の災害は人々を団結させるが、パンデミックは人々を孤立させる(接触を断つから)。個人はセレブとして良い物を持つ生活を理想としてきたが、孤立した生活ではセレブを目標とする意味はない。個人の生きる目標は「倫理的正義」や「自己実現」の方向に向かう(これは同意できる内容)。ただ経済停滞と孤立で生活が貧しくなると人は攻撃対象を求めて暴力的になる可能性もある。孤立は心身の健康をむしばむ可能性も高く、個人の生活は自然回帰による健康維持、第二部のESGを重視した生き方にリセットしてゆく必要がある。

 

概略は以上になりますが、総論にのべた大前提が崩れてしまうと全体が成立しなくなってしまう事が分かります。現状世界はGreat resetの方向で進んでいますが、米国はバイデンが勝って大統領になればまさにGreat resetの方向でしょう。大きくは新自由主義に基づくグローバリズムは終焉を迎える、という結論は私も異議なしですが、その後ディストピア的リージョナル覇権主義で、見えないところでダボスの人たちがそのもう一つ上部の構造体として統治するという事を目指し、今後も影の支配者として君臨したいという野望が見え隠れしている所が何となく傲慢で高圧的に感ずる所以だと思いました。


コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 地球規模の壮大な人体実験が... | トップ | Heinkel He51-B1 ICM 1/72 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

書評」カテゴリの最新記事