rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

書評 世界を戦争に導くグローバリズム

2014-11-26 22:39:08 | 書評

書評 「世界を戦争に導くグローバリズム」中野剛志 著 集英社新書 0755 2014年刊

 

筆者はTPP亡国論などでメディアでも有名で、東大から通産省に入省し、その後京都大学で教鞭を取っていた政治経済学者です。本書は氏の本来の専門である政治学についてであり、移り行く米国の覇権について分析した解りやすい著作です。内容は極めて科学的、分析的で独断的に決めつけたようなものではありません。

 

理想主義と現実主義に基づく分析

外交問題評議会(CFR)会長のリチャード・ハースが2009年の論文で用いた米国の現実主義と理想主義という分類、これはシカゴ大学のスティーブン・ウヲルトやEHカーが1939年に著した「危機の二十年」でも使われている分類で、米国の政治の根幹が「理想主義」と「現実主義」の間で揺れ動いている、というものです。理想主義は「かくあるべき」というドクトリンにのっとって妥協を許さない姿勢で政策を実行してゆくもので、ネオコンと呼ばれる政策集団とブッシュ・ジュニアが目指した、グローバリズムに基づくアメリカ一極主義は理想主義である一方で、オバマが目指すオフショア・バランシングに基づく協調主義は世界各地の個々の事情を考慮した現実主義であるとするものです。前に紹介した「副島隆彦」氏にの講演によれば、同じ民主党でもオバマは現実主義、ヒラリーは理想主義に属する事になります。

2012年に出された国家情報会議の報告書「グローバルトレンド2030」では米国は2030年には諸大国(欧州、日本、ロシアなど)のうちの首席(the first among equals)に過ぎず、所謂BRICSやトルコなどが重要な地位を占め、GDPは中国が世界一になっているだろう、と予測されています。米国の現在の政治はこの予測を基本に立てられていると考えて良いと紹介されます。

 

ブレジンスキーのアジア観

カーター政権時に安全保障補佐官を勤めたズビグニュー・ブレジンスキーは現実主義的価値観に基づいて冷戦の終結後に米国が唯一の覇権国家になった際に取るべき施索として「壮大なチェス盤」という世界の国をチェスの駒に見立てた戦略本を記している。その中で世界を征する国家でユーラシア大陸以外の国家がなったのは米国が始めてである。ユーラシア大陸を治めるにあたって、西はNATO、南は中東諸国との同盟、東は日米同盟によって固めている。ここで今後ユーラシア大陸が揉める可能性がある地域として注意が必要なのは、西はウクライナ、中央は中央アジアと中東、東は中国と日本であると予言しています。この中で、NATOの中においては、ドイツはリーダーとしての資質を周辺国に対して持っているが、日本はアジアの盟主たる信頼は持ち得ず、歴史的には中国が盟主たる資質があり、日本は米国の保護国に過ぎないという分析がなされています。その後の米国の動きを見ると、共産中国に対しては「改革開放」という資本主義化を持ちかけて米国グローバル資本を大量に導入することで近代化をはかり、現在では日本を抜く経済大国になりました。一方日本に対してはプラザ合意以降徹底した円高やバブル崩壊後も大蔵省を潰したり、銀行や証券会社を潰す政策を取って日本経済を痛めつけることばかりをしてきました。

 

当時のブレジンスキーの分析は慧眼に値するものと思われましたが、今日の現状に照らしてみると、ブレジンスキーの誤算はEUが西洋の拡大として機能する前に上手く行かなくなった事、中国は資本主義化しても民主化はされず、逆に米国に対して覇を競う相手になってしまったこと、と分析されます。そして日本と中国が10年前には予測さえできなかったアジアにおける火種として存在する結果になってしまったのです。

 

中野剛志氏の見る尖閣問題の意味

米国は衰退する覇権国家として「同盟」「共存」「撤退」の3つの選択肢が残されるのみであると言います。オバマの指向する「アジア・ピボット戦略」とは、日本に対する封じ込めの意味を併せ持った「同盟関係」と台頭する中国に対しては「共存関係」を図るものである、と言えます。もしかすると韓国や他のアジア諸国に対しては同盟ではなく「撤退」を指向する可能性もあります。日清戦争が、その後の世界においてアジアの盟主を中国でなく日本であると世界に認めさせた意味を持つとすれば、今後おこるかも知れない「尖閣奪取」は中国にとってアジアの盟主は中国であることを世界に認めさせる意味を持つだろうと分析されます。米国が中国との「共存」を指向する限り、米国にとってどうでも良い「尖閣諸島」のために米国が中国と戦争することは100%ありません。しかし、日本としては「同盟関係」を元にした領土侵略への協同対処を米国に求めたいのが本音です。だから沖縄から基地をなくして欲しくない、海兵隊も辺野古に常駐してほしいのです。しかし米国にとって日本は「保護国」に過ぎません。「保護国」の領土が「共存」を目指す国に一部奪われたところで「どうってことない」というのが本音なのです。

 

本書を読んだ感想

米国の世界戦略は一見場当たり的で、何を目指しているか解らないというのが本音としてありました。しかし、その時の大統領が、「理想主義」に根ざした政策をとっているか、「現実主義」に根ざした政策を取っているかで分類するとそれなりにその時どきで米国が目指していた目的が見えてくる感じがしました。米国は理想主義をかかげて覇権国家になりましたが、一極主義における理想主義は破綻し、現実主義を取らざるを得ない状態になったと言えます。その結果として現在の日米関係、米中関係を顧みると、米国政治の理想主義、現実主義の思惑によってあらぬ方向に日中関係が流されてしまったことが解ります。ついこの間まで、日中関係は双方の貿易額の互いに一位を占める間柄であったのに、今は防空識別圏が交錯し、島を巡って一触即発の状態になってしまいました。日本は尖閣のために再度日中戦争をする覚悟があるのでしょうか、或は盟主の地位を勧んで中国に認める意味で、尖閣は損切りする度量があるでしょうか。

私は次に行われる選挙の争点として国民が選ぶべきはこのような論点であるべきではないかと感じます。日米同盟を堅持し、尖閣を巡っては一歩も引かず、武力衝突になったら米国を引きずって来てでも戦争させる(ことで尖閣をあきらめてもらう)自民・公明党vs米国は衰退してゆくのは必然であって、現実主義を米国が取る限り尖閣で米国が中国と戦端を開くことはないと諦め、尖閣は損切りする、というその他の政党、というのが解りやすい争点と思います。勇ましいのは前者(第二次大戦前、強く出れば米国は諦めるだろうと言って酷い目にあったのはもう忘れた)、世界の現実が良く見えていて、(中国だって盤石ではないし)結果的に日本が損をしないのは後者だと私は思います。しかし今の日本人は前者を選んでしまいそうな気がします。


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