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アメリカ食生活その1~ヒスパニック寿司

2014-07-27 | アメリカ

アメリカの食、というとほとんどの方は
ハンバーガーにピザ、ディナーはワラジのような肉、
皆夜は電子レンジで冷凍食品を暖めたカウチフード、
といった雑駁な、日本人にはとても受け入れられないものを
味覚の後進国民アメリカ人は量重視で食べまくっている、というのが
現状であると思われるかもしれません。

勿論、日本人の中にコンビニ総菜やインスタントラーメンばかり
食べている人がいるように、アメリカ人にもそういう人はかなりの数
いるわけですが、そうではない人だって実はかなりたくさんいるのです。

そしてアメリカの食は決して絶望的ではありません。
特に食材に関しては日本などよりよほど安く新鮮で素性のはっきりした
生鮮食品や加工品が手に入ります。


食材はオーガニック、ローカルフードを自分で料理して食べるといった
超こだわりの食生活を送っている人はおそらく日本以上にいますし、
厳格なベジタリアン、ビーガン(アニマルフードを取らない)は
徹底的にそれを厳守し、わたしは実は行ったことがありますが、
マクロヴィオティック道場を兼ねた宿泊施設なんてのもアメリカにはあるのです。

つまり、アメリカの食べ物は全てまずい、などと決めつけるのは偏見です。

もっとも外食になるとかなり美味しい店はその数が限られてきます。
そしてそんな中でも、なかなかマトモなものに巡り会えないのが、日本食、
特にスシというジャンル。

そもそも、本物の日本人がやっているスシ屋自体が稀少なのです。
本場のここ日本でさえ、たいしたことのない店やまずい店はいくらでもありますし、
多くの回転寿しは大抵美味しくないのですから、ましてやチャイニーズやコリアンが
アメリカで売られている「スシ・ハンドブック」を見て作ったようなスシが、
本物とは光年の彼我にまで隔絶した別のものになってしまうのは当然のことなのです。

しかし、わたしはここボストンに3年前オープンした、

「アメリカで非日本人が経営しているモールの回転寿し」

という、数え役満(麻雀しないんであまり意味わかってないんですが)
みたいなインチキ寿司屋に、アメリカのスシ現場の生の声をお送りするべく
体を張って毎年特攻をかけています。

2年連続でそのレポートをここにアップしてきたので、さすがにもう今年はいいかな、
と思っていた今年、日本からやってきたTOが俄然興味を示し、是非行きたいと
所望したため、第三次攻撃となる今回の突入を試みることにしたのでした。



この地域で比較的高級とされるこのモールには、アップルストアがあり、
ニーマンマーカスなどの高級デパート、一流ブランド品のショップが並びます。
写真は日本でも珍しいスタンウェイピアノの専門店。



この秋にユニクロがオープンするようで、日本人らしい社員が
パンフを配り説明するためにテーブルを出していました。



お店の名前は「ワサビ」。
こういう名前を付けるとき、アメリカ人は日本の
実際の寿司屋などをチェックするのかもしれません。
先日、

「シェフが推薦する世界のお店」

という本の日本のページを立ち読みしたら、大阪に
「わさび」という寿司屋があることが判明しました。
因みに、この本には他にいろいろ「アメリカ人のシェフが推薦している店」
がありましたが、どれもこれも聞いたことのない店ばかりでした。



日本ではあまり見ないタイプのコンベア。
ベルトに皿を乗せるのではなく、スリットから突き出た
短いバーに皿を乗せるオレンジのステーションがセットされています。



炙りのサーモンを一つ取ってみました。
上にかかっているのは何やら辛い、唐辛子ベースのソース。

そんなものが乗っていたらワサビと喧嘩しないか、って?

ご安心下さい。当店のスシにはワサビは一切入っておりません。
店名はワサビですが。

飲み物は、と聞かれたので「グリーンティー」というと、
伊藤園のおーいお茶のボトルがそのまま出てきました。
せめてグラスに入れようよ。

そして一口。

「うーん。やっぱりすし飯は酢の味がしない」
「ほんと?」

目を丸くするTO。

いや、厳密にいうと入っていないのではなく、
日本の寿司の10分の1くらいの量であろうと思われる
酢の匂いは時々しないでもないのです。

つまり、だしを全く使わず炊いたご飯に、いきなり
酢をちょろっと入れて混ぜただけのすし飯なので、
味がまだらについているんですね。どんなだよ。



「ほんとだ。酢の味がしない」

というわけで、結局わたしたちが取った寿司はこれだけ。
あとはテリヤキボウル状のものを頼み、寿司ではないものを取りました。

写真のクロウフィッシュ、というのはザリガニのことですが、
日本ではザリガニを寿司にすることはあまりありません。

てか全くありえねーよ。ザリガニ寿司。 

「伊勢エビのことかな」
「伊勢エビならロブスターっていうでしょ。
それに、わざわざロブスターをこんな店が使用するわけがない」
「じゃ本当にザリガニ・・・?」
「試してみる?」
「いいです」

最も無難であろうと思われるサーモン炙りがあれなのだから、
それ以上に素性の怪しいネタのものなど怖くて口に出来ません。 



こういう、外側ではなく内側にノリを巻き込む形の巻き寿司は
カリフォルニアロールの流れだと思うのですが、ノリで巻いて手でつかむ、
という巻き寿司の根本的な機能を全く理解していない構造です。

細巻きとか不格好な軍艦巻きはあるので、おそらくこれは不器用なアメリカ人が
太巻きを作れないからではないかとわたしはにらんでいます。

しかも、何でもかんでも「スパイシー」と称して唐辛子味をつけてしまう。
上質のネタにあっさりと少しだけ醤油とワサビをつけて食べるのが最高、
と考えている日本人にはありえないセンスです。

おそらく、彼らの使用するネタはろくなものではないため、
そのような食べ方では生臭いネタの味がごまかせないのだろうと思われます。



エビ天を巻き込んでいるそうです。
さすがに外側がご飯というのは見てくれが悪い、
という美意識くらいは持ち合わせているのか、いちいち外側に
わけのわからないソースをかける傾向にあります。

それがかえって見た目の悪さになってしまっています。



この「カズヨロール」というのも創業当時からの謎の一つ。
なんでもいいから日本人の名前をつけてみたのか。

ロールの上部にさらにネタを乗せる豪華版。
もう、日本のオリジナル寿司とは縁もゆかりもない別の食べ物と化しています。

寿司の内部にはお約束のアボカドが必ず混入。
前にも書きましたが、アメリカ人は寿司には必ずアボカドを使います。
きっと日本の寿司にもアボカドが入っていると信じているのでしょう。



ロールの上にエビを乗せ、マヨネーズをかけたもの。
なんのつもりか天かすをトッピングにしております。
見た目も汚いですね。



いなり寿司のことをアメリカ人は「イナリポット」というのですが、
これは「シーウィード・イナリ」。
ご飯ではなく和布蕪と人参を詰めてみました。
ヘルシーなアイデアですね。(棒)



TOが頼んだミソスープ。
緑のものが浮かんでいると思ったら、メキシコ料理によく使う
シアントロが浮いていました。

「みそ汁にこんな香りの強いものを入れるなんて・・・」

絶句するTO。
シラントロは、タイ料理にもよく使われ、タイでは「パクチー」、
中国では「香菜(シャンツァイ)」英語ではコリアンダー、
日本では「中国パセリ」といったりもするようです・

香りが独特で強いので、猛烈に嫌い、という人は世の中にたくさんいて、
息子などは「頭が痛くなる」そうです。
わたしは嫌いではなく、むしろメキシカンのときにはないと寂しい、
という程度に好きなのですが、さすがにみそ汁にはどうかと思いました。



寿司は回っているのを写真に撮るだけに留め(笑)、
あきらめたわたしは何か食べられるものはないかと
コンベアを流れてきた「そば」を取ってみることにしました。

確かにそばですが、ごま油の味がします。
いわゆる「そばサラダ」という位置づけのものではないかと思われます。

日本食と思わなければ許せる一品でした。



他に食べられるものはないのか、と思ったところに
枝豆が流れてきたので取ってみました。
いくらなんでも枝豆なら日本のそれと変わるところはないだろう。

と思ったら・・・・、

塩味がしない。

ゆでただけのシンプルな調理法です。
枝豆には必ず塩をふって食べるもの、という感覚の我々には
塩がないだけでかなり異様な味に思えました。

「僕の行きつけの小料理屋さんは枝豆の皮の毛も
こすり合わせて取ってくれるんだけど・・・。
まあ、でも塩抜き案外美味しいじゃない」

どうして食べるわけでもない枝豆の毛を取るのか、おそらく
この人たちには全く理解できないに違いありません。



日本の回転寿しのようにデザートの類いも回っています。
これは中にピーナツの入った豆だと思われます。

 

スポンジケーキにクリーム乗せただけの

「マウント富士ケーキ」

 

オイシイケーキ。ってなんなんだよ。
だいたい見本と現物が違いすぎないか。



でたー。
キャタピラー・ロール
カリフォルニアロールの中身にアボカドの薄切りをのせ、
人参で触角を付けて芋虫のできあがり。

食べ物を虫に喩えると言うセンスがもう終わっとる。



マグロの刺身をこれまた唐辛子で和えたものと思われます。



「あんな人が作っているんだからしかたないね」

オープンキッチンの寿司職人、とも呼びたくない従業員の
このような人相風体を見ながらひそひそ言い合うわたしたち。



決して美味しいわけでも感心したわけでもないけど、
ある意味日本人に取ってこういう店はネタの宝庫です。

ここがまずいことを知り抜いているわたしが、初回のTOを連れて
三度目の来店をしたのも、全ては本来のレストラン選びとは
全く方向性の違う、この理由によるものです。


ところで、かねがねここのオーナーは

「中国人ではない、韓国人でもない、日本人では勿論無い、
それじゃどこの国の出身か」

と思っていたのですが、写真を見ても分かるように従業員が全員ヒスパニック。
アメリカの寿司屋では従業員を東洋系にしているのがほとんどです。



ちなみにアボカドのロールの上に割いたカニかまと、
なぜかハムをのせ和布蕪をトッピングしたのが

「タイソンズ・ロール」

2年前からあるネーミングなので、もしかしたら
タイソン・ドミンゲスとかいうのがオーナーなのかもしれません。
それならメキシカンに使うおなじみの食材が入っている理由も納得ですね。

・・じゃなくて、みそ汁にシアントロ入れんじゃねえ!(怒)