まい・ふーりっしゅ・はーと

京都発。演奏会や展覧会、読書の感想などを綴っています。ブログタイトルは、ビル・エヴァンス・トリオの名演奏から採りました。

京都市交響楽団 第675回定期演奏会

2023-02-19 15:05:05 | kyokyo
2023年2月17日(金)19:00 開演 @京都コンサートホール・大ホール
指揮&チェロ : ニコラ・アルトシュテット / 管弦楽 : 京都市交響楽団


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● シューマン : チェロ協奏曲 イ短調 作品129
シューマンは、ピアノ、ヴァイオリン、チェロと、それぞれを独奏楽器にした協奏曲を作曲していますが、このうち、ピアノ協奏曲は2020年の京響ニューイヤーコンサートで聴いています。そして、今回は後期ロマン派を代表する名品として、多くの奏者によって愛奏されているチェロ協奏曲。あとは、ヴァイオリン協奏曲を残すのみ。

指揮&チェロの弾き振りで、マルチな才能を披露してくださるのが、ニコラ・アルトシュテットさん。チェロの弾き振りの体験は、実はこれが2回目。前回は2017年2月の京響第609回定期で、客演された鈴木秀美さんの弾き振り。演奏は、CPEバッハの協奏曲でした。チェリストから指揮者に転身されるケースは、けっこう多いのでしょうか?

曲は3つの楽章から構成されていますが、切れ目なく一気に演奏されます。情感、ロマンをたたえた第1楽章の主題が、繰り返し登場してきます。軽やかに、かつ、伸びやかに歌う独奏チェロ。高いテクニックが要求されるパフォーマンスを存分に披露(難しさを感じさせないところに、実力の高さと凄味が!)。京響も、コンパクトでまとまりのある響きで掛け合い、独奏チェロとのバランスもよく、好感が持てました。

● キルマイヤー : ユーゲントツァイト
アルトシュテットさんは、作曲者のキルマイヤーさんとは氏の生前(2017年没)、親交があったのだそうです。そして今回は、記念すべき日本初演。定期のプログラムに組み入れるにあたっては、それ相応の思い入れもあったことでしょう。

ユーゲントツァイトは「青春(時代)」と訳されることから、マーラーの歌曲「さすらう若人の歌」のような感傷的な曲想をイメージしていましたが、実際は、「青年」というよりはいくぶん若い、「少年」の情景を想定しているそうです。全体として、儚くも美しい調べが静かに流れていきます。時折聞こえる、怪鳥のつんざく叫びのような、或いは人々の露悪な哄笑のような響きが、安穏な静寂を突き破っていくところなどは、先述の「さすらう若人の歌」との共通部分もあるようです。

いわゆる「現代音楽」特有の難解さから来る緊張感やストレスを感じることも少なく、どちらかというと「耳に優しい」響きでした。初めてでも、その音楽世界に浸ることができました。キルマイヤーさんは、叙情的な歌曲分野の作品でも評価が高いということですが、「なるほど!」と納得できる作風でした。

● シューマン : 交響曲第3番 変ホ短調 作品97「ライン」
この曲の愛称「ライン」は、もちろん、ヨーロッパを流れる大河、ライン川のこと。シューマンは当初、「ライン河畔の生活のエピソード」という副題を想定していたそうで、滔々と流れる大河をイメージさせる第1楽章の冒頭部分や、流域で暮らす人たちの純朴な生活ぶりがうかがえる民族舞曲風の主題など、いかにもドイツ・ロマン派の交響曲といった感じを受ける作品です。

アルトシュテット=京響の演奏は、軽快な足取りで颯爽としたもの。口笛を吹きながらスキップをしてみたり、ついには駆け出してしまいそうな愉快な気分、勢いにあふれた演奏。音楽的な好みによって、その評価は分かれそうですが、わたくし的には、軽めの重心、速めのテンポ設定で、推進力のある音楽作りは好み。「こういう解釈もアリだな」という印象を持ちました。途中で、(私の)集中力が散漫になることもなく、すっきりとシャープにまとめられていました。

京響のライブCDに収録されている広上淳一さん指揮の演奏(2010年5月、第535回定期)と比べてみると、その違いを鮮明に捉えることができます。京響の演奏水準を高めることに精力を注がれていた、当時の広上さんの熱量の大きさをうかがい知ることができますが、その分、力みも感じられ、集音マイクは荒い息遣いまでも捉えています。それに比べると、アルトシュテット=京響の、なんとスマートで洗練された演奏であることよ!

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今回のホールの入りは、ざっと見渡したところ、6割程度といった具合でしょうか? まだ、コロナ禍の影響を引きずっているように見受けられますし、これまで京響の躍進を支えて来られた定期会員さんの高齢化や、絶大な人気を誇った「広上ロス」のダメージがあるのかもしれません。

ただ、広上さん退任後の京響定期の演奏会は、客演された指揮者の方々が京響の新たな魅力を引き出して下さったり、楽団員さんの奮闘ぶりとも相まって、評価の高い、好調な状態をキープしています。それだけに、客席の寂しさが残念でなりません。来る新シーズンからは、第14代常任指揮者に沖澤のどかさんをお迎えします。演奏力の向上とともに、集客力の回復にも大いに期待しています。


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