Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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期待が持てる日本発の「脳保護療法の新展開」@Stroke 2016(札幌)

2016年04月15日 | 脳血管障害
日本脳卒中学会・日本脳卒中の外科学会合同シンポジウム「脳保護療法の新展開」において,岡山大学阿部康二教授,兵庫医大吉村紳一教授に座長をしていただき,「脳梗塞に対する脳低温療法の作用機序と臨床応用」という講演をしました.私は全身を冷却する場合の問題点や限界を,動物実験データを踏まえて提示しました(下記に発表の要点と,発表スライドへのリンク).

その後,北海道大学脳外科の鐙谷武雄先生から,血栓除去術後にカテーテルから冷生食を点滴する局所脳低温療法について紹介がありました.脳温の低下をもたらすのに最適なプロトコールの決定が必要ですが,全身冷却に見られる合併症は来しにくく,とても有望なアプローチと考えられました.臨床試験もすでに開始されています.

さらに東北大学脳外科新妻邦泰先生から,血栓溶解作用に加え抗炎症・組織保護作用を併せ持つ新規脳梗塞治療薬SMTP-7の報告がありました.多くの動物モデルを用いた非臨床試験,および安全性を確認する第1相試験についての報告もあり,圧巻の発表でした.ご講演後,しばらくお話を伺いましたが,本当に固い決意で創薬に臨んでおられ感動しました.我々ももっと頑張らねばと思いました.

【要点】脳梗塞急性期に脳温は38.5度まで上昇することが近年明らかにされ,脳低温療法があらためて注目されている.脳低温療法は全脳虚血(心停止,新生児仮死)に対して有効であるが,脳梗塞でのエビデンスはない.基礎研究では,脳低温療法は脳梗塞に対し強力,かつ多彩な脳保護効果を示すことが明らかにされている.しかし,再開通の有無,冷却温度,治療開始時間,持続時間によっては容易にその効果が消失するため,適切なプロトコールの作成が不可欠である.近年,臨床的に冷却方法や悪寒対策に大きな進歩が見られ,欧米では血栓溶解療法に脳低温療法を併用する無作為比較試験が進行中である.結果が待たれるが,全脳虚血と異なり,脳梗塞の症例数は圧倒的に多いことから,医療経済的な観点からの検討も必要である.

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