Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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「ALS患者の希望の光を奪わないで下さい!」というコメントに対して

2006年04月21日 | 運動ニューロン疾患
 以下,私の記事(「治験は難しい」と思った2つのくすり(上)ALSに対するエダラボン)に対するコメントのひとつです.正直言って,少しショックを受けました.

(こてつ)
私の友人もALS患者です。「簡単に藁を渡しちゃいけない.」と言うんだったら、それにかわる藁を今すぐに、与えてください!(ALS患者は期限付き)私も同感です。ALS患者の希望の光を奪わないで下さい!

 残念ながら,そのようなくすりを差し上げることはできませんし,「ALS患者さんの希望の光を奪う」つもりも毛頭ありません.繰り返しになりますが,私が申し上げたいのは「新しい治療薬は正しい方法で薬効の評価を行い,そして患者さんに及ぼす副作用が最小限であることを確認した上で承認されるべきだ」ということです.このようなプロセスが行われなかったために,効果のない薬剤が長期にわたり使用されたり,患者さんが薬害にさらされたりということが歴史的に繰り返されてきました.現在では幸いにもこのような過ちを極力,繰り返さないように,薬剤の効果を厳密に判定し,副作用を最低限に抑えるための臨床研究の方法がほぼ確立されています.しかし欧米と比較すると,日本ではなかなかこのような方法が定着してない現実があります.ALS患者さんに対するエダラボンについても例外ではなく,その有効性が科学的に明らかにされたとは言えません.薬害についても死亡例がなければよいというものではありません.ただ誤解のないように申し上げますが,私はネット上で行われている署名活動を邪魔するつもりはありませんし,ALSに対するエダラボンの有効性を,悲観視も楽観視もしていません.あくまでも「希望の光」かどうか明らかにするために,世界的にも通用する正しい評価を行うというプロセスを経る必要があると主張しているのです.
 
 トラックバックされていた「ALSの母の娘さん」のブログも拝見しました.「うだうだ言う前にALSを治す為に何かしてくれ」など耳の痛い意見も少なからずありましたが,議論がかみ合っていないというのが正直な感想です.ALS患者さんのために何かをしたいという気持ちはお互い変わらないはずなのに,議論がかみ合わないのは,単に「新しい薬剤をどう評価したらよいのか」という世界の標準となっている方法論を知っているか否かによるところが大きいと思いました.ブログを拝見し,努力家・勉強家の方と推察しましたので,ぜひ最後に掲げるような本を読んでみてください.治験や新薬承認に関するいくつかの疑問や誤解も解消すると思います.一例を挙げれば,私のブログに対する批判の中で書かれていた「医師主導の治験」という言葉に対するまったくの誤解も解けるのではないかと思います(「医師主導の医療」と混同して議論されていますが,本当の意味をご理解ください).

 これらの本により,より有効で安全なくすりを患者さんに提供するということがどういうことなのか,お分かりいただけると思います.そしてぜひ読後にあらためてコメントをお寄せください.またこれらの本は非常に優れた本であり,医療関係者にもぜひお勧めしたいと思います.私自身も,今回の件を通してALS患者さんに対し何ができるのか深く考えていかねばならないと,あらためて思いました.

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6 Comments

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SCD患者です (咲希ママ)
2006-04-21 10:59:41
『簡単に藁を渡しちゃいけない』

先生のご意見に同意いたします。

 治験してみたところで、

体質もありますが、

効果が得られないどころか、副作用ばかり・・・

ことに、神経難病には副作用が多いことでしょう。

 そうなると、断念せざるを得ません。

その繰り返し・・・

どんな思いか想像してみてください。

そんな頼りない藁が、希望の光ですか?!



私たちSCDにも、治療薬とされているものはありません。



どうか、先生、ショックなど受けることなく、

医療の向上をよろしくお願いいたします。

返信する
私は (style-TK)
2006-04-21 16:32:25
はじめまして。

こちらの記事にTBさせて頂きました。



私は以前のこちらの記事で自分が若年性ALSだと知ることができました。ありがとうございます。



さて、私も先生の意見に同感です。

ただ、私の場合は比較的進行が遅いですが、そう言ってられない患者が多いので焦る気持ちも分かって頂ければと思います。

いつまで待っても有効な治療法も見つからず、ES細胞の研究も思っていたほどの成果が出ていない中、希望すら見られずに日々病気と闘っているのです。



今回の件を真摯に受け止めて下さっていることは文章から伝わってきます。

ありがとうございます。



早く効果的な治療法がみつかることを心から願っております☆
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コメントありがとうございます (pkcdelta)
2006-04-22 22:48:21
咲希ママさん,style-TKさん,コメントを頂戴し,ありがとうございました.今回の記事はどのように受け取っていただけるのかとても不安でしたので,おふたりの励ましのコメントを拝見して本当にありがたかったです.どうもありがとうございました.
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試験薬に対する評価 (Vanguard)
2006-12-15 23:57:57
このところ、投稿させていただいているカッスルクームの友人で、SBMA患者のVanguardと申します。

私は、酢酸リュープロレリンの、実薬投与試験を受けて3年近くになります。
酢酸リュープロレリンについては、現在、第Ⅲ相の「医師主導による治験」が、ダブルブラインドにより実施されており、それに影響を及ぼすであろう事項については、コメントできません。
従って、私のコメントは、あくまでも、実薬投与開始から、1,000日を超えた状況からのものであることを理解してください。

友人のカッスルクームの最近のコメントのとおり、私は、実薬投与開始から、「ADLの状況記録」を
継続し、すでに1,000日を超えております。

この記録は、筋萎縮症患者である私が、試験薬の投与を受け、自主的にその「ADL」の状況を記録し続けているものであり、SBMAの筋萎縮症状が変化していく状況を、日常生活の中で表記しています。

今、感じているのは、「試験薬に対する評価」についてです。
それは次のことです。

つまり、筋力測定等による「筋力の向上」 と 「ADLの向上」とは、必ずしも同一ではないのです。

筋力測定等による「筋力の向上」は、「ADLの向上」を推測する材料にはなります。
しかし、その「筋力の向上」は、計器による実測値であっても、「ADL」の実測値そのものではないのです。

患者の、試験薬に対する評価は、「筋力計の針をあげること」ではなく、あくまでも「ADLの改善」です。「ADLの改善」を、試験薬が有効であると患者は判断します。

私の記録は、「ADLの実測値」が存在することを示唆しています。今までに無かった概念かもしれません。

筋力測定等による「筋力の向上値」は、試験薬の有効性を示唆はします。

しかし、それ以上に、「ADLの実測の向上値」は、試験薬の有効性を正確に実証することになるでしょう。

いずれにしても、私は、医師の手厚いご指導のもとに、SBMAと戦っております。








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コメントありがとうございます (pkcdelta)
2006-12-16 08:42:20
とても参考になりました.筋力の向上が必ずしもADL向上と等価ではないということも理解できます.酢酸リュープロレリンが筋力やADLに対し,長期的にどのような効果をもたらすのか,多くの方が関心を持っていることと思いますので,長期間の「ADLの状況記録」は貴重な記録になると思います.
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試験薬に対する評価 (Vanguard)
2006-12-17 20:33:50
私が継続している「ADLの状況記録」は、「予測・推測・憶測・期待」を排除し、「その日に自覚したこと」をそのまま書いているものです。
近い将来、公表ができるようになって、このブログにおいて、論評していただくようなことになれば嬉しいですね。

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