Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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祝.経静脈性 tPA 認可 ―tPAについてちょっと復習―

2005年10月10日 | 脳血管障害
 10月上旬に,いよいよ本邦でも急性期虚血性脳卒中に対する経静脈性 tissue plasminogen activator (tPA)が認可されるらしい.tPAは主に血管内皮細胞で合成される分泌型セリンプロテアーゼで,プラスミノゲンを限定分解しプラスミンに活性化する. プラスミンはフィブリンを分解し線溶反応を担うとともに,細胞外マトリックスの分解を介して細胞の移動・浸潤などに寄与する. tPAはフィブリンヘの親和性が高く, 他の血栓溶解剤(例えばstreptokinase)に比ベプラスミン活性化が血栓表面に選択的に行われるため, 副作用である出血が少ないとされる. それでも投与による出血合併症は避けられず,therapeutic time windowは梗塞発症後3時間以内である.すなわちtPAの投与により血流が3時間以内に回復すれば虚血性神経細胞死が抑制されるが, それ以降であれば頭蓋内出血による死亡率が増加する(N Engl J Med 340, 1781-1787, 1999).
 ところが,tPAの作用は線溶反応のみではない(この辺がtPA治療の効果を複雑にしている可能性がある).第1にtPAは神経細胞・グリア細胞でも発現し(正確には神経細胞のpresynaptic terminal,activated microgliaに存在),記憶の形成・シナプス可塑性に寄与している. つまり,tPAが神経伝達のmodulatorとして機能しているというわけで,事実, tPA遺伝子KOマウスでは正常マウスに比べて学習能力が劣っている.第2は,臨床的にも問題になりうることで,tPAはグルタミン酸による興奮毒性において関与しているらしい.当初,グルタミン酸刺激後,tPAがグリア細胞あるいは神経細胞から分泌され,プラスミンの活性化を介して細胞外マトリックス蛋白質laminin分解を引き起こすことが報告され(Nature 377, 340-344, 1995; Cell 91, 917-925, 1997),lamininが神経細胞の生存に必須なことから,神経細胞死が生じる可能性が示唆された.事実,前述のKOマウスは興奮性毒性に抵抗性を示す.さらに昨年になって,ヒト血管内皮細胞やマウス神経細胞を用いた実験で,tPAは虚血下においてcaspase 8→caspase 3という経路を誘導し,アポトーシスを引き起こすことが報告された(Nat Med 10; 1379-1383, 2004).この研究では,セリンプロテアーゼであり,抗凝固作用・抗炎症作用を持ち,抗敗血症薬としてもFDA認可されているactivated protein C(APC)がtPAの神経毒性を抑制することも示している.すなわち,この研究はtPA自体が持つ神経毒性の機序の一部を明らかにし,さらにAPCがその毒性を抑制し,therapeutic time windowの延長や出血合併症の抑制に有効である薬剤となる可能性を指摘したわけである.
 ではこの報告を読んでtPAの使用自体を躊躇すべきかというとそんな必要はなく,適切な症例に対するtPA使用は血栓を溶解し,症状を劇的に改善することは明らかとなっている(Level 1 evidence).ところが動物モデルとなると,再開通したとしてもreperfusion injury(酸化ストレス)やtPA毒性の影響で神経細胞死が引き起こされるということになる.この辺がヒトでの閉塞血管再開通後にも起こって,予後に影響を及ぼしているのかどうかがどうも良く分からない(動物モデルの解釈の難しさ!).これらの影響がヒト脳梗塞でも大きいようであれば,tPAと,抗酸化剤・APCの併用などでさらに治療効果が上がるのかもしれないが・・・
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