Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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小脳がないとどうなるか? ― 結構,大丈夫.

2005年03月22日 | 脊髄小脳変性症
 小脳がないとどれほどの失調症状を呈するのであろうか?Cerebellar agenesis(小脳無形成)を呈するイタリア人少年のMRI画像と神経所見が報告されている.まずMRIは完全な小脳の欠損で,テント下の小脳が存在すべきスペースは完全に髄液で置換されている.病歴は新生児で低緊張を指摘され,4歳時に小脳失調を小児科医に指摘されている.17歳の現在,四肢・体幹に失調を認めるものの,自力歩行は可能で,指鼻試験も軽度のdysmetriaを認める程度である(これらはWeb上でビデオ画像を見ることができる).眼振はない.神経心理検査では軽度のmental retardationを認めるが,普通学校に通学するレベルである(しかも自転車に乗って通学している).
 過去にも小脳無形成~低形成の症例報告はあるようだが,早期の死亡から本例のように症状が軽微なケースまで様々のようだ.本例から示唆されるように欠損が大きいほど症状が強いというわけでもない.これは小脳の形成が胚形成の早期に起きるため,脳の可塑性により機能の代償が起きているものと推測されているが,どこが小脳の代償機能を担うのか見当がつかない.

ちなみにWeb上で他の症例のcerebellar agenesisのMRIが見ることができる.参考までに.
http://www.uiowa.edu/~c064s01/nr223.htm

Neurology 2005;64 E21
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2 Comments

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がんばれる気がしました。 (なおパパ)
2012-06-15 13:32:01
私の8歳の娘が、今年3月始めに朝、学校に通わせるため、母親が、起こしにいったところ、大きないびきで意識がないと言うことで、近くの大学病院に救急搬送。診断の結果脳動静脈奇形による小脳出血ということ(体温保持と心臓だけしか動いていない状態)
、で緊急手術を行ってなんとか命を救っていただきました。その後のCT撮影やMRIの結果小脳の出血した部分(広範囲)のほとんどが消失しておりました。当初、いくらよくなっても寝たきりで平行も保てないので、車イスでも上半身を固定しなくてはならないと診断されましたが、驚くほど回復しており、普通のイスに座って自分でお尻を深く座り直すこともできるし、リハビリで四這いではったり、歩行訓練では自分で左右交互に足を出すこともできます。私の周りでは小脳がだめなんだから完全に直ることは考えずに・・・と、とても重大に話をされます。先生のこの記事をみて、心の隅に小脳のことを記憶し閉まって、子供と自分を励まし、普通の生活に戻れるようがんばれる気がしました。ありがとうございました。
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脳の「可塑性」の力 (下畑 享良)
2012-06-16 05:54:29
コメントありがとうございます.脳には「可塑性」,つまり外界の状況に応じて,機能的,構造的に変化し適応する能力があります.とくに子どもの脳ほど柔軟性を持っていると言われています.子供ではありませんが,有名な脳科学者のジル・ボルト・テイラー先生も,脳動静脈奇形からの脳出血を経験し,その後,驚異的な回復をされご活躍されています.これもまさに脳の「可塑性」の力だと思います.脳の「可塑性」の力は本当にすごいと思いますし,信じてよいと思いますよ.

奇跡の脳(ジル・ボルト・テイラー先生)
http://blog.goo.ne.jp/pkcdelta/e/dc029c93ae81188ef9fa542a7b220af6
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