Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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倫理コンサルテーションを学ぶ@日本臨床倫理学会

2016年03月07日 | 医学と医療
日本臨床倫理学会第4回年次大会(日本赤十字看護大学)に参加した.本大会では「倫理コンサルテーション」が充実し,より実践的なものとなっていた.「倫理コンサルテーション」とは医療や介護の現場において生じた様々な倫理的問題について,関係者間で意見の不一致や衝突があったり,悩みやコンフリクトが解決できない場合に,中立的第三者である倫理専門家の助言を受け合意形成を目指すというものである.10事例に対する「模擬倫理コンサルテーション」が行われ,私どもが問題提起してきた「クロイツフェルト・ヤコプ病における病名告知」の問題(臨床神経54;298-302,2014)も取り上げていただき,事例提供者として発表をさせていただいた.非常に悩み,解決方法を見つけ出せず,実際に相談(院外倫理コンサルテーション)をさせていただいた宮崎大学大学院医療倫理学分野の板井孝壱郎教授に座長をしていただき,私が経験した同じ悩みを参加者の方々と1時間半に渡り深く議論することができたのは,とても有意義で感動的な体験であった.

「倫理コンサルテーション」を学ぶ上で,知っておくべき基本的な事項として以下の2点がある.
1)臨床倫理4分割法(4 topics method)
Jonsenらが1992年に著書Clinical Ethicsにて示した倫理的な症例検討の考え方で,図のように「医学的適応(Medical Indication)」「患者の意向(Patient Preferences)」「QOL」「周囲の状況(Contextual Features)」という4つの項目に分けて検討を行う.これを道具(ツール)として使用し,問題の解決に役立てる.


臨床倫理4分割法(Jonsen ARほか著.赤林朗ほか監訳. 臨床倫理学 第5版. 新興医学出版社.2006;p13)

2)医療倫理の4原則
1)を行う上で念頭に置くべきものが「医療倫理の4原則」である.自律性尊重の原則とは「患者の自律的意思決定の尊重」,無危害の原則とは「患者に危害を及ぼさないこと」,善行の原則とは「患者に利益をもたらすこと」,忠実義務と公正の原則とは「医療資源の公平な配分」を指す.これを考えながら4分割法を埋めていくと,どことどこにジレンマやコンフリクトが生じているのか理解しやすい.

3)これらをいかに活用し,臨床倫理的問題の解決を目指すか?
以下,板井孝壱郎教授による解説をまとめたい.

(1)日常の臨床現場で起きている倫理的問題に気がつくことがまず大切である
「何かもやもやする,何かおかしい」といったことに気づく倫理的感受性(ethical sensitivity)が必要.ただし感情だけでは不十分であり,それに論理が加わって,初めて倫理的推論(Ethical reasoning)に繋がる.

(2)情報として何が足りていて,何が足らないかを確認する
このとき有用なのが,「臨床倫理4分割法」である.「エビデンス,患者さんの意向,QOL,周囲の状況」を調べていく.このうち「患者さんの意向,QOL」は,「人生という物語(ナラティブ)」を理解することにほかならない.
ただし,「臨床倫理4分割法」は唯一の方法でも万能な方法でもないことは認識しておくべき.あくまでもツールであり,作成すること自体が目的ではない.埋めれば自動的に答えがわかるわけでもない.何のために作成するのか目的意識を持つことが重要.

(3)それぞれの問題についてチームで話し合う
倫理的問題を個人の悩みにしない.医療現場はただでさえ疲弊している.精神的なBurn outを防ぐためにも倫理問題に関する支援が必要である.
また「人生という物語」を紡ぎだす際,単なる「想像力」に頼ってはいけない.1人の「想像」は時に「妄想」となり,「思いやり」は時に身勝手な「思い込み」へ変貌し,「独善」となりうる!これらを避けるために医療的な悩みを一人で抱え込まないことが大切である.関わる多職種で検討する過程が,なによりも大事である.
「人生という物語」を紡ぎだすのに必要なのは,「構成力(Einbildungskraft)」である.これは,根拠をひとつひとつ明確にしていくプロセス(ethical reasoning)とも言える.

(4)話し合う際には倫理原則を押し付けない
独善的なものは確かに良くない.ただし,独「善」は善意から生まれることも認識して,皆で良い方向を目指す必要がある.
医療倫理には「答えはない」ことがある.しかしそれは「全くない」のではない.情報を収集し,ポイント分析しつつ,問題の本質を見抜き,患者さんを中心に据えて,答えに近づいていくことが必要である.

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