Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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米国神経学会のALSに関する新ガイドラインを読む(1)

2009年11月15日 | 運動ニューロン疾患
1999年,米国神経学会(AAN)によるALSに対するpractice guidelineが公表されたが,このあとの10年間の臨床研究の進歩を取り込んだ新しいガイドラインが先日公開された.このガイドラインの変更点についてまとめてみたいが,その前に,AANのガイドラインはどのように作られるのか,またそれを学ぶ意義について整理したい.

① ガイドラインの作り方を学ぶ意義
まずガイドラインの作成プロセスを学ぶことは,「日常診療における疑問を解決する正しいお作法を学ぶこと」につながると個人的には考えている.冒頭の図はAAN作成のスライドだが,ガイドライン作成のプロセスは3つに分けられる.

(1)clinical question(CQ)を作る
(2)evidence を集め,その重み(Class)を決める
(3)そこから結論(Level)を導く

でもこのプロセスは,ガイドラインがないような症例数の多くない神経疾患の患者さんの診療の方針を立てるときに行っていることと似てはいないだろうか?知らず知らずのうちにCQを作り,PubMedを検索し,患者さんの治療方針を決定しているはずである.つまり,AANのガイドラインの作成法を理解することは,日常の診療の方針を決定する際に役に立つはずである.

② CQをどのように作るか?

CQは具体的な臨床上の疑問点に対し,返答できる疑問文の形で作る.この手順はformatting the questions(疑問・課題の定式化),ないしformulating answerable questions(答えやすいように課題をまとめる)と呼ばれている.具体的には,PICOまたはPECOと呼ばれる4つの要素を含んだ形式でつくるとよい.

患者(Patient):疾患/病態も含む
介入, 危険因子(Intervention/Exposure)
対照(Comparison)
アウトカム(Outcome)

つまり,いかのような疑問文の形にするのである.
Pに,Iをすると (or Eがあると),Cに比べてOの診断ができるか?
Pに,Iをすると (or Eがあると),Cに比べてOになるか?

CQをつくり,それに沿った形で論文を検索することの利点としてAANは以下の6点を挙げている.

(1) 包括的な結果をサーベイできる
(2) 治療計画の立案,治療方法の選択をエビデンスに基づいて行う
(3) 論理展開を学ぶことにより,臨床的問題解決のための思考力をアップする
(4) 各自のオリジナルな発想に基づく治療計画,手法を改善・改良できる
(5) 情報を更新することにより,常に新たな気持ちで臨床に臨むことができる
(6) 患者,自分自身,社会にとって良質な医療の実践につながる

個人的には,これに加え,
(7) 答えのないCQは将来行うべき臨床研究の課題につながる,すなわち新たなエビデンスをつくるきっかけとして重要であると考えている.

② Evidenceをどう評価するか?

まず論文を検索する(このとき単にPubMedで検索するのではなく,MeSHブラウザーを用いたり,Limitsでevidenceレベルを絞って検索する技術は知っておく必要がある.文末を参照).検索するtermを決め,さらに検索された論文のうち,peer reviewされていない論文は含めないなど取捨選択の基準を決めておく.つぎに集まった各論文ごとのevidenceレベルを決定する.AANでは以下のようにClass I~IVに各論文を分類し,その組み合わせによってつぎに推奨レベルを決定している.

Class I;十分に計画された厳格な方法に則ったランダム化比較試験(RCT)であること
RCTとは,治験及び臨床試験において,データの偏り(bias)を軽減するため,被験者を無作為に治験薬群と対照群(プラセボ群)に割り付けて実施し,評価(masked / object outcome assessment)を行う試験
Class II;RCTだが,厳密な方法に則っていないもの
Class III;RCT以外の対照群をおいた臨床研究
Class IV;Class I~III以外,専門家の意見など

③  どのように結論を導くか?

結論は以上の推奨のレベルを持って行うが,それらは「患者の予後やケアを改善する」ことを目指したものでなければならない.結論にはpositiveなもの(行うべきという推奨)と,negativeなもの(行ってはいおけないという推奨)の両方が存在することにも留意する.具体的には,recommendationのレベルは,論文のClassをもとに決定する.たとえば治療に関してはレベルは以下の4種類に分けられる.

A. Established as effective treatment
B. Probably effective treatment
C. Possibly effective treatment
U. Unproven

レベルA;Class Iが2個以上存在
レベルB;Class Iが1個,もしくはClass IIが2個以上
レベルC;Class IIが1個,もしくはClass IIIが2個以上
レベルU;上記に当てはまらない

さぁ,以上を踏まえ,ガイドラインを読みたいと思う.

Neurology 73:1218-1226, 2009 

以下,おまけ.
★ MeSHブラウザーは「洩れなく」検索するために必要
MeSHとはMedical Subject Headings の頭文字.米国国立医学図書館 (NLM) が定める生命科学用語集(シソーラス).NLMがMEDLINEデータベースにおいて文献を管理する際,文献の内容を表す適切な用語を10~15個程度文献に付与し,この用語により文献を検索・管理できるようにしているが,このときMeSHの用語を用いる.MeSHは毎年改訂されて新しい概念や語句が追加・修正されている.

(例)胃癌のMeSHはgastric cancerではなく「Stomach neoplasms」.Wilson病は「hepatolenticular degeneration」など.これらのMeSHを検索termにすれば,胃癌とWilson病の論文はすべて検索できる.

★ Limitsを使用し,evidence levelという篩をかける
MeSHでもれなく検索して, Limits(advanced search)をかけてRCT論文, Meta-analysis論文のみ検索するといったことを行う.
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1 Comments

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ポリオ後症候群の紹介もしてほしい (斎藤貞宏)
2010-09-14 14:53:20
ヨーロッパ神経学会のガイドライン集には
「ポリオ後症候群」もありますが日本の神経内科では「ポリオ後症候群」に対する治療方針がありません。
 免疫グロブリン静注療法の対象になっている
「ポリオ後症候群(PPS)」に日本神経学会が取り組まないのは不自然なのですが、どのように考えますでしょうか?
 世界の動きに日本が対応しない理由が理解できません。なぜなんでしょうか?
 
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