Painful legs and moving toes(PLMT)は,なかなか日本語の病名に訳しにくいが,「つま先の不随意運動と下肢の疼痛」を呈する疾患である.その病名は,神経内科医にとってはお馴染みであるものの,多数例の報告はなく(多くても20例未満),その臨床像や予後,不随意運動と痛みに対する治療の効果についての情報は乏しい.1971年にSpillaneらにより初めてその病名が報告されたが,その後,類縁疾患として
1985 Painful arms and moving fingers
2008 Painful mouth and moving tongue
も報告された.さまざまな身体部位に症状が出現しうるが,一般に症状は下肢に認められる.痛みの程度や頻度はさまざまである.基礎疾患としては末梢神経障害,神経根症,ミエロパチーが知られている.これらは頻度的に多い疾患であるが,PLMTを呈することはきわめて稀である.家族内発症も記載がほとんどなく遺伝的要因の関与は考えにくい.今回,Mayo clinicから,過去28年間に経験した76例のケースシリーズが報告された(過去最多.さすがMayo clinicと思う).
方法としては経験例の臨床データ,画像,電気生理検査,治療効果,長期予後を後方視的にまとめている.
さて結果であるが,76名のPLMTが存在し,性別は男:女=26:50で,女性が66%と多かった.発症年齢は平均58歳(24~86歳)で,神経学的な診察を受けた年齢は63歳(26~88歳)であった.症状の出現部位としては,やはり下肢のみが69名(91%)と多く,最終的に44例(全体の58%)が両側下肢に症状が出現した.上肢に限局した症例はなし.
痛みは70例(95%)で認められ,自覚的な訴えとしては不随意運動よりも疼痛が多かった.2名で痛みなし(つまりこれが以前紹介したpainless legs and moving toesとなる.4名は情報なし).痛みの表現はさまざまで,チクチク・ヒリヒリ(tingling)やしびれ(numbness),ズキズキ(aching)などが多かった.痛みの増悪因子は44例(58%)で存在し,内訳は,体位,日内変動,低い温度,圧迫(靴や服)であった.不随意運動は持続性だが,程度には漸増漸減が見られ,個々人によって特徴的なパターンが見られた.意図的に,もしくは足底を押すことで短時間であれば止めることができた.
原因としては,末梢性神経障害21例(28%;うち1/3はsmall fiber neuropathy),外傷8例(11%),神経根症7例(9%),その他11例(10%;神経遮断薬や抗不安薬の中止,つま先の手術,硬膜外注射,ミエロパチー)で,原因不明が32例(42%)と頻度が高かった.
画像所見が行われた44例では,原因となる異常所見は見つからなかった.電気生理学的には筋電図にて不規則な2~200 Hzの周期の正常の運動活動電位の発火が,50ミリ秒~1秒のバーストとして観察された.
疼痛,不随意運動とも治療抵抗性であった.痛みに対してはさまざまな薬剤(ガバペンチン,プレガバリン,カルバマゼピン,三環系抗うつ薬,SSRI,L-ドーパ,フェンタニル)や治療(硬膜外ステロイド,経皮的末梢神経電気刺激,マッサージ)が試されたが治療効果に乏しかった.不随意運動に対してはドパミンアゴニスト,クロナゼパム,ボツリヌス注射が試されたがやはり効果は乏しく,有効であった症例でも痛みには効果はなかった.
予後については,平均4.6年間の経過観察期間中,症状が持続することが多く(63例83%が持続),自然寛解率は高くない疾患であるものと考えられた.
以上より,PLMTは特に痛みへの治療が必要となる疾患であるが,種々の治療に抵抗性であり,おそらくこれは痛みに対する中枢性のリモデリングが生じているためと考えられた.
Painful Legs and Moving Toes Syndrome ―A 76-Patient Case Series―
Arch Neurol. Published online April 9, 2012. doi:10.1001/archneurol.2012.161
1985 Painful arms and moving fingers
2008 Painful mouth and moving tongue
も報告された.さまざまな身体部位に症状が出現しうるが,一般に症状は下肢に認められる.痛みの程度や頻度はさまざまである.基礎疾患としては末梢神経障害,神経根症,ミエロパチーが知られている.これらは頻度的に多い疾患であるが,PLMTを呈することはきわめて稀である.家族内発症も記載がほとんどなく遺伝的要因の関与は考えにくい.今回,Mayo clinicから,過去28年間に経験した76例のケースシリーズが報告された(過去最多.さすがMayo clinicと思う).
方法としては経験例の臨床データ,画像,電気生理検査,治療効果,長期予後を後方視的にまとめている.
さて結果であるが,76名のPLMTが存在し,性別は男:女=26:50で,女性が66%と多かった.発症年齢は平均58歳(24~86歳)で,神経学的な診察を受けた年齢は63歳(26~88歳)であった.症状の出現部位としては,やはり下肢のみが69名(91%)と多く,最終的に44例(全体の58%)が両側下肢に症状が出現した.上肢に限局した症例はなし.
痛みは70例(95%)で認められ,自覚的な訴えとしては不随意運動よりも疼痛が多かった.2名で痛みなし(つまりこれが以前紹介したpainless legs and moving toesとなる.4名は情報なし).痛みの表現はさまざまで,チクチク・ヒリヒリ(tingling)やしびれ(numbness),ズキズキ(aching)などが多かった.痛みの増悪因子は44例(58%)で存在し,内訳は,体位,日内変動,低い温度,圧迫(靴や服)であった.不随意運動は持続性だが,程度には漸増漸減が見られ,個々人によって特徴的なパターンが見られた.意図的に,もしくは足底を押すことで短時間であれば止めることができた.
原因としては,末梢性神経障害21例(28%;うち1/3はsmall fiber neuropathy),外傷8例(11%),神経根症7例(9%),その他11例(10%;神経遮断薬や抗不安薬の中止,つま先の手術,硬膜外注射,ミエロパチー)で,原因不明が32例(42%)と頻度が高かった.
画像所見が行われた44例では,原因となる異常所見は見つからなかった.電気生理学的には筋電図にて不規則な2~200 Hzの周期の正常の運動活動電位の発火が,50ミリ秒~1秒のバーストとして観察された.
疼痛,不随意運動とも治療抵抗性であった.痛みに対してはさまざまな薬剤(ガバペンチン,プレガバリン,カルバマゼピン,三環系抗うつ薬,SSRI,L-ドーパ,フェンタニル)や治療(硬膜外ステロイド,経皮的末梢神経電気刺激,マッサージ)が試されたが治療効果に乏しかった.不随意運動に対してはドパミンアゴニスト,クロナゼパム,ボツリヌス注射が試されたがやはり効果は乏しく,有効であった症例でも痛みには効果はなかった.
予後については,平均4.6年間の経過観察期間中,症状が持続することが多く(63例83%が持続),自然寛解率は高くない疾患であるものと考えられた.
以上より,PLMTは特に痛みへの治療が必要となる疾患であるが,種々の治療に抵抗性であり,おそらくこれは痛みに対する中枢性のリモデリングが生じているためと考えられた.
Painful Legs and Moving Toes Syndrome ―A 76-Patient Case Series―
Arch Neurol. Published online April 9, 2012. doi:10.1001/archneurol.2012.161