Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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筋萎縮性側索硬化症(ALS)における睡眠障害

2011年07月11日 | 運動ニューロン疾患
ALS患者さんの睡眠障害に関するイタリアからの報告である.目的は睡眠障害合併の頻度,重症度,およびそれらに影響を及ぼす因子について明らかにすることである.

対象はALS患者100名と,年齢と性別をマッチさせた対照100名.ALS患者の内訳はNPPV(非侵襲的陽圧換気療法)中が21名,うつを23名で認め,そのうち11名が抗うつ剤による治療中であった.睡眠障害の有無を問診し,さらに睡眠の質を評価するPittsburgh Sleep Quality Index (PSQI;ピッツバーグ睡眠質問票),日中の眠気を評価するEpworth Sleepiness Scale(ESS)を行った.このPSQIは主観的な睡眠障害を評価する自記式質問表で,「主観的睡眠の質,睡眠潜時(入眠までにかかった時間),睡眠時間,睡眠効率,睡眠障害,睡眠薬の内服,日常生活における障害」の7項目を調べることができる.またALSの重症度はALS Functional Rating Scale-Revised(ALSFRS-R)を用いて評価している.ALS患者の12名には終夜ポリグラフ検査を行い,睡眠の特徴について詳細な検討を行なっている.

さて結果だが,ALS患者の59名,対照の36名が睡眠障害を訴えた.PSQIはALS患者が対照と比較し有意に高値(すなわち睡眠の質が不良)であった(6.8±4.0 vs 4.9±3.2).7項目のうち3項目(睡眠潜時,睡眠効率,睡眠障害)がALS患者において有意に不良であった.ALS患者において多い夜間の訴えは夜間頻尿(54%),中途覚醒(48%),筋痙攣・こむらがえり(45%)であった.睡眠の質の増悪因子は,ALSが重症であること,うつであること,日中による眠気が高度であること(ESS)であった.多変量解析の結果,このうちの2つ,ALSの重症度と日中の眠気が睡眠の質と有意に相関した.終夜ポリグラフ検査では,睡眠効率の低下と睡眠の断片化(すなわち中途覚醒),PLMS index上昇(周期性四肢運動),AHI上昇(無呼吸・低呼吸)が認められた.

結論としてALS患者の睡眠の質は不良であること,そして増悪因子としては,ALSの重症度と日中の眠気が重要であることが示された.ALS患者において,筋痙攣・こむら返りやすでに報告されているRLS症状(むずむず脚症状)は就眠困難(寝付きの悪さ)を引き起こす可能性と,症状が重症となり夜間の寝返りがままならなくなると中途覚醒につながる可能性がある.今回の研究では呼吸機能低下患者の割合が高くなく,睡眠の質と肺活量,夜間酸素飽和度とのあいだに相関を認めなかったが,呼吸機能の低下は中途覚醒を起こす可能性がある.球麻痺や睡眠呼吸障害,横隔膜・副呼吸筋の筋力低下に伴う呼吸筋障害が睡眠の質の低下に関与する可能性もある.

以上の結果はALS患者におけるQOLにおいて,睡眠の質についても注目する必要があることを示す.まずは睡眠衛生に関する知識を理解し,その質を高めるよう工夫すること,それでも改善が得られない場合は睡眠薬の使用も検討する.ALS患者では睡眠薬はベンゾジアゼピン系薬剤の筋弛緩作用に伴う呼吸不全の増悪をおそれ使用しない傾向にあるが,作用時間の短いzolpidem(マイスリー)やzopiclone(アモバン)を呼吸状態に注意しながら使用するということも検討して良いのではないかと著者は述べている.もちろんNPPVやTPPV使用中であれば比較的安心して使用して良いと考えられる.

Sleep-wake disturbances in patients with amyotrophic lateral sclerosis.

J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2011 Jan 8. [Epub ahead of print] 

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