近年,原因が明らかでない脳梗塞患者において卵円孔開存(PFO)が注目されている.左心系に塞栓源がなくても,卵円孔の右→左シャントを介して,静脈血栓が脳塞栓を起こすというわけである.治療は(本当かどうか知らないが)静脈血栓が存在すれば,抗凝固薬ないし卵円孔の閉鎖術を検討すると一般に言われている.欧米では昨今,心カテ治療が熱心に行われている.
ところが,本当にPFOが脳梗塞の危険因子かというと,決定的な疫学研究が存在せずいまだ論争が続いている.例えば,PFOは一般成人でも約1/4に存在すると言われているが,それだけ高頻度であれば併存疾患の影響は無視できない(しかしそれをきちんと除外したstudyはない).またこれまでの研究はprospective studyでなかったり,PFOの診断がblindで行われていなかったり,コントロールの選択バイアスがあったりと,要するにエビデンスレベルが低いわけである.
話はそれるが,イスラエルのアリエル・シャロン首相が脳出血で重体だ.中東和平への影響が心配されるが,じつは先月18日に一時意識を失った(TIA?)とのニュースが報道されて以来,このような要人がどのような治療を受けるのか少し関心を持ってニュースを見ていた.今月2日には「エルサレム市内の病院で軽い脳卒中の原因となった心臓の小さな穴をふさぐ心臓カテーテル治療を5日に受ける」と発表され,「治療は30分程度で,6日に退院する予定」とも報道された.おそらく左心系に塞栓源が見出せず,経食道エコーでPFOか心房中隔瘤が見つかったのだろう(?)と勝手に考えていた.ところが,治療直前の4日夜に大量の脳出血を起こしてしまった.純粋な脳出血なのか,出血性梗塞なのか,t-PAが関与しているのか知る術もないが,これ以上の詮索は不謹慎なのでやめにする.でも「やっぱりPFOはそんなに危険なのだろうか?」と少し考え込んでしまった.
じつは最近,Mayo Clinicから面白い研究結果が報告されている.研究目的は,PFOもしくは心房中隔瘤が脳梗塞の危険因子であるのかprospective studyにて明らかにすること(心房中隔瘤は卵円窩付近の薄くて可動性のある余剰組織で,心房間の相対的圧関係によって右房内に逸脱したもの.血栓が瘤内にできるため脳梗塞の危険因子と言われる.またPFOに合併する頻度が高いと言われる).方法はひとりの心エコー診断士がblindで経食道エコーを施行,対象はミネソタのある地域から無作為に抽出した45歳以上の成人585名.
結果としては,PFOは140名 (24.3%;従来の報告と同程度),心房中隔瘤は11名 (1.9%)に認められた.PFO 140名中6名 (4.3%)が心房中隔瘤を合併,一方,PFOを認めない437名中5名が心房中隔瘤を合併 (1.1%; Fisher正確確率検定でp = 0.028),すなわち,PFOを有する人は心房中隔瘤の合併が多いという過去の報告を再確認したことになる.
問題の脳血管障害イベント (死亡,脳梗塞,TIAを含む)は平均5.1年の観察期間で41名に起きた.年齢と併存疾患(心筋梗塞,糖尿病,Af)の影響を除外したのち,PFOの有無が脳血管障害の発症に影響するか調べたところ,ハザード比1.46(95%信頼区間 0.74―2.88, p = 0.28)で,両群間で有意差はなかった.心房中隔瘤に限るとハザート比は3.72と上昇したが,95%信頼区間は0.88―15.71で,p = 0.074であった(心房中隔瘤11名中,脳血管障害2名という結果で,患者数が少ないため有意差がでなかった).さらに静脈血栓症の既往が脳梗塞の危険因子であるかも忘れず調べていて,こちらはハザート比0.77,95%信頼区間は0.18―3.36.いずれも危険因子といえないという,なんとも驚きの結果だ.
この研究に問題があるとすれば,有意差を導き出すには症例数がなお不十分であったということ.心房中隔瘤が危険因子であるかについてはより大規模なstudyが必要ということになるが,PFOはシロと考えたほうが良さそうだ.
J Am Coll Cardiol 2006; e-pub ahead
ところが,本当にPFOが脳梗塞の危険因子かというと,決定的な疫学研究が存在せずいまだ論争が続いている.例えば,PFOは一般成人でも約1/4に存在すると言われているが,それだけ高頻度であれば併存疾患の影響は無視できない(しかしそれをきちんと除外したstudyはない).またこれまでの研究はprospective studyでなかったり,PFOの診断がblindで行われていなかったり,コントロールの選択バイアスがあったりと,要するにエビデンスレベルが低いわけである.
話はそれるが,イスラエルのアリエル・シャロン首相が脳出血で重体だ.中東和平への影響が心配されるが,じつは先月18日に一時意識を失った(TIA?)とのニュースが報道されて以来,このような要人がどのような治療を受けるのか少し関心を持ってニュースを見ていた.今月2日には「エルサレム市内の病院で軽い脳卒中の原因となった心臓の小さな穴をふさぐ心臓カテーテル治療を5日に受ける」と発表され,「治療は30分程度で,6日に退院する予定」とも報道された.おそらく左心系に塞栓源が見出せず,経食道エコーでPFOか心房中隔瘤が見つかったのだろう(?)と勝手に考えていた.ところが,治療直前の4日夜に大量の脳出血を起こしてしまった.純粋な脳出血なのか,出血性梗塞なのか,t-PAが関与しているのか知る術もないが,これ以上の詮索は不謹慎なのでやめにする.でも「やっぱりPFOはそんなに危険なのだろうか?」と少し考え込んでしまった.
じつは最近,Mayo Clinicから面白い研究結果が報告されている.研究目的は,PFOもしくは心房中隔瘤が脳梗塞の危険因子であるのかprospective studyにて明らかにすること(心房中隔瘤は卵円窩付近の薄くて可動性のある余剰組織で,心房間の相対的圧関係によって右房内に逸脱したもの.血栓が瘤内にできるため脳梗塞の危険因子と言われる.またPFOに合併する頻度が高いと言われる).方法はひとりの心エコー診断士がblindで経食道エコーを施行,対象はミネソタのある地域から無作為に抽出した45歳以上の成人585名.
結果としては,PFOは140名 (24.3%;従来の報告と同程度),心房中隔瘤は11名 (1.9%)に認められた.PFO 140名中6名 (4.3%)が心房中隔瘤を合併,一方,PFOを認めない437名中5名が心房中隔瘤を合併 (1.1%; Fisher正確確率検定でp = 0.028),すなわち,PFOを有する人は心房中隔瘤の合併が多いという過去の報告を再確認したことになる.
問題の脳血管障害イベント (死亡,脳梗塞,TIAを含む)は平均5.1年の観察期間で41名に起きた.年齢と併存疾患(心筋梗塞,糖尿病,Af)の影響を除外したのち,PFOの有無が脳血管障害の発症に影響するか調べたところ,ハザード比1.46(95%信頼区間 0.74―2.88, p = 0.28)で,両群間で有意差はなかった.心房中隔瘤に限るとハザート比は3.72と上昇したが,95%信頼区間は0.88―15.71で,p = 0.074であった(心房中隔瘤11名中,脳血管障害2名という結果で,患者数が少ないため有意差がでなかった).さらに静脈血栓症の既往が脳梗塞の危険因子であるかも忘れず調べていて,こちらはハザート比0.77,95%信頼区間は0.18―3.36.いずれも危険因子といえないという,なんとも驚きの結果だ.
この研究に問題があるとすれば,有意差を導き出すには症例数がなお不十分であったということ.心房中隔瘤が危険因子であるかについてはより大規模なstudyが必要ということになるが,PFOはシロと考えたほうが良さそうだ.
J Am Coll Cardiol 2006; e-pub ahead
http://hotwired.goo.ne.jp/news/technology/story/20051216302.html