Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

Twitter @pkcdelta
https://www.facebook.com/GifuNeurology/

足底反射は,何を調べるのがベストか?

2008年09月13日 | その他
 Joseph Francois Felix Babinski(1857-1932)は,有名なJ. M. Charcotの弟子である.Babinskiの神経学への貢献は計り知れず,彼により古典神経症候学が完成したといって過言ではない(右半球症状である病態失認も,1914年に彼が発見したものである).BabinskiはCharcotのもとにいた5年間で,数多くのヒステリー患者を扱いながら,器質性障害とヒステリー性障害を鑑別する検査法を探したそうだ.当時,フランスでは,大部屋の病室の両側にベッドを並らべ,患者さんは通路側に足を向けて横になっていたそうで,Babinskiは病室に入ると挨拶がわりに患者さんの足の裏を意味もなく,こちょこちょとひっかいたらしい.普通はくすぐったがってきゅっと足趾を縮める(底屈する)が,1人だけ反対側に反り返った(背屈した)患者さんがいて,不思議に思ったことがBabinski反射発見のきっかけだったと後に自ら語っている(冗談かもしれないが・・・).その後,脊損患者では足の裏をくすぐると足指が背屈するのに対し,ヒステリー患者では底屈するということにも気づいた.1896年,その徴候の発見の第一報として,「中枢神経系を侵すいくつかの器質性疾患における足底皮膚反射について」と題する論文を発表した.これが有名な「28行論文」である(たった28行の長さという意味).しかし当時,その重要性については,周囲はおろか本人も気がついていなかった.その後,この反射は錐体路障害の存在を示唆するということが気がつかれ,1898年の論文で報告されるに至った.反射のメカニズムは足底の皮膚刺激は,健常者であっても短母趾屈筋と長母趾伸筋の収縮を引き起こすが,錐体路障害が存在するとそのバランスが逆転し,背屈するのだろうと考えられた.

 このような足底反射としては,Babinski反射のほかに,Chaddock反射(外果の下方を後ろから前へこする),Gordon反射(ふくらはぎを指で強くつまむ),Oppenheim 反射(脛骨内縁を上方から下方へ母指の腹でこすりおろす),Schaeffer反射(アキレス腱を指で強くつまむ),Gonda反射(第4趾,もしくは第2~5趾をつまみ,前下方へ屈曲させる),Stransky反射(第5指を強く外転させ,1~2秒保って急に離す)といった手技がある.この中ではおそらくChaddock 反射が臨床現場で行われることが多いと思うが(OSCEでもBabinski反射とChaddock反射を教えている),このChaddockはBabinski の弟子であり,1911年の論文の中で独自の方法を記載している.

 前置きが長くなったが,Babinski反射の神経診察にける重要性は言うまでもない.しかし,その評価に関してはまったく議論がないわけではない.具体的に言うと,評価者間の信頼度・一致性や,各反射手技ごとの比較の問題である.もちろんこれまでも少なからず検討が行われてきたが,同一の評価者もしくは異なる評価者間の信頼度(inter- and intra-observer consistency)を統計学的に検討した論文はほとんどない.今回,カナダにおいて行われた検討がEur J Neurol誌に報告された.

 方法は34名の患者を6名の神経内科医が評価した.BabinskiとChaddock,Oppenheim,Gordon の4つの反射を行い,底屈もしくは背屈のいずれかと判定した(ときどき使われるequivocalという評価は不可とした). 同一検者間の一致性を検討するために1週間後に,再度の評価を行った.信頼度は名義尺度での一致性の指標としてしばしば用いられるカッパ値で評価した.

 結果としては,Babinski反射はもっとも異なる評価者間での一致性が高かった(カッパ値0.5491).Chaddock,Oppenheim,Gordon 反射のカッパ値はそれぞれ0.4065,0.3739, 0.3515であった.一方,同一評価者における信頼度はGordon反射がもっとも高く,カッパ値は0.6731であった.2つの反射を組み合わせると,BabinskiとChaddock反射を組み合わせたときが最も信頼度が高かった(カッパ値0.5712).

 以上より,少数例での検討ではあるが,Babinski反射が異なる評価者間において,またGordon反射が同一の評価者間において信頼性が高いという結果となった.しかし足底反射を行う場合,単一の手技では不十分であり,評価者は2つ以上の手技を組み合わせて行うべきで,その場合,BabinskiとChaddock反射の組み合わせが最も信頼性が高いという結果となった.結論から言えば,やっぱりというか,いま行っている2つの足底反射の組み合わせがベストということを確認できたということになるのだろう.

Eur J Neurol. 2008 Jul 9. [Epub ahead of print]
Comments (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 多系統萎縮症における突然死... | TOP | 4時間半までt-PAによる血栓溶... »
最新の画像もっと見る

2 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
ありがとうございます。 (maruko)
2012-09-30 22:53:33
Babinski反射の由来を知りたくてあちこち検索して、ふと下畑さんのこのブログを発見!拝読させていただきました。ありがとうございます。
返信する
どういたしまして. (下畑 享良)
2012-09-30 22:57:21
どういたしまして.それは良かったです.
返信する

Recent Entries | その他