Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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橋梗塞の病型と長期的予後

2005年03月06日 | 脳血管障害
 橋における脳梗塞は特徴的な症候群を呈することで知られる(pure motor hemiparesis,ataxic hemiparesis,dysarthria-clumsy hand syndromeなど).その病態としては椎骨・脳底動脈の動脈硬化性病変やラクネ梗塞を惹起するlipohyalinosisが重要であるが,そのほか血行力学性に発症することや,塞栓が原因となることもある.一般に短期的予後は良好とされるが,再発率や長期的予後に関する情報は不足していた.今回,ギリシアから橋梗塞の長期予後に関する研究が報告された.
 方法は橋に限局する脳梗塞患者をprospectiveに100症例集積し,画像検査を行った後,以下のカテゴリーに分類した.①large artery-occlusive disease(LAOD;椎骨・脳底動脈にhemodynamicな脳梗塞を来たす程度の高度狭窄(>50%)ないし閉塞を認める),②basilar artery branch disease(BABD;large arteryの狭窄病変や塞栓源を認めないが,橋表面に及ぶ梗塞がある場合),③small artery disease(SAD;橋表面に達しない直径1.5cm未満の梗塞で,large arteryの狭窄病変や塞栓源を認めない場合).経過観察期間は平均46ヶ月.結果としてLAOD,BABD,SADの頻度は順に21%,43%,34%とBABDが最多.危険因子としては高血圧の合併が多く,とくにSADでは94.1%に認められた.LOADではTIAを52.4%で認めた.入院時における神経学的評価(Scandinavian stroke scale)ではLAODが最も重症で,頭痛の合併も多かった(28.6%).発症1ヵ月後の評価でLAODの死亡率は14.3%と1番高かった(入院中の感染症・発熱のエピソードも他の群に比べ有意に多い).5年再発率はLAOD,BABD,SADの順に14.3%,2.3%,29.4%であった.治療としてはaspirinが主体で(各群とも90%以上の症例で行われている),そのほかヘパリン・低分子ヘパリンが行われていた.
 Large arteryに高度狭窄ないし閉塞病変があれば機能予後・生命予後が不良ということは十分予想できるが,BABDでは再発率が少ないことは意外だった.またSADでは積極的に危険因子に対する治療を行うことがより重要であることも分かった.脳幹梗塞を診療する場合,血管評価やリスクファクターの評価をきちん行い,その病態を考えることが,長期的経過観察の方針を考えるうえで非常に重要であることを明確に示した論文といえよう.

J Neurol 252; 212-217, 2005
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