Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

市場であるより美学の問題

2015-07-22 | マスメディア批評
土曜日にはバイロイトの音楽祭が始まる。注目されているので自宅にいれば生放送を聞いてみたいと思っている。早速新聞文化欄には録音の比較視聴が扱われている。先週亡くなった歌手ヴィッカーズの「トリスタン」が、定評あるメルヒオールと並んでいる。ジョン・ヴィッカーズはカラヤン指揮の録音である、ブリテンの作品で実演に接する機会を逃したのがとても残念だ。ここではそのトリスタンの歌の困難さに注目している。そして通常の上演ではそのモノローグなどが縮小されていることが多いのは知らなかった。

上部にはカタリーナ演出の土曜日が初日の舞台稽古写真が載っていて、何か鯨のあばら骨状のものが横たわっていてその上にシリンダー状が乗っていて、美術的には面白いと思う。しかしその横に立っているイゾルテのブルーの服など、以前あったカタリーナ演出のマイスタージンガーのキッチュさを思い起こさせる。そのように想像すると、トリスタンもロメヲと同じようにしてしまえると感じた。要するにその美術を見ただけでその音楽構造を想起させるようなものではなかったということだ。それはマイスタージンガーでも同じことなのだ。要するにこの女流演出家にとっては、トリスタンのそれはマイスタージンガーよりは抽象性が強くて、ごたごたしていないといった程度の音楽分析なのだろう。

日曜日には販促のためのFAS新聞が入っていた。音楽祭特集もあることだろう。そこで、キリル・ペトレンコの記事を目玉に持ってきていた。予想通りで、ティーレマン派の女史が書いている。敢えて反ユダヤ主義の一切を改めて引用とともに取り上げていて、それら一連の事象を批判しながらもまるでそれらを強調しているかのようだ ― FAZから掛かってくる電話に偶々出たらこのことは批判してやろう。

「一体、ペトレンコって」というお題目で書いていながら、最後にはデジタルコンサートの録画を含む、記憶に残った実演の体験を纏め上げているところを見ると、どうもこの音楽評論家は次期監督に選ばれたのが今でも納得がいっていないかのようだ。記憶に頼らないといけないように制作録音がないことと、コンサートでの実績を問うことに、「十分にドイツ的か」と、他人の言葉としてその不信感が垣間見せるのだ。同時に態々バイロイトで「両ヴァーグナー演奏の巨頭」が相見えるのは「当分の間ありえない」としていて、自らの信奉するティーレマンをその権力をさり気なく持ち上げる。

さらに、反ユダヤ主義の言動の引用は改めてその引用する気もしないが、音楽的な批判として下らない批判を引用しておきながら、それをして「そのような主観的で、それらは音楽とは全く関係ないことで、心理的なものでしかない」と書く。それに続けてロベルト・シューマンを出して、音楽でしか表されないものを語らしているのだが、そこにこの女流評論家が音楽について書ききれない苛立ちが見える。

芸術でもワインや料理でも同じだが、特別な処方がなければもはやそれについて書くことは玄人の遣る仕事ではなくなった、一つにはネットで素人の幾らでも立派な評論が提供されて、金を取る読み物ではなくなった。反面玄人は経済的な裏づけが必要なので、そこにコマーシャリズムの影響を強く感じさせるだけなのだ。

それを端的に示しているのが、FAZの二人の女流評論家で、ここでは再びベルリンの次期監督の選考に関して、135人の楽員から漏れてきた情報としてお定まりの情報が再掲されている。要するにそこでは、注意深く商業的価値のまだあるティーレマンの芸術的敗北をどのように目立たないように伝えるかが謀られているとしか思われない。そしてその背後にはやはり美学的明確さを欠く見解というようなものが横たわっていて、その心は市場とはまた違ったところで動いているというかなり専門家の問題である事象に陥っている。

詳しくは今は触れないが、恐らく業界が今回の事象でふらついている原因で、例えば「ドイツ音楽」だとか「その響き」だとか、ユダヤ云々の裏返しである美学的な考察なのだ。これは二十世紀の美学が大衆化されていくところで生じている戸惑いのようなものでしかないだろう。



参照:
MP3でなにを聴くべきか? 2015-07-03 | 音
術にならない頭の悪さ 2015-04-10 | 音
あれこれ存立危機事態 2015-07-14 | 歴史・時事

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