Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

ペトレンコが渡す引導

2018-01-14 | 文化一般
承前)ミュンヘンに行かずにドレスデンに行く人の気持ちが分かった。キリル・ペトレンコは益々オペラから遠去って行く。もはや戻れないところに来ていると思う。自ら意識していると思う。十年もすれば口の端に上るだろう、「ペトレンコってオペラを指揮していたの、信じられない」と。今回の演奏を聞いてそれでも「キリル・ペトレンコはオペラの指揮者だ」なんて言う人がいるならば連絡して欲しい。

声楽と管弦楽の絡みだけでも、オペラという世界ではもはや無理な領域に入っていた。だからバイエルンで新聞評を書いているマルクス・ティールが1月11日の初日を聞いて「極度の分析で殆ど遣り過ぎ」とツイートしてそして新たに「コルセットで締め付けられているような一場二場で、更に空気が薄くなっていた」と私と同じような投稿をしているが、私は自身の座席での響きから「スーパードライ、絞ってももう何も出ない。」と表現しよう。

オペラにおいてこれに近い印象を得たのはクラウディオ・アバド指揮の「シモン・ボッカネグラ」でしか思い浮かばない。あの文化会館の響きのようなミュンヘンの劇場なんてありえない ― まだ自身の席のアコースティックの影響さえ疑っている。よくも低弦も管楽器もあんな音を出せたなと思う。しかし歌は前記のカプッチッリやギャウロフのようなあの枯れた渋い声を出せる人は一人もいなかった ― あれはあまり言われていないイタリア語の響きそのものだ。これではオペラにならない。そもそも楽劇はオペラだろうか?

私などはどうしても想像してしまうのである。先月のプッチーニで特にヤホの歌であまりにもウェットになったものだから、音楽監督としては「このままでは劇場にカビが生えてしまう、徹底的に乾燥させよう」と無気になったような感じさえ思い浮かばせる徹底さである。

勿論、この四部作の前夜祭「ラインの黄金」はレティタティーヴらしきものが完全に音楽になっていて所謂楽劇にはなっているのだが、まだまだ管弦楽の響きと僅か乍ら殆ど地科白のような「魔笛」を継承するところもあって、その管弦楽と声楽の関係が一筋縄ではない。

それに関しては改めて纏めるとしても、キリル・ペトレンコの求める厳しい音楽はもはや完全にオペラを超えていて、声楽付きの管弦楽曲であり、ネットには室内楽的と書かれてもいたが、私に言わせれば丁度リヒャルト・ヴァークナーが作曲しつつ誰かに歌わせてピアノ伴奏で試演をしている時の響きそのものだった。室内楽の枝葉ではなく、殆ど骸骨のような音楽だった。創作者の指から出て来る響きだった。

しかしキリル・ペトレンコの音楽を指して「冷たい」と書いた向きも2015年のベルリンでの選出時にあったが、冷たくは決してない。寧ろその響きは密度が高くエネルギー量は高い。それとスーパードライとは全く異なる。寧ろ所謂「クール」で、そのドライ度はもはや危険領域に達している ― ムラヴィンスキー指揮の音楽よりもリズムなどは遥かに厳しい。正直第一夜「ヴァルキューレ」が恐ろしい。そして「神々の黄昏」のフィナーレは2015年暮れのような少し憂いた趣きとは違うものが予想される。ニーナ・シュティンメのそれを聞かずにはもういられない。

到底予想がつかなくなった。2015年の新聞評は全くあてにならなくなった。二日目の上演になったAツィクルスでの会場の反応は熱気に富むものだった。聴衆の中にはバイロイトの常連さんも多そうだったが、終演後もとても熱気があった。歌手陣ではアルベリヒ役のルンデュ・グレーンとエルダ役のフォンデアダメロウに喝采が集まっていたのをみてもヴァークナー聴衆が多かったようだ。それとキリル・ペトレンコへの大熱狂は全く変わらなかったので、とても不思議なのだ。なぜならば、あれほどドライなヴァークナーはバイロイトには存在しない。どこにも存在しない。オペラ劇場では存在しないドライさである。

詳細は後回しにして、この夜の上演で、もはやキリル・ペトレンコはオペラ指揮者ではなく、夏にベートーヴェンをどのように振るのかしか思い浮かばなかった。一つ一つ一振り一振りとオペラ劇場に引導を渡しているようにしか思えなかった。(続く



参照:
良いこともある待降節 2017-12-15 | 暦
音楽芸術のGötterFunke体験 2017-08-14 | 文化一般

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