Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

肉体の聖変化の変遷

2007-04-06 | 生活
(承前)オケゲム作曲の有名なミサ曲「ミミ」は、そのあるべきミサ式次第の姿として、グレゴリア聖歌を挟む形で再現されている。

この期間聖木曜日にのみ謳われるグロリアに続く、昇階唱(Gradual)と呼ばれる部分は、以下の新約聖書のテキストに基づいている:

へりくだって、死に至るまで、それも十字架の死に至るまで従順でした。このため、神はキリストを高く上げ、あらゆる名に勝る名をお与えになりました。(フィリピの使徒への手紙2.8-9)

この部分に対する、前教皇自らの1997年の聖金曜日における説教が法王庁のHPに載っている。そこで聖金曜日における儀式の意味合いを説き、執り行われない秘蹟に代わる十字架への崇拝の儀と、それに参加する者が主の受難のテキストを読む時の感興の深さを説いている。そして、新旧約聖書からその源泉としての引用を示している:

キリストは、この世におられたとき、激しい叫び声をあげ、涙を流しながら、ご自分を救う力のあるかたに対して、祈りと願いとをささげられましたが、その恐れ敬う態度のために、神に聞き入れられました。(ヘブライ人への手紙5.7)

Wherefore have we fasted, say they, and thou seest not? Wherefore takest no knowledge? Behold, in the exact all your labours. Behold, ye fast for strife sand debate, and to smite with the fist of wickedness: ye shall not fast as ye do this day, to make your voice to be heard on high. Is it such a fast that I have chosen? a day for man to afflict his soul? is it to bow down his head as a bulrush, and to spread sackcloth and ashes under him? wilt thou call this a fast, and an acceptable day to the Lord? (ISAIAH 58.3-5)

さて、ここで関連して気がつくのが、所謂第二ヴァティカン公会議(1959)の結果を受けた現在のミサ式次第と、本格的なルネッサンス期のヒューマニズム勃興前のオケゲムが生きた時代の感慨との共通点である。

一つには、先に触れた肉体感にあるかも知れない。つまり、この作曲家が生きた時代背景を想像すると、精神への問い掛けをもって肉体の認識がなされたトマス・アキナスに代表されるようなスコラ哲学から、ヒューマニストのエラスムスによって例えば秘蹟が再定義されるまでの過渡期を見る事が出来るのではないか?そして、それはそこに導き出される、悲嘆の感情の発露であったり、死や苦悩を沈思する姿勢として観察することが可能となる。

要するに、そうした宗教のドグマから自由となったルネッサンスの思想家が、もしくはルターやツヴィングリの行った論争の対象となった、宗教改革時期の聖体の定義を指し、それ以前のポストスコラ主義時代からの変遷を芸術における肉体感として垣間見ることとなる。

ある意味、それがたとえ秘蹟と言うキリスト教と別ち難い肉体であるとしても、もしくは信仰の具象化であったとしても、または単なる象徴であったとしても、引き続き今日の教会合同協議の争点となっている様に、現代の課題をも包含している。

また現教皇の発言の「宗教改革があった事実は否めない」とする事象は、世界観としての宗教的な聖体感、即ち宗教改革以前の肉体感がそれ以後のものとは異なるとする当然の帰着を導いている。

さらに、そうした肉体や実体への覚束無い感覚こそが、この当時の作曲家が試みた表現に良く表れているように思われる。その作曲の高度な音楽的な技巧は、造形芸術におけるレオナルド・ダヴィンチやその後の科学技術の発展と比較されるが、現代人の持つ科学的な知識や認識をもって観察しても、それらの芸術は自然環境への認識としての世界観が前提となっていることには変わり無い。

そのように考察して行くと、如何にルネッサンス以降啓蒙主義を辿る近代の思潮が、西洋に閉じられた特殊な文化体系であることに気が付くのである。(続く

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