市民活動総合情報誌『ウォロ』(2013年度までブログ掲載)

ボランティア・NPOをもう一歩深く! 大阪ボランティア協会が発行する市民活動総合情報誌です。

2007年1・2月号(通巻422号):わたしのライブラリー

2007-01-10 12:46:42 | ├ わたしのライブラリー
ある動物園老獣の呟き
編集委員 小笠原慶彰





●老いたる獣の戯れ言・その1
 近頃気に入った本はないかって。そうだね、『もう一つの上野動物園史』(小森厚、1997年7月.丸善ライブラリー.740円+税)は、初っ端から「古い飼育係は、自分の担当している動物が「逃げた」場合には「逃した」と報告し、それが天寿を全うしての老衰死でない限り、「殺した」と言い、その上で「生まれた」ときには「増やした」と自慢しろと後輩に言い聞かせていた」と恐っそろしい書き出しなんです。
 どうでも人間様が動物を思い通りにしてるって言いたいんですかね。電車の車掌が「ドアが閉まります」じゃなくって、「ドアを閉めます」って怒鳴ってるみてぇだ。上野の動物園はね、なんたって超一級の人間展示場でしょ。動物園で観られているのは動物なんだって思ってるらしいけど、動物を観せるためにする努力はね、人間様の正体ばらしてますよ。でもね、そんためになさるこたぁ、ほんとに滑稽で、からかいたくなるってぇことですよ。初っ端の言い草は、イミシンだな、いやほんと。

●その2
 その上野の動物園でおんなじ頃にドタバタ演ってた獣医が書いた『動物園の獣医さん』(川崎泉、1982年10月.岩波新書.700円+税)もありますよ。先刻のは、飼育係で雇われてさ、飼育課長に出世なさった人間様の手になるものなんでさぁ。そいだからかどうなんだかね、動物をネタにしてんのに、人間様の取る行動が可笑しいって気分が残っちゃうんだな。けど、この本は動物を看てる人間様が書いてっからかどうか、人間様を扱う藪医者がいと腹立たしいってぇ風になっているんだな。
 人間様を扱う医者が、獣医みたくしてやりゃあ良いのにって「人事」ながら思っちゃいます。人間同士だから分かり合えるさ、なんて思ってるのは浅はかなんですね。人間様の言葉じゃ通じない動物の体温をお尻で測ってくれたりさ、がぶりと噛んでやっても、とことん治してやるぜと凄む奴ら、それも厭々やってるなんてぇ感じは全くない獣医に出くわしちゃったりするとさ、人間科の獣医を世話したくなるんですよね。

●その3
 動物園のことばっかしだと水族館からお叱りを受けちゃいますね。ところでこの二つはどう違うってご存知。そりゃあ「陸上の動物」と「水中の動物」だといった程度のお答えじゃあ、そこらのトーシロですよ。『水族館の通になる−年間三千万人を魅了する楽園の謎』(中村元、2005年5月.祥伝社新書.750円+税)てぇ本では、その答えに何と3ページも使っちゃってるんですからね。しかもはっきりこうだって書いちゃいないっていうんだから。つまりそんなことを書いてある本なんです。飼育係の人たちにとっちゃあ、「飼育した魚と、飼育していない魚は、外見は同じでも中身が違う」んだそうですよ。こちとらどこから見てもおんなじに旨そうじゃねえかって思っても、世話してる人たちゃ食材とは金輪際思わないんだそうな。
 ところがある水族館で死んだマグロの解剖学習っていうのをやったらさ、来園者、もちろん人間様ですよ、それが「ワサビは持参ですか?」なんて聞いてきたっていうことだそうな。つまりそんなことを書いてある本なんです。

●その4
 威勢の良い本もありますぜ。『戦う動物園—旭山動物園と到津の森公園の物語』
(島泰三編、小菅正夫・岩野俊郎著、2006年7月.中公新書.800円+税)、どうです。「戦う動物園」とはまた大きく出たもんだ。でも動物園が何と戦うんだろうって。読めば分かると言っちゃそれまでで、つまりはどうしようもなくなった動物園を何とかしちゃった人間様たちの、ちったあ自慢したいっていう話なんです。やっぱり動物園が戦うようなお題は、ちょっぴりオーバーなんだな。動物園を残したい人間様と潰したい人間様の戦いなんですから。その因はってぇいうと、これ以上金を出したかない、いやもっと出せっていうことなんだからね。
 どんつきじゃあ、もっと出せっていう人間様がさ、「出したかないんならそれまでよ、手前で何とかしてみせらぁ」って命張っちゃうんだ。人間様っていうのは、ほんとに可笑しなことに命かけるもんですね。

●その5
 最後に1冊。近頃、人間界じゃ『憲法九条を世界遺産に』(太田光・中沢新一、2006年8月.集英社新書.660円+税)なんていう本が流行ってるんですなあ。何のことはない「憲法九条はお宝なんだから大事にしようや」っていうことですね。書いた人間様は人気者だし、お題も上手い。思わず手叩いちゃうからね。それで何となく読んじゃって、もう終わりというちょいと前にね、良いとこがありましたよ。免疫抗体反応とかいうのが働かない時ってぇのは、「憲法九条」と「妊娠した母体」と「神話」だって言うんだ。子宮に己じゃない生命を抱え込むってぇのは、言われてみりゃぁその通り。
 そいで人間と動物はいつも仮想敵でしょ。でもね神話じゃ、実は兄弟なんて騙しちゃってるって言うんだな。「偉大な宗教思想は、数万年にわたって神話が育て上げてきた免疫否定的なこの思想を、大きな国家群が発生した後の世界に、もういちどよみがえらせようとしたもの」なんて、オーバーだな。でも人間と動物の仮想敵関係をなくしちゃえなんて、人間様の都合だぁね。こちトラからすりゃあ、己も動物のくせして、ホモサピエンスなんて偉そうに。動物が喜んで白旗揚げるとでも言うおつもりかい、と言いたいところだよ。
 あぁ、ちょいと疲れましたな。そいじゃあここらで失礼して、ちょっくら昼寝させてもらいます。目ぇ覚ましたら餌くださいよ。

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