昔話を読みはじめた頃には、鳥がでてくるものが少なく感じていたが、「世界の鳥の民話」は文字通り鳥に関するものが収録されています。
昔話の切り口は、国別や都道府県別のもの、童話でいえば作家別などさまざま。
鳥というテーマで編集されたものがあるかと思えば、おなじ書店からは、「世界の太陽と月と星の民話」「世界の妖怪たち」「世界の運命と予言の民話」「世界の魔女と幽霊」なども出版されています。
「世界の鳥の民話」ではアフリカや南アメリカ、イスラム圏のものが見当たらないのが残念。
ニワトリやガチョウも鳥としてそれにまつわる話もあるが、鳥といったイメージが頭になかったので、たしかに鳥とするとたくさんの話がありそうで納得したところ。
しかし孔雀やそのほかきれいな鳥がもっとでてきてもよさそうであるが、なぜかでてこない。
この中で「三羽のカラス」は人間が鳥に変身する物語
・三羽のカラス(世界の鳥の民話/日本民話の会 外国民話研究会編訳/三弥井書店/2004年初版)
むかし、おかみさんが来客のためパイを焼いて地下室においておいたが、三人の息子がこのパイを食べてしまいます。
これにおこったおかみさんが、「パイを食べたものはカラスになってしまえ」というと、息子たちはカラスになって飛んで行ってしまいます。
残された妹は兄たちを探して救おうと思いガラス山の上の城にでかけます。
城の中で再会しますが、兄たちを救うためには、七年間一言も口をきいてはならないと聞きます。
やがて妹はある猟師と結婚します。一人目の子が生まれると、悪い産婆は遠くにいる猟師に犬を生んだと手紙を書きます。
猟師が犬は水に投げるようにと答えると産婆はすぐそうするが、三羽のカラスがやってきて、子どもたちをつれていきます。
二度目、三度目の子も同じような道をたどります。三度目になると猟師も妻に悪意をもつようになり、魔女に違いないと確信するようになります。
妻が火あぶりにされようとするとき、ちょうど七年目がやってきて、そこにそれぞれ子どもを抱いた三人の白い騎士があらわれます。
ようやく口がきけるようになった妻は自分が長い間黙っていなければならなかったわけを語ります。産婆は焼かれて灰になってしまいます。
漁師もだまされやすく、自分の妻を魔女といったのだから兄たちはこれ以上妹をまかせるきになれず、自分たちのところにつれていき、誠実な妹が自分たちのためにしてくれたこと、耐えてくれたことを決して忘れることはありませんでした。
同じドイツでいうと、鳥に変身させられた兄たちを何年間も口をきかずに妹が救うというのは、グリムの「六羽の白鳥」も同様である。
・六羽の白鳥(グリム童話集下/佐々木田鶴子訳 出久根育絵/岩波少年文庫/2007年初版)
王さまが森の中で道に迷っていると、おばあさんが自分の娘と結婚してくれるのなら森を出る道を教えてくれるという。
たしかに美しい娘であったが王さまはあまり好きになれない。しかし、おばあさんとの約束からこの娘と結婚します。
実はこの王さま、亡くなった前の妃との間に、7人の子どもがありましたが、あとからきた妃がこの子どもたちに意地悪をすることを心配した王さまは子どもたちだけで森の中にある城にすまわせます。
王さまが子どもにあいにいくため、たびたび留守にすることを不思議に思った妃は、森の城に住むこどもたちのことを知ることに。
お妃は呪いをこめた肌着を持って城にでかけ、子どもたちが肌着を着ると白鳥にかわってしまいますが、一人の娘だけは難を逃れます。
王さまは娘と一緒に妃の城に帰ろうとするが、娘はあと一晩森の城に居させてほしいと頼み、夜になると森の中に入っていきます。
一軒の小屋を見つけ、この中に入ると、六羽の白鳥が窓からはいりこんで、人間の姿になります。毎晩15分だけ人間の姿に戻れるという兄たちは、この小屋は泥棒のすみかで早く出ていくよう話し、六年の間、沈黙をまもり、六枚のヒナギクの花をぬいあわせた肌着を作ってくれれば助かることができると話します。
やがて娘はある国の王さまと結婚する。母親は意地悪で結婚に反対していたが、娘が男の子をうむと、お妃が赤ちゃんを食べてしまったと告げ口。
二人目の男の子も、同じように告げ口するが、王さまは母親のことを信じることができないという。三度目に生まれた子を母親が奪って、お妃のことを告げ口するが、お妃はお兄さんたちとの約束をまもり、一言も言い訳をしません。
お妃が法律によって火あぶりされそうになったとき、六年がちょうどすぎて六羽の白鳥があらわれる。お妃がこれまで作ってきた肌着を投げかけると六羽の白鳥は人間の姿になる。しかし最後の肌着の左そでだけがなかったので、一番下の兄だけは左のうでがなく、背中に羽がはえる。ようやく口をきくことができるようになったお妃は、母親が自分を憎んで三人の息子をどこかにかくしてしまったことを話す。そこに三人の息子があらわれます。
悪い母親は火あぶりの刑にされ、灰になってしまいます。
一方はカラス、一方は白鳥に変身するが、やはり黒より白のほうがいいイメージが浮かぶます。
・野の白鳥(オクスフォード世界の民話と伝説9 北欧編/山室 静訳/講談社/1978年改訂)
アンデルセンの「野の白鳥」は、再話。
十二人の王子、アーサーという一人の妹。
兄弟が白鳥にかえられ、妹が助けることになるが、助けるためにはアザミの綿毛をつんで糸にし、十二枚のアザミのきものを織ることが条件で、できるまでは話をしたり、笑ったり、泣いたりしてはならないという過酷なもの。
アーサーは、この話でも王さまの妃になり、子どもができる。
アーサーがひあぶりされそうになったとき、最後の一枚の左のそでができあがっていなくて、十二人の王子が人間にもどったとき、一番下の王子には、左手のところに白鳥の翼がついているあたりは、グリム版と同じである。
この話は、グリムの倍ぐらい長い話。アーサーがうまれるところ、デンマークの話らしくトロルがでてきて、旅するところ、一時的に人間にもどっている王子との会話などが長い。
口をきかないアーサーと結婚する王さま、何年も口をきかないのに連れ添っった王さまはなんとも偉いとしか言いようがない。
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