なくなりそうな世界のことば/吉岡乾・著 西 淑/創元社/2017年
世界で話されている言葉およそ7000の中から、いま消えようとしている50あまりの単語が、イラストともに紹介されています。
話者が多いもの(90万人)から、ゼロのものまで。イヨマンテというアイヌ語は五名と、最後の一ページ前に紹介されていますが、これは流暢に話される方ということでしょう。
単語に添えられた文も味わい深い。
一例をあげると
シャッターシュッマユッ(シンボー語 ミャンマー、中国、インド)
直訳は月蝕。シンボー語の世界では蛙が犯人
モチ(シナー語 パキスタン)
脆くて崩落し易い斜面、浸食された地面。気の遠くなるような時間をかけて大地は変貌していく。
ラシカルガイブ(コワール語 パキスタン)
一過性の妖精の大群。大群になった妖精たちは、いたずらの規模も度を超すんだってさ。そう、ほんの出来心で大地震だって起こすらしいからね。
パサーオ(ポポロカ語 メキシコ)
たどり着けないほど遠い。心理的にたどりつけないほど遠いことなんて、ないに越したところはないんだけど。
ビジン(ウルチャ語 ロシア)
そのままにしておけ 放っておけ。なにごとも、あるがままに。無理に変えようとしないで。
チョウグミャートゥ(ウデヘ語 ロシア)
魔物。魔物にも弱点はあり。どんなに困難な問題があっても、手のほどこしようはあるのだ。
日本を見ても、消えていく集落や村とともに、そこで使われていた方言も残念ながら消えていったり、高齢の方がつかっていた単語も継承されない状況もあります。
世界で同じような意味でつかわれている言葉も、そこにこめられたニュアンスは、そこでの生活、習慣などが反映されていますから、そのままうけとめることはできません。
”暑”といっても熱帯と温帯では温度がちがっていますし、”豊作”といっても、栽培されるものでイメージする植物はちがいます。
なくなりそうな単語も、地域や風土が頭に入っていないと、理解するのは難しいかも。