どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

漁師と魔人・・アラビアン・ナイト、グリム「ガラスびんの中のばけもの」

2019年03月18日 | 昔話(外国)

 どちらも壺やガラス瓶にとじこめられてしまった魔物や大男の話。

漁師と魔人(子どもに語るアラビアンナイト/西尾哲夫 訳・再話 茨木啓子・再話/こぐま社/2011年初版)

 一人の貧しい漁師が漁をしていたとき、網にひっかかった壺のなかからでてきたのは、何百年も壺にとじこめられていた魔人。

 漁師は魔人に殺されそうになりますが、知恵を働かせ、「こんな小さな壺に何百年も入っていたのが信じられん」というと、魔人はむきになって壺の中に入ります。

 そこで漁師は壺にふたをして魔人を閉じ込めてしまいます。

 「なんでもいうことを聞く。神に誓って約束をまもる」という魔人を許すと、魔人は湖に漁師を連れて行き網を投げさせる。すると赤、青、黄、白の4匹の魚が入り、それを王さまのところにもっていって高く買ってもらいます。それから、漁をするのは一日一度だけという魔人との約束をまもり、漁師は妻や子どもと幸せに暮らします。

 この「漁師と魔人」は、お話し用に短くなっていますが、もとの話では、それ以後の展開のほうが長く、さらに別の話(黒島の若い国王の身の上話)につながる構成です。

 タイトルに”魔人”とありますが、聞く側からするとわかりにくそうです。漢字で見るとそれなりにイメージがわくのですが、岩波少年文庫の中野好夫訳(アラビアン・ナイト 下 1961年初版)では、「漁師と魔物」、福音館古典童話シリーズ33 坂井晴彦訳では「漁師と魔神」というタイトルになっており、まだ、この方がわかりやすいようです。もっとも、一度魔物って何?と聞かれたことがありますが・・。

 魔人の大きさを表現するのに、こぐま社版では、雲に頭がとどくほどのおそろしい魔人で、頭が丸屋根、両手がくま手、両足は太い柱と形容されていますが、中野好夫訳では「いちばん大きな巨人の、そのまた二倍ももあるほど背の高い」とあります。
 雲に頭がとどくほどの魔人の両手がくま手、両足は太い柱というのは手も足も小さすぎ、「いちばん大きな巨人」といっても、もとの巨人の大きさがどのていどかわかりませんので、違和感があります。

 魔人はソロモン大王に壺に閉じ込められますが、中野好夫訳では「ダビデの息子ソロモン」と、ダビデが出てきます。日本の子には、ダビデもソロモンも何?となりそうですが、外国の子どもにはわかりやすそうです。

 もうひとつ気になるのは「殺す」という表現がかなりでてくることです。別の表現があればいいのですが・・・。


ガラスびんの中のばけもの(グリム童話集 下/佐々木田鶴子・訳 出久根 育・絵/岩波少年文庫/2007年初版)

 貧しい木こりの息子が森の中で木を切っているとき、何百年もたったカシの木の下から声が聞こえ、ガラスびんを見つけます。

 そのガラスびんから大男があらわれ、息子は殺されそうになります。ここでも大男の自尊心をくすぐり、もう一度びんの中に入るよう誘導します。

 もう一度、びんから出してくれるなら「一生お金に困らないようにしてやるぞ」という大男をびんの中から出してあげると、大男は小さな布きれをくれます。
 一方をなでるとなんでもなおり、反対側をなでるとなんでも銀になってしまうという布きれ。

 息子は宝物のおかげで、学校にもどって勉強し、布きれのおかげでどんな傷もなおすことができたので、世界で一番有名な医者になります。

海と森という違いはありますが、ほぼ同じ内容です。もっとも、グリムのおわり方のほうが、単に「幸せに暮らしました」というより、具体的です。